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『ただの収納スキルですが、神様から「解釈」の変更してもらって現代に戻ったら、人生楽勝でした――』  作者: だい


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第50話:帳簿と男爵位。舐められた少年少女の華麗なる大逆転

エルディア王国の王城。

 その薄暗い書物庫の一角で、三人の若者たちが、山積みにされた羊皮紙の束と睨み合っていた。


 かつて日本から『勇者』として巻き込まれ、召喚された高校生たち。

 彼ら文官志望の三人は、暴君であった前の王が死んだ後、新しく即位した若き王と、彼らを評価する宰相の強い庇護の下で働いていた。

 面と向かって侮蔑の言葉を投げかけられることはない。しかし、城内を歩けば、貴族や使用人たちからの好奇の目や、哀れみを含んだ冷ややかな視線が常に付きまとっていた。


「……また、あの目」

「気にしちゃダメ。私たちは、私たちの仕事をするだけよ」


 女子生徒の二人は、かつてこの城の広場で、騎士たちから凄惨な凌辱を受けた過去がある。

 その事実を知る者たちの視線は、時に刃よりも鋭く彼女たちの心を抉った。しかし、二人は決して下を向かなかった。

 自分たちを庇って命を落とした長谷川先生のこと。そして、あの地獄から救い出してくれた『小林さん』から教わった、社会で生き抜くための戦い方。

 あんな屈辱は二度と味わわない。誰にも文句を言わせない確固たる『力』を手に入れるために、彼女たちは必死で知識と実務を貪り食っていた。


 一方、男子生徒は、持ち前の生真面目さを買われ、王城への納税を担当する部署で見習いとして働いていた。

 彼もまた、大人の狡猾な世界に揉まれながら、必死に足場を固めようともがいていた。


 そんなある日のこと。

 男子生徒が一人で帳簿の整理をしていると、恰幅の良い中年の貴族が、愛想笑いを浮かべて近づいてきた。


「やあ、異世界から来た優秀な若者よ。いつもご苦労様」

「は、はい。何か御用でしょうか」

「いやね、実は我が領地の今年の税の申告なのだが……少しばかり、君のその帳簿の数字を『書き換え』てはくれないだろうか。もちろん、浮いた分の税は、君と私で折半ということでね。悪い話ではないだろう?」


 袖の下から、ジャラリと音を立てて金貨の入った袋が差し出された。

 明らかな汚職の誘い。異世界から来て心細い若者なら、金と貴族の後ろ盾欲しさに乗ってしまうかもしれない甘い罠。


 だが、男子生徒は小林淳志から渡された『贈答用のジッポライター』をポケットの中で握りしめ、ふっと笑った。


「……お断りします」

「な、なんだと? 君、私を敵に回してこの城でやっていけると思って……」

「恩人から教わったんです。贈り物や根回しは潤滑油だが、自分の『信用』を切り売りするような真似は、三流のやることだって」


 男子生徒が毅然と突き返した、その直後。

 部屋の奥の扉が開き、若き王と宰相が、満足げな笑みを浮かべて入ってきた。


「……見事だ。誘惑に負けず、王家への忠義と職務を全うしたな」

「えっ……王様? 宰相閣下?」

「驚かせてすまない。実はこれ、我が国の納税担当官に対して定期的に行っている『抜き打ちの忠誠試験』なのだ。お前は、見事に合格したぞ」


 安堵して膝から崩れ落ちそうになる男子生徒。

 その日の夜、彼は二人の女子生徒に、興奮気味にこの出来事を報告した。

 だが、話を聞いた女子生徒たちは、顔を見合わせてニヤリと笑った。


「ねえ。そんな試験をわざわざやってるってことはさ……」

「うん。実際に税をごまかしてる貴族が、結構な数いるってことよね」


 翌日から、女子生徒たちの猛烈な反撃リサーチが始まった。

 彼女たちは書物庫にこもり、過去三十年にわたる王国のすべての貴族の納税帳簿を引っ張り出した。

 この世界の計算は手作業であり、極めて時間がかかる。だが、彼女たちの手元には、淳志から支給された『ソーラー充電式電卓』と、日本の高度な『多桁式現金出納帳』のフォーマットがあった。


 電卓の異常な計算速度と、日本の簿記の知識を駆使し、彼女たちはわずか数週間で三十年分の帳簿を丸裸にしていった。

 そして導き出された結果は、王国の上層部を震撼させるものだった。


「宰相閣下! 過去三十年の帳簿を精査した結果、五十を超える家で納税額の訂正が必要なことが判明しました!」


 謁見の間に持ち込まれた分厚い資料。

 そこには、三つのパターンの『不正』や『ミス』が完璧な計算式と共に分類されていた。


 一つ目は、「単に帳簿の計算が下手で、間違えている家」。

 二つ目は、「意図的にごまかそうと工作しているが、計算が間違っている年が多く、結局トントンか損をしているアホな家」。

 そして三つ目は、「王城の担当官の法律の解釈ミスにより、長年にわたって『不当に多く税を払わされ続けていた家』」。


「これは……凄まじいな。我が国の役人が数年かけても終わらないであろう計算を、わずか数週間で……」


 報告を受けた若き王と宰相は、三人の異世界人の圧倒的な実務能力と執念に、心底舌を巻いた。

 そして王は、即座に一つの決断を下した。


「そなたら三人の功績をもって、本日より王城に『王国税務監査室』を新設する! そなたら三人を監査官に任命し、特例として『男爵位』を授ける!!」


 驚く三人に向けて、王はさらに強力な権限を与えた。


「この監査官には、公爵以下のすべての貴族に対して、事前の通告なしで立ち入り監査を行える権限を与える。これを拒否する者は、王国への反逆とみなす!」


 ――かくして、好奇の目で見られていた三人の若者は、一夜にして王家の威光を笠に着た『男爵』へと成り上がったのである。


 通常、他人の懐を嗅ぎ回る税務監査官は、貴族たちから蛇蝎のごとく嫌われる存在だ。

 だが、彼ら三人は単なる「権力の犬」にはならなかった。


「あー、ここの計算、間違ってますよ。この項目は控除に入りますから」

「えっ? あ、ああ……そうなのか?」


 彼らは「帳簿が下手な家」には、淳志から教わった効率的な計算方法を丁寧に教え込んで回った。

 「ごまかそうとした家」には、あえて罰則を与えず、「次にやったら王家に報告しますよ」と強烈な警告に留め、正しい帳簿のつけ方を指導した。

 そして何より、「多く払いすぎていた家」に対しては、王家に掛け合って過去にさかのぼり、しっかりと過払い分を返却させたのだ。


「おお……! まさか、払いすぎた税が戻ってくるとは! 男爵様方、本当にありがとうございます!」

「いやあ、新設された監査室の皆様は、我々領主の強い味方だ!」


 自分たちの私腹を肥やすのではなく、公正な目で王国の財務を正していく三人の姿に、いつしか貴族たちからの侮蔑の目は完全に消え去っていた。

 むしろ、多くの家から「うちの帳簿も見てほしい」と熱烈な支持を受け、彼らは王城で最も歓迎される気鋭の官僚として確固たる地位を築き上げたのである。


「……小林さん、見ててくれてるかな」


 新しく与えられた自分たちの執務室で、三人の若き男爵たちは、デスクの上に置かれた日本の電卓を大切そうに撫でた。

 もう、誰も彼らを哀れな被害者とは呼ばない。

 ここは、彼らが自分たちの力と知恵で勝ち取った、新しい生きる場所なのだから。

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