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『ただの収納スキルですが、神様から「解釈」の変更してもらって現代に戻ったら、人生楽勝でした――』  作者: だい


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第43話:商社マンの異世界支援と、帰還後のカオスな大宴会

 ――断っておくが、決して逃亡したわけではない。


 異世界『エルディア王国』の王城の中庭。

 淳志は澄み切った青空を見上げながら、心の中で誰にともなくつぶやいた。


 日本の居酒屋で放たれたマリアの特大爆弾『夜の白兵戦』発言。

 あの後、笑顔のまま完全に凍りついた香織や沙織から逃れるために、休日のドン〇ホーテで深夜まで爆買いに走り、そのまま異世界へ避難してきた……などという情けない理由では断じてない。……無いったら無いのだ。

(俺はただ、あの子たちの自立を支援するという、大人としての責任を果たしに来ただけだ。うん、そうだ)


 自分に言い聞かせていると、城の奥から八人の高校生たちが駆け寄ってきた。


「小林さん! わざわざ来てくれたんですか!」

「おう、みんな元気そうだな」


 あの日、凄惨な現実を前に「自分の足で生きる」と決意した八人。

 彼らの顔つきは、以前のような中二病の浮ついたものではなく、地に足の着いた逞しいものへと変わっていた。


 淳志は『収納』から、ドン〇ホーテなどで買い込んできた大量の段ボール箱を取り出した。


「国から『収納鞄マジックバッグ』を支給されてるんだってな。三畳くらいの容量があるらしいから、とりあえずこれ、全部持っていけ」

「うわっ……! これ、全部日本の物資ですか!?」


 段ボールの中身は、大量の下着、タオル、動きやすいスニーカー、そしてトイレットペーパーや生理用品などの日用品の数々だ。

 中身を見た生徒たち、特に女子生徒たちは「神様……!」と拝むような勢いで涙ぐみ、魔法の鞄へと次々に物資を吸い込ませていった。


「さて。まずは王城に残って文官を目指す三人、ちょっと来い」


 淳志が手招きすると、真面目そうな男子一人と、女子二人が前に出た。

 淳志は彼らに、ソーラー充電式の電卓、電卓が壊れた時用の『そろばん』、多桁式の現金出納帳の束、そしてソーラー腕時計を手渡した。


「計算と時間の管理は、役人にとっての命綱だ。この世界の誰よりも早く正確に数字を出せれば、お前らは絶対に重宝される。……それから、これを持っていけ」


 淳志がさらに取り出したのは、美しい細工が施された贈答用のオイルライター(Zippo)と、綺麗なカットグラスのセットだった。


「小林さん、これは……?」

「いいか。この世界にはまだ、現代日本のような『贈収賄』を厳しく罰するコンプライアンスなんてないはずだ。むしろ、上の人間に気に入られるための『贈りチップ』は、潤滑油としての常識ですらある」

「それって、賄賂を贈れってことですか……?」

「汚いことだと斜に構えるな。これも立派な社会人の駆け引きだ。ちょっと見てろ」


 淳志はちょうど中庭を通りかかった、この国の宰相(王の死後、実質的に国を回しているトップ)を呼び止めた。


「やあ、宰相閣下。いつもこの子たちが世話になっております。これ、私の故郷の『火起こしの魔道具』と『硝子の杯』なのですが、ほんの気持ちです。どうかお納めください」


 カチャッ、と心地よい音を立ててZippoの火をつけて見せると、宰相は目をひん剥いて驚愕し、震える手でそれを受け取った。


「こ、こんな貴重な国宝級の魔道具を……! よろしいのですか!?」

「ええ、もちろん。今後とも、この優秀な子たちをよしなにお引き立ていただければと」

「ははぁっ! 承知いたしました、必ずや彼らを我が王国の要職へと引き上げましょう!」


 ホクホク顔で去っていく宰相を見送り、淳志は振り返って三人にウインクをした。


「……とまあ、こんな感じだ。自分の実力を示すのと同時に、こういう『価値ある物』を効果的に使って、自分の味方を増やしていけ。お前らなら、数年でこの国の中枢を牛耳れるさ」

「「「……はいっ!!」」」


 頼もしすぎる商社マンの特別講義に、文官志望の三人は目を輝かせて深く頷いた。


「よし。次は冒険者になる五人だな。ちょっと裏庭に行くぞ」


 騎士団の訓練場がない裏庭の森に移動すると、淳志は彼らに真っ黒な鉄の塊を手渡した。


「こ、小林さん、これって……!」

「ああ。少し前に中東アフガンをウロウロした時に、タチの悪いテロリストの武器庫から『収納』で根こそぎ拝借してきたAK-74Uだ。手榴弾と、夜目が利くマグライトも渡しとく」


 ファンタジー世界に持ち込まれた、あまりにも凶悪な近代兵器。

 使い方の基礎と安全装置の扱いを教え、たっぷりと弾薬を渡したが、淳志は厳しい顔で彼らに釘を刺した。


「いいか、これはあくまで『どうしようもなくなった時の切り札』だ。弾には限りがあるし、これに頼りきりになれば、お前ら自身の強さは頭打ちになる。普段は王国騎士団にしっかり剣や魔法を習って、この世界のルールで戦う術を身につけろ」

「はい! ありがとうございます、小林さん!」

「最後に、全員にこれだ。最後の最後の自衛用に、小型の拳銃と……『ヒグマよけスプレー』だ。目や鼻の利く魔物には、下手な魔法よりこっちの方がよっぽど効くからな」


 すべての物資を渡し終えると、生徒たちは一列に並び、淳志に向かって深々と頭を下げた。


「小林さん、本当にありがとうございました! 俺たち、絶対に生き抜いてみせます!」


 力強く宣言する彼らの目には、もう過去の怯えや甘えはなかった。

 自分の居場所を見つけ、必死に前を向いて歩こうとする若者たちの熱意。

 それに当てられ、淳志の胸の中にも「逃げてばかりじゃダメだな」という、大人の男としての気合いが満ちてきた。



 その日の夕方。

 王城の裏手にある、静かな丘の上に作られた簡素な墓。

 淳志はそこに日本の缶コーヒーを供え、静かに手を合わせた。


「長谷川先生。あいつら、立派にやってますよ」


 教え子たちを守るために命を落とした、幸子の墓だ。

 吹き抜ける風が、少しだけ優しく淳志の頬を撫でたような気がした。


「……俺も、彼らに負けないように頑張ります。明日から、また日本でしっかり仕事して、正面から向き合わなきゃな」


 色々な意味で。

 淳志は一つ深呼吸をして覚悟を決めると、頭の中に日本の自宅のマンションの座標を描き、『転移』を発動させた。



 ――そして。

 決意も新たに、日本の自宅へと帰還し、リビングのドアを開けた淳志の目に飛び込んできたのは。


「あーっ! 淳志ぃー! やっと帰ってきたわねこの浮気者ぉーっ!!」


 信じられないほどのアルコールの匂いと、大音量の笑い声。

 そして、テーブルの上にズラリと並べられた大量の空き缶とワインボトルだった。


「えっ……!?」


 リビングのソファや床には、香織、沙織、佳奈、マリア……淳志の愛する(そして現在進行形で怒らせている)女性陣が勢揃いしていた。

 しかも、最悪なことに。


「あひゃひゃひゃ! 淳志さぁん! おかえりなさぁーい♡」


 ついこの間女子大生(JD)になったばかりのミクまでが、佳奈に飲まされたのか、完全に顔を真っ赤にしてとろんとした目で淳志に抱きついてきたのだ。


「ちょ、ミクちゃん!? お前、未成年……いやギリ飲める年齢だとしても、こんなに飲ませたの誰だ!?」

「あはははは! いいじゃない小林くぅん! JDの若いエキス、好きでしょぉ?」


 佳奈がお腹を抱えて笑い転げ、マリアが「課長ぉ、白兵戦の続きしましょぉ……」とミリタリー用語で絡んでくる。


「小林くん。……逃亡の旅は、楽しかったかしら?」

「淳志さん。……さあ、たっぷりと『オハナシ』を聞かせてもらいましょうか?」


 そして、部屋の奥から、氷のような笑みを浮かべた香織と沙織が、ゆらりと立ち上がった。

 彼女たちもまた、しっかり酔っ払っているがゆえに、普段の理性というストッパーが完全に外れていた。


「あ、いや、俺は別に逃げてたわけじゃなくて! 少年少女たちに、愛と物資をだな……ッ!!」


 言い訳も虚しく。

 決意を新たにして異世界から帰還した最強の商社マンは、酔っ払った凶悪なヒロインたちの手によって、文字通りリビングの床に沈められ、カオスすぎる大宴会(という名の公開処刑)の生贄となるのだった。

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