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『ただの収納スキルですが、神様から「解釈」の変更してもらって現代に戻ったら、人生楽勝でした――』  作者: だい


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第39話:覚醒するタラシの血と、受け継がれる正座

夏休みの東京。

 地方から上京してきた佳奈の息子・淳は、すっかり都会の空気に当てられていた。

 母親である佳奈は仕事で忙しいため、淳の東京案内の大役を任されたのは、淳志に一途な思いを寄せる純情な女子大生・ミクだった。


「淳くん、次はどこに行きたい? せっかくだから、浅草とかスカイツリーも行ってみる?」


 カフェのテラス席で、冷たいアイスティーを飲みながらガイドブックを広げるミク。

 年上の綺麗なお姉さんであるミクに優しくエスコートされ、淳の中で、これまで眠っていた『恐るべきDNA』が、突如として目を覚ました。


 実の父親である、とんでもないチャラ男だった淳一。

 そして、父の従弟で淳と瓜二つの顔で、息をするように女性を口説いてしまう男、淳志。

 小林家の男たちに代々受け継がれる『タラシの血脈』が、16歳の夏、ついに開花してしまったのである。


「ミクさん」


 淳はガイドブックをパタンと閉じると、真っ直ぐにミクの目を見つめ、甘く低い声で囁いた。


「東京の景色も綺麗ですけど……今日の俺は、ミクさんから目が離せそうにないです」

「……え?」

「俺、もう子供じゃないですよ。ただの『案内してもらう弟分』で終わるつもり、ないですから」


 淳志譲りの、あまりにも自然でスマートな口説き文句。

 だが、相手が悪すぎた。


「ごめんね、淳くん」


 ミクは1ミリも動揺することなく、冷めたアイスティーのようにあっさりと即答した。


「私、淳志サンのことしか見えてないから。淳くんがどれだけカッコよくなっても、淳志サンには勝てないよ?」

「えっ、あ、即答……」


 あまりにも見事な玉砕。

 淳が開花させたタラシの業は、ミクの『ブレない純情』の前に、わずか数秒で散ることとなった。


 ――しかし、悲劇は振られたことではなかった。


「へえ。……弟分で終わるつもり、ないんだ?」


 背後から、地獄の底から響くような、絶対零度の声が聞こえた。


 淳の全身から、一気に血の気が引いた。

 恐る恐る振り返ると、そこには、地元にいるはずの『可愛い彼女』が、夜叉のような笑みを浮かべて立っていた。

 そしてその後ろには、腕組みをして青筋を立てている母親の佳奈の姿。


「か、母さん!? それに、なんでお前が東京に……っ!?」

「佳奈おばさんに連絡して、淳くんに内緒で東京サプライズ旅行を計画してたの。……まさか、こんな素晴らしいサプライズが見れるなんて思わなかったけどね?」

「あんたってバカ息子は! 淳一のタラシの血がこんなところで目覚めてんじゃないわよ!!」


 逃げ場ゼロ。言い逃れ不可能の完全な現行犯。

 淳はカフェのテラス席の床に、即座に、そして流れるような動作で見事な『正座』をキメた。


「ち、違うんだ! これは東京の空気が俺に言わせたというか、その、出来心で……っ!!」

「言い訳すんな! 歯ぁ食いしばりなさい!!」


 佳奈の容赦ないハリセン(丸めたガイドブック)が淳の頭に炸裂し、彼女は冷ややかな目で浮気未遂の彼氏を見下ろしている。

 周囲の客が何事かと注目する中、公開説教の修羅場が幕を開けた。


 だが、その地獄絵図を目の前で見ていたミクの感想は、常人のそれとは全く異なっていた。


(……同じ正座でも、やっぱり淳志サンの方が素敵だなあ)


 ミクは、ストローを咥えながらうっとりと宙を見つめていた。


(淳志サンが土下座や正座をする時って、もっと背筋がピンと張っていて、指先の角度まで美しくて、大人の色気があったもん。淳くんじゃ、まだまだ淳志サンのあの完璧な正座には及ばないわね……♡)


 タラシの血脈と共に受け継がれた小林家の伝統芸『正座』を比較し、斜め上の視点で淳志への恋心をさらに募らせるミク。

 東京の夏の空の下。

 小林家の男たちは、いつの時代も女性たちの手のひらの上で、美しく正座をする運命さだめにあるのだった。

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