☆黄金蝶探し㉗
レンジは上空に咲き誇る鮮やかな花火の光を道標に、狂気じみた走りを続けていた。
憎悪の念だけが彼を前へと突き動かしていた。
「――っ、ここだッ!!」
ついに、花火の打ち上がった直下、開けた広場へと辿り着いた。
そこにいたのは、たった6人のプレイヤーだった。
重装備の騎士、グラマーな魔法使い、気弱そうな少女、ハンマーを担いだ女、凛とした女剣士。
そして、その中央に立つ、フードを被ったデバッファーのローブの男。
「お前ら……!」
レンジは息を切らせながら、その顔ぶれを見て愕然とした。
まさか。
自分たち『エンペラーNo.1』から、圧倒的な大差で1位を強奪した『トライ・ジョーカー』。
その正体が、ほんの少し前まで砂浜で自分をコケにし、そして煮え湯を飲ませた、あの「デバフ野郎」のチームだったとは。
「……またお前か」
ガルフォードが、レンジの姿を認めるなり、即座に双盾を構え、厳重な警戒態勢を取った。
その後方で、アカネがビクッと肩を震わせ、マリアのローブの後ろに小さな身を隠した。
「はっはっは! わざわざお祝いにきてくれたの? 皇帝サマ!」
テレサがレンジの狼狽した顔を見るなり、腹を抱えて大爆笑し始めた。
「いやー、いい顔してるわね! 自分が1位だと信じて疑わなかったのに、フタを開けてみれば2位止まり! その悔しそうな顔が見れただけで、このイベントに参加した甲斐があったってものよ! ざんねーん! アタシたちが1位でしたー!」
テレサの容赦ない煽り。
その言葉は、レンジのプライドを粉々に砕き、理性を完全に焼き切った。
「ふざけんなァッ!!」
レンジは血走った目で、テレサを、そしてガイを睨みつけた。
「不正だ! チートだ! イカサマだ! てめぇら、何かズルをしたに決まってんだろ!」
「……はぁ?」
「俺たちは20人以上で、島中を探し回って、他のプレイヤーから奪って、やっと27匹集めたんだぞ! なのに、たった6人ぽっちで、42匹!? そんな数、まともにやって集められるわけがねぇ! だから絶対にお前らは不正をしたんだ!!」
狂乱したように喚き散らすレンジの姿は、あまりにも醜く、そして滑稽だった。
自分の「最強」の戦術が敗れた現実を受け入れられず、ただ子供のように駄々をこねているだけだ。
「……はぁ」
ガイはそんなレンジを冷めた目で見下ろし、深く、深いため息をついた。
彼のような人間に、どれだけ説明したところで理解できるはずもない。
だが最後に一つだけ、事実を教えてやろうと思った。
「おい、レンジ」
「なんだよ!!」
「お前らは、必死に島中を走り回って『探した』つもりだったんだろうがな」
ガイは冷静にレンジを見つめる。
「俺たちは、探してなんかいない」
「……探してない……?」
「ああ。俺たちはただ、黄金蝶に『探させた』だけだ」
その言葉の意味が全く理解できず、レンジは完全に硬直した。
「黄金蝶に……探させた……? お前、何を言って……」
その時だった。
『プレイヤーの皆様! これにて、大型イベント「黄金蝶探し!」を終了いたします!』
空から、再び運営の明るいアナウンスが響き渡った。
『イベントにご参加いただき、誠にありがとうございました! 報酬は、後ほど皆様のインベントリに配布されます! それでは、また次のイベントでお会いしましょう!』
イベントの完全終了を告げる宣言。
「ま、待て! お前、どういうことだ! どうやって……!」
レンジは、真相を聞き出そうと、ガイに向かって必死に手を伸ばした。
だが、その手がガイのローブに触れる直前。
シュイィィィンッ……!!
無人島にいた全てのプレイヤーの足元に、転送の魔法陣が展開された。
レンジの手は虚しく空を切り、彼の視界は、眩い光に包まれて白く染まった。
「ふざけんなァァァァァァァァァァッ!!」
レンジの絶叫は、光の束と共に上空へと吸い込まれ、そのまま完全に消失した。
そして。
ガイ、サクラ、テレサ、ガルフォード、マリア、アカネの6人もまた、互いに顔を見合わせ、安堵の笑みを浮かべた直後、光に包まれ、この「黄金蝶の楽園」から、元のルンベルクの町へと、静かに帰還していったのである。




