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不人気と言われようともデバッファーを極める ~攻撃スキルが無くても戦えます~  作者: 功刀


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☆黄金蝶探し㉖

『プレイヤーの皆様! お疲れ様でした! これにて、大型イベント「黄金蝶探し!」を終了いたします!』


 空から降り注ぐ運営の明るいアナウンスが、無人島に鳴り響いた。

 その瞬間、島中を駆け回っていた全てのプレイヤーたちの足がピタリと止まる。


 砂浜の片隅、少し開けた場所に、統一された重装備の集団――20人以上の『皇帝』ギルドのメンバーたちが集まっていた。

 その中心に立つレンジは、剣を砂に突き立て、勝ち誇ったように天を仰いでいた。


「終わったぜ、お前ら! オレたちの完全勝利だ!!」


 レンジの咆哮に応え、集団から割れんばかりの歓声が上がる。


「ヒャッホー! これでオレたちも有名人だな!」

「アッハッハ! 楽勝すぎだろ、このイベント! 数の暴力、最高!」


 まだ正式な順位発表が行われていないにもかかわらず、彼らはすでに祝杯を上げているかのようだった。

 他のギルドや個人から蝶を力で奪い、1時間に1度の更新のたびに他の追随を許さないスコアを記録してきたのだ。


 レンジの手元のインベントリに守られた黄金蝶は、絶対の金庫に等しかった。負ける要素など、どこにも見当たらない。

 彼らの勝利は、疑いようのない事実としてそこにあった。


『それでは、お待ちかね! 「黄金蝶獲得数ランキング」最終結果の発表です!!』


 ファンファーレが鳴り響く。

 しかし、『皇帝』のメンバーたちのほとんどは、運営のアナウンスに聞く耳を持っていなかった。

 無理もない。島中からかき集め、略奪し、全てをレンジ一人のインベントリに集約させた黄金蝶の数は、常軌を逸している。

 彼らにとって、自分たちがトップに立っていることは、確認するまでもない自明の理だったのだ。


『まずは第5位! 獲得スコア15……チーム「アヴァロンの騎士」!』


 この場にいる人々は自分達にすら遠く及ばないその数字を、ただの雑音としか捉えていなかった。


『第4位! 獲得スコア16……チーム「月光の調べ」!』


 誰が5位だろうと、4位だろうと知ったことではない。

 彼らの興味は、自分たちの圧倒的なスコアが読み上げられ、全プレイヤーにその名が轟く瞬間にしかなかった。


『続いて第3位! 獲得スコア18……チーム「紅蓮の戦斧」!』


 その発表を聞いた時、集団の後方にいた一人のメンバーが、ふと疑問の声を漏らした。


「……ん? おい、レンジ。3位の『紅蓮の戦斧』って、1時間前までは2位にいなかったか?」


 前回の更新では『紅蓮の戦斧』は2位グループにつけていたはずだ。順位が落ちている。

 けれどレンジは鼻で笑い、手をひらひらと振って一蹴した。


「バカ、気にすんな。どこかの無名チームが、終了間際に滑り込みで追い抜いたんだろ。オレたちの足元にも及ばねぇスコアだ、放っておけ」

「……まあ、それもそうか」


 男も深く考えずに納得し、再び歓談の輪に戻った。


『さあ、いよいよ第2位の発表です!』


 運営の声が、一段とトーンを上げる。

 レンジは、ニヤリと口角を歪め、両腕を大きく広げた。

 自分たちの圧倒的な1位を飾る前座。誰がこの「かませ犬」のポジションに座るのか。

 集団の誰もが、余裕の笑みを浮かべていた。


『第2位! 獲得スコア27! 不足ボーナス4! ……最終スコア31!!』


 その数字を聞いて、レンジは一瞬、眉をひそめた。


(スコア31? オレはスコア27、一人のソロ登録だから不足ボーナス4で、ぴったり31だ……。何かの間違いか?)


『チーム……「エンペラーNo.1」!!』


 その瞬間。

 砂浜を支配していた『皇帝』メンバーたちの歓声が、まるで時間が凍りついたかのように、完全に、そして無残に途切れた。


「…………は?」


 レンジの口から、間の抜けた、信じられないというような声が漏れた。

 周囲のメンバーたちも、互いの顔を見合わせ、耳を疑っている。


「ど、どういうことだ……? オレたちが、2位……?」


 20人以上で手分けして島中を索敵し、他のパーティを力と数でねじ伏せ、容赦なく黄金蝶を奪い集めた。

 その結果が、スコア27。ボーナス込みで31。

 3位の18とは、圧倒的な大差をつけている。それだけの悪辣な真似をして、血眼になってかき集めた数字だ。


(それなのに……それなのに、2位?)


 レンジは思わず叫ぶ。


「ふざけんな……! ありえねぇ!! なんでオレたちが2位なんだよ!!」


 自分たちの上に、もう一つ、別のチームが存在している。


『そして!! 堂々の第1位は……なんと、このチームです!!』


 運営の声が、興奮で微かに上ずっているのが分かった。

 レンジは、ギリリと奥歯を噛み締め、これから発表される名前と、その絶望的なスコアを聞き漏らすまいと、全身を強張らせた。


『獲得スコア42!! 不足ボーナス2! ……最終スコア44!!!』


「よんじゅう……よん……!?」


『見事、圧倒的な大差をつけて優勝を飾ったのは……チーム「トライ・ジョーカー」の皆さんです!! おめでとうございます!!』


 その途方もない数字と、全く聞き覚えのないチーム名に、『皇帝』の集団は水を打ったように静まり返った。


『44』


 自分たちの31というスコアを、遥か彼方に置き去りにする、圧倒的かつ暴力的なまでの大差。


『運営チームも度肝を抜かれるほどの、素晴らしい結果でした! トライ・ジョーカーの皆様には、後ほど特別な報酬をお送りいたします!』


 運営でさえも、この短時間でこれほどのスコアを叩き出した彼らの手腕に、驚きと称賛を隠しきれないようだった。


「ふ、ふざけんな……!」


 静寂を破ったのは、レンジの絶叫だった。


「44だと!? ありえねぇ! どんなチートを使ったらそんな数字になるんだ! 認めねぇぞ、こんなふざけた結果!!」


 彼は砂浜を蹴り上げ、怒りに任せて剣を振り回した。

 だが、そんなレンジの背中に、冷ややかな声が次々と突き刺さり始めた。


「おい、レンジ……。話が違うじゃねぇか」

「オレたちは、お前の作戦に乗って、他の連中から恨まれるようなマネまでしたんだぞ! なのに2位!?」

「こんなことなら、普通にイベント楽しんだ方がマシだったぜ! お前のせいだ!」

「クソッ、お前の話を信じたのが馬鹿だった!」


 圧倒的な敗北という現実は、結束していたはずの集団を、一瞬で内紛へと向かわせた。

 レンジに向けられるのは、称賛ではなく、容赦のない罵声と責任の追及だった。


「う、うるせぇ! オレの作戦は完璧だった! あいつらが、何か裏技を使ったに決まってるんだ!!」


 レンジは仲間たちの非難に耳を塞ぎ、ただひたすらに「1位のチーム」のことで頭がいっぱいになっていた。


(『トライ・ジョーカー』……! どこの馬鹿だ、オレの……オレたちの獲物を横取りしやがったのは!)


 その時だった。


 ヒュルルルルル……!


 ドーンッ! パパパーンッ!!


 島の上空、少し離れたジャングルの奥深くで、突然、色鮮やかな巨大な花火が打ち上がった。

 それは、イベント終了と同時に、見事1位に輝いたチームを祝福するために、システムが自動で打ち上げたものだった。


「……あそこか」


 レンジの目に、暗い狂気の光が宿る。

 花火が打ち上がった場所。その真下に、自分たちの全てを台無しにした憎き1位のチーム、『トライ・ジョーカー』がいるに違いない。


「オレは……オレはまだ負けちゃいねぇ!!」


 レンジは、仲間たちの罵声を背に受けながら、脱兎のごとくその場から走り出した。

 砂を蹴り、木々を押し退け、ただひたすらに、花火の上がった方角へと向かって。


 その狂気に満ちた背中を、残されたギルドメンバーたちは、ただ冷ややかな目で見送るだけで、誰一人として追いかけようとはしなかった。

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