黄金蝶探し㉕
「ああもう……! なんなのよ、これ!!」
テレサが、ドスン! とハンマーを砂浜に叩きつけ、忌々しそうに天を仰いだ。
「21人も返り討ちにしてやったのに! 相手からぶんどれたのは、たったの1匹!? あんなに苦労して、あんなにハラハラしたのに、全然割に合わないじゃないの!!」
俺も拾い上げた一匹の黄金蝶をインベントリに収めながら、同じように歯噛みしていた。
確かに俺たちは生き残った。戦いには完全勝利した。
しかし、あの『皇帝』という巨大な組織が、これまでに他のプレイヤーから非道な手で奪い、集め上げてきたであろう莫大なポイントは、結局レンジのインベントリの中に守られたままだ。
「『試合に勝って、勝負に負けた』ってやつだな……」
このままでは、圧倒的なスコアで首位を独走する『エンペラーNo.1』に追いつくことなど、到底不可能だ。
俺たちの手元にある蝶は、初期ボーナスを含めてもたったの9匹。奴らのスコアは、もうとっくに20の壁を越えているかもしれない。
「えーと、あの――」
パンッ!
気まずい雰囲気を打ち破るように、小さく手を打つ音が響いた。
マリアだった。場の空気を変えようと、ふわりと優しげな微笑みを浮かべる。
「嫌な話はこれくらいにしましょうか。ねえ、せっかく合流できたんだし、改めて紹介させてちょうだい」
マリアに背中をぽんと押され、それまでおどおどと俺たちのやり取りを見ていたアカネが、ビクッと肩を震わせて前に出た。
大きなとんがり帽子を深く被り直し、杖を両手でぎゅっと握りしめている。
「あ、あのっ……アカネ、です……。い、一応……ヒーラー……というか、回復とちょっとした魔法くらいしか、取り柄がなくて……」
消え入りそうな声での、たどたどしい自己紹介。
本当に、さっきの乱戦を生き抜いたのと同じプレイヤーなのかと疑いたくなるほど、気弱で大人しそうな少女だった。
「取り柄がないなんて、とんでもない! さっきの戦い、アカネさんのサポートがなければ、前線のガルフォードさんが崩されていた可能性もあった。初めて組んだ即席パーティであれだけ的確に回復とノックバックを使いこなせるなんて、相当な腕前だ」
「えっ……」
「そうよ! あんた、すっごく優秀じゃない! あたしたち、助かったわよ!」
「うん! アカネちゃんがいてくれて、すごく心強かったです!」
俺に続いて、テレサとサクラもアカネを絶賛する。
実際、アカネの視野の広さと詠唱の速さは、ヒーラーとして一級品だった。
「フハハハ! そうであろう! 我が友アカネは、控えめな性格ゆえに過小評価されがちだが、その実力は吾輩とマリアが保証する!」
「ふふっ、これであなたたちも、アカネの頼もしさが分かったでしょ?」
ガルフォードが自慢げに胸を張り、マリアも我が事のように誇らしげに微笑む。
三人の先輩たちから一斉に褒め称えられ、アカネの顔は、被っている帽子と同じくらい真っ赤に染まっていった。
「そ、そんな……! わたしなんて、全然……っ! あ、あぅ……。あ、ありがとうございます……!」」
照れ隠しに帽子を深く被り直そうとするアカネの姿に、場が少しだけ和む。
しかしテレサはふと、先ほどの敗北感を思い出したのか、再び唇を尖らせた。
「……でも、やっぱり悔しいわ。あんなクズ連中が、悠々と1位の座にふんぞり返ってるなんて……」
「テレサちゃん……」
サクラが、落ち込むテレサの肩を優しく撫でる。
マリアが小さく息を吐いた。
「もういいじゃない。あんな連中のことは忘れて、私たちは私たちで、純粋にこのイベントを楽しみましょうよ」
「マリアの言う通りだ。アカネを震え上がらせた不届き者どもは、この盾で成敗してやった。これ以上、奴らの幻影を追っても心がすさむだけだ。精神衛生上も良くないぞ」
ガルフォードも、力強く頷く。
確かに言うことも一理ある。これ以上、あの連中にかまけていても、俺たちのスコアが伸びるわけではない。
「……そうね。あたしたちは、あたしたちのペースでお宝を探しましょ。残り時間は少ないけど、最後まで諦めないわよ!」
「うん!」
テレサが気を取り直すように、両頬をパン! と叩いて気合いを入れた。
………………
だが。
俺一人だけは、その輪に入れず、じっと砂浜を見つめたまま考え込んでいた。
……何か、見落としている気がする。
俺の脳内で、先ほどからのレンジとのやり取り、そして、このイベントの奇妙なルールが、ぐるぐると渦巻いていた。
何か、決定的な『見落とし』が存在するはずだ。
この状況を打破できるような、起死回生の方法が……
さっきのテレサの気持ちもよくわかる。あんな性悪のクズがふんぞり返って1位になる。
……考えただけで気分が悪くなる。
なんとかしてそれを阻止したい。一泡吹かせたい。
さったと忘れてイベントを素直に楽しむのもいいが、せめてやれることを全て尽くしたい。
後悔が無いように足掻きたい。
思考の海へと深く潜り込んむ。
ひたすら頭の中で模索する。何を見落としているのか。
これまで体験してきた出来事、戦闘、会話。
全てをフラッシュバックさせ、その中に潜む「違和感」を探し出す。
ずっと引っかかっていた事がある。だがそれが何かが分からない。
思い出せ……思い出すんだ……
俺は何を見落としている……?
すごく大事なことを見過ごしていた気がする……
くそっ……思い出せない…………
この状況を変えられるような手段……
俺にしかできないような何かが……
…………………………
………………
ハッと息を呑み、顔を上げた。
「まさか……!」
俺の呟きに、隣にいたサクラが不思議そうに顔を覗き込んできた。
「ガイ君? どうしたの? 急に大声出して……」
「……………………」
「……?」
心臓の早鐘を感じながら、全員に向かって力強く言い放った。
「みんな、聞いてくれ。……どうしても、試したいことがある」




