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不人気と言われようともデバッファーを極める ~攻撃スキルが無くても戦えます~  作者: 功刀


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イベント終了

 目を開けると、俺たち三人は、見慣れた噴水広場の中心に立っていた。イベント会場の無人島から、無事に帰還したのだ。


 周囲にも続々とプレイヤーが転送されてきて、広場はあっという間に祭りの後のような喧騒に包まれる。


「やった……やったわね! アタシたち、本当に1位になっちゃったわよ!」

「うん! 信じられない……夢みたいだよ!」


 2人とも嬉しそうにその場でピョンピョンと跳ねっている。


 サクラも両手を胸の前で組み、ホッとしたような、それでいて興奮を抑えきれないような表情を浮かべていた。

 8時間に及ぶ長丁場のイベントを完走し、しかも頂点に立ったのだ。心地よい疲労感が全身を包んでいた。


「それにしても、あの『皇帝』サマの最後に顔! 思い出しただけで最高にご飯が進みそうだわ! 『不正だ! チートだ!』って、顔を真っ赤にして喚き散らすんだもの。あー、清々した!」

「あはは……。まあ、確かにちょっとスッキリしたかな」


 テレサは、レンジの崩れ落ちたプライドを思い返しては、悪役のように高笑いしている。

 サクラはそんな大はしゃぎするテレサを見て、苦笑するように小さく肩を揺らした。


「でも、あの状況からトップになれたのは、全部ガイ君のおかげだよ。ガイ君が作戦を立ててくれなかったら、私たち、きっと何匹も見つけられなかったと思う」


 サクラが真っ直ぐな瞳を向けてくる。


「そうよそうよ! あんたのあの悪魔的な閃きがなきゃ、今頃あたしたち、順位表の圏外で指をくわえてたに決まってるわ! ガイっち、マジで神! いや、悪魔!」

「……よせよ。俺だけの力じゃないさ」


 二人の称賛に、俺は少しバツが悪くなって頭を掻いた。


「俺のデバフを活かすためには、前線で体を張ってくれるタンクと、敵を確実に仕留めるアタッカーが必要不可欠だ。お前たちがいたから、作戦が成り立ったんだ」


 それに、今回の勝利の最大の功労者は、ここにいない三人だ。


「ガルフォードさんたちの協力がなきゃ、そもそもあの数は集まらなかった。本来なら、集めた黄金蝶は山分けにする約束だったんだからな」

「そうね……。イベントの残り時間が迫ってきて、もしかしたら1位を狙えるかもしれないってなった時……」

「『ここから先は全て、トライ・ジョーカーのスコアとして献上しよう! 恩を返すのは今をおいて他にない!』って、おっさん……ううん、ガルフォードさん、言ってくれたもんね」


 テレサが少しだけ真面目な声色になって呟く。

 彼らが自分たちの取り分を放棄し、俺に全ての黄金蝶を預けてくれたからこそ、あの「42」という驚異的なスコアまで到達できたのだ。


「ガルフォードさん、マリアさん、アカネちゃん……。フレンド交換も済ませたし、いつか絶対にお礼をしないとね」


 サクラの言葉に、俺とテレサも深く頷く。

 恩を受けたまま終わらせるつもりはない。必ず、何かしらの形で報いるつもりだ。


「それにしてもさ。一体、どうやってあんなトンデモ行動を思いついたのよ? 黄金蝶に案内させるなんて、普通のプレイヤーの頭じゃ絶対に出てこないわよ」

「ああ、あれか」


 事の始まりを思い返す。


「きっかけは、ガルフォードさんのあの『シールドブーメラン』だったんだ」

「あー、あの黄金蝶を粉砕したっていう伝説の暴投ね」

「……あの暴投?」


 サクラが不思議そうに目をパチクリとさせる。


「そうだ。盾の直撃を受けて、黄金蝶は弾け飛んで金粉になった。つまり、ただのオブジェクトや採集アイテムじゃなく、『HPが設定されていて、攻撃で死ぬ判定がある』ってことだ。攻撃で死ぬってことは、システム上は『モンスター扱い』なんじゃないか、と気が付いた」

「モンスター扱いなら……!」

「俺のデバフが効くかもしれないと思ったわけだ」


 イベント開始から数時間、全く手がかりがなかったからこそ、藁にもすがる思いで試した賭けだった。

 それは、手に入れた黄金蝶を野に放ち、そして《コンフューズ》で混乱状態に陥らせ、《外道の戦術》の効果でこう命じたのだ。


『お前の仲間の元へ案内しろ』、と。


 たったそれだけで、放たれた黄金蝶は、俺たちにとって最高の『探知機』へと早変わりした。

 あとは、フラフラと飛んでいく蝶の後を追いかければ、確実に他の黄金蝶の隠れ家へと辿り着けるのだ。


「まさか本当に操れるとは思わなかったけどな。あとは、ヒラヒラと飛んでいく蝶の背中を、見失わないように追いかけるだけだった」

「それで、芋づる式に群れを見つけていったのね。……やっぱりあんた、発想が規格外だわ」

「でも、案内された場所には、本当にびっくりしたよね」


 サクラの言葉に、俺も苦笑を漏らさずにはいられなかった。


「まさか、あんな所に隠れているなんてな……」

「ねー! 普通、蝶っていったら、お花畑を飛んでるとか、木の枝に止まってるとか想像するじゃない? それが蓋を開けてみれば……」


 テレサが呆れたように両手を広げる。


「ああ。まさか、蝶のくせに『石の下』に潜ってたり、『木の洞の中』で擬態してたりするなんてな。そりゃあ、いくら空や茂みを探しても見つからないわけだ」


 黄金蝶が俺たちを案内した先。それは、大きな石の真下であったり、朽ち果てた倒木の空洞の中であったり、分厚い腐葉土の奥深くだったりした。


「蝶という先入観のせいで、空や木の上ばかり探していたからな。完全に運営の引いた罠にハマっていたわけだ。あれじゃあ、足元をひっくり返して探そうなんて奴、そうそういないだろう」

「道理で誰も見つけられないわけよね。あの手を使わなかったら、あたしたちも一生ジャングルを彷徨ってたかも……」


 見つけた群れを回収し、また次の一匹を洗脳して道案内をさせる。

 俺たちは、探知機(黄金蝶)を使って隠れ家をピンポイントで強襲する。

 ……という効率の極みのような狩りを、イベント後半のわずかな時間で実行した。

 その結果が、あの『42匹』という、常識外れのスコアに繋がったのだ。


「まあ、なんにせよ。結果として俺たちが一番多く集められた。それが全てだ」

「うん! トライ・ジョーカーの、完全勝利だね!」


 サクラが破顔し、テレサも満足げに胸を張る。

 祭りの余韻はまだ冷めやらないが、現実の時間は確実に進んでいる。張り詰めていた緊張感が解けたせいか、一気に睡魔が押し寄せてきた。


「さて、と……。イベントも無事に終わったことだし、今日はもうログアウトするか」

「そうね。さすがにクタクタよ。お肌のゴールデンタイムも過ぎちゃいそうだし」

「明日には、1位の報酬がインベントリに振り込まれてるはずだよ! すごく楽しみ!」


 次にログインした時、俺たちの手元にはイベント限定の『エクストラスキルスクロール』が届いているはずだ。どんな規格外のスキルが手に入るのか、考えただけでも胸が躍る。


「じゃあ、また明日な。二人とも、お疲れさん」

「お疲れー! ガイっち、サクラっち!」

「おやすみなさい、ガイ君、テレサちゃん!」


 互いに手を振り合い、俺はメニュー画面からログアウトの項目を選択した。

 光の粒子が視界を包み込んでいく。


 イベント開始前の不安や焦燥が嘘のように、今は心地よい達成感だけが残っていた。

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