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不人気と言われようともデバッファーを極める ~攻撃スキルが無くても戦えます~  作者: 功刀


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☆黄金蝶探し㉓

「チッ……オレがやるしかねぇか……」


 レンジは、周囲の仲間たちが完全にガイたちのペースに翻弄され、次々と倒されていく光景を見つめながら、素早く、そして極めて自己中心的な決断を下した。


 乱戦の喧騒に紛れ、誰にも気付かれないように姿勢を低くした。

 そして、懸命に戦う仲間たちを見捨てることに何の躊躇いも見せず、砂浜から続く暗い森の奥へと、一人静かに姿を眩ませたのである。


 森の影に潜み、レンジは息を殺しながら足元に広がる植物の葉をゆっくりと押し退けた。


「……フン、馬鹿どもが」


 レンジは最初から仲間を助けるつもりなど毛頭なかった。最初から、自分の獲物を狩ることしか考えていなかったのだ。


 目的はただ一つ。

 憎き「デバッファー」と、そのお飾りの仲間どもを、この手で直接血祭りにあげること。


(このまま正面から行ったって、またあいつのセコいスキルで邪魔されるだけだ。だが……死角からなら、どうだ?)


 レンジは、わざと砂浜の激戦地から離れ、森の中を大きく大回りして、彼らの背後へと回り込んでいた。

 足音を立てず、獲物を狙う蛇のように、じりじりと距離を詰める。


 木々の隙間から、背を向けて戦闘の指揮を執るガイの無防備な後ろ姿が、くっきりと確認できた。

 サクラは前線で剣を振るい、テレサは遊撃。マリアとアカネはガルフォードの壁の後ろだ。ガイの周囲には、今、誰もいない。


(もらったぜ)


 レンジの顔に、下品で残酷な笑みが広がる。

 彼は音もなく森の境界線から姿を現し、足音を砂に吸い込ませるようにして、ある一定の距離まで歩を進めた。

 腰の鞘から、音を立てずに剣を抜く。


(いくらデバフが凶悪でも、反応すらできない一撃なら関係ねぇ。一瞬で、首を刎ねてやる!)


 距離は十分に詰まった。

 レンジは、自身のステータスを一時的に限界まで引き上げるべく、スキルを発動した。


「――《瞬歩》!」


 それは、短距離の瞬間移動を可能とする移動系スキルだ。

 発動した刹那、レンジの姿はブレて消え、次の瞬間には、ガイの背後、剣の間合いへと完璧に転移していた。


(死ねや! カスがァッ!!)


 勝利を確信したレンジの歓喜の叫びと共に、その凶刃が、ガイの無防備な首筋目掛けて、凄まじい速度で振り下ろされた。


 だが、その必殺の一撃が到達する、まさにコンマ一秒前。


 ガイは一切の驚きを見せることなく――


 一瞬で背後を振り返った。


 その目は、レンジの卑劣な一撃を、冷たく、そして静かに見据えていた。


「なっ……!?」


 突然目が合い、レンジの思考が一瞬硬直する。


(どうして、後ろを見もしないで気づけた!?)


 しかし振り下ろされた剣の軌道はもう止められない。

 刃が、ガイの首に触れる。


 キィィィィィンッ……!!


 鈍い肉を断つ音の代わりに、砂浜に甲高い金属音が弾けた。

 レンジの剣は、ガイの肌に触れる数ミリ手前で、まるで目に見えない強固な壁に叩きつけられたかのように、強烈な反発力をもって弾き返されたのだ。


「ぐわっ……!?」


 腕が痺れるほどの衝撃に、レンジはよろめき、後ずさる。


(バリア? そんな馬鹿な。あいつはデバフ専門のはずだ!)


 体勢を崩したレンジに対し、ガイの氷のように冷たい声が降ってきた。


「残念だったな――《アースバインド》」

「クソッ……! 動けねぇ!」


 足首から太ももにかけて、蔦が容赦なく巻きつき、レンジは完全にその場に縫い止められてしまった。もがけばもがくほど、蔦はきつく締め付け、彼の自由を奪っていく。


「ど、どうして……。なんで俺が後ろにいるのが分かった……!?」


 レンジは、ギリギリと歯を食いしばり、恐怖と困惑を隠しきれない声で、目の前に立つガイを睨みつけた。


「簡単なことだ。お前みたいなセコい奴が、真正面からずっと戦い続けるわけがない。姿が見えなくなった時点で、裏に回るか、逃げ出すか。どっちにしろ、警戒するのは当然だろ」


 ガイのあまりにも理にかなった、そして冷酷なまでの分析。

 レンジは、自分が完全に掌の上で転がされていたという事実を突きつけられ、顔を赤黒く染めて激昂した。


「ふざけんな……! 舐めやがって! おい、お前ら! 今のうちにこいつをぶっ殺せ! 早くしろ!!」


 砂浜で戦っているはずの仲間たちに向かって、声を限りに絶叫した。

 拘束されていようと、仲間がこいつを取り囲めば、まだ勝機はある。数の暴力は、何よりも強力なはずなのだ。


 だが――


「……おい? 何やってんだ、早く来い! 俺の命令が聞こえねぇのか!!」


 いくら叫んでも、返事はなかった。

 武器のぶつかり合う音も、怒号も、悲鳴も、もう何一つ聞こえない。

 ただ、波の音と、静寂だけが、妙に耳についた。


「な、なんで……誰も来ねぇんだ……?」


 レンジは、動揺を隠しきれず、拘束されたまま無理やり首を巡らせ、砂浜の惨状を振り返った。


「誰も来ないわよ」


 レンジの頭上から、冷ややかな、見下すような声が降ってきた。

 振り仰ぐと、そこには、巨大なハンマーを肩に担ぎ、氷のような視線を向けるテレサの姿があった。

 そして、テレサの隣には剣を静かに構えたサクラ、双盾をドシリと砂に突き立てたガルフォード、杖を携えたマリア、そして震えながらも毅然と前を見据えるアカネ。


 いつの間にか、レンジは、ガイたち6人に、完全に包囲されていたのだ。


「あんたの自慢の仲間たちはね……。もう、みんなお星様(リスポーン)になっちゃったのよ」


 テレサが呆れたように、そして残酷な事実を宣告した。


「は……?」


 レンジの視線の先、さっきまで激戦が繰り広げられていたはずの砂浜には、もう誰もいなかった。

 倒れた仲間たちの残した、光の粒子だけが、虚しく空へと立ち昇っている。

 20人いた「皇帝」のハンターたちは、一人の例外もなく、すでにこの海岸から消し去られていた。


「あんたが……最後よ」


 テレサの決定的な一言が、レンジの鼓膜を容赦なく叩き据えた。

 ようやく、彼は理解した。

 圧倒的だったはずの自分たちが完全に、そして無慈悲に、たった6人の急造パーティに、完膚なきまでに叩き潰されたのだという、絶望的な現実を。

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