☆黄金蝶探し㉒
相手が徒党を組んでいた場合、最初に狙うのは誰からだろうか?
アタッカーか?
タンクか?
ヒーラーか?
大半の人はヒーラーと答えるだろう。
アタッカーやタンクのHPを削っても、すぐ回復させられるからだ。その分だけ時間がかかり長期戦になりやすい。
なのでヒーラーから狙うのは定石ともいえるだろう。
それはレンジも同じ考えだった。
(――違うッ!)
………………この時までは。
だからヒーラーから狙うように指示していたし、そういった指示が無くても仲間はヒーラーを狙っていただろう。
(最初に狙うべきは……ヒーラーじゃねぇ!!)
だがレンジは目の前の光景を目にしてから、そういった常識を捨てざるを得なかった。
(最初に潰さなけりゃならないのは…………デバッファーだ!!!)
砂浜での戦闘が開始されて数分後、その光景は、戦いというよりも一方的な蹂躙へと変わりつつあった。
だが、蹂躙されているのは、圧倒的な数で攻め入ったはずの「皇帝」のメンバーたちの方だったのだ。
「――っ、ふざけんな! あのデバフ野郎を止めろおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
レンジは血走った目で戦場を睨みつけていた。
21人対6人。数の利は絶対に自分たちにあるはずだ。そう信じて疑わなかった。しかし現実の戦況は、予想を残酷なまでに裏切っていたのだ。
「お、おい! 味方に何しやがる!」
「ち、違う! 俺の体が勝手に……!」
「うわあっ! こっち来るな!」
レンジの仲間たちの間から、悲鳴と怒号が入り混じった混乱の声が絶え間なく上がる。
彼らは、互いに武器を向け合っていた。ガイの《コンフューズ》によって混乱状態に陥った前衛が、味方のアタッカーに切りかかり、それに対処しようとした後衛が《外道の戦術》で操られた盾役に突き飛ばされる。
統率の取れた集団であるはずの彼らは、内側から見事に自壊していた。
さらに、ガイの《スロウ》を浴びて泥沼に足を取られたように動きが鈍くなった者たちには、容赦のない魔法の雨が降り注ぐ。
「甘いわよ! 《フレイムストーム》!」
マリアの放つ炎の竜巻が、身動きの取れない敵兵たちをまとめて焼き払い、次々と光の粒子へと変えていく。
その苛烈な魔法攻撃を掻い潜り、なんとか前線へと迫ろうとした敵も、今度はガイの《アースバインド》によって地面に縫い付けられる。
「今だわ、サクっち!」
「うんっ!」
移動を封じられた哀れな標的を、テレサがハンマーで叩き潰し、その死角からサクラが致命の一撃を突き立てる。
仮に、それらの死地を運良くすり抜けて後衛に迫る者がいたとしても――
「させぬ! 吾輩の盾を打ち砕いてからにしろ!」
鉄壁の重戦士、ガルフォードが双盾を構えて立ち塞がり、全ての攻撃を完璧にシャットアウトする。
そして、その強固な守りにわずかな傷が生じたとしても、
「ふ、吹き飛ばして! 《ウインドバースト》!」
「ぐあっ!」
「《ヒール》!」
アカネの素早い詠唱が、即座にそれを修復する。
アカネはヒーラーとしての役目を忠実に果たし、ガルフォードやサクラのHPを常に安全圏に保ちながら、近づく敵を風魔法で的確にノックバックさせていた。
デバフによる徹底的な戦場コントロール、圧倒的な火力、鉄壁の防御、そして迅速な回復。
それは、結成されたばかりとは到底思えない、完成されたパーティの動きだった。
「クソがぁっ! なんであんな少人数に手こずってんだ! お前ら何やってる!」
レンジは焦燥感に苛まれながら、必死に声を張り上げた。
だがその怒号も空しく、一人、また一人と、仲間たちは倒れていく。
数の有利など、ガイの指揮するパーティの前では、ただの手間のかかる的でしかなかったのだ。
「おい、そこ! 弓使い! あの後ろでチョロチョロしてるデバフ野郎を先に仕留めろ! あいつが元凶だ!」
「わ、わかった!」
レンジは焦りのあまり、比較的フリーになっていた弓持ちの男を指差して叫んだ。
男はハッとして頷き、ガイに狙いを定めて弦を引き絞る。
だがその目論見は、弓を引いた直後に、音もなく崩れ去った。
「――《ディスウェポン》」
ガイの冷徹な声が響いた瞬間、手から構えていたはずの長弓がフッと消失したのだ。
「え……?」
突然武器を失い、両手で空を引くような間抜けなポーズになった男は、完全にパニックになっていた。
「な、なんで弓が消えたんだ!? 武器が装備できない!? ど、どうなってんだ!?」
「チッ……! またあのセコいスキルかよ!」
レンジは、かつて自身も味わったことのある武器強制解除のデバフ《ディスウェポン》の存在を思い出し、ギリリと歯軋りをした。
レンジの中で、このまま戦い続ければ全滅するという確信が、不快な汗と共に急速に膨らんでいった。
「……くそがっ!」
レンジはデバッファーの危険性を身に染みて実感した。
だが真に脅威なのは、デバフではない。
そのことに気が付くのは、この場には誰も居なかった。




