黄金蝶探し㉑
「エンペラーNo.1……」
テレサがそのチーム名を口の中で転がし、忌々しそうに顔をしかめた。
「ねえ、あんた。そのふざけたチーム名のギルド……まさかとは思うけど」
「なんだ? お前、オレたちの名前にビビってんのか?」
「……質問に答えなさいよ。ギルド名は?」
レンジの挑発的な問い返しに、テレサは鋭い視線を突き刺す。
すると待ってましたとばかりに胸を反らし、大仰な身振りで宣言した。
「ハッ! 教えてやるよ。オレたちは、このゲームを統べる最強の集団……『皇帝』だ!」
「……やっぱり! だからこういうセコイ真似ができるのね! あーもう! これだから『皇帝』は嫌いなのよ!!」
テレサが、ハンマーの柄を軋ませるほど強く握りしめ、地面をドンッと叩きつけた。
「おい、テレサ。『皇帝』ってのは、有名なギルドなのか?」
「超が付くほどの有名よ! ただし、最悪の意味でね。数の暴力を背景に、狩場を独占したり、初心者から素材を安く買い叩いたり、挙句の果てにはシステムのスレスレを突いたマナー違反みたいなことばっかりやってる、大規模ギルドよ! このイベントで1位を独走してるのも、全部あいつらのメインパーティに成果を集約させてるからなんだわ!」
「なるほどな。どおりで、こんな大所帯でうろついてるわけだ」
個々のプレイヤースキルはおそらく大したことはないだろう。だが、20人という圧倒的な数と、それを統制する組織力。それは、このサバイバルイベントにおいて、最も凶悪な「兵器」となる。
「おいレンジ。そんなセコイ真似して恥ずかしくないのか! 正々堂々とイベントを楽しめないのかよ!」
だがレンジは鼻で笑うだけだった。
「正々堂々? 笑わせるな。お前、本当に甘ちゃんにも程があるぜ」
「なんだと?」
「いいか? もしオレたちのやり方が『問題』だっていうなら、運営がとっくに対策してるはずだろうが。だがしていない。それはなぜだ? これも想定内だからだよ!」
レンジは両手を広げ、さも自分が正しいと言わんばかりに力説した。
「システム上、複数パーティが偶然同じエリアにいて、偶然同じ敵を殴り、偶然黄金蝶を譲る。それを禁止するルールなんてどこにもない。運営は、オレたちのような頭のいいプレイヤーが、協力して上位を目指す作戦をあえて残してるんだよ。それに気づかず、対策もしない奴が馬鹿なのさ!」
「……!」
確かに、奴らの行為はモラルには反しているかもしれない。だが、システム上は「完全にグレー」であり、明確なルール違反ではない。
ルールが発表された時点で、こうした手段に出る大規模ギルドが現れることは、少し想像力を働かせれば予測できたことだ。
運営がそれを意図して放置しているのか、単に想定が甘かったのかは分からない。
だが現状、奴らの戦術が「最強」であることは、スコアが証明してしまっている。
「そこまでして、1位になりたいのかよ……」
「当然だろうが! 1位の報酬には、イベントでしか手に入らない超貴重なアイテムが用意されてるっていう噂なんだぜ!? そんなお宝、どんな手を使ってでも手に入れるに決まってるだろ!」
欲望を隠そうともしないその姿に、俺は反吐が出そうになった。
コイツは、ゲームを楽しむためではなく、他者を見下し、マウントを取るためのお飾りを求めているだけだ。
サクラを傷つけた時と同じ。自分の優位性を確認したいだけの、救いようのないクズだ。
「おい、レンジ」
その時、レンジの背後にいた大柄な戦士が、退屈そうに肩を回しながら前に出てきた。
「御託はいいから、さっさと終わらせようぜ。あいつら、オレたちに刃向かう気満々みたいだし。それに、時間は限られてんだ。こんな雑魚どもに構ってる暇はないだろ?」
「あ? まあ、それもそうだな。おいお前ら、こいつら全員やっつけろ。蝶を持っていようがいまいが関係ねぇ。目障りな奴は全員排除だ」
レンジが、ニヤリと笑って顎をしゃくった。
その合図と共に、背後の20人のギルドメンバーたちが、一斉に武器を構え、じりじりと距離を詰めてくる。
殺気と、数の暴力が、物理的な重圧となって俺たちにのしかかる。
「……やっぱりこうなるのかよ!」
相手は21人。
こちらは、合流したばかりのアカネを含めても、6人。
絶望的なまでの、圧倒的不利。
「マリア! アカネを頼む!」
「ええ、任せて! アカネちゃん、私の後ろから絶対に離れないで!」
「は、はいっ……!」
ガルフォードが両手の盾をガチン! と打ち鳴らし、前線に躍り出る。
「サクラ! いけるか?」
「う、うん! もう大丈夫!」
サクラが剣を引き抜き、テレサがハンマーを肩に担ぐ。
「やってやろうじゃないの! 皇帝だか何だか知らないけど、頼もしい仲間たちの力、思い知らせてやるわ!」
海岸に吹き荒れる潮風が、一気に熱を帯びた。




