黄金蝶探し⑫
岩扉を抜けた先は、洞窟という言葉から連想する圧迫感とは無縁の、広大なドーム状の空間だった。
空気が少しだけ乾いている。見上げると、遥か頭上の岩盤にぽっかりと小さな穴が開いており、そこから太陽の光が一筋、まるで舞台のスポットライトのように真っ直ぐ差し込んでいた。
「うわぁ……。下まで光が届いてる」
サクラが眩しそうに目を細めながら、差し込む光の帯を見上げる。
「随分と広いわね。これなら思いっきりハンマーを振り回せそう」
「油断するなよ、テレサ。こんな隔離された広い空間なんて、どう考えても――」
言いかけた、その時だった。
ズズズズズズッ……!!
地鳴りのような重低音が背後から響き、床が微かに揺れる。
振り返るよりも早く、ガァァンッ! という鼓膜を劈くような激しい衝撃音が洞窟内に木霊した。
「な、なに!?」
慌てて後ろを振り向くと、さっきまで通ってきたはずの入り口が、完全に巨大な岩壁で塞がれていた。隙間ひとつない。
「閉じ込められた……?」
「おいおい、冗談だろ」
分厚い岩壁をコンコンと杖で叩いてみるが、びくともしない。
入ってきた者を逃がさない、いわゆるボス部屋の強制隔離ギミックだ。
……嫌な予感しかしない。
わざわざ5人揃わないと開かない扉の先に、逃げ場のない闘技場を用意したってわけだ。
「おい、奥から何か来るぞ!」
ガルフォードが即座に両手の盾を構え、空間の奥の暗がりを睨みつけた。
ズン、ズン、と重い足音が響くたびに、地面の小石が跳ねる。
暗闇の奥から、ずるりずるりと這い出てきたのは――見上げるほど巨大な、爬虫類の化け物だった。
「うそでしょ……首が、5つもあるわよ……!」
太陽の光の真下まで進み出たその姿は、悪夢から抜け出してきたかのようだった。
太い丸太のような首が5本、一つの巨大な胴体から生え揃っている。青黒い鱗は硬質に光り、5つの鎌首がそれぞれ独立してシューシューと威嚇の音を立てている。
【ベノム・ヒュドラ】Lv.45
システムが表示したその名前に、唾を呑み込む。
多頭蛇の魔物、ヒュドラ。神話に登場するような大物が、まさかこの無人島に巣食っていたとは。
「どうやら、あのトカゲのお化けを倒さないと、この部屋からは出られないみたいね」
マリアが冷静な声で杖を構え、火球の魔法を準備し始める。
「5人用の扉に、5つ首のヒュドラか。随分と分かりやすいお膳立てじゃないか」
「1人に首1つ、ってこと!? 冗談キツいわよ!」
「ハッハッハ! 望むところだ! 吾輩の双盾で、あの首をまとめてへし折ってくれようぞ!」
「無理は禁物よ。首が5つもあるってことは、5方向から同時に攻撃が来るってことなんだから」
豪快に笑う重戦士を、マリアが的確に窘める。
「いいか、みんな。相手は図体もデカいし数も多い。だが、いくら首が5つあろうと、根っこは一つだ」
一歩前に出て、ヒュドラの動きを観察しながら指示を出す。
「ガルフォードさんがヘイトを集めて正面で耐える。その間にサクラとテレサは側面に回り込んで、首の根元や胴体を削れ。マリアさんは後方から範囲魔法で牽制だ」
「で、ガイっちは?」
「俺はあいつの『目』と『動き』を全て潰す。どんなに首が多くたって、動けなければただの的だ」
俺の言葉に、全員が力強く頷く。
「了解よ! サクラっち、行くわよ!」
「うん! 遅れないでね、テレサちゃん!」
「任せておけ! このガルフォード、一歩たりとも退かぬ覚悟だ!」
「私も、全力でサポートするわ」
5つの首が、獲物を見つけた喜びに打ち震えるように、一斉に天を仰いで咆哮を上げた。
ビリビリと空気が震え、強烈な毒の臭いが風に乗って漂ってくる。
「さあ、おっぱじめるぞ!」
ヒュドラの巨大な影が、太陽の光を遮って迫り来る。
退路を断たれた密室でのボス戦が始まった。




