黄金蝶探し⑨
俺たち5人のパーティは森の中を進んでいた。
先頭はガルフォード。その巨大な盾で茂みをかき分け、道なき道を作っていく。
その後ろにサクラとテレサが続き、最後尾には俺とマリアが警戒を怠らずに歩いていた。
「しかし、驚いたよ」
歩きながら、俺はふと疑問に思っていたことを隣のマリアに投げかけた。
「二人だけでこのイベントに参加してたのか? さっきの巨大蜘蛛といい、この島のモンスターは結構手強い。普通なら5人……最低でも4人は揃えて来るものだろ?」
いくらガルフォードが硬くマリアが優秀でも、二人だけでは限界がある。回復も攻撃も手が足りず、いずれジリ貧になるのは目に見えている。
俺の問いかけに、マリアは少し困ったように苦笑した。
「ええ、その通りよ。私たちだって、最初から二人で挑むつもりだったわけじゃないの」
「そうなのか?」
「本来なら、もう一人……私たちのパーティにはあと一人のメンバーがいるはずだったのよ」
マリアの話によると、彼らは3人の固定パーティでこのイベントに参加登録をしていたらしい。
「ところがね、そのもう一人が、急なリアルの用事で遅れることになっちゃって」
「ああ、なるほど。そういうことか」
ネトゲあるあるだ。リアル優先は鉄則だが、イベント当日に重なると痛い。
「でも、イベントには遅れて参加することも可能なのか?」
「ええ。事前にパーティ登録さえ済ませていれば、途中からログインしても、自動的にこのイベント会場に転送される仕様になっているみたい。だから、その子が来るまでは二人で何とかしのごうって話してたんだけど……」
マリアはため息をつき、前方で大声を出して薮を払っている相方を眺めた。
「開始早々、あんなボス級モンスターに遭遇しちゃうんだもの。ツイてないわよね」
「いや、あそこで粘ったからこそ、俺たちと合流できた。結果オーライじゃないか」
「ふふ、そうね。あなたたちに助けられたのは、本当に幸運だったわ」
マリアは柔らかく微笑む。
なるほど。2人とっても俺たちとの合流は、単なる贖罪以上のメリットがあったわけだ。お互いに欠けていたピースが埋まったようなものだ。
「遅れてくるそのメンバーも、合流したら一緒に戦ってくれるのか?」
「もちろんよ。あの子は……そうね、ちょっと個性的だけど、腕は確かだから。合流できればさらに戦力アップよ」
個性的、という言葉に一抹の不安を覚えなくもないが、まあガルフォード以上の変わり者はそうそういないだろう。
「楽しみにしてるよ。戦力は多ければ多いほどいい」
俺たちは雑談を交わしながら、さらに奥地へと進んでいった。
「さて、と……」
俺は歩きながら、現状を整理する。
イベント開始から既に2時間近くが経過しようとしている。
だが、俺たちの手元にある黄金蝶はゼロ。
先ほど見つけた二匹も、ガルフォードの暴投によって塵と消えた。
「そろそろ成果を出さないとマズいな」
「そうね……。いくら人数不足ボーナスがあるって言っても、現物がゼロじゃ話にならないわ」
テレサも焦りの色を見せている。
広大な島を闇雲に歩き回るだけでは、これ以上見つかるとは思えない。
俺は、先ほどのタランチュラ戦で得た教訓を思い出し、ある一つの仮説を立てた。
「なあ、みんな。少し考え方を変えてみよう」
「考え方?」
サクラがこちらを見る。
「ああ。さっきのタランチュラ戦を思い出してくれ。黄金蝶はどこにいた?」
「えっと……蜘蛛の巣の高いところに引っかかってたね」
「そうだ。つまり、黄金蝶は『そこら辺を飛んでいる』わけじゃなかった」
俺は言葉を続ける。
「この島には他にもプレイヤーがいる。もし黄金蝶がフィールドを飛んでいるだけなら、今頃誰かが見つけて大騒ぎになっているはずだ。でも、そんな気配はない」
「確かに……。静かすぎるわね」
マリアが同意する。
「つまり、黄金蝶は『隠されている』か、あるいは『捕らえられている』可能性が高い。さっきのタランチュラのように、強力なボスモンスターの巣やテリトリーの中に」
俺の仮説に、全員がハッとした顔をする。
「なるほど! つまり、あたしたちが探すべきなのは、蝶そのものじゃなくて……」
「そう。『黄金蝶を捕まえていそうなボスモンスター』だ」
普通の昆虫採集イベントだと思っていたが、これは実質的な「ボス討伐マラソン」なのかもしれない。
ボスの巣や住処を見つけ出し、主を倒して、その戦利品として黄金蝶を手に入れる。それが、このイベントの正攻法なのだろう。
「だったら話は早いよ! 怪しそうな場所や、強そうなモンスターの気配を探せばいいんだね!」
サクラが目を輝かせる。
目標が明確になれば、やるべきこともはっきりする。
「よし。じゃあ手分けして……いや、戦力を分散させるのは危険だ。5人で固まって、怪しい場所を片っ端から潰していくぞ」
「了解よ! ボス狩りなら、あたしたちの得意分野だわ!」
方針は決まった。
「あっちの方角から、なんだか嫌な気配がするわ」
マリアが森の深部、さらに木々が密集している方向を指差した。
勘というやつだろうか。
「よし、行ってみよう。何かいるかもしれない」
俺たちは隊列を組み直し、マリアの指差した方向へと進路を取った。




