黄金蝶探し⑦
「さて、と……」
俺たちは蜘蛛の巣の下までやってきた。
見上げると、黄金蝶は木々の間に張られた巣のかなり高い位置に絡め取られている。ジャンプしても到底届きそうにない高さだ。
「これ、どうやって取るの? 木を登る?」
「いや、揺らしたら落ちてきそうだけど、あの粘着力じゃ無理ね」
テレサとサクラがああでもないこうでもないと相談していると、不意にガルフォードが一歩前に出た。
「ふむ。届かぬのなら、届くものを送ればよいではないか」
「えっ? おっさん、何かいい案でもあんの?」
テレサが聞き返すと、ガルフォードはニヤリと不敵に笑い、右手に持っていたカイトシールドを構え直した。
「任せておけ! 吾輩の秘技で、あの忌々しい糸を断ち切ってくれよう!」
その構えを見て、俺とテレサは首をかしげたが、隣にいたマリアの顔色が一瞬で変わった。
「ちょ、ちょっと! まさかアレをやるつもり!? やめなさい!」
マリアが慌てて止めようと手を伸ばす。
だが、その制止は一足遅かった。
「必殺! 飛んでけ! 《シールドブーメラン》!!」
ガルフォードの腕が唸りを上げて振り抜かれる。
手から放たれたカイトシールドは、高速回転しながら空を裂き、一直線に黄金蝶へと向かっていった。
「あ」
俺の口から、間抜けな声が漏れた。
シールドの軌道は完璧だった。完璧すぎて、蜘蛛の糸を狙うどころか、その中心にいる黄金蝶に吸い込まれるように飛んでいったのだ。
ガシュッ!!
鈍く、そして残酷な音が響いた。
高速回転する盾の縁が、黄金蝶二匹を直撃する。
そして次の瞬間。
パァァァンッ……!
まるで紙風船が弾けるように、二匹の黄金蝶は空中で粉々に砕け散り、キラキラとした金色の粉となって宙に霧散してしまった。
「…………」
場に、完全なる静寂が訪れた。
舞い散る金粉だけが、太陽の光を受けて残酷なまでに美しく輝いている。
投げられた盾はブーメランのように弧を描き、何事もなかったかのようにガルフォードの手元に戻ってきた。
「……む? 何か手応えがおかしかったような……」
ガルフォードが不思議そうに呟く。
そして、ようやく空中の金粉に気づき、次に俺たちの凍りついた表情を見て、事態を把握したようだ。
「あっ」
「はぁぁぁぁぁぁ…………」
マリアが深い、とてつもなく深いため息をつき、頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「だから言ったのよ……。あなたの大雑把なスキルで、あんな繊細なものを狙うなんて……」
「い、いや! 吾輩は糸だけを綺麗に切断して、蝶をひらりと落とすイメージだったのだ! 決して、決して蝶ごと粉砕するつもりでは……!!」
ガルフォードの顔から血の気が引いていく。
そして、彼はバッと俺たちに向き直り、その巨体を大地に投げ出した。
ドォォォォンッ!!
「申し訳なぁぁぁぁぁぁぁいッッ!!」
地面が揺れるほどの、渾身の土下座(ジャンピング土下座)だった。
額を地面に擦り付け、震える声で謝罪を続ける。
「き、貴重な黄金蝶を……! 貴殿らの取り分までも……! わ、吾輩としたことが、なんという失態を……ッ!」
その必死すぎる姿に、俺たちは怒る気力さえ失せてしまった。
「あー……うん。まあ、ドンマイ……?」
テレサが引きつった笑いを浮かべる。
サクラも困ったように眉を下げている。
せっかくの報酬がゼロになってしまったのは痛いが、悪気がなかったのは明白だ。それに、この人の良さそうな騎士をこれ以上責めるのも気が引ける。
「頭を上げてくれ、ガルフォードさん。済んだことは仕方ない」
俺はため息混じりに声をかけた。
「それに、今回の件で一つ分かったことがある」
「な、なにかね?」
「黄金蝶は……『武器による攻撃で破壊可能』ってことだ。もし今後、手の届かない場所にある蝶を見つけても、うかつに遠距離攻撃で落とそうとしてはダメだということだ」
高い授業料だったが、まあ無駄ではなかったと思おう。
「ううむ……面目ない……」
ガルフォードはしょんぼりと肩を落としながら立ち上がった。
先ほどまでの勇姿はどこへやら、今はただの失敗した大型犬のように見える。
「まあ、気を取り直して次行きましょう、次! まだ時間はたっぷりあるし!」
テレサがパンと手を叩いて空気を変える。
そう、まだイベントは始まったばかりだ。こんなところで立ち止まってはいられない。
「そうだな。これも経験だ」




