麗しの悪役令嬢は目の保養?
ちょっと更新遅れました!
「ここなら誰もこないでしょ」
エルザが学園に入って一週間が経過した。相変わらずヒロインとヒーローに振り回される日々を送っている。二人はお昼のランチではエルザの両隣を死守、魔法の実技ではエルザとのペアの取り合いを魔法で競い合っていた。エルザはというと競い合う二人から離れて、ちゃっかり別の人とペアを組んでたりする。
兎に角、二人はエルザから離れない。ゲームの主役とも言えるヒロインとメインヒーローが揃いも揃って平民モブを追いかけ回す姿はかなりシュールだ。
外野はエルザを助けようとはせずに、二人の応援を始める始末で、他の一部は熱烈な妬みと嫉妬の視線を送ってくる。
(新手のいじめだよ!こんなの!)
毎日繰り返される胃が痛くなるような二人の行動にエルザが逃げるようになったのは二日前のことだ。
エルザが隠れている場所は、前世で乙女ゲームをプレイしたことがある人なら誰も知っている学園の裏庭。普段は人通りがない裏庭の真ん中には小さな噴水があり、噴水の周りは咲き誇る薔薇に埋め尽くされている。
赤青黄色、色とりどりの薔薇に囲まれるベンチにエルザは座った。
長いお昼休みの時間は裏庭に入り、休憩をとるのがエルザの日課になった。ここならば、問題の二人や煩わしい外野にお腹を痛め付けられることなくゆっくりとお昼のランチを食べられる。本当なら学食を食べるのが基本だが、エルザは太陽の女子寮専属の料理人に特別にお昼のお弁当を作ってもらい裏庭で食べていた。
薔薇を観賞しながら優雅なランチタイム。それだけで庶民上がりのエルザは幸せな気分を味わえる。うきうきしながらエルザはお弁当を開けた。中に入っていたのは、エルザと専属料理人が試行錯誤の末に作り出した、たこさんウィンナーや卵焼き、ミートボールなどの庶民的な具材が入っていた。ちゃんとおにぎりもついている。なんて素晴らしい弁当だ。前世で一番好きだった、たこさんウィンナーを迷わず選び口に入れようとしたエルザに声がかかった。
「お隣、いいかしら?」
「え?」
突然かかった声にエルザはたこさんウィンナーをポロリと落とした。
(あぁ!愛しのたこさんウィンナーが!)
いきなり声をかけられたせいで、落としてしまったウィンナーを絶望した顔でエルザは見る。エルザが落としたウィンナーを見た、声の持ち主は驚いたような声を上げた。
「え、たこさんウィンナー、」
「ん?」
「あ、しまった」
「は、ハルヴェーナ様?」
(なんでこんなところに悪役令嬢が?!と言うか、今たこさんウィンナーって)
ウィンナーを落とす元凶となった人物が言った言葉と姿に驚いたエルザは口をあんぐりと開けたまま硬直した。口元を押さてエルザの隣に座っているのはゲームの悪役令嬢、ハルヴェーナだった。
攻略対象者であるカミラの義妹で、サーブル公爵家の一人娘。顔立ちは少々きつめだが、女性なら誰もが憧れるダイナマイトボディを持っている。どうやったらそんな風に育つのか、エルザは思わず自分の胸と見比べた。断じてエルザの胸が小さいわけではない、相手が大きすぎるだけだ。
本作のゲームならばヒロインであるミーネスをいじめ、虐げた結果どのルートでもバットエンドを迎え殺されるか、国外追放されるかの二択だった。だが、今のところそんな様子は見られない。むしろ、エルザに同情的だ。前に追いかけ回されていたエルザを取り巻きの令嬢の後ろに匿い、追っ払ってくれたこともある。悪役令嬢は普通にいい人だった。
美しい悪役令嬢ハルヴェーナはさきほどからジーっと、エルザの弁当を凝視している。明らかに様子のおかしいハルヴェーナを不審に思ったエルザは試しにかまをかけてみた。
「あの、前世って信じますか?」
「え?」
「例えば乙女ゲームとか、その悪役令嬢とか」
「・・・・エルザさん、あなた」
やはりダメだったか。 驚いた顔をするハルヴェーナにエルザはやらかしたかと内心焦っていた。エルザと同じ転生者じゃないならこの話はやめた方が身のため。
「知らないならいいで」
「同じ転生者なの!?」
「・・・へ?」
「こんなの奇跡だわ!」
かまをかけたつもりが大物を引いてしまったようだ。
前世の記憶をもっていたのはエルザだけではなく、悪役令嬢も同じだったらしい。感極まるハルヴェーナはエルザに抱きついてきた。そして、立派すぎるあれにぐいぐい顔を押し付けられ結果、エルザは窒息しそうになっていた。
「ハル、ヴェー、ナ様、しぬっ」
「え?」
「これ、は、凶器っ」
「あら!ごめんなさいね!」
苦しむ声に慌ててハルヴェーナはエルザから離れた。てへっと笑うハルヴェーナの立派な胸で危なくエルザは窒息死するところだった。まったく笑えない。
「エルザさんが同じ転生者とかビックリで!思わず」
「死ぬところでした、ホントに」
「ごめんなさい!嬉しすぎて」
「いいですよ、もう」
「だって続編のヒロインが相手だもの、興奮するのは当たり前よね」
「は?続編の、ヒロイン?」
顔を赤く染め両手で頬を押さえるハルヴェーナにエルザは耳を疑った。今、続編のヒロインとかなんとか言ってたような気がした。エルザの顔は一瞬、真顔になる。
(気のせいかな、)
聞き間違いだと信じてエルザはハルヴェーナに詰め寄った。
「今、なんて?」
「え?貴方が続編のヒロインって」
「・・・・ひ、ヒロイン!?」
「もしかして知らなかったの?」
「だって続編プレイする前に死んじゃったから!」
「それは、酷いわね」
「・・・・神様、」
(私は平民モブじゃなかったのか!ヒロインでした、とかふざけんな!)
エルザはガクッと地面に膝をついて項垂れた。衝撃的すぎて顔が死んでいるエルザにハルヴェーナは元気だせと言わんばかりに、一枚の写真を見せてきた。ニッコリ笑うハルヴェーナに疑わしげの目を向けたエルザは差し出されたそれを見た途端、叫んだ。
「なに、ってえぇ!?そ、それは!」
見せてきた写真は、エルザの推しブルーデェラ・バイオレンの風呂上がりの写真だった。とんでもないお宝を差し出してきたハルヴェーナにエルザは目を見張り、悶絶している。
「お、お宝ぁぁぁー!!くれるの?!くれるよね!?」
「いいわよ、エルザさんの推しなんでしょ?この若作りのくそじじい」
「ん、くそ、じじい?」
「私の伯父なのよ、この人は」
「な、うらやましい!!」
「そっちこそ羨ましいわよ、ナデルがお兄さんなんて」
「え、あの鬼畜魔王がなんだって?」
「鬼畜魔王?」
片方はハルヴェーナの伯父ブルーデェラ推しで、もう片方はエルザの義兄ナデル推し。お互いの推しを身内にもつことに気付いた二人は真顔で見つめ合った。
「ハルヴェーナ、趣味悪いよ」
「エルザ、趣味悪すぎだわ」
「ブルーデェラ先生のかっこよさが、わからないの?!」
「わからないわ、あんなのはただの年齢詐欺してるおじさんじゃない」
「そこがいいのよ!イケオジ最高でしょ!」
「優男が好きなのよ私、ナデル様みたいな」
「いやいや、あれはただの鬼畜、ただの魔王だから!」
「そんな筈ないわ!」
(あんな鬼畜魔王が好きなんて、信じられないわ)
大声で叫び合う二人は荒く息をついた。誰だって隣の芝生は青く見える。
自分のものより、他人のもののほうがよく見えるのだ。
「仲良くしましょう、ハルヴェーナ!」
「そうね!エルザ!」
「ってことでそのお宝下さい」
「・・・いいけど」
「私からも、はい」
「きゃぁ!これはナデル様の」
握手をかわすエルザとハルヴェーナは満面の笑みだ。そんな二人の手にはナデルとブルーデェラの秘蔵写真が握られていた。
この世界には写真という魔法がある。前世とは少し違い、魔法で人や物を記憶し、紙に移すのだ。
交換した写真を見てにやにやしている二人だが、やっていることは軽く犯罪である。お互いバレたらただでは済まないだろう。
(・・・写真を取るときは本人の許可を取った方がいいけどね、バレたらナデルお兄様に殺されるかも)




