新入生の試験会場でエルザはやらかした!
「大量に胃薬を持っていくなんて体調が悪いの?心配だわエルザ」
「そうだな、どうしたんだ?」
「もしもの保険です!いつでもお腹を壊せるように」
「なるほど」
「なに納得してるんですか貴方は。困ったことがあればいつでも連絡してちょうだいね!」
学園に入学を明日に控えた夜の食事の時にエルザはレイズとマリアーネに心配されていた。公爵家に帰ってこれるのは夏と冬の長期帰省だけらしいので、なくならないようにと胃薬を大量に荷物の中に詰め込んだだけだったのに、その荷物を見たダルテが笑いながら両親にその事を話したせいで心配をかけてしまったらしい。この公爵家でエルザを本当の子供のように育ててくれた二人に余計な心配事を引き起こしたくはなかったエルザは次兄を恨んだ。
余計なことしかしない上に脳が筋肉でできた次兄にエルザは頭を抱えている。
次兄ダルテは脳が筋肉でできているといっても過言ではない程の剣術バカだった。
元々ナデルから剣術を習っていたエルザだったが、ナデルより剣術が秀でてるダルテから教わったほうがいいということでダルテから習うことになった。が、剣術の天才と呼ばれているダルテが剣術を教える天才とは限らなかった。教わろうしたエルザに「見て習え!」と笑う。具体的な事を教えてくれないし、やればできるとしか言わないダルテにエルザは確信した。この人は脳筋だと。
エルザから脳筋確定されたダルテは学年がひとつ上なため先に学園に行っている。
正直なことを言えばダルテには学園ではあまり関わってきて欲しくない。中身がいくら残念でも外見がいいダルテは学園を歩くたびに女が近寄ってくるらしいのだ。いくら妹でも睨まれることは間違いないだろう。
イケメンの兄を持つ妹はこんなに苦労するのが当たり前なのか。 なんせ一番上の兄は鬼畜な魔王で次兄は脳筋バカ、まともは一人もいない。
エルザの周りには難癖のある美形しか側にこないため胃薬といつの間にかお友達になっていた。
「まぁ、なんとか頑張ってみます!」
「無理は禁物だからね」
「それでこそ俺の娘だ!」
安心させるように胸に手をあてながらエルザは意気込みをレイズとマリアーネに伝えると、ホッとした様子で二人は微笑んだ。
安心したように微笑んでいる義理の両親を見てエルザはやっと胸を撫で下ろした。
エルザが学園に入学する当日、ハイルド公爵家の前には沢山の人々が集まっていた。エルザが乗る馬車の両端には仲良くなった公爵家の領民たちや胃薬でお馴染みの商人、馬車の一番近くには公爵家の当主とその妻が立っている。馬車の窓からひょっこり顔を出したエルザは見送りに来てくれた人々に笑って手を振り、元気よく言った。
「それじゃあ、いってきます!」
「気を付けてね、エルザ」
「何かあったらすぐ連絡しろよ」
「はい!お父さん、お母さん」
エルザが言うと共に馬車はゆっくり走り出した。この一年で立派な公爵令嬢になりお父さんと言ってくれたエルザを見送っていたレイズは少し泣きそうになっていたが、マリアーネに叱咤され涙を必死にひっこめて笑顔で見送ってくれた。その姿を見てエルザは思わず笑ってしまう。
「いってらっしゃい~!」
「エルザ様頑張ってください~!」
「いい男つれてくるんだよー!」
(おい、いい男ってなんだ!)
最後のはよくわからなかったが、公爵家の領民と商人たちは笑顔でエルザに手を振っている。それに対して見えなくなるまでエルザも大人から子供までいる沢山の領民と両親に手を振り続けた。
馬車に揺られながら6時間経過した。現在、エルザのお尻は長旅により痺れを起こし悲鳴をあげていた。本当なら浮遊魔法でひとっとびしたいところだがそれは叶わない願いである。
「あと少しですわ」
「本当?お尻が限界だからなー」
「お嬢様、語尾を直してください」
「・・・お尻が限界を訴えていますわ」
「そうです」
「ボロを出さないように頑張りましょう!」
(め、めんどくさいよー!!)
言葉一つ一つ注意され続けているエルザは心の中で悲鳴を上げていた。そんなことおかまいなしのヨーコはびしばし言葉をいい放つ。しょんぼりしたエルザを唯一応援してくれるのはリディだけだ。
怒られながらぼんやり窓から外を眺めていたエルザは王都の入り口である橋を見つけた。その橋から王都に入ってしまえば学園はすぐである。痺れていたお尻が解放される喜びに思わず叫んだ。
「よっしゃぁ!」
「エ、ル、ザ、お嬢様?」
「いえ、なんでもございません」
ヨーコに凄まれたエルザは真顔で首を振った。頬に冷や汗を垂らしながら。
リリィデェア学園は国が誇る由緒正しき高等学園だ。貴族の子息令嬢が16になると学園に入学し、高位な魔法学や剣術を学ぶ。学園の新入生が最初に受けるのは実技試験と筆記試験の二つで、それによりクラスがSからEに分けられる。要は実力主義と言うことだ。
試験を受ける順番は王位を持つ王族から公爵家、ミーネスが含まれる侯爵や伯爵の中級貴族、下級貴族、そして入学を特別に許された平民だ。今回、王族はアジェット王子しかいないため次に身分の高いエルザは最初から二番目に受けることになっていた。学園の前で待つ馬車の中で王族の血を運悪く引いてしまったエルザは項垂れている。
「エルザお嬢様、間違ってもやらかさないで下さいね」
「頑張ってください!」
「リディはいいとして、ヨーコは私をなんだと思っているのかしら?」
一人だけ心配するところがおかしいと思うのだが気のせいだろうか。ともかく順番が来てしまったから行くしかない。覚悟を決めて馬車から降り、無事に迷うことなく学園の中にある試験会場についたエルザは試験会場にいる人々から一斉に振り向かれた。目を見開いて、口々に話し合う学園の教員にエルザは首を傾げる。学園の制服はばっちり着ている、入ってくる時の礼儀作法は失敗していないと思うが何故だろうか。
「ハイルド公爵家長女、エルザ・ナーデ・ハイルドでございます。よろしくお願いします」
「では、これを解きなさい」
「はい」
試験会場のはしにある席に座らされたエルザは筆記用紙を見て、驚愕した。リミラから習ったことよりも書いてあることが簡単すぎたからだ。
(楽勝だなー!)
ペンを持ちすらすら問題を解いていくエルザに筆記試験を担当するメガネの女教師はぎょっとした。普通なら十分はかかる問題をものの数分で終えたエルザに女教師はメガネをずり落としそうになっていたのだが、肝心のエルザは見ていなかった。
最後の実技試験は試験会場の真ん中で行う。この会場には宮廷魔法士による高度な防御魔法が展開されているので大きな魔法を起こしても問題はない。
筆記試験を終えたエルザは最後の実技試験を行うために会場の真ん中に立ち、実技試験を担当する教師に顔を向けた。
(お、オッサンだ、いかつい)
目の前にいる教師は先程のメガネをかけた優しそうな女教師とは違い、いかついオッサンだった。エルザの愛するイケオジではなくただのオッサンの登場にエルザのテンションが一気に急降下した。
「あとは実技試験です。好きな魔法、得意な魔法を放ちなさい」
「好きな魔法ですか」
「はい」
(じゃ、あれ試してみたいなー)
いかついオッサン教師に好きな魔法でも良いと言われたエルザはあることを脳裏に思い浮かべた。
それは前世で毎年見ていた、夏祭りのメインイベント、花火のシーンだ。科学で花火が起こせるなら魔法でもいけるのではないか、エルザはそう考えた。花火とは火薬と金属の粉末を混ぜて包んだものに火を付けて燃焼・破裂時の音や火花の色、形状などを演出したものだ。それを魔法に置き換え、花火を起こしてみることにエルザは決めた。ここにはない金属は膨大な魔力でカバーをする。
一度このような大きい場所で試してみたかった花火に胸を踊らせるエルザは当初の目的である実技試験のことをすっかり忘れて集中し始めた。火薬を思い浮かべながら両手に炎を作り上げ、赤や青、緑へと太陽の光を利用し加減しながら様々な色に染めていく。そして両手に限界まで溜めた炎の魔力を思い切り空へと押し上げた。さらに風の魔力で後押しを行い、防御魔法に当たらない所で炎の魔力の塊を寸止めする。
「いい感じだ!いける、これはいけるぞ!」
成功すると感じて叫んだエルザは限界まで溜めた魔力を上空で解き放った。
ーーーードンッッ!!
解き放った魔力は大きな音を上げて思い描いていた通りの鮮やかな花を咲かせた。だが、エルザが上げた花火はそれだけでは終わらなかった。魔力の塊にこっそり混ぜておいた薔薇の種を燃やすことなくコントロールし花火と共に劇的に開花させ、本物の花びらを演出されたのだ。魔法だからできた芸当である。
七色に輝きながら幻想的に咲く光の花と落ちてくる薔薇の花びらを見たエルザは頬を緩めて思い出に浸っていた。前世で思い出にある花火を科学ではなく魔法で起こせたことにエルザは感動していた。
「科学より魔法だな!これでよし!」
「・・・・・素晴らしいっっ!!!」
「新たな稀代の魔法使いの誕生だー!!」
「これは歴史に残りますわ!!」
「誰か学園長に知らせろ!!」
「・・・・へ?なに?」
気がつくとエルザが起こした花火に試験会場は歓声に包まれていた。エルザが起こした打ち上げ花火はかなり高い所で放ったため学園だけではなく王都全域、周囲の領地に見事に公開されていたのだ。明らかに学園だけではない場所からも聞こえる異常な歓声にエルザは今さらハッとした。
「もしかして・・・やらかした!?」




