学園に行きましょう。胃薬は忘れません!
エルザの右ストレートをもろに食らったナデルは座席に頭を思い切りぶつけた。身の危険を感じて咄嗟に起き上がろうとしたが、目の前にいるエルザによってそれは叶わない。
「お兄様、私こう見えて治癒魔法得意ですわ。だから安心して殺られて下さい!」
「どのへん安心できるのエルザ!?」
真冬の極寒ブリザードが吹き荒れる馬車の中でナデルは叫んだ。エルザは光属性は持っていないものの水属性でカバーしオリジナルの治癒魔法を完成させていた。ミーネスにもひけをとらない仕上がりである。
親指を立てて満面の笑みを浮かべるエルザにナデルは戦慄した。今気が付いたがエルザはナデルの魔力量を軽々しく越えていた。当の本人は気づいていないようだが。
「早まるな!お兄ちゃん死んじゃうから、てか死にたくないから!」
「大丈夫よお兄様。半殺しにするだけだから!」
「いやいやおかしいだろ!」
「今までのお返しよ!。ひっさーつ、○イッシクル○ォォールゥゥ!」
「エルザァァ!!」
怒れるエルザに言葉は通じなかった。馬車の中でエルザが放った氷の刃が吹き荒れ、その刃はナデルの顔のすれすれの所で座席に突き刺さった。
もし顔に刺さったらたたでは済まない氷の刃にぶるりとナデルは震える。
ブリザードが吹き荒れる中、エルザは思い出したと言わんばかりにナデルの顔をみた。その顔に浮かぶのは満面の笑みである。
「ついでにあれも潰しとく?最近、女遊び激しいんでしょ?」
「ナニを潰す気だ?!ナニを!?」
さりげなく片足を上げ不敵に笑うエルザにナデルは思わず股間を両手で隠した。
狭い馬車の中で繰り広げられる死闘に御者はなにも気付かなかった。時々大きく揺れる馬車を見てただこう思うだけだ。
「仲の良い兄妹だなー、いいことだ」
こうして呑気に御者は馬車を走らせていった。馬車の中がとんでもないことになっていることにも気づかずに。
馬車が公爵家につく頃にはエルザの
ストレスはある程度、解消されていた。スッキリつやつやのエルザとは異なり、ナデルはげっそりした顔で疲労していた。
「生きた心地がしなかった」
「ちゃんと治癒したから大丈夫よ!」
「あぁ、そうだな。死にかけたが」
大事な急所をどうにか守りきったナデルは心に決めた。二度とエルザを怒らせてはならないと。
それから数ヶ月が過ぎエルザは16の誕生日を迎え、学園の入学を間近に控えていた。もうすぐ問題の学園に入らなければならなくなったエルザは身支度を整えていた。待女であるヨーコと新しくエルザ付きになったマヤと共に荷物を大きいバックに詰めていく。新しく入ったマヤは小動物に似ている可愛らしい茶色の髪と目をした少女だ。ヨーコとは気が合うらしい。
公爵家に入ってからやたらと増えたシルク生地の服、平民の時には身に付けれなかった高級ランジェリー、宝石のついた髪留めや学園の制服を綺麗に待女たちが詰めていた。こんな光景を見ることになるなんてエルザはいまだに信じられない。
「もうこんな時期になったのね」
「私たちも一緒に寮に行きますからご安心を」
「そうです!全力でお守りしますから!」
「頼もしいわね」
学園に入るにあたって学生たちは寮に入ることが義務付けられている。平民と下級貴族は花の寮、伯爵家から侯爵家は月の寮、そしてエルザが入ることになる公爵家や王族が暮らす太陽の寮。そこからさらに男子寮、女子寮にわかれる。太陽の女子寮に入るエルザは二人の待女がつくことが許されていて、マヤとヨーコが寮についてきてくれるのだ。学院にはこれないが。
「あ、胃薬もいりますか?」
「もちろん!大量によろしくね!」
「これですね!」
エルザが学園に入る際にドジっ子ヒロイン、ゲームの攻略者多数も同時期に入ってくる。平民から成り上がったエルザとミーネスは新手のいじめに合うこと間違いなし。極めつけは王子に付きまとわれてさらに悪化。
絶対に胃薬なしでは生きていけないだろう。マヤが両手一杯に抱き抱えた大量の胃薬はエルザが自分用に製作したものである。自家栽培した薬草を混ぜ合わせ、それに治癒魔法をプラスして完成させたものだ。
なんということでしょう。腹の痛みや胃もたれもすっきり爽快、完全治癒されました。エルザ特製胃薬は公爵家の皆さん、さらには公爵家の領地だけで販売したところ爆発的な人気を引き起こした。
特性胃薬は公爵家の領地だけしか売らないため、幻の胃薬と呼ばれその胃薬を求めて毎日沢山の商人や貴族が押し寄せている。それによりエルザの懐と公爵家の懐は大いに潤った。
学園に持っていくエルザの荷物の半分は胃薬で埋め尽くされ、エルザの荷物を運ぶ際にそれを見た次兄ダルテに大声で笑われた。




