↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢の中の君に、恋をした。  作者: 桜木 モモ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/39

「18歳ー神城刹那」

十八歳。


高校を卒業する頃には、刹那の部屋に一冊の分厚いファイルができていた。


そこには、調べた情報が細かく整理されていた。


名前の候補。


年齢。


地域。


照合した結果。


そして、何度も繰り返された同じ結論。


――該当者なし。


ある夜。


刹那は、そのファイルを机の上に広げていた。


最後の調査報告書に目を通す。


新しい情報はなかった。


「…………」


しばらく、何も考えられなかった。


やがて、乾いた笑いが漏れた。


「……は」


馬鹿みたいだった。


何年も。


何年も、何をしていたんだろう。


夢の中で出会った女を、現実で探すなんて。


「……いるわけねぇだろ」


声に出した瞬間、胸の奥がひどく痛んだ。


「……最初から」


あいつは、夢だった。


自分が作り出した、都合のいい幻。


自分のことを理解してくれて。


くだらないことで笑って。


何も持っていなくても、隣にいてくれた。


そんな人間が、現実にいるはずがない。


「……っ、くそ……!」


刹那は机の上のファイルを払い落とした。


紙が床に散らばる。


その中から、一枚の紙が滑り出た。


幼い頃に描いた、庭園の見取り図だった。


白い噴水。


薔薇のアーチ。


洋館。


そして、ベンチの横に書かれた、小さな文字。


――さくらがいつも座る場所。


刹那はそれを拾い上げた。


指先が震えた。


「……何でだよ」


答える者はいない。


「……何で、あんなこと言わせたんだよ」


――私も、刹那が好き。


あの声だけは、今でも鮮明に思い出せる。


「……だったら、最後まで夢でいろよ」


声が掠れた。


「……何で、消えんだよ」


紙の上に、一滴の涙が落ちた。


刹那は慌てて目元を拭った。


けれど、次から次へと溢れてきた。


「……ふざけんなよ……」


誰もいない部屋で、彼は初めて声を殺して泣いた。


⸻


それから、刹那は変わり始めた。


最初に消えたのは、苛立ちだった。


以前は気に入らないことがあれば、舌打ちをした。


納得できなければ、相手が誰であろうと食ってかかった。


けれど、いつしか反論することさえなくなった。


「刹那。お前には期待している」


「承知しています」


「次の会食では、余計な発言を控えるように」


「はい」


父親は満足そうだった。


以前のような反抗的な態度がなくなり、落ち着きが出てきた。


ようやく跡継ぎとしての自覚が芽生えたのだと。


そう思っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。