「18歳ー神城刹那」
十八歳。
高校を卒業する頃には、刹那の部屋に一冊の分厚いファイルができていた。
そこには、調べた情報が細かく整理されていた。
名前の候補。
年齢。
地域。
照合した結果。
そして、何度も繰り返された同じ結論。
――該当者なし。
ある夜。
刹那は、そのファイルを机の上に広げていた。
最後の調査報告書に目を通す。
新しい情報はなかった。
「…………」
しばらく、何も考えられなかった。
やがて、乾いた笑いが漏れた。
「……は」
馬鹿みたいだった。
何年も。
何年も、何をしていたんだろう。
夢の中で出会った女を、現実で探すなんて。
「……いるわけねぇだろ」
声に出した瞬間、胸の奥がひどく痛んだ。
「……最初から」
あいつは、夢だった。
自分が作り出した、都合のいい幻。
自分のことを理解してくれて。
くだらないことで笑って。
何も持っていなくても、隣にいてくれた。
そんな人間が、現実にいるはずがない。
「……っ、くそ……!」
刹那は机の上のファイルを払い落とした。
紙が床に散らばる。
その中から、一枚の紙が滑り出た。
幼い頃に描いた、庭園の見取り図だった。
白い噴水。
薔薇のアーチ。
洋館。
そして、ベンチの横に書かれた、小さな文字。
――さくらがいつも座る場所。
刹那はそれを拾い上げた。
指先が震えた。
「……何でだよ」
答える者はいない。
「……何で、あんなこと言わせたんだよ」
――私も、刹那が好き。
あの声だけは、今でも鮮明に思い出せる。
「……だったら、最後まで夢でいろよ」
声が掠れた。
「……何で、消えんだよ」
紙の上に、一滴の涙が落ちた。
刹那は慌てて目元を拭った。
けれど、次から次へと溢れてきた。
「……ふざけんなよ……」
誰もいない部屋で、彼は初めて声を殺して泣いた。
⸻
それから、刹那は変わり始めた。
最初に消えたのは、苛立ちだった。
以前は気に入らないことがあれば、舌打ちをした。
納得できなければ、相手が誰であろうと食ってかかった。
けれど、いつしか反論することさえなくなった。
「刹那。お前には期待している」
「承知しています」
「次の会食では、余計な発言を控えるように」
「はい」
父親は満足そうだった。
以前のような反抗的な態度がなくなり、落ち着きが出てきた。
ようやく跡継ぎとしての自覚が芽生えたのだと。
そう思っていた。




