「いつも通りが、1番」
『……あ、いた!』
いつものベンチ。
いつもの分厚い本。
そして、いつもの不機嫌そうな顔。
「……何だよ。朝からうるせぇな」
『おはよう、刹那!』
「……おう」
私は彼の隣に腰を下ろした。
あの不思議なハロウィンの夜から、初めての夢だった。
今日はランタンも、おばけも、豪華な料理もない。
ただ、穏やかな風が吹いているだけ。
『……なんか、落ち着くね』
「……何が」
『いつもの庭園!』
「……ああ」
刹那は本のページをめくった。
「……変なもんが飛び回ってねぇだけマシだな」
『ふふっ。おばけ、可愛かったじゃん』
「……お前、あいつらに恋人扱いされて喜んでただろ」
『よ、喜んでないし!』
「……へぇ?」
意地悪そうに笑う刹那。
私は頬を膨らませた。
『……刹那こそ、耳真っ赤だったくせに』
「……うっせぇ」
彼は本で顔を隠した。
⸻
しばらくして、私は持っていた小さな花冠を刹那に差し出した。
『はい!』
「……何これ」
『花冠! さっき作ったの』
「……見りゃ分かる。何で俺に渡すんだよ」
『刹那にも作ってあげたかったから』
彼は少しだけ黙った。
「……いらねぇ」
『えー! せっかく作ったのに!』
「……俺がこんなのつけると思うか?」
『じゃあ、ちょっとだけ!』
私は背伸びをして、彼の頭に花冠を乗せた。
白い小さな花が、黒い髪によく映える。
『……あはは! 似合う!』
「……おい、殺すぞ」
『ふふっ、可愛い!』
「可愛いとか言うな!」
刹那は花冠を外そうとした。
けれど、私が笑っているのを見ると、なぜか手を止めた。
「……ったく」
結局、そのまま本を読み始める。
私は隣でこっそり笑った。
⸻
『ねえ、刹那』
「……何」
『最近、学校どう?』
「……普通」
『友達とは遊べてる?』
「……たまにな」
『そっか! よかった』
刹那は本から顔を上げた。
「……お前は?」
『え?』
「受験勉強。どうなったんだよ」
『あ! この前の小テスト、点数上がったの!』
「……へぇ」
『刹那に教えてもらったところ、全部できたよ!』
「……そりゃよかったな」
私は嬉しくなって笑った。
『ありがとう!』
「……別に。お前が勉強したからだろ」
思いがけない言葉に、私は目を丸くした。
『……刹那、今褒めた?』
「……褒めてねぇよ」
『絶対褒めた!』
「……うるせぇな」
彼は再び本に視線を落とした。
けれど、口元が少しだけ緩んでいた。
⸻
やがて、庭園が白く霞み始めた。
『……あ、そろそろ』
刹那は本を閉じた。
「……もうかよ」
『うん。またね!』
私が立ち上がると、彼は私の手を掴んだ。
「……まだ行くなよ」
『……ふふっ』
「……何笑ってんだよ」
『刹那、毎回そう言うよね』
「……悪ぃかよ」
『ううん。嬉しいよ』
刹那は一瞬、黙った。
それから、少しだけ目を逸らす。
「……だったら、もうちょっといろよ」
『……私も、そうしたいんだけどね』
彼は小さくため息をついた。
「……ったく。融通の利かねぇ夢だな」
私は笑った。
『……またね、刹那』
「……おう」
最後に見えたのは、白い花冠をつけたままの彼だった。
⸻
目を覚ました私は、思わず笑ってしまった。
『……結局、最後までつけてた』
いつもどおりの、何でもない夢。
でも、こういう時間が一番好きなのかもしれない。
そう思いながら、私はもう一度目を閉じた。




