両親の疑惑
湯利は帰国前に電子メールで婚約を伝えた。賢市と一緒に帰宅すると両親は神妙な顔で迎えた。湯利はヴォルとエリーが葛藤の上に承認した事、ジョンが日本への移住を覚悟している事、湯利自身も決意が固いことを再度語る。母親の目が泳いでいる。父親は腕を組んで苦い顔をしている。国際結婚自体が衝撃的だ。ましてや湯利の犯罪歴を知ったうえでの承諾はにわかに信じがたい。湯利の結婚を完全に諦めていた両親は喜ばずに不安を露にしている。賢市は湯利の説明や決意が嘘ではない事を淡々とした口調で補足説明する。
「コール一家と俺達が認めても日本とイギリスが拒むだろう」
父親が不審な気持ちを露にした。賢市は冷静な声で、
「両国当局に問い合わせて返事を待っています」
母大矢は不思議そうに、
「小林さんには何から何まで世話になりっぱなしですね。どうしてですか」
「警察官として看過できませんから」
賢市は涼しい顔で答えた。上司からは決断するまで公安であることを隠すように命じられている。父親は腑に落ちない様子で賢市を睨んでいる。家電製品制作会社で働いてきた父親は職人気質だが、常識はある。地方公務員で多忙な警察官が医療観察入院を終えた被疑者にいつまでも親身でいることに違和感を覚える。公安警察ではないかと脳裏をよぎったが、確認する気が起きない。無機質で得体のしれない国家権力を直視する勇気がない。
「一週間以内に両国から返事が来るかと思います」
賢市が言うと父親は湯利を見やり、
「拒まれたら潔く諦めるしかない」
「うん。分かっている」
湯利は動じない。両親だけでなく湯利自身も期待していないようだ。けれども帰国してからどことなく精悍な顔つきになったと父親は感じた。母親は湯利をじっと見つめながら、
「万が一認められたらジョンさんを大事にしなさい」
「そのつもり」
湯利が答える。




