覚悟
ケム川を渡るとジョンとヴォルは湯利と賢市を自宅に連れて行った。ヴォルは妻のエリーに先程の会話を伝えた。突然の婚約にエリーは動揺し、呆然とした。ヴォルとジョンの眼光が鋭い。二人が真剣だと分かると、エリーは青白い顔でヴォルに問い直した、
「貴方はあれほど湯利を警戒していたのに何故、ジョンと結婚させようとするの」
「ジョンは大人だ」
ヴォルは冷静な声で答えた。エリーは腑に落ちず、
「そもそも我が国と日本が受け入れるとは思えない」
「各当局に問い合わせてみます」
賢市が答えた。エリーは不安そうな顔で湯利に振り返る。湯利は無表情で見返している。湯利の感情が読み取れない。ジョンに本当に恋慕しているのか疑わしい。見た目は冴えない東洋の女。本当に単独で在日米軍基地の襲撃を試みたのか分からない。残虐性は感じられないが不気味な底知れなさが感じられる。湯利はジョンの心を弄んで資産を巻き上げるロマンス詐欺師の様な事はしないだろう。しかしジョンに尽くせるとも思えない。
エリーはジョンに振り向き、
「日本でどうやって生計を建てるの?社交的ではないあんたを日本社会が受け入れるのかしら」
「情報技術業界に復帰するか、料理店を開くか、漫画業界に携わるか、あらゆることを試すよ」
ジョンがエリーを真っ直ぐ見据えながら答えた。エリーは溜息を吐き、
「愛の無い結婚に価値は無いけれど、愛だけで結婚は成立はしない」
「ジョンは母国を出る覚悟を決めました。私もそれを受ける覚悟があります」
湯利が日本語訛りだがハッキリした口調で言った。ヴォルとエリーが振り返ると湯利の眼光が鋭い。エリーは湯利の感情が読み取れた気がした。
「湯利。両親に婚約を伝えなさい。二人が承諾すれば結婚しなさい」
エリーは落ち着いた声で命じた。ジョンと湯利は驚いたが、二人は微笑んだ。ヴォルと賢市は黙っている。安堵と不安が入り混じった複雑な心境。日本とイギリスの当局が拒めば破談せざるを得ない。




