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交渉

 ラーメン屋で別れた後も賢市は湯利のブログとSNSを覗いている。一月に一度、直接湯利に会ってもいる。ネットでも実生活でも暴力性が薄れているのが分かる。他害衝動が湧いて湯利が賢市に相談することはなくなった。賢市が公安であることは未だ湯利には隠している。賢市はあくまでも事件を取り調べ、今は被疑者の更生を見守る親切な刑事としてふるまっている。湯利には殺人課の刑事にしか見えていない。米軍基地襲撃事件の時には人的被害が出なかったが、殺人未遂容疑として扱った。模倣犯や本物のテロ組織を刺激しない為に報道規制もした。湯利本人にはテロだとはっきりと叱責したが、米軍やCIAや公安が表立って尋問することは無かった。皆、警察官として取り調べをしていた。湯利の両親も当然知らない。


 ジョンと交流を深めている事で湯利が大人しくなっている。ジョンは友愛とも淡い恋愛ともとれる感情を抱いていると分析したアリスは再度二人を引き合わせようと上司や日本の公安側に提案した。ジョン本人も会いたがっているだけではなく、湯利が人間性を取り戻す機会でもある。湯利が恋愛感情を抱いて逆にストーカー犯罪を起こすのではないかとMI6も日本の公安も危惧したが、アリスは感情の欠落による孤立と暴力性を指摘した。ストーカー犯罪の危険性やテロの再犯性が有れば理由をつけて逮捕をするか措置入院させればよい。賢市はアリスに賛同した。しかし上司達は湯利の危険性だけではなく、ジョンの変化も警戒していた。ジョンが湯利に精神的に依存し、むしろジョンがストーカー犯罪を起こす可能性もある。


 ジョンと湯利を監視していたアリスと賢市はネットを介した交流を続けさせるよりも、生身の人間による対面が孤立と暴力性の抑止力になると反論した。ネットでの交流では対面特有の緊張感と責任が欠落して分断したり感情的になったりしてむしろ犯罪を誘発する。ジョンがストーカーになりそうであればMI6諜報員だと分かっているアリスが釘を刺す。


 アリスと賢市が強く勧めるので、アリスの上司は湯利を敢えてイギリスに入国させて監視させようと提案した。見張り役として賢市も一緒に同行する。前回は日本が受け入れて作戦はある程度成功している。アリスの上司は湯利を直接監視することでテロ研究にしようと考えた。日本側も承諾した。イギリスの内務省と移民局の許可が下りれば賢市が湯利にイギリスの旅を勧めて決行することになった。

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