友達
日本では夜だがイギリスでは昼過ぎだ。早めに仕事を終えたジョンは音声SNSを開いた。すぐに湯利から日本語で応答があった、
「久しぶり、ジョン」
「話せて嬉しいよ、湯利」
ネット上ではいつも湯利はクマムシでジョンはタラと名乗っている。互いに名前を憶えていたことにジョンは安堵し、初めて湯利の名を呼んだことに気付いた。湯利が、
「昨日はスパコンの話が面白かった。スパコンは何でもできるんだね」
「そうだね。家族も友達も元気か」
ジョンは話題を変えようとした。今はネットでは話せないことを話したい。湯利が孤立していないか、それとも誰かに恋愛感情を抱いているのか気になった。湯利は、
「皆、元気だよ。父さんが風邪を引いたけれど治った」
「父さんが治って良かったね。今日はいつもと違う話がしたい」
ジョンが提案した。湯利が、
「アメリカはアジア人が嫌いなんだろうか」
「そういう政治や社会の話はしたくない。君には身近な悩みとかないの?」
ジョンが尋ねる。湯利が唸って考えている。ジョンは、
「家族や友人に望んでいる事とか好ましくない事とか無いのか」
「職場で世間話ができない。でもあまり気にしていない」
湯利が答えた。何か気の利いた助言を言いたかったが、ジョンも口下手だ。ジョンは数秒間考えると、
「身構えずに話しかければ良いよ。日本だと皮肉も冗談も考えなくて良いから楽だと思う」
「私は皆が興味を持っている事に合わせられないし、皆も私の興味に関心がない」
湯利は助言を受け入れなかった。ジョンは、
「話の内容よりも話し相手を選んでみれば良いよ」
「職場を監督する職員に相談している」
湯利は答えた。ジョンは、
「君が関心を寄せる人はいないのか」
「いない」
湯利の即答にジョンは困った。恋愛が芽生えている様子も友人を欲しがっている様子もない。相変わらず湯利は知性と理性以外には興味がないようだ。恋心が有れば違っていただろう。
「ジョンはオフラインでもオンラインでも友達が沢山いるんでしょ。羨ましいけれど私は真似をするつもりはない」
湯利が淡々と決めつける。ジョンは、
「俺は社交的ではないから俺の友達は他の友達と一緒にいることが多い」
暗い声で言い返した。湯利は、
「私は貴方の友達かな。貴方が私の一番の話し相手だけれど」
ジョンは固唾を飲んだ。緊張したが不快からではない。心がむず痒い。ジョンは、
「じゃあ俺達は友達だね」
言っておきながら自分が気色悪いと思った。嘘ではないが日本語で話しているので洒落た冗談や皮肉が言えずに居心地の悪さを感じる。湯利は明るい声で、
「それは良かった」




