交流
ジョンは湯利に新聞や科学雑誌の記事、流行りの音楽や映画を紹介したりした。湯利は翻訳機だけではなく辞書を引いたりジョンに質問したりして内容を咀嚼しているようだ。ブログにも反映されている。ジョンは政治や軍事よりも科学や文化を話題にするようにした。環境問題にも触れる。イギリスでは政治や経済の話をすることが多いが、湯利は皮肉や冗談に昇華出来ない。夜に居間でテレビの報道を視聴する父親と書斎でラジオの笑いを聴く母を自室で感じながら湯利と交流を深める。アフリカやアメリカ先住民の歴史や宇宙の神秘や数学の問題。陰謀論者や素人の根拠ない暴論を避けて地味だがひたむきな学者の記事を読んでいく。感情的な活動家の言説を無視して当事者の証言をまとめた記者の記事も読む。公開されたダボス会議の資料も読み解く。
客や友人は湯利と交流して発信するようになったジョンの変化に驚いた。両親も湯利について尋ねてくる。ジョンは一度だけ面識のあるネットの友人としか説明しなかった。内容が全然ロマンスではないので、皆は詐欺だと疑わなかった。実生活でもネットでも大人しかったジョンの変化に皆は目を見張った。湯利の英語が不自然なので皆は国籍を尋ねてきた。ジョンは湯利が日本人だと明かした。興味を持った一部の客と友人はネットで湯利に話しかけた。ジョンは湯利がスラングも皮肉も苦手だと説明した。皆が少し配慮すると湯利も嫌がらずに反応した。
一年が経った。湯利の英語も上達し、ブログも好奇心旺盛な平和な文章になった。湯利の鬱屈は消えただろうか。湯利はジョンの愛を信じろと言った台詞をまだ覚えているだろうか。ジョンは気になった。
ジョンは湯利に音声SNSで会話しないかと提案した。時差があるので日本では夜でイギリスでは昼過ぎ、日本では朝でイギリスでは夜のどちらかにする。湯利は聴き取りも喋るのも自信がなく、録音が良いのではないかと提案した。ジョンは一度、電話したかった。日本語でも良かった。それを伝えると湯利は承諾した。




