↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
28/41

コスト

 愛を疑われても湯利は激昂しない。アリスは驚いた。女に愛と慈悲の欠落を指摘するのは、反差別の活動家に独善的な姿勢を指摘するようなものだ。自分を含めた誰もが差別する可能性があると認めず、当事者の複雑な心理を無視して他人を差別主義者だと罵る偽善者をアリスは何人も見てきた。そもそもこの場に居合わせると承諾したこと自体、湯利は自身の暴力性と醜さを自覚している証拠だ。


 愛の概念がないのだろうか。湯利は両親から虐待されるどころか今でも仕送りしてもらうほど気にかけられている。賢市は不安になった。


「愛の必要性を私は感じない」

 湯利が低い声で言った。ジョンは尋ねた、

「何故そう思う」

「命がけで産み育てた母親に『婆殺すぞ』と脅す息子、家事育児介護しながら仕事をしてきた妻を見下す夫、暴力性や怒りを受け入れた彼女を裏切る彼氏、愛に飢えた女を弄ぶロマンス詐欺師、叱咤激励する上司や教師を嫌悪する部下や生徒」

 湯利は不快そうに列挙した。賢市が不思議そうに英訳する。皆、無償の愛を踏みにじった者達だ。湯利はあまりにも見返りもなく害を被る現状を指摘している。アリスは湯利の諦念を感じた。賢市は居心地悪そうに、

「男に何か恨みでも有るのか」

「男は女よりも多く食べるのに女は穀潰し扱いされるし、圧倒的な筋力を労働ではなく破壊と暴力に使う男は多いし、男は体力があるのに家事も育児も介護もやらないし、女を感情的で醜いと罵倒する。そもそも男は妊娠も出産もしない。コストです」

 湯利は淡々と語る。賢市は背中が冷えるのを感じながら英訳した。ジョンは黙っている。怒気を込めずに男を嘲る湯利にアリスは気味の悪さを感じた。ミサンドリストでもフェミニストでもない冷徹な女。しかし嘲笑する気にはなれなかった。賢市は、

「コストは言い過ぎだ。クズ野郎ばかりじゃないだろう」

 ジョンが湯利を見つめながら英訳した。湯利は宙を睨みながら、

「良い女が多いのに誰も指摘しません。『悪い女もいる』、『悪い男ばかりではない』と言われても噓臭く聞こえます」

 賢市が困った様子で目が泳いでいる。ジョンの英訳を聴いたアリスは冷めた様子で言い返す湯利に複雑な感情を抱いた。共感はしないが湯利の発言はあながち間違っているわけではない。


「俺は女に敬意を払っているつもりだ。本当に強いのは女だから」

 ジョンが言った。湯利は腑に落ちない様子で睨み返す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。