心理
時間はあっという間に過ぎて三時間は経った。それに気付いた賢市はそれを三人に教えて何となく解散することにした。アリスとジョンは三泊四日滞在するのでまた翌日の土曜日にこのラーメン屋に集まって対話することになった。
内心身構えていた店主夫婦も客を演じていた者達も肩透かしを食らった気持になった。湯利がかつてテロ未遂事件を起こした犯人にも、今尚も暴力で燻ぶっている危険人物にも見えなかった。湯利は劣等感に悩み、学びに飢えていた一人の障碍者でしかなかった。むしろ湯利がテロ事件の犯人と知っても尚、対話を続けたジョンに店主達は驚嘆を隠せないでいる。
この後、湯利はどこまで変わるのだろうか。暴力を治める日が来るのだろうか。
ホテルに戻ったジョンとアリスはそれぞれの部屋に入る前に玄関にあるソファで休んだ。通訳しながら外国語で危険人物と会話し続けたジョンよりも、アリスが疲労を感じている。ジョンは湯利との会話を楽しんでいた。しかしアリスは湯利の暴力性を確かめたかった。一度の会話で丸くなるとは到底思えない。湯利の暴力の仕組みが知りたかった。湯利の原動力は強烈な劣等感と危機感、そして孤独。それは分かる。しかし単独で包丁一本で米軍基地を襲撃する動機が理解できない。学校や道路で女子どもを殺傷する通り魔の卑劣な心理や、綿密に計画を立てて集団で米軍基地を襲う厄介なテロ組織の方がアリスには理解できる。湯利の様な日本女性は他にもいるのだろうか。いるとすればどれくらい燻ぶっているのだろうか。それが分かればテロや犯罪の防止にもなるし人間を理解する事でもある。
MI6諜報員としてイスラム圏を分析していたアリスでも湯利は不可解な存在である。湯利は排除すべき対象でもなければ受容すべき市民でもない。
「顔色が悪いですね」
ジョンが心配した。アリスは、
「貴方も疲れているはずでしょう」
「いいえ。俺は明日、中村の夢や野望を質問してみようかと思います」
ジョンは湯利を試そうとしているのだろうか。アリスは不安になったが否定しなかった。




