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準備

 九月下旬。賢市とアリスは機密性の高い特別なSNSで打ち合わせをした。ジョンは湯利の事件を聞かされて動揺したが、最後には湯利と会うことに決めた。湯利もジョンが過去を知っている事を知らされている。二人共、二人きりになることを警戒しているので賢市とアリスが立ち会う。湯利もジョンも互いに本名や住所や職業を知らない。賢市は湯利にジョンが日本語が堪能であると説明している。更にアリスの同行を伝えたがアリスがMI6の諜報員であることは当然隠している。アリスはジョンの恋人ではない友人だと伝えている。一方、ジョンには賢市が公安警察だが湯利には一般の刑事で公安であることを隠してあると教えている。


 十月の半ばに東京のラーメン屋で待ち合わせすることになった。ラーメン屋の店主もそれを支える妻も元公安警察官で機密性を守っているが、アリスだけには伝えている。ジョンと湯利には口の堅い店だから遠慮なく思ったことを口にすべきだと命じている。湯利を警戒していたCIAが店に盗聴器を仕掛けて傾聴する。それを知ったアリスは不快を露にしたが、CIAが会話を公表しないと強く強調した。湯利とジョンの身分を保証する。


 日本に行くことになったジョンは忙しくなった。両親や客にはアリスに日本旅行の付き添いを強く頼まれたと説明した。クマムシである湯利については全く触れなかった。皆、突然の事で驚いたが週に五日ほぼ怠らずに働いていたので店を休むのを受け入れた。三泊四日だ。旅券を更新していたので手続きはなんとかこなせた。


 貴族女性のアリスと労働者階級男性のジョンの二人旅だが誰も茶化さなかった。ジョンは気弱で奥手だし、アリスは貞淑だし、二人を知る者は二人が恋人同士には見えなかった。皆、旅行者と通訳の関係だろうと推測した。


 湯利が英語を全く話せないのでアリスは付け焼刃だが日本語を勉強した。電子書籍やアプリを駆使して時間の許す限り基本から学んだ。言語体系の違いに驚いた。更には歴史や文化にも触れたが学んできたアラビア語やイスラム圏ともかなり違う。湯利が英語を苦手とする心理が僅かに分かった。湯利のブログとその英訳を見比べたりもする。

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