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諜報員

 ジョンは情報技術分野で仕事をしている時にMI6から仕事を受注したしたことがある。MI6といえば世界的に有名な諜報機関だが、敵国の要人や敵対勢力への直接攻撃をすることはなく、情報収集とその分析が仕事の大半だ。訓練された諜報員がたまに標的と直接面会して情報を聴き出すことはあっても、映画のように拷問や暗殺することは殆どない。むしろ盗聴や盗撮やハッキングよりも世界の公開情報を調べて分析する諜報員が大半だ。ジョンは日本語が堪能だったので、日本政府が公開している情報を分析してMI6に報告する仕事を任されていた。守秘義務は厳密だが、危険な仕事をしたわけではない。日本の漫画やアニメや映画の内容や評価の分析も行った。原爆を投下された後の日本の独特な歴史を一通り知ってはいる。日本の公開文書やホームページは独特で読みづらかったが、日本の報道機関が杜撰で多くの日本人が不満を抱えていることが分かった。


 クマムシのブログが何処かの国の諜報員に関心を持たれたらどうなるだろうか。クマムシを特定して直接的に攻撃する事はないだろう。また、国際テロ組織の密偵(スパイ)に見つかったら、脅迫を受ける可能性がなくはない。クマムシは過去にパレスチナを挑発するような文章を書いている。不快を理由に日本の民間人をわざわざ脅してパレスチナに同情的な日本人を減らす危険を冒すより放置する可能性は大きいが、晒して非難して大炎上させる場合もあるだろう。


 クマムシのブログを毎日閲覧してしまう。時折、数学や化学や物理の話をするが、社会への怨嗟にあふれた文章が更新されていく。先日はテロリスト二名を嘲笑していた。テロや暴力を否定すること自体は良いが、テロリストや犯罪者の殺害を認めるような思想は危険だ。閲覧を断念しようとしても読まないと眠れなくなる。最近は慣れて悶々とした日々を送っても客から文句を言われなくなった。しっかりと料理が作れている。しかし誰にもクマムシの事を語れない。以前にクマムシを紹介した日本人アカウントはスッカリ漫画の話ばかりをするようになった。ジョンは誰にも話せない。


 ジョンが悩んでいたある日、過去にジョンに仕事を依頼したMI6の諜報員が客として来た。他の客達は珍しそうな顔をする。見た目だけで諜報員だと分かることはない。彼女は貴族だ。労働者階級のジョン一家と客達は上品な振る舞いをする彼女に若干の居心地の悪さを感じた。貴族が労働者階級を迫害することはないが、食事も趣味も何となく住み分けがなされている。訛りも仕草も違う。彼女はヴィーガンとしてサラダと野菜炒めを頼んだ。ジョンも少し緊張した。

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