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第33話 夏の思い出

「ゴール!」


ハヤテが勢いよく海から飛び出し、砂浜へ駆け上がる。


「一位だ!」


少し遅れてサイオン。


さらにゴウマ。


最後に大きな水しぶきを上げながらガンテツが浜へ戻ってきた。


「ぐわぁー!」


「負けたぁ!」


豪快に砂浜へ倒れ込むガンテツに一同が笑い出す。


ハヤテは肩で息をしながら笑顔を浮かべた。


「いやぁ、泳ぐの楽しいな!」


サイオンが苦笑する。


「まさかあそこまで差が付くとは思わなかったッス」


ゴウマも腕を組みながら頷く。


「流石だな」


「日頃の鍛錬は泳ぎにも表れるか」


ガンテツは悔しそうに立ち上がった。


「もう一回!」


「今度こそ勝つ!」


「却下!」


ハヤテは即答する。


「約束通り負けた人は昼食の準備をよろしく!」


「うっ……」


ガンテツの耳がしゅんと垂れる。


その姿に皆がまた笑った。


「ほらほら!」


ドランが大きな鍋を持って声を張り上げる。


「さっさと薪運んでくれ!」


「魚も焼くぞ!」


「おう!」


男性陣は手分けして準備を始める。


ゴウマは薪を運び。


バレットは串を並べ。


サイオンは食材を運ぶ。


ガンテツは巨大な岩を椅子代わりに運びながら、


「力仕事なら任せろ!」


と、ようやく元気を取り戻していた。


その頃。


女性陣は浜辺を歩きながら海の生き物探しを楽しんでいた。


「わぁ!」


ツキがしゃがみ込み小さな貝殻を拾い上げる。


「見て見て!」


「綺麗!」


太陽の光を受けた白い貝殻がきらりと輝く。


ヨミも隣へ座り込み優しく微笑んだ。


「本当だ」


「こっちにもあるよ」


二人は夢中になって貝殻を集め始める。


少し離れた場所ではセリアが海の中をじっと見つめていた。


「あれ~?」


「この星みたいなの何でしょう~?」


そっと持ち上げたのは五本の腕を広げたヒトデだった。


「不思議~!」


興味津々なセリアの隣へモルフォがゆっくり歩いてくる。


「それはヒトデですね」


「棘皮生物の一種です」


「腕を失っても再生する能力を持っています」


「再生するんですか~!?」


セリアは目を丸くした。


ツキもヨミも興味津々で集まってくる。


モルフォは穏やかに微笑みながら続けた。


「海には陸とは違う生き物が数多く存在します」


「この貝も種類によって形や模様が異なりますし、海辺の生態系はとても興味深いですよ」


「へぇ~!」


「すごい!」


ツキは目を輝かせながら拾った貝殻を見つめる。


ヨミも静かに頷いた。


「海って面白いんだね」


モルフォは嬉しそうに頷く。


「まだまだ知られていないことも多いです」


「研究しがいがありますね」


穏やかな潮風が浜辺を吹き抜ける。


笑い声が響く海岸には今日も王虎の牙らしい平和な時間が流れていた。



遊び疲れた頃。


たるととシズクは波打ち際から少し離れた砂浜へ移動し、そのまま静かに横になった。


さらさらとした砂の感触。


耳に心地よく響く波の音。


潮風が優しく頬を撫で、青い空には白い雲がゆっくりと流れていく。


「はぁ~」


たるとは大きく伸びをした。


「たくさん遊びましたー!」


シズクも隣で小さく微笑む。


「少し疲れましたね」


しばらくの間、二人は言葉を交わさず空を見上げていた。


夏の日差しは眩しい。


それでも潮風のおかげで不思議と心地よさがあった。


たるとは嬉しそうに呟く。


「今日は楽しいです!」


その言葉に、シズクも穏やかに微笑んだ。


「はい」


「こんな日がずっと続けばいいですね」


その一言には建国のために忙しい日々を送ってきた二人の本音が滲んでいた。


戦い。


労働。


街づくり。


そうした日常の中で何も考えず仲間と笑い合える時間はかけがえのないものだった。


そこへ、ゆっくりと歩み寄る人影があった。


「どうしたの?」


俺が首を傾げながら声を掛ける。


たるとは起き上がることなくにやりと悪戯っぽく笑った。


「んー」


「ガウの水着が可愛いって話をしていました!」


「……はい?」


思わず固まる。


シズクもわずかに口元を緩めた。


「とってもお似合いですよ」


「シズクまで!?」


俺は思わず頭を抱えた。


「うぅ……」


その様子を見てたるとは楽しそうに笑う。


「あはは!」


「照れてますね~」


「照れてない!」


「本当に?」


「本当!」


即答すると二人は顔を見合わせて笑い出した。


その笑い声は波音に溶け込み、穏やかな夏の浜辺へと響いていく。


俺は大きくため息をつきながら空を見上げた。


「おーい!」


ドランの大きな声が浜辺に響いた。


「食事の準備が整ったぞ!」


「やったー!」


真っ先に反応したのはたるとだった。


遊んでいた皆が次々と集まってくる。


焼きたての魚。


香ばしい肉。


採れたての野菜。


炊きたてのご飯。


浜辺には食欲をそそる香りが広がっていた。


「いただきます!」


全員が声を揃える。


「この魚、うまい!」


「ドランさん、最高です!」


「港で仕入れた魚はやはり新鮮ですね」


皆が笑顔で料理を頬張る。


ドランは腕を組みながら満足そうに笑った。


「まだまだ用意してあるぞ!」


NPCの住民たちも輪に加わり、浜辺はまるで祭りのような賑わいを見せていた。


食事を終え、皆が満腹になった頃。


たるとが勢いよく立ち上がる。


「次は!」


「スイカ割り大会ですー!」


「おぉーー!」


住民たちからも歓声が上がる。


砂浜の中央には大きなスイカが置かれていた。


「最初はガンテツさん!」


目隠しをされたガンテツは木の棒を肩に担ぐ。


「任せろ!」


「一撃で粉砕してやる!」


その場でぐるぐると回される。


「はい、スタート!」


「右!」


「左!」


「そのまま真っすぐ!」


皆が思い思いに声を上げる。


「どっちだぁ!?」


ガンテツは豪快に棒を振り下ろした。


ドゴォン!!


砂浜が大きくえぐれる。


「外したー!」


「あははは!」


皆が大笑いする。


続いてツキが挑戦。


「がんばれー!」


「えいっ!」


ぺしっ。


棒はスイカの手前に軽く触れただけだった。


「惜しい~!」


ヨミが優しく頭を撫でる。


「よく頑張ったね」


最後は俺の番だった。


目隠しをされる。


その瞬間。


「もっと右です!」


「違います、左です!」


「真っすぐ!」


「回ってください!」


女性陣が次々と異なる指示を飛ばしてくる。


「どれを信じればいいんだ!?」


完全に混乱した俺はおそるおそる棒を振り下ろした。


ゴンッ。


「……あ」


手応えがあった。


目隠しを外す。


そこには真っ二つに割れたスイカ。


「やったー!」


「割れたー!」


たるとが飛び跳ねる。


「すごいです!」


俺が苦笑すると皆も笑顔になった。


切り分けられた真っ赤なスイカを皆で頬張る。


「甘い!」


「美味しいですね」


「夏といえばやはりスイカですね!」


子どもも大人も。


プレイヤーもNPCも。


立場の違いなど関係なく笑い合う。


王虎の牙らしい賑やかで温かな時間が浜辺に流れていた。



気が付けば太陽はゆるやかに西へと傾いていた。


真っ青だった海は夕日に照らされ、茜色へと染まっていく。


穏やかな波が砂浜へと寄せては返し、一日の終わりを静かに告げていた。


「綺麗……」


ツキが思わず声を漏らす。


ヨミも隣で静かに頷いた。


「うん」


「綺麗だね…」


皆は思い思いの場所に腰を下ろし、夕焼けに染まる海を見つめていた。


たるとは満面の笑みを浮かべる。


「今日は本当に楽しかったです!」


「またみんなで来たいですね!」


「賛成です」


ノエルが穏やかに微笑む。


「こういう時間も大切ですね」


シズクも夕日を見つめながら小さく頷いた。


「はい」


「心が落ち着きます」


少し離れた場所ではドランが満足げに腕を組んでいた。


「皆が美味そうに飯を食ってくれた」


「料理人冥利に尽きるってもんだ」


ガンテツが豪快に笑う。


「はっはっは!」


「泳いで、食って、遊んで!」


「最高の一日だったな!」


ハヤテは苦笑する。


「結局一番楽しんでない?」


「当然だ!」


「遊ぶ時は全力だ!」


その言葉に皆が笑い声を上げた。


サイオンは夕日に染まる海を眺めながら呟く。


「こんな日がずっと続けばいいッスね」


その隣で、アイスも静かに海を見つめる。


「……そうだな」


「以前ならこんなふうに一日を楽しむ余裕はなかった」


「王虎の牙に来て本当に良かったと思っている」


その穏やかな笑みにサイオンも嬉しそうに笑った。


「オレもッス」


バレットも珍しく柔らかな表情を浮かべた。


「ああ」


「悪くない」


モルフォは静かに本を閉じ、海へと視線を向ける。


「海の生物も興味深かったですね」


「また調査に来たいものです」


セリアは笑顔で両手を掲げる。


「今度はもっと遊びましょう~!」


「またヒトデさんにも会いたいです~!」


その言葉に皆が思わず吹き出した。


笑い声が夕暮れの浜辺に穏やかに響く。


俺はそんな仲間たちを見渡した。


笑い合い、語り合い、ふざけ合う。


誰もが自然な笑顔を浮かべている。


建国を始めてから、忙しい日々が続いていた。


戦いの日もあった。


苦しい日もあった。


それでも今、この景色がある。


仲間がいて。


帰る場所があって。


こうして笑い合える時間がある。


――だからこそ、守りたい。


この場所を。


この笑顔を。


夕日は静かに海へと沈み、王虎の牙の夏の一日は、数多の笑顔とともに幕を閉じた。

第33話を読んでいただきありがとうございます!


今回は王虎の牙のみんなで、海を思いきり満喫する日常回でした!


まさに「夏休み!」というような一日を書けて、とても楽しかったです!


次回からは建国も少しずつ本格化していきます。


次回もよろしくお願いします!

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