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第30話 港の防衛戦

巨大な蛸の魔獣は咆哮を上げた。


「ギャアアアアアッ!!」


次の瞬間、一本の巨大な蛸足が勢いよく振り下ろされた。


狙いは港。


木材で造られた桟橋だ。


「まずい!」


ガロンが叫ぶ。


ガンテツは目を見開いた。


「これはいかん!」


「港が壊れちまう!」


巨大な鉄球《震天》の鎖を握り締める。


一気に踏み込んだ。


「《豪砕撃》!!」


轟ッ!!


凄まじい勢いで振り抜かれた《震天》が蛸足へ直撃する。


ドゴォォン!!


巨大な蛸足が弾き飛ばされた。


そのまま浜辺へ叩きつけられる。


ズドォォォン!!


砂煙。


大地が激しく揺れた。


「今!」


俺は忍者刀《朧》を抜き放つ。


一気に駆け出す。


浜辺へ叩きつけられた蛸足。


そこへ飛び込んだ。


「《朧斬》!」


一閃。


鋭い斬撃が巨大な蛸足を深く切り裂いた。


紫色の体液が飛び散る。


「ギャアアアアッ!!」


巨大な蛸の魔獣が苦悶の咆哮を上げた。


その様子を見据えながら。


バレットは静かに弓《流星》を構える。


「アークスキルーー」


淡い魔力が矢へ集束していく。


「《魔法付与エンチャント・マスター》」


矢が眩く輝いた。


「《貫通付与ペネトレイト・ショット》」


弦を引く。


狙うのは巨大な蛸の眼。


「そこだ!」


指が離れる。


ヒュンッ!!


魔力を纏った矢が一直線に空を切り裂いた。


そして。


グシャァッ!!


巨大な眼球へ深々と突き刺さる。


それでも止まらない。


貫通の力を宿した矢は眼球を突き抜け。


そのまま頭部まで貫いた。


「ギャアアアアアアッ!!」


絶叫。


巨大な蛸が激しく身体を揺らす。


次の瞬間、無数の触腕が一斉に暴れ始めた。


ドゴォォン!!


ドォォン!!


巨大な触腕が海面を叩く。


高波が巻き起こり。


港へ押し寄せる。


「暴れ始めたぞ!」


ガンテツが叫ぶ。


「気を付けて!」


俺は《朧》を構え直す。


直後。


巨大な触腕が横薙ぎに迫った。


「っ!」


地面を蹴る。


頭上を巨大な蛸足が通過した。


風圧だけで身体が持っていかれそうになる。


着地。


だが。


すぐに次。


「ガウ!」


バレットの声。


「分かってる!」


振り向く。


真上。


別の触腕が迫っていた。


俺は地面を蹴る。


「《影走》!」


一瞬でその場から離脱する。


直後。


ズドォォン!!


さっきまで立っていた場所が抉れた。


「危な……!」


止まる暇はない。


さらに一本。


「おらぁ!」


ガンテツが前へ出る。


鎖を振るう。


《震天》が触腕へ激突した。


ドゴォン!!


軌道が逸れる。


「数が多すぎるぞ!」


八本。


いや。


すでに何本か傷つけている。


それでも。


一本一本が巨大だ。


しかも本体は海の中。


こちらから近づくことが難しい。


「海の中じゃ攻めづらい……!」


俺は《朧》を構えながら海を見る。


足場がない。


近接戦闘では圧倒的に不利だ。


バレットも舌打ちした。


「ちっ!」


矢を放つ。


一本。


二本。


三本。


次々と巨大蛸へ突き刺さる。


だが。


身体が大きすぎる。


多少の傷では止まらない。


「せめて本体へ近づければ……!」


その時だった。


「楽しそうなことしてるッスね」


「……?」


聞き慣れた軽い声。


上。


全員が空を見上げた。


銀色の液体金属。


その上に立ち。


空中を滑るようにこちらへ向かってくる青年。


「サイオン!」


俺が声を上げる。


「おっ!」


ガンテツが豪快に笑った。


「ちょうどいいところに来たな!」


「手伝え!」


「了解ッス」


サイオンは口元に笑みを浮かべる。


眼下。


巨大な蛸を見る。


「ずいぶんデカい蛸ッスね」


「大物退治なら任せるッスよ」


足元の流銀が加速する。


一気に巨大蛸の頭上へ。


「ギャアアアアッ!!」


巨大蛸がサイオンへ触腕を伸ばした。


「遅いッス」


身体を傾ける。


流銀が空中で軌道を変えた。


巨大な触腕の横をすり抜ける。


そのまま上空へ。


「いくッスよ!」


周囲の流銀が一斉に分裂した。


形を変える。


一本。


十本。


さらに。


無数の銀槍へ。


「《流銀槍》!」


腕を振り下ろす。


瞬間。


銀の槍が一斉に降り注いだ。


ザシュッ!


ザシュッ!


ザザザザザッ!!


四方八方。


巨大蛸の頭部。


触腕。


胴体。


次々と銀槍が突き刺さる。


「ギャアアアアッ!!」


巨大蛸が暴れる。


触腕がサイオンへ襲いかかった。


「サイオン!」


バレットが弓を構える。


矢へ魔力。


爆破付与エクスプロージョン・ショット》」


放つ。


ヒュンッ!!


触腕へ命中。


ドォォォン!!


爆発。


巨大な触腕が根元から吹き飛んだ。


海へ落下する。


「ナイスッス!」


「まだ来るぞ!」


別の触腕。


今度は二本。


左右からサイオンを挟み込む。


「サイオン!」


「大丈夫ッス!」


流銀が急降下。


二本の触腕が空中で激突した。


バシィィン!!


「うわ……」


俺は思わず声を漏らす。


「飛べるっていいな」


空から攻撃できる。


空中で自由に移動できる。


正直。


かなり羨ましい。


「ガウ!」


バレットの声。


「余所見するな!」


「分かってる!」


目の前。


蛸足。


《朧》を構える。


踏み込む。


「《瞬牙》!」


一瞬。


身体が加速する。


触腕の横を駆け抜け。


斬撃。


ザシュッ!!


深い傷。


「ギャアアッ!!」


「効いてる!」


でも。


まだ足りない。


その時。


上空。


サイオンが両手を広げた。


周囲に散っていた流銀が一斉に集まっていく。


「そろそろ」


笑う。


「デカいのいくッスよ!」


銀色の液体金属が収束。


形を作る。


一本の巨大な槍。


先端が鋭く尖る。


そして。


回転。


キュィィィィン!!


空気を切り裂く音。


「《流銀穿槍》!!」


腕を振り下ろした。


巨大な銀槍が一直線に落下する。


ドシュゥゥゥッ!!


「ギャアアアアアアッ!!」


巨大蛸の胴体を貫いた。


銀槍はそのまま身体を突き抜け。


海面へ激突する。


ドォォォン!!


巨大な水柱が上がった。


「やったか!?」


ガンテツが叫ぶ。


「……」


俺は巨大蛸を見る。


大きな穴。


紫色の体液。


身体が大きく揺れる。


そして。


ゆっくりと。


海へ沈み――。


「ギャアアアアアアアアッ!!」


「まだ!?」


巨大蛸が再び暴れ始めた。


先ほどまでとは違う。


明らかに動きが荒い。


死に物狂い。


残った触腕が一斉に持ち上がった。


「まずいッス!」


サイオンが叫ぶ。


触腕の狙い。


俺たちじゃない。


その向こう。


「港……!」


桟橋。


漁船。


そして。


避難している住民たち。


巨大蛸は最後の力で港そのものを破壊しようとしている。


「させるか!」


俺は走る。


「ガンテツ!」


「おう!」


巨大な触腕が振り下ろされる。


俺は《朧》を握る。


「《狼牙連斬》!!」


連撃。


一撃。


二撃。


三撃。


四撃。


無数の斬撃を叩き込む。


触腕の勢いが僅かに落ちた。


そこへ。


「おらぁぁぁぁ!!」


《震天》。


ガンテツが全力で振り抜く。


ドゴォォン!!


巨大な触腕が弾かれる。


だが。


まだある。


「こっちは任せるッス!」


サイオンが流銀を広げる。


銀の壁。


触腕へ絡みつく。


「止まれぇぇぇッス!!」


流銀が触腕を拘束する。


ギシギシと軋む。


「ぐっ……!」


サイオンの身体が僅かに沈む。


「重いッス……!」


それでも。


止める。


「バレット!」


俺は叫ぶ。


「今!」


「……」


返事はなかった。


バレットは。


静かに立っていた。


弓《流星》を握り。


巨大な蛸を見据えている。


「……」


その目はどこか遠くを見ているようだった。



海。


船。


そして。


巨大な影。


あの日。


突然現れた巨大な蛸。


船は壊された。


荷物も。


食料も。


何もかも海へ消えた。


必死に抵抗した。


だが一人ではどうにもならなかった。


最後は海へ投げ出され。


気がつけば知らない浜辺へ流れ着いていた。


何もなかった。


帰る場所も。


仲間も。


これからどうするかさえ。


分からなかった。


でもそこで出会った。


《王虎の牙》。


たると。


ガウ。


ハヤテ。


ゴウマ。


リンファ。


シズク。


セリア。


仲間たち。


そして今では帰る場所までできた。


「……」


バレットは静かに息を吐く。


「あの時は」


弓《流星》を構える。


「何も守れなかった」


巨大蛸が暴れる。


ガウたちが必死に触腕を止めている。


その向こう。


港。


住民。


街。


自分が帰る場所。


「でも」


矢を番える。


「今は違う」


魔力が集まる。


「アークスキル」


弓《流星》が淡く輝いた。


「《魔法付与エンチャントマスター》」


矢へ。


一つ。


「《貫通付与ペネトレイト》」


さらに。


「《加速付与オーバー》」


二つの魔法効果。


矢が激しく震える。


「……」


バレットは弦を限界まで引き絞った。


狙う。


サイオンの《流銀穿槍》によって開けられた傷。


その奥。


巨大蛸の身体。


「ここは俺たちが帰る場所だ」


小さく呟く。


「《弾丸暴走オーバードライブ・ショット!》」


指を離す。


ヒュンッ!!


矢が消えた。


いや速すぎて見えなかった。


一瞬。


巨大蛸の傷口へ到達。


ドシュッ!!


矢が突き刺さる。


貫通。


さらに加速。


肉を。


骨を。


身体の奥を一直線に突き抜ける。


そして。


巨大蛸の反対側から。


光が飛び出した。


「――俺が守る」


静寂。


巨大蛸の動きが。


止まった。


「……」


一本。


また一本。


持ち上がっていた触腕が海へ落ちる。


ドボン。


ドボン。


最後に。


巨大な身体がゆっくりと傾いた。


「ギャ……ァ……」


小さな断末魔。


そして。


ぷかり。


巨大蛸の亡骸が海面へ浮かび上がった。



「……」


誰も動かない。


数秒。


俺は《朧》を下ろした。


「終わった……?」


サイオンが巨大蛸を見る。


「みたいッスね」


ガンテツが豪快に笑う。


「はっはっは!」


「やったな!」


俺はバレットを見る。


「バレット」


「……」


バレットはしばらく巨大蛸を見つめていた。


そしてゆっくりと弓《流星》を肩へ担ぐ。


「借りは返した」


その顔はどこか晴れやかだった。


「それにしても」


俺は空中に浮かぶサイオンを見上げた。


「飛行能力って良いな」


「だから違うッスよ」


サイオンが苦笑する。


「え?」


「おいらは飛べないッス」


ガンテツが首を傾げた。


「いや」


「飛んでるじゃないか」


「最後まで聞くッス!」


サイオンは人差し指を立てる。


足元。


銀色の液体金属を指差す。


「おいらのアークスキル《流銀念動サイコメタル》は自分が生成した流銀しか操れないッス」


「うん」


「それで?」


「この流銀を装備に組み込んで」


足元の流銀が僅かに動く。


「念動力で動かしてるだけッス」


「……」


俺は首を傾げる。


「つまり?」


「おいら自身が飛んでるんじゃなくて」


「流銀を操って飛んでるようにしてるッス」


「なるほど」


俺は素直に感心する。


「能力を工夫して飛べるようにしたんだ」


「そういうことッス」


サイオンは照れくさそうに笑った。


「結構練習したッスよ」


「最初は?」


「落ちまくったッス」


「やっぱり」


「笑わないでほしいッス!」


その時。


「もう大丈夫でしょうか?」


声。


振り返る。


避難していたガロンたちNPC住民が港へ戻ってきていた。


ガロンは海に浮かぶ巨大蛸を見る。


目を丸くした。


「倒されたのですか!?」


「うん」


俺は頷く。


「もう大丈夫だよ」


「……よかった」


ガロンは胸を撫で下ろした。


そして俺たちへ深く頭を下げる。


「皆様」


「本当にありがとうございました!」


「皆様のおかげで」


港を見る。


桟橋。


船。


多少砂浜は荒れている。


でも。


大きな被害はない。


「港も無事です」


「本当にありがとうございます!」


「気にすんな!」


ガンテツが笑う。


「俺たちの街だからな!」


「……」


ガロンが顔を上げる。


嬉しそうに笑った。


「はい!」


その時。


俺は浜辺を見る。


「……あ」


「どうした?」


バレットが尋ねる。


俺は指差した。


「魚」


「……」


戦闘前。


大漁だった魚。


浜辺。


網。


籠。


あちこちに散らばっている。


でも。


「流されてない」


ガロンも目を見開く。


そして満面の笑み。


「皆様!」


振り返る。


「魚を回収しましょう!」


「せっかくの大漁です!」


「おおーっ!」


NPC住民たちが一斉に動き出した。


網。


籠。


魚。


次々と拾っていく。


バレットも近くの魚籠を持ち上げた。


「手伝おう」


「おう!」


ガンテツは巨大な網を軽々と担ぐ。


「力仕事なら任せろ!」


「自分もやるッス!」


サイオンも地面へ降りる。


俺も魚籠を持ち上げた。


「さて」


港を見る。


戦いの痕跡は残っている。


砂浜には大きな穴。


海には巨大な蛸。


でも聞こえてくるのは笑い声だった。


「今日は魚料理ですね!」


ガロンが嬉しそうに言う。


「楽しみだね」


「ガウ」


バレットが横から声を掛けてくる。


「ん?」


海を見る。


巨大な蛸の亡骸。


「……あれも食えると思うか?」


「……」


俺は巨大蛸を見る。


ものすごく大きい。


「蛸だし」


「食べられるんじゃない?」


「よし」


「え?」


バレットが笑う。


「俺の船を壊した分だ」


弓《流星》を肩へ担ぐ。


「今夜はあいつを肴にしてやる」


「食べる気満々なんだ」


「当然だ」


「はっはっは!」


ガンテツが会話を聞いて笑った。


「そいつはいい!」


「今日は蛸祭りだな!」


「そんな祭りあるの?」


「今作ればある!」


無茶苦茶だ。


「蛸焼き!」


「蛸の串焼き!」


「煮込みもいいな!」


「おいら刺身がいいッス!」


「生で食べるの?」


「新鮮ッスよ?」


「魔獣だよ?」


「……」


サイオンが止まった。


「火を通すッス」


「そうした方がいいと思う」


笑い声。


少し前まで。


命懸けで戦っていたのが嘘みたいだ。


でも。


これでいい。


戦って。


守って。


終わればまたいつもの日常へ戻る。


俺は港から街の方角を見る。


あそこには皆が帰る家がある。


食事をする場所がある。


笑い合う仲間がいる。


守れてよかった。


本当にそう思った。


「ガウ!」


「魚運ぶぞ!」


「今行く!」


俺は魚籠を抱え直す。


港には再び、いつもの活気ある声が響き始めていた。

第30話を読んでいただきありがとうございます!


今回は港を襲った巨大蛸との防衛戦。


そして、かつて船を壊されたバレットがついに因縁の相手へリベンジを果たしました!


一人で漂流していた頃とは違い、今のバレットには仲間も帰る場所もあります。


最後はまさかの蛸祭りになりそうですが……美味しいんですかね……w


次回もお楽しみに!

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