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第27話 白銀戦線の決断

朝。


まだ街づくりの作業が始まる前。


集会場には六十名のプレイヤーが集まっていた。


《白銀戦線》。


ギルドマスターのアイス。


サイオン。


エルナ。


グレイ。


ミーナ。


ロイド。


そして共に戦ってきた仲間たち。


普段なら朝食を終えれば、それぞれが自分の持ち場へ向かう時間だ。


道路整備。


住居建設。


畑。


警備の補助。


資材運搬。


今では彼らも当然のようにこの街の仕事へ参加している。


だが今日は違った。


六十人全員が集会場にいる。


正面にはアイス。


その隣にはサイオンが立っていた。


「……」


いつもより少しだけ静かだ。


何か重大な話がある。


全員がそれを察しているのだろう。


やがてアイスがゆっくりと立ち上がった。


「皆に話がある」


静かな声。


それだけで。


室内から僅かに残っていたざわめきが消えた。


「僕たちは今」


アイスは仲間たちを見渡す。


「この街で生活している」


「《王虎の牙》と同盟を結び」


「住居を借り」


「食事を共にして」


「そして」


僅かに笑う。


「毎日一緒に街を作っている」


何人かが笑った。


「確かに」


「昨日も石材運んでたな」


「俺なんてずっと道路だぞ」


「俺もッス」


サイオンがすぐに手を挙げる。


「というか最近」


頭を掻く。


「《白銀戦線》の仕事なのか《王虎の牙》の仕事なのか」


「もう全然分からないッスね~」


小さな笑いが広がった。


アイスも口元を緩める。


「僕もそう思う」


そして少しだけ表情を落ち着かせた。


「一度」


「皆ときちんと話しておきたい」


空気が変わる。


アイスは一度。


目を閉じた。


「《白銀戦線》は」


ゆっくりと言葉を選ぶ。


「《深淵の剣》との戦いで拠点を失った」


「……」


笑いが消える。


あの日。


彼らが暮らしていた場所は《深淵の剣》によって壊された。


家。


設備。


物資。


仲間たちが共に築いてきた拠点。


帰る場所。


その多くを失った。


「僕たちは」


アイスは続ける。


「《王虎の牙》と同盟を結び」


「共に《深淵の剣》と戦った」


「もし」


一度言葉を切る。


「あの時」


「彼らがいなければ僕たちは今ここにいなかった可能性もある」


誰も否定しない。


事実だった。


サイオンが少しだけ苦笑する。


「お世話になりっぱなしッスよね~」


「拠点まで使わせてもらって」


「飯まで食わせてもらって」


「仕事まで一緒にして」


「最近じゃ」


少し笑う。


「普通に帰ってきた時『ただいま』って言ってるッス」


「……」


その言葉に何人かが顔を見合わせた。


「俺もだ」


グレイが腕を組む。


「昨日狩りから戻った時」


「普通に言ったな」


「私も」


ミーナが笑う。


「もう癖になってるかも」


ロイドも頷いた。


「……門を見たら帰ってきたって思う」


「……」


アイスはそんな仲間たちの言葉を静かに聞いていた。


そして。


「だから」


真っ直ぐ全員を見る。


「今日は」


「《白銀戦線》のこれからを決めたい」


静寂。


誰もすぐには言葉を発さなかった。


《白銀戦線》。


ただの名前ではない。


共に戦ってきた。


共に生き延びてきた。


何度も危険な場所へ向かい。


何度も仲間を支え。


その名の下で歩いてきた。


簡単に捨てられるものではない。


やがて一人の男が立ち上がった。


マルク。


「アイスさん」


「うん」


「俺は……」


少しだけ笑う。


「もう答えは出てると思います」


アイスが静かに彼を見る。


マルクは周囲を見る。


「俺たち」


一度。


言葉を探す。


「もう《王虎の牙》の仲間ですよね」


「……」


僅かに室内の空気が柔らかくなった。


「毎日一緒に街を作って」


「一緒に飯食って」


「仕事が終われば馬鹿話して」


「困ってる奴がいれば普通に手伝う」


笑う。


「今さら」


「別のギルドって言われても」


「正直」


頭を掻いた。


「変な感じがします」


「分かるッス」


サイオンがすぐに手を挙げた。


「おいらも同じッスよ」


「昔はちゃんと」


指を立てる。


「《白銀戦線》!」


もう一本。


「《王虎の牙》!」


「って分けて考えてたんスけど」


腕を組む。


「今じゃたるとさんに頼まれたら普通に働いてるッス」


「……それは前からだろ」


グレイが突っ込む。


「そうでしたッス!」


笑いが起きる。


「でも」


今度はレナが立ち上がった。


「私も」


穏やかに笑う。


「ここが」


一度言葉を切る。


「今の居場所だと思っています」


「……」


「前の拠点が嫌だったわけじゃありません」


「むしろ」


少しだけ表情を曇らせる。


「大好きでした」


誰も茶化さない。


「皆で作った場所でしたから」


「なくなった時は」


「本当にもう帰る場所がないと思いました」


俯く。


だがすぐに顔を上げた。


「でもここへ来て」


「また」


少し笑う。


「帰ってきたって思えるようになったんです」


「だから私はここに残りたいです」


静かな声。


だけど迷いはなかった。


その言葉に。


一人。


エルナも小さく手を挙げた。


「私も」


「エルナ」


アイスが見る。


エルナは少し緊張した様子で立ち上がった。


「私も……」


一度。


視線を落とす。


「ここに残りたいです」


「《白銀戦線》は大切です」


「私が今まで生きてきた場所ですし」


「皆さんと一緒に戦ってきたことも」


「絶対に忘れられません」


そして顔を上げた。


「でも」


ほんの少し。


頬が緩む。


「今」


「私が帰りたいと思う場所はここです」


「これからも」


胸の前で手を握る。


「皆さんと一緒に」


「この街で暮らしたいです」


「……」


アイスは静かに頷いた。


「ありがとう」


その後も次々と声が上がった。


「俺も残る」


「私も」


「もうここが家みたいなもんだしな」


「また一から別の拠点作る気にもならないし」


「それは理由としてどうなんだ?」


「正直でいいだろ!」


笑いが起こる。


一人。


また一人。


意思を示していく。


誰一人。


反対しなかった。


やがて六十人全員。


その答えは同じになった。


「……そうか」


アイスは静かに息を吐いた。


そして少しだけ笑った。


「皆」


「同じ気持ちだったんだな」


「アイスさんもッスよね?」


サイオンが笑う。


「……」


アイスは少しだけ目を細めた。


「ああ」


短く答える。


「僕もだ」


その言葉に室内に穏やかな笑みが広がった。


だが。


アイスは一度《白銀戦線》の仲間たちを見渡す。


「ただ」


皆が静かになる。


「一つだけ」


「忘れないでほしい」


「《白銀戦線》は」


ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「僕たちがここまで歩いてきた証だ」


「……」


「この名前で」


「笑った」


「戦った」


「負けた」


「助け合った」


「拠点を作った」


「大切な時間を過ごした」


視線を落とす。


「だから」


「《白銀戦線》というギルドがなくなったとしても」


再び顔を上げる。


「僕はこの名前を忘れるつもりはない」


「……」


「僕たちが一緒に歩いてきた時間までなくなるわけじゃないからな」


静寂。


そして。


「当たり前ッス!」


サイオンが笑った。


「忘れるわけないじゃないッスか!」


「そうだな」


グレイも頷く。


「……名前が変わるだけだ」


ミーナが笑う。


「仲間まで変わるわけじゃないもの」


「その通りだ」


ロイドも頷いた。


アイスは少しだけ安心したように笑った。


「なら」


一度。


全員を見る。


「決めよう」


「今日」


「僕たち《白銀戦線》は」


静かに。


だが。


確かな声で。


「《王虎の牙》へ加入する」


誰も迷わなかった。


「はい!」


「おう!」


「了解ッス!」


声が重なる。


長く共に歩いてきた《白銀戦線》。


その名前はここで一つの区切りを迎える。


だけど終わるわけじゃない。


そこで築いたものを持ったまま。


次の場所へ進む。


そのための決断だった。



午後。


集会場。


そこには《王虎の牙》の主要メンバーが集まっていた。


たると。


俺。


ハヤテ。


ゴウマ。


リンファ。


シズク。


セリア。


バレット。


ガンテツ。


ドラン。


ノエル。


ヨミ。


モルフォ。


他にも何人か。


その正面には。


アイス。


サイオン。


そして《白銀戦線》の仲間たち。


全員が入れるわけではないため代表者を中心に集まっている。


「今日は」


アイスが一歩前へ出る。


「相談がある」


たるとはいつもより少しだけ真面目な顔で頷いた。


「はい!」


「何でしょうか?」


アイスは一度、後ろを見る。


サイオンたちが頷く。


そしてたるとへ向き直った。


「先ほど」


「《白銀戦線》全員で話し合った」


集会場が静かになる。


俺も何となく次の言葉を察した。


アイスは真っ直ぐたるとを見る。


「僕たち《白銀戦線》は」


一拍。


「正式に《王虎の牙》へ加入させてもらいたい」


「……」


数秒。


たるとの動きが止まった。


「……え?」


虎耳がぴくりと動く。


「えぇっ!?」


予想以上の大声。


「本当ですか!?」


「本当だ」


アイスが笑う。


「六十人全員で決めた」


「……」


たるとはしばらくアイスを見つめていた。


信じられない。


そんな顔。


そして。


「……いいんですか?」


先ほどより小さな声になった。


「《白銀戦線》はアイスさんたちにとって大切なギルドですよね?」


「ああ」


アイスは迷わず頷く。


「大切だ」


「今でも」


「これからも」


「僕たちにとって大切な名前だ」


「だったら……」


「でも」


アイスが続ける。


「名前を大切にすることと」


「新しい場所へ進むことは」


「別だと思っている」


「……」


「僕たちは《白銀戦線》としてここまで生きてきた」


「その時間を捨てるつもりはない」


一度。


街の外へ視線を向ける。


壁の向こう。


今も街づくりの音が聞こえている。


「だけど」


「これから僕たちが守りたい場所は」


「ここだ」


「……」


たるとの目が僅かに揺れる。


「《王虎の牙》と一緒に」


アイスは続ける。


「この街を作りたい」


「ここで暮らしたい」


「外へ行ったら」


少し笑う。


「またここへ帰ってきたい」


「だから」


たるとを見る。


「正式に同じギルドの仲間になりたい」


「……」


たるとの虎耳がゆっくりと立った。


そして。


「……はい!」


満面の笑み。


「もちろんです!」


勢いよく頷く。


「というか!」


「私たちはとっくに仲間だと思ってました!」


「……」


今度はアイスが少し目を丸くした。


「そうなのか?」


「はい!」


即答。


「毎日一緒にいますし!」


「一緒にご飯食べてますし!」


「一緒に街作ってますし!」


「何かあったら一緒に戦います!」


胸を張る。


「もう仲間じゃない理由がありません!」


「それはそうだね」


俺も頷く。


「今さら」


ハヤテも笑う。


「別ギルドですって言われても変な感じだよな」


「だな」


バレットが腕を組む。


「俺も普通に仲間として見てたわ」


「はっはっは!」


ガンテツが豪快に笑う。


「飯も一緒!」


「仕事も一緒!」


「戦う時も一緒!」


「だったらもう同じようなもんだろ!」


「ガンテツ」


リンファが苦笑する。


「正式に形にすることも大切よ」


「あ?」


「これから街が大きくなれば」


「誰がどこに所属しているのか」


「責任の所在も必要になるでしょう?」


「……なるほど!」


「今理解したのね」


「細けぇことは苦手だ!」


堂々と言う。


「でも」


リンファはアイスへ向き直る。


穏やかに笑う。


「私は嬉しいわ」


「改めて」


一度、言葉を置く。


「ようこそ」


「《王虎の牙》へ」


「……ありがとうございます」


アイスも静かに笑った。


「これからは同じギルドの仲間としてこの場所を守っていく」


「はい!」


たるとが勢いよく返事をする。


「一緒に!」


拳を上げる。


「もっともっと素敵な街にしましょう!」


「おう!」


ハヤテが返す。


「当然ッス!」


サイオンも笑った。


「僕たちも協力する」


アイスが頷く。


その時。


「じゃあ」


俺は少し後ろにいたエルナを見る。


「エルナも今日から同じギルドだね」


「……!」


エルナの身体が僅かに跳ねた。


「は、はい!」


エルナの背筋が一気に伸びる。


「これからもよろしくね」


俺が笑う。


「……っ!」


エルナの顔が少し赤くなった。


「はい!」


勢いよく頭を下げる。


「よろしくお願いします!」


「……?」


そこまで緊張しなくても。


「エルナ?」


「だ、大丈夫です!」


「まだ何も聞いてないけど」


「大丈夫です!」


よく分からない。


「……」


少し離れた場所でリンファが口元を押さえている。


たるとも何故かにこにこしていた。


「何?」


「なんでもないです!」


「そう?」


まあいいか。



「それでは!」


たるとが改めて。


アイスたちへ向き直った。


「《白銀戦線》の皆さん!」


一度。


言葉を止める。


「いえ」


少しだけ照れくさそうに笑う。


「これからは」


「《王虎の牙》の皆さんですね!」


「……」


その言葉にアイスが少しだけ目を細めた。


サイオン。


エルナ。


グレイ。


ミーナ。


ロイド。


そして。


ここまで共に歩いてきた仲間たち。


全員の表情が少しずつ緩んでいく。


「改めまして!」


たるとは深く頭を下げた。


「これからよろしくお願いします!」


「こちらこそ」


アイスも頭を下げる。


「よろしくお願いします」


「よろしくッス!」


「よろしくお願いします!」


声が重なる。


ハヤテがその様子を見ながら苦笑した。


「やっぱ堅いな」


「もうずっと一緒に暮らしてるだろ」


「けじめッスよ」


サイオンが肩をすくめる。


「こういうのはちゃんとやっとくもんッス」


「そういうものか?」


「多分ッス」


「多分かよ!」


また笑いが起きる。


「よし!」


突然。


ガンテツが立ち上がった。


「祝いだ!」


「宴だ!」


「まだ昼ですよ?」


ノエルが呆れたように言う。


「祝い事に時間など関係あるか!」


「あります」


「即答!?」


「作業がありますので」


「ぐぬ……」


ガンテツが黙った。


「夜まで我慢してください」


「……分かった」


少ししょんぼりしている。


「子供か」


バレットが笑う。


「うるせぇ!」


笑い声が広がった。


俺はその光景を見ながらふと思う。


昨日までと何かが劇的に変わったわけじゃない。


アイスたちは昨日もここにいた。


一緒に働いていた。


一緒に食事をしていた。


一緒に笑っていた。


明日もきっと同じだ。


だけど。


一つだけ。


確かに変わった。


《白銀戦線》。


《王虎の牙》。


二つに分かれていた名前が。


今日一つになった。


それだけ。


でも。


きっと。


大きなことだ。


「ガウ?」


たるとがこちらを見る。


「どうしました?」


「いや」


少し笑う。


「仲間が増えたなって」


「はい!」


たるとも嬉しそうに笑った。


「六十人も増えました!」


「人数の話?」


「それもあります!」


やっぱりか。


「でも」


たるとは少しだけ表情を柔らかくする。


「ずっと一緒にいた人たちが」


「正式に家族になったみたいで」


「すごく嬉しいです」


「……そうだね」


俺も頷いた。


《白銀戦線》という名前がなくなるわけではない。


彼らが歩いてきた時間の中にこれからも残り続ける。


でも。


これから。


彼らが帰ってくる場所は。


俺たちと同じ。


外へ出て。


戦って。


疲れて。


そして帰ってくる。


その場所はここだ。


同じ街。


同じギルド。


同じ仲間。


その日《白銀戦線》六十名は正式に《王虎の牙》へ加入した。


一つのギルドが終わった日ではない。


二つの道が一つに重なった日。


そして。


俺たちの帰る場所がまた少しだけ賑やかになった日だった。

第27話を読んでいただきありがとうございます!


今回は《白銀戦線》が大きな決断をしました。


これまで歩いてきた《白銀戦線》としての時間を大切にしながら、これからは《王虎の牙》の仲間として同じ道を歩いていきます。


もともと一緒に暮らしていたので今さら感もありますが、これで正式に一つのギルドになりました!


これからさらに賑やかになっていきそうです。


次回もお楽しみに!

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