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第26話 警備隊の誕生

外壁の完成から数日後。


今日も朝から各所で作業音が響いていた。


住居の建設。


道路の整備。


畑の拡張。


研究施設の準備。


外壁が完成したからといって、街づくりそのものが終わったわけではない。


むしろ。


ここから先の方がやるべきことは多い。


「そこ、石材が足りていないぞ!」


「今持っていきます!」


「木材はこっちだ!」


いつもの声が飛び交う。


俺はそんな街の中を歩きながら周囲を見渡した。


以前よりも家は増え、道らしい道も少しずつ整備されている。


外壁の向こうでは、見張り台の建設も始まっていた。


確実にここは変わり続けている。


ただ。


街が大きくなれば。


当然。


新たに必要となるものも増えていく。


外壁。


防御結界。


それだけでは街を守ることはできない。


外部から訪れる者を確認する人員。


街の内部を巡回する人員。


異常が発生した際に即応できる人員。


つまり。


街そのものを維持・防衛するための組織。


そのために一つの新たな動きが始まろうとしていた。



「集まってくれ」


ゴウマの声が響く。


場所は集会場の前。


そこには二十三名のプレイヤーが集まっていた。


かつて。


《深淵の剣》に所属していた者たち。


現在はこの街で暮らし、建築や農作業を手伝いながら、他の住民と同様に生活している。


その先頭にはアレン。


隣にはダリオの姿もあった。


「……」


二十三人の表情はやや硬い。


突然、ゴウマから全員招集がかかったためだろう。


「ゴウマさん」


アレンが一歩前へ出た。


「我々に何かご用でしょうか?」


「ああ」


ゴウマは腕を組んだまま頷く。


その隣にはたると。


俺。


アイス。


そしてノエルもいる。


ゴウマが二十三人を見渡した。


「君たちに任せたい仕事がある」


その瞬間、空気がわずかに張り詰めた。


数人が顔を見合わせる。


アレンも表情を引き締めた。


「仕事……ですか?」


「ああ」


ゴウマは静かに告げる。


「この街の警備だ」


「……」


一瞬、誰も反応しなかった。


そして。


「……我々が?」


アレンが問い返す。


「ああ」


「君たち二十三人に」


ゴウマは真っ直ぐ彼らを見据えた。


「街の警備隊を任せたい」


ざわめきが起こる。


「警備隊……」


「俺たちが……?」


「本当に?」


驚くのも無理はない。


つい最近まで彼らは《深淵の剣》の一員だった。


この世界で多くのプレイヤーから恐れられていた犯罪ギルド。


その元構成員に街の安全を委ねる。


容易な判断ではない。


ゴウマもそれを理解している。


だからこそ、言葉を続けた。


「君たちがここへ来てから俺たちはずっと見てきた」


ざわめきが止まる。


「最初は戸惑いもあっただろう」


「周囲からどう見られているか」


「ここにいていいのか」


「そう考えていた者もいるはずだ」


何人かがわずかに俯いた。


アレンも拳を握る。


「君たちはかつて《深淵の剣》にいた」


ゴウマの声は変わらない。


「その事実は消えない」


「……」


空気が重くなる。


だが、ゴウマは責めているわけではなかった。


ただ事実を事実として述べているだけだ。


「中にはゼノスたちに逆らえず」


「強制されていた者もいる」


「だが」


一度、言葉を切る。


「だからといって」


「そこで行われていたことのすべてがなかったことになるわけでもない」


「……はい」


アレンが小さく答えた。


その声は苦しげだった。


「分かっています」


「俺たちの過去は……」


一度、視線を落とす。


「消えません」


ダリオも静かに俯いている。


「しかし」


ゴウマが続ける。


「俺たちが見ているのは過去だけではない」


アレンが顔を上げた。


「ここに来てから」


「君たちは働いた」


「住居を作った」


「資材を運んだ」


「畑を手伝った」


「街の住民とも少しずつ関わるようになった」


「何より」


ゴウマは一人一人を見渡す。


「自分たちの過去から逃げようとはしなかった」


「……」


「過去を認めたうえでこれからどう生きるのか」


「それを考えようとしている」


わずかに、アレンの目が揺れた。


「だから」


ゴウマが一歩前へ出る。


「俺たちは君たちを信じてみようと思う」


「……!」


「この街の警備を君たちに任せたい」


静寂。


誰もすぐには言葉を返せなかった。


俺は二十三人を見た。


驚いている者。


俯いている者。


唇を噛んでいる者。


その中でアレンは拳を強く握っていた。


「……どうして」


掠れた声。


「どうして我々なんですか?」


ゴウマは少しだけ考えた。


「理由はいくつかある」


一つ、指を立てる。


「まず君たちは戦える」


「……」


「特に対人戦闘の経験が豊富だ」


アイスが言葉を継ぐ。


「《深淵の剣》で得た経験も確かな戦力だ」


アレンたちがアイスを見る。


「街がこれから大きくなれば」


アイスは続ける。


「外部から訪れる人間も増えるだろう」


「魔物への対応だけではなく」


「プレイヤー同士の揉め事」


「犯罪行為」


「侵入者」


「そういった問題も想定しなければならない」


「その時」


一度、二十三人を見渡す。


「対人戦闘を知る君たちの経験は役に立つ」


「……」


皮肉な話かもしれない。


かつて人を傷つけるために身につけた力を、今度は人を守るために使う。


「そしてもう一つ」


ゴウマが続ける。


「君たちは危険な人間がどう動くかを知っている」


その言葉にダリオがわずかに目を見開いた。


「過去を知っているからこそ」


「同じことをさせないためにできることもある」


「俺はそう考えている」


「……」


アレンは長く黙っていた。


そしてゆっくりと頭を下げる。


「……ありがとうございます」


声がわずかに震えていた。


「俺たちに」


「まだ」


一度、息を飲む。


「人を守る役目を任せていただけるとは思っていませんでした」


その後ろで、一人の男が目元を乱暴に拭った。


「俺は……」


拳を握る。


「もう」


「誰かを傷つけるために剣を握りたくない」


「今度は」


顔を上げる。


「守るために使いたいです」


「俺もだ」


「俺も」


次々と声が上がる。


たるとは何も言わずに彼らを見ていた。


そして小さく笑った。


「お願いします」


皆の視線がたるとへ向く。


「この街を」


胸の前で両手を握る。


「一緒に守ってください」


「……はい!」


アレンが力強く頷いた。


「必ず!」


ゴウマが腕を組む。


「正式に決定する」


二十三人の視線が集中する。


「警備隊隊長は――」


一拍。


「アレン」


「……!」


本人が目を見開いた。


「俺が……隊長ですか?」


「ああ」


「待ってください」


アレンは少し慌てた。


「俺より適任の者がいるかもしれません」


「いないとは言わん」


ゴウマは即答する。


「だが」


「俺はお前がいいと思っている」


「……」


「ここへ来てから」


「お前は二十三人の中で誰より周囲を見ていた」


「問題があれば相談し」


「仕事が遅れていれば手を貸し」


「自分たちが孤立しないよう動いていた」


アレンの表情が変わる。


自覚はなかったのだろう。


「そういう人間が」


ゴウマは言う。


「上に立つべきだ」


「……」


「それに」


少しだけ目を細めた。


「過去を知るお前だからこそ」


「同じ道を歩ませないこともできる」


長い沈黙。


そしてアレンは深く頭を下げた。


「……承知しました」


顔を上げる。


その目には、先ほどまでの迷いはなかった。


「警備隊隊長」


「務めさせていただきます」


「必ずこの街を守ります」


ゴウマが頷く。


「頼んだ」


アイスも穏やかに笑った。


「何か問題があればすぐ相談してほしい」


「最初から完璧である必要はない」


「警備隊自体」


「これから作り上げていく組織だからな」


「はい!」


アレンは力強く返事をした。



その日の午後。


完成した城門の前。


二十三人の新しい警備隊が集まっていた。


正面に立つのはアレン。


その少し後ろにダリオ。


外壁の上には見張り台。


その中央に、街への唯一の大きな入口となる城門がある。


「では」


アレンが全員を見る。


「今後の運用について確認する」


二十三人が静かに耳を傾ける。


「まず」


指を立てる。


「城門の警備」


「外部から訪れるプレイヤーの確認」


「街内部の巡回」


「外壁周辺の巡回」


「そして異常発生時の報告」


「現時点ではこの五つを主要任務とする」


「了解」


「分かりました」


アレンは続ける。


「問題を発見した場合」


「一人で抱え込まないこと」


「必ず報告すること」


「相手が危険人物であっても」


「単独で対応する必要はない」


「俺たちは一人ではない」


その言葉に、数人がわずかに笑った。


以前とは違う。


失敗すれば切り捨てられる場所ではない。


困れば仲間を呼んでいい。


「それと」


アレンは少しだけ表情を引き締める。


「俺たちの仕事は」


「住民を威圧することではない」


「……」


「守ることだ」


静かな声。


「そこだけは」


「絶対に間違えるな!」


「はい!」


声が揃った。


その中で、一人だけ城門を見上げたままの男がいた。


「ダリオ?」


アレンが呼ぶ。


「どうした?」


「……いえ」


ダリオは少し笑った。


「不思議だなと思って」


「何がだ?」


ダリオは城門の向こうを見る。


その先には建設中の住居、畑、道、そして行き交う住民たち。


「誰かに」


一度、言葉を探す。


「守ってほしいと頼まれることが」


「……」


アレンは黙って聞く。


「《深淵の剣》にいた頃は」


ダリオの声がわずかに低くなる。


「命令されるだけだった」


「やれと言われたことをやる」


「失敗すれば責められる」


「役に立たなければ切り捨てられる」


「……」


周囲の何人かも静かに俯いた。


「だから」


ダリオは小さく苦笑する。


「今でも不思議に感じる」


「俺たちに」


街へ視線を戻す。


「ここを任せていいのかって」


アレンはしばらく何も言わなかった。


そして。


「俺も同じだ」


「……」


「本当に俺たちでいいのかと思う」


一度、拳を握る。


「でも」


アレンは城門に手を触れた。


「だからこそ」


「やるしかないんだと思う」


ダリオを見る。


「過去は消せない」


「どれだけこの街を守っても」


「俺たちがかつていた場所が消えるわけじゃない」


「モートスで起きたことも」


「《深淵の剣》がやったことも」


「……」


空気がわずかに重くなる。


それでもアレンは顔を上げた。


「だから」


「これを償いだなんて簡単に言うつもりはない」


「ただ」


街を見る。


「これからどうするかは俺たちが選べる」


「……」


ダリオの表情がわずかに変わる。


「もう」


アレンは静かに言った。


「誰かを傷つける側には戻らない」


「今度は」


拳を握る。


「ここを守る」


「それを」


二十三人を見る。


「これからの行動で示していこう」


「……はい」


ダリオが頷く。


「そうだな」


そして他の仲間たちも。


「俺もやる」


「ああ」


「今度こそな」


「俺もこの場所が好きだ!」


少しずつ声が重なった。


アレンはそれを聞いて、わずかに笑った。


「よし」


城門へ向き直る。


「警備隊」


一拍。


「始動だ!」


「おう!」


二十三人の声が完成した城門の前に響いた。



翌日。


「ご報告があります」


集会場にアレンとダリオが並んで立っていた。


その前にはたると。


俺。


ゴウマ。


アイス。


ハヤテ。


シズク。


リンファがいる。


「報告ですか?」


たるとが首を傾げる。


「はい」


アレンが資料を差し出した。


ゴウマが受け取る。


「昨日」


「警備隊二十三名で今後の運用について協議しました」


「まず勤務体制についてです」


資料を指す。


「一日警備を担当した者は翌日を基本的に休養日とします」


「二十三人を複数の班に分け」


「城門」


「巡回」


「夜間警備」


「それぞれを交代制で担当する形にしたいと考えています」


「なるほど」


ゴウマが資料を見る。


「連続勤務を避けるわけか」


「はい」


「警備は短期間で完結するものではありません」


「長期運用を前提とする以上」


「負担の偏りは避けるべきと判断しました」


「いいと思います!」


たるとがすぐに頷いた。


「無理して倒れたら警備できなくなっちゃいますから!」


「休む時はしっかり休んでください!」


「……ありがとうございます」


アレンが少し笑った。


「そうさせていただきます」


「あと」


ゴウマが資料をめくる。


「班ごとの責任者も置くのか?」


「はい」


ダリオが答える。


「夜間警備もあるため」


「隊長一人で全体を把握するのは困難と判断しました」


「問題発生時はまず班責任者へ」


「そこから隊長へ報告する形を想定しています」


アイスが頷く。


「合理的だ」


「人数が増えるほど指揮系統は明確にした方が良い」


「ありがとうございます」


アレンは一度、隣のダリオを見る。


「それと」


「もう一つお願いがあります」


「はい?」


たるとが首を傾げた。


「副隊長についてです」


「副隊長!」


たるとの耳がぴんと立つ。


「はい」


アレンは続ける。


「ダリオを推薦したいと思います」


視線がダリオへ向いた。


ダリオは少しだけ緊張した様子で立っている。


「ダリオとは《深淵の剣》にいた頃から長い付き合いです」


アレンが続ける。


「俺が見落としていることにも気付いてくれる」


「それに」


少しだけ笑った。


「俺に遠慮なく意見を言える人間でもあります」


「隊長を補佐するのであれば」


ダリオを見る。


「彼が最適だと思っています」


「……」


ゴウマもダリオへ視線を向ける。


「ダリオ」


「はい」


「引き受ける意思はあるか?」


その問いに。


ダリオは一度、アレンを見る。


アレンは何も言わない。


ただ静かに頷いた。


「……」


ダリオも小さく息を吐く。


そして。


「はい」


真っ直ぐ前を見る。


「俺でよければ」


一礼。


「副隊長を務めさせていただきます」


「アレンを支え」


「警備隊の仲間たちと共に」


一度言葉を切る。


「この街を守りたいです」


「分かった」


ゴウマが力強く頷いた。


そして二人を見る。


「なら正式に決定だ」


「警備隊隊長」


「アレン」


「はい!」


「副隊長」


「ダリオ」


「はい!」


「これから頼む」


二人は同時に背筋を伸ばした。


「お任せください!」


声が重なる。


「おお!」


たるとが嬉しそうに拍手する。


「隊長と副隊長!」


「本格的になってきましたね!」


「まだ始まったばかりだぞ」


ゴウマが呆れたように返す。


「ですが!」


たるとは嬉しそうだ。


「警備隊ができて!」


「隊長がいて!」


「副隊長もいて!」


指折り数える。


「なんだか一気に街っぽくなった気がします!」


「今までは街じゃなかったのか?」


ハヤテが尋ねる。


「気持ちはずっと街です!」


「気持ちなのかよ!」


「これからもっと街になります!」


よく分からない。


けれど言いたいことは分かる気がする。


外壁。


結界。


住居。


道路。


そして警備隊。


建物だけではなく。


この場所で暮らすための仕組みが少しずつ増えている。


「でも」


たるとが何かを考えるように首を傾げた。


「警備隊って」


「元の世界でいう警察みたいな役割になるんでしょうか?」


「警察?」


ハヤテが眉を上げる。


「犯罪者を捕まえたり?」


「街を巡回したり!」


「困ってる人を助けたり!」


たるとが次々と挙げていく。


「まあ」


アイスが少し考える。


「完全に同じではないだろう」


「この街にはまだ法律と呼べるほど細かな規則もない」


「それに警備隊は外敵への対応も担う」


「そうですね」


シズクが頷いた。


「治安維持と防衛」


「その両方を兼ねた組織と考える方が近いでしょう」


「なるほど……」


たるとの虎耳が小さく動く。


「でも」


アレンを見る。


「街の人たちが困った時に頼れる人たちになるんですよね?」


「……」


アレンは一瞬だけ驚いたような顔をした。


そして。


「はい」


穏やかに答える。


「そうありたいと思っています」


「だったら!」


たるとの表情が一気に明るくなった。


嫌な予感がする。


「警備隊の皆さんに!」


両手を合わせる。


「制服を作りましょう!」


「……制服?」


アレンが目を丸くする。


ダリオも同じだった。


「はい!」


たるとは勢いよく頷く。


「街を守る人たちですから!」


「見ただけで警備隊だって分かった方がいいと思うんです!」


「困った時も制服を着ている人を探せばすぐに頼れます!」


「なるほど」


アイスが頷いた。


「それは悪くない考えだな」


「視認性という意味でも有効だ」


シズクも賛同する。


「住民だけではなく」


「外部から訪れた方にも警備担当者が分かりやすくなります」


「ですよね!」


たるとが胸を張った。


たぶん。


最初からそこまで考えていたわけではない。


「制服か……」


アレンが自分の装備を見る。


現在は普通の冒険者装備。


これでは確かに街中ですれ違ったとしても警備隊だとは分からない。


「良いと思います」


ダリオも頷く。


「城門で外部の方へ対応する際にも身分を示しやすくなるでしょう」


「決まりですね!」


たるとが勢いよく言う。


「では!」


周囲を見る。


「誰に作ってもらいましょう!」


「そこからなのかよ!」


ハヤテが突っ込んだ。


「大事なところです!」


「考えてなかったんだろ?」


「今から考えます!」


やっぱりか。


「制服となると」


ゴウマが腕を組む。


「二十三人分必要になるな」


「……」


たるとが止まる。


「二十三人分……」


「そうだ」


「……結構多いですね」


「今気付いたのか?」


「はい!」


堂々と言うな。


その時。


ハヤテが何かを思い出したように手を叩いた。


「いるじゃん」


「?」


「裁縫得意な奴」


全員が一斉に一人へ視線を向けた。


「……」


リンファ。


しばらく沈黙。


「……私?」


「はい!」


たるとが満面の笑みを浮かべた。


「リンファさん!」


「お願いします!」


「即決なのね……」


リンファは頬へ手を添え、小さく息を吐く。


「二十三人分でしょう?」


「はい!」


「簡単に言ってくれるわね」


「リンファさんならできます!」


「その信頼が重いわ」


思わず笑いが漏れる。


だが。


リンファは本気で嫌がっているわけではなさそうだ。


少し考える。


「そうね……」


アレンたちを見る。


「二十三着すべてを私一人で作るのは時間がかかりすぎるけど」


「裁縫ができる人を何人か集めれば何とかなると思うわ」


「本当ですか!?」


たるとの耳がぴんと立つ。


「ええ」


「型を決めて」


「寸法をある程度統一する」


「そこから各自の体格に合わせて微調整すれば」


「一から全部別々に作るよりは早いでしょうね」


「おお……!」


たるとの目が輝く。


「さすがリンファさん!」


「まだ何も作ってないわよ」


リンファが苦笑する。


そしてアレンとダリオを順番に見る。


「ただ」


少しだけ表情を真剣にした。


「どういう制服にするかは考えた方がいいわね」


「どういう?」


たるとが首を傾げる。


「まず動きやすいこと」


指を立てる。


「警備中に戦闘が発生する可能性がある以上」


「見た目だけを重視するわけにはいかないわ」


「確かに」


アレンが頷く。


「それと」


二本目。


「遠くからでも警備隊だと分かること」


「住民が困った時にすぐ見つけられるように」


「そして」


僅かに間を置いた。


「威圧感が強すぎないこと」


「……」


アレンの表情が変わる。


ダリオも何も言わずリンファを見た。


「街を守る人たちでしょう?」


リンファは穏やかに続ける。


「怖がられるための服じゃない」


「安心して声を掛けてもらえる方がいいと思うわ」


「……そうですね」


アレンが小さく頷いた。


その声には少しだけ感情が滲んでいた。


以前。


彼らが身につけていた《深淵の剣》の装備。


それは人から恐れられる側のものだった。


今度は違う。


誰かが見た時。


逃げるのではなく。


安心して近づける。


そんな姿になる。


「お願いします」


アレンが深く頭を下げる。


「俺たちも」


少し笑った。


「新しい姿で始めたいです」


「……ええ」


リンファも微笑んだ。


「任せて」


「やったー!」


たるとが両手を上げる。


「制服です!」


「隊長!」


「副隊長!」


「警備隊!」


「どんどん街っぽくなってきました!」


「さっきからそれしか言ってないな」


ハヤテが笑う。


「だって嬉しいんです!」


たるとは胸を張る。


「昨日までなかったものが!」


「今日また一つ増えたんですよ!」


「……」


その言葉に俺は少しだけ周囲を見渡した。


確かに。


昨日までなかった。


外壁を守る者。


城門に立つ者。


街を巡回する者。


誰かが困った時。


頼ることのできる者。


街を作るというのは。


建物を増やすことだけじゃない。


そこで暮らす人のために。


役割を作り。


仕組みを整え。


少しずつ日常を支えていくことでもある。


そして。


今回。


その役割を担うことになったのはかつて《深淵の剣》にいた二十三人。


俺はアレンを見る。


隣にはダリオ。


二人とも。


昨日までとは少し違う顔をしていた。


責任。


緊張。


それでもどこか嬉しそうにも見える。


過去はなくならない。


たぶん。


これから先も何かの拍子に思い出すことはある。


自分たちが何をしてきたのか。


どこにいたのか。


それでも。


これから先まで過去だけで決まるわけじゃない。


これから何をするのか。


誰の隣に立つのか。


何を守るのか。


それは自分たちで選べる。


「アレン」


俺は声を掛けた。


「はい?」


「よろしくね」


「……」


一瞬。


目を丸くする。


俺は小さく笑った。


「私たちの街」


「頼むね」


「……はい!」


アレンも笑った。


「任せてください!」


隣でダリオも力強く頷く。


「必ず守ります」


こうして俺たちの街に新しい組織が生まれた。


《警備隊》。


隊長。


アレン。


副隊長。


ダリオ。


そして二十一人の仲間たち。


かつて誰かを傷つける側にいた者たちは。


今。


誰かを守るため。


城門へ立つ。


新しい役割と新しい居場所を胸に彼らの新たな一歩が始まった。

第26話を読んでいただきありがとうございます!


今回は、新たに《警備隊》が誕生しました。


かつて《深淵の剣》にいたアレンたちが、今度は誰かを傷つけるためではなくこの街を守る側へ。


隊長アレン、副隊長ダリオを中心に彼らもまた新しい居場所で一歩を踏み出しました。


そして警備隊の制服も制作決定!

少しずつ街の仕組みも整ってきています。


次回もお楽しみに!

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