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第25話 帰る場所を守るために

決闘から数日後。


朝。


いつもなら作業の声が飛び交う時間。


だが今日は少しだけ様子が違っていた。


「……完成したな」


俺は目の前にそびえる巨大な壁を見上げる。


集落をぐるりと囲む外壁。


長い時間をかけ。


多くの人が石を運び。


木材を組み。


少しずつ積み上げてきたもの。


その外壁が。


今日。


ついに完成した。


「すごいです……!」


隣に立つたるとの虎耳がぴんと立っている。


視線は外壁の上まで向けられていた。


「本当に完成したんですね!」


「そうみたいだね」


俺も改めて見上げる。


高い。


一ヶ月前とはまるで景色が違う。


かつてここにあったのは小さな集落だった。


簡素な建物。


小さな畑。


最低限の設備。


それでも俺たちにとっては大切な場所だった。


仲間が集まり。


食事をして。


笑って。


眠って。


また朝を迎える。


そんな場所。


だけど。


今はそこに暮らす人が増えた。


守りたい人も増えた。


だから。


俺たちは壁を作った。


この場所を守るために。


「まだ終わりではないぞ」


ゴウマが腕を組んだまま外壁を見上げる。


「街としては発展途上だ」


「住居」


「道路」


「施設」


「まだまだ足りないものは多い」


「でも!」


たるとが振り返る。


「今日は完成を喜んでもいいですよね!」


「……まあな」


ゴウマの口元が僅かに緩んだ。


「今日くらいはいいだろう」


「やったー!」


たるとが両手を上げる。


「外壁完成です!」


その声に周囲から歓声が上がった。


「おおおお!」


「やっと終わった!」


「長かったー!」


「これでもう石運ばなくていいのか!?」


「次は住居だぞ!」


「マジかよ!」


笑い声が広がる。


《王虎の牙》。


《白銀戦線》。


元《深淵の剣》。


元奴隷だった人たち。


そしてNPCの住民たち。


この外壁を作ったのは誰か一人じゃない。


ここに暮らす皆だ。


「はっはっは!」


ガンテツが豪快に笑う。


「立派なもんができたじゃねぇか!」


巨大な手で外壁を叩く。


「これならちょっとやそっとの魔物じゃ壊せねぇだろ!」


「叩かないでください!」


たるとが慌てる。


「完成したばかりなんですよ!」


「これくらいで壊れるか!」


「壊れたらガンテツさんが直してください!」


「それは勘弁してくれ!」


また笑いが起こった。


俺もその光景を見ながら。


小さく笑った。


「皆さん」


しばらくして静かな声が響いた。


振り返る。


そこにいたのはシズクだった。


その隣にはセリア。


そしてモルフォ。


三人の前にはいくつもの魔石が並べられている。


どれも淡い光を放っていた。


「シズク?」


たるとが近づく。


「それは?」


「以前から準備していたものです」


シズクが一つを持ち上げる。


掌に収まるほどの魔石。


だが。


内部では複雑な魔力がゆっくりと循環している。


「防衛結界の核です」


「……!」


たるとの目が輝いた。


「完成したんですか!?」


「はい」


シズクが頷く。


「外壁の完成に合わせて調整を続けていました」


「これを各所へ設置し」


外壁を見る。


「それぞれの核を魔力で接続します」


「そうすることで」


一拍。


「外壁全体を覆う防御結界を展開できます」


「おお……!」


ハヤテが魔石を覗き込む。


「これだけ小さいのに?」


「単体では大した力はありません」


シズクが答える。


「重要なのは連結です」


一つ。


もう一つ。


魔石を示す。


「複数の核を外壁へ配置し」


「互いの魔力を循環させることで、一つの巨大な結界として機能させます」


「へぇ……」


ハヤテが頷く。


「なるほどな」


「理解しているの?」


俺が尋ねる。


「なんとなく!」


やっぱりか。


「補足すると~」


セリアが眠たげな声で続ける。


一つの核へ手をかざす。


淡い光。


魔石内部の魔力が動いた。


「核だけじゃなくて~」


「外壁そのものにも魔力を流せるように調整してるよ~」


「だから結界への攻撃を一か所だけで受けるんじゃなくて~」


指先をくるりと回す。


「外壁全体へ分散させられるの~」


「……」


ハヤテが止まる。


「つまり?」


「一か所を殴られても」


俺が言う。


「外壁全部で受けるような感じ?」


「だいたいそんな感じ~」


「なるほど!」


ハヤテが納得した。


「ガウの説明だと分かりやすいな!」


「今の説明でいいの?」


シズクが僅かに苦笑した。


「概ね間違ってはいません」


よかったらしい。


その横でモルフォはずっと魔石を凝視している。


「興味深い」


眼鏡を押し上げる。


「非常に興味深いです」


「二回言ったね」


「重要なので」


モルフォは魔石を指す。


「結界術」


「魔力回路」


「魔石による蓄積」


「そして外壁という物理構造」


「それぞれ異なる技術を一つの防衛設備として統合している」


目が完全に研究者だった。


「さらに改良すれば――」


「モルフォ~」


「はい?」


「まず完成させよ~」


「……そうですね」


少し残念そうだった。


もう次の研究を考えていたらしい。


「それでは」


シズクが外壁へ向き直る。


「設置を始めます」



作業が始まった。


外壁の各所。


事前に作られていた小さな空間へ。


一つずつ結界核を埋め込んでいく。


「そこです」


シズクが指示を出す。


「角度を少し右へ」


「このくらいですか?」


シズクの助手、リオが確認する。


「はい」


「その位置で固定してください」


別の場所では。


「魔力流すよ~」


セリアが杖をかざしていた。


淡い光が外壁へ流れ込む。


「……」


シズクが《白晶》へ意識を集中する。


結界核から伸びる魔力。


一本。


二本。


三本。


それぞれが見えない糸のように繋がっていく。


「接続を確認しました」


「次へ進みます」


「了解!」


さらに。


少し離れた場所ではモルフォが大量の記録を取っている。


「第二核接続」


「魔力損失率は想定値以内」


「第三核との干渉なし」


「循環速度も安定しています」


「……」


バレットが横から覗き込む。


「それ全部分かるのか?」


「当然です」


「俺には数字にしか見えねぇ」


「数字ですから」


「そういう意味じゃねぇよ」


そんな会話を横目に俺も出来る範囲で作業を手伝う。


外壁を一周する。


それだけでも相当な距離だ。


当然。


核の数も一つや二つではない。


シズクはそのすべてを確認していた。


魔力の流れ。


位置。


接続。


一つでもずれれば結界全体へ影響する。


「シズク」


俺は声を掛ける。


「少し休んだら?」


「大丈夫です」


即答。


「でも朝からずっと――」


「あと少しです」


《白晶》を握る。


「ここまで皆さんが作った外壁です」


静かな声。


「中途半端にはしたくありません」


「……」


その目は真剣だった。


なら止める必要はないか。


「分かった」


俺は小さく頷く。


「何かあったら言ってね」


「はい」


シズクも小さく笑った。


「ありがとうございます」



そして。


最後の結界核。


「……」


周囲が静かになる。


シズクが外壁へ埋め込まれた魔石へ手を伸ばす。


「これが最後です」


セリアが隣で杖を構える。


「魔力はいつでも流せるよ~」


「こちらも記録準備は完了しています」


モルフォも頷く。


シズクが息を整えた。


そして。


「接続します」


――フォン。


魔石が光る。


その瞬間、一本の光が外壁を走った。


次の核へ。


さらに次へ。


次々と淡い光が灯っていく。


「おお……!」


誰かが声を漏らす。


光は外壁を一周し。


最後に。


――ヴン。


空気が僅かに震えた。


透明な膜。


それが一瞬だけ外壁全体を覆うように浮かび上がった。


すぐに見えなくなる。


だが。


確かに存在している。


肌で分かる。


魔力の気配。


「……」


シズクは《白晶》を握ったまま目を閉じている。


数秒。


やがて。


目を開いた。


「……正常に起動しました」


一瞬の静寂。


そして。


「やったー!」


たるとの声が響いた。


「成功です!」


周囲から歓声が上がる。


「おお!」


「結界まで完成したぞ!」


「これなら安心だ!」


シズクは小さく息を吐いた。


ほんの少し肩から力が抜ける。


「お疲れ様」


俺が言う。


「ありがとうございます」


「でも」


シズクは外壁を見上げた。


「まだ終わりではありません」


「?」


たるとが首を傾げる。


「正常に起動しただけです」


シズクの表情が真剣になる。


「実際にどの程度の攻撃まで防げるのか」


「それを確認する必要があります」


「なるほど!」


たるとが大きく頷く。


そして周囲を見る。


「誰か攻撃できますか?」


「……」


静寂。


皆の視線が自然と一人へ向かった。


「ん?」


ガンテツ。


巨大な熊獣人。


肩には《震天》。


「……」


ガンテツも周囲を見る。


「俺か?」


「適任だろ」


ゴウマが即答した。


「そうだな」


バレットも頷く。


「一発の威力ならこの中でも上位だ」


「おお!」


ガンテツが豪快に笑った。


「なるほどな!」


《震天》を肩へ担ぎ直す。


「なら俺がやってやる!」


シズクを見る。


「全力でいいのか?」


「はい」


即答だった。


「……」


今度はガンテツが少し止まる。


「本当に?」


「はい」


「壊れても怒るなよ?」


「壊れたのであれば」


シズクが淡々と答える。


「それは結界の強度不足です」


「再調整します」


強い。


「はっはっは!」


ガンテツが笑った。


「気に入った!」


「なら!」


《震天》を地面へ降ろす。


――ズンッ!


地面が震えた。


「遠慮なくいくぞ!」



俺たちは外壁から十分に距離を取る。


周囲の仲間たちも安全な位置まで下がった。


俺はハヤテと並んで外壁を見る。


「……大丈夫かな」


「シズクが大丈夫って言ったんだ」


ハヤテが答える。


「多分な」


「多分なんだ」


「俺に聞くなよ!」


少し不安だ。


何しろ試すのはあのガンテツだ。


「ガンテツさん!」


たるとが遠くから叫ぶ。


「本当に壊さないでくださいねー!」


「無茶言うな!」


ガンテツが笑う。


「全力でやれって言ったのはシズクだぞ!」


シズクは外壁の前。


結界内部から魔力の流れを確認している。


「問題ありません」


《白晶》を構える。


「お願いします」


「よし!」


ガンテツの表情が変わる。


次の瞬間。


「アークスキル――」


低い声。


空気が震えた。


「《剛力解放ギガント・ブレイク》!」


――ドンッ!


爆発するようにガンテツの全身から力が溢れた。


筋肉が膨張する。


巨大な身体がさらに一回り大きく見える。


熊獣人としての身体能力。


そこへアークスキルによる強化。


「……何度見てもすごいな」


ハヤテが呟く。


ガンテツは《震天》の鎖を握る。


魔力を流し込む。


――ゴゴゴゴ……。


巨大な鉄球。


それがさらに膨れ上がった。


「でかっ!」


たるとの声。


「外壁より大きくないですか!?」


「さすがにそれは言いすぎだ!」


ハヤテが突っ込む。


でも。


気持ちは分かる。


それほど巨大だ。


「……」


シズクは動かない。


ただ静かに外壁へ意識を集中している。


「いくぞ!!」


ガンテツが鎖を振るう。


巨大な《震天》が空中へ舞い上がる。


そして。


頂点。


一瞬。


止まった。


「《落天撃》!!」


振り下ろされる。


巨大な鉄球がまるで空から落ちてくる隕石のように外壁へ迫った。


「うわっ!」


たるとが思わず身構える。


直後。


――ドォォォォォン!!!


轟音。


衝撃。


大地が揺れた。


「っ!」


思わず足へ力を入れる。


爆風が駆け抜ける。


砂煙が舞い上がり。


一瞬。


外壁が見えなくなった。


「……」


誰も喋らない。


本当に。


大丈夫なのか?


「シズク!」


たるとが声を上げる。


だが。


砂煙の中。


淡い光が見えた。


「……!」


少しずつ煙が晴れていく。


そして姿を現した外壁。


「……冗談だろ」


ハヤテが呟いた。


無傷。


傷一つない。


ひび割れすら。


ない。


《震天》が直撃した地点。


そこには透明な光の膜が存在していた。


波紋のように。


結界全体へ衝撃が広がっている。


一か所で受けず。


外壁全体へ。


力を分散している。


「……すごい」


たるとが息を呑む。


「本当に防いだ……」


ガンテツも。


《震天》を肩へ担ぎながら目を見開いていた。


「俺の《落天撃》を真正面から受けて……」


外壁を見る。


そして豪快に笑った。


「はっはっはっ!」


「こいつは大したもんだ!」


「シズク!」


「すげぇぞ!」


その声にシズクはようやく《白晶》を下ろした。


外壁へ近づく。


手を触れる。


目を閉じる。


「……」


魔力を確認する。


セリアも隣で核へ意識を向ける。


「魔力循環正常~」


「核の損傷もないよ~」


モルフォはものすごい速さで記録を取っていた。


「衝撃分散率――」


「魔力消費量――」


「局所負荷――」


「これは非常に興味深い結果です」


そしてシズクが目を開く。


「……問題ありません」


静かな声。


「結界は正常に機能しています」


一拍。


「成功です」


――おおおおおおっ!!


歓声が上がった。


「やった!」


「これなら守れるぞ!」


「すげぇ!」


たるともシズクのもとへ駆け寄る。


「シズク!」


「すごいです!」


「ガンテツさんの攻撃を防ぎました!」


「はい」


シズクは少しだけ。


本当に少しだけ。


誇らしそうに笑った。


「これなら」


外壁を見上げる。


「皆さんを守れます」


その言葉に俺は胸の奥が僅かに温かくなった。


皆を守れる。


たったそれだけだけどそれが何より大切なことだった。



試験が終わった後。


シズクはすぐに記録の確認を始めていた。


「まだやるの?」


ハヤテが少し呆れたように言う。


「もちろんです」


「成功したんだろ?」


「一度の成功で終わらせるわけにはいきません」


シズクは外壁を見る。


「今回防いだのは一方向からの強力な一撃です」


指を立てる。


「ですが実戦では」


「複数方向からの同時攻撃」


「継続的な攻撃」


「魔法による干渉」


「結界そのものへの妨害」


「内部への侵入」


「様々な状況が考えられます」


「……」


ハヤテの顔が止まる。


「まだそんなにあるのか」


「あります」


即答だった。


「街を守るというのは」


ゴウマが静かに続けた。


「壁を一つ作れば終わりではない」


「攻撃を防ぐ」


「侵入を防ぐ」


「内部を警備する」


「破損すれば修復する」


「長期戦なら人員交代も必要になる」


「全て含めて防衛だ」


「はい」


シズクが頷く。


「そのためにも」


外壁へ手を触れる。


「この結界は今後も改良します」


「もっと強く」


「もっと安定して」


一度。


集落を見る。


「ここで暮らす人たちを守れるように」


「……」


たるとが嬉しそうに笑った。


「お願いします!」


「はい」


セリアも杖を抱えながら笑う。


「まだまだ弄れるところはありそうだよ~」


「魔力循環も~」


「核の配置も~」


「結界の種類も増やせそう~」


「私も引き続き参加しましょう」


モルフォが眼鏡を押し上げる。


「本日の実験で得られたデータは非常に有用です」


「結界術」


「魔法工学」


「物理防御」


「さらに生物素材を利用した魔力伝達を――」


「モルフォ」


俺が呼ぶ。


「はい?」


「変なもの混ぜないでね」


「変なもの?」


「虫とか」


「有用であれば使用すべきです」


「やっぱり考えてたんだ」


「当然です」


やっぱり怖い。


「ははっ!」


ハヤテが笑った。


「モルフォの場合、何でも研究対象になるな!」


「未知を解明する」


モルフォが胸を張る。


「研究者として当然の責務です」


「そこだけは本当に一貫してるな……」


小さな笑いが広がった。



夕方。


ようやく。


本当の祝宴が始まった。


「外壁完成を祝ってー!」


たるとが両手を上げる。


「かんぱーい!」


「おおー!」


木製の杯が上がる。


中身はジュースや水。


一部の大人たちは別のものを飲んでいるようだが。


料理が並ぶ。


焼いた肉。


野菜。


パン。


スープ。


豪華ではない。


でも皆で囲むには十分だった。


「いやぁ!」


ガンテツが肉を頬張りながら笑う。


「まさか俺の《落天撃》が止められるとはな!」


「結界に攻撃して嬉しそうな人も珍しいね」


俺が言う。


「強ぇもんを見ると嬉しくなるだろ!」


「分からなくはないけど」


「ガンテツさん」


たるとが頬を膨らませる。


「勝手に外壁を殴っちゃ駄目ですよ!」


「殴らねぇよ!?」


「本当ですか?」


「なんで疑う!?」


「今日すごく楽しそうだったので!」


「頼まれたからだ!」


笑い声。


その少し離れた場所でシズクは静かに食事を取っている。


いつも通り。


大きく喜ぶでもなく。


自慢するでもなく。


「シズク」


俺は隣へ座る。


「はい?」


「お疲れ様」


「……ありがとうございます」


「本当にすごかったよ」


「ガンテツの《落天撃》を防ぐなんて」


シズクは少しだけ視線を逸らした。


「私一人ではありません」


「セリアさん」


「モルフォさん」


「助手のリオさん」


「核の設置を手伝ってくださった皆さん」


「外壁を作った皆さん」


「全員がいたから完成したものです」


「うん」


俺は笑う。


「でも」


外壁を見る。


夕日の中。


巨大な壁が俺たちの街を囲っている。


「シズクがいなかったら結界はなかったよ」


「……」


少しだけシズクの目が丸くなる。


そして。


「……ありがとうございます」


今度は僅かに笑った。


「これからも頑張ります」


「うん」


それで十分だ。



「なあガウ」


しばらくしてハヤテが隣へやってきた。


手には肉の串。


「最初と比べると」


街を見渡す。


「本当に変わったよな」


「そうだね」


俺も周囲を見る。


家。


畑。


道。


人。


そして。


それらすべてを囲む外壁。


「前は」


ハヤテが笑う。


「ただ集まって飯食ってただけだったのにな」


「今もやってるけど」


「それはそうだな!」


笑う。


「でも」


少し真剣な顔。


「守るもの増えたよな」


「……うん」


昔よりずっと増えた。


「いつか」


ハヤテが外壁を見上げる。


「本当に国になるかもしれないな」


「さあ」


俺は笑った。


「それはまだ分からないよ」


「でも」


集落を見る。


笑い声。


料理の匂い。


子供たちの声。


「ここが皆の帰る場所であることは変わらない」


「……だな」


ハヤテも笑う。


その時。


「二人ともー!」


たるとの声。


「何を二人だけで黄昏れてるんですかー!」


「黄昏れてねぇよ!」


「料理なくなっちゃいますよ!」


「それは困る!」


ハヤテが即座に走っていった。


早い。


「ガウも早くー!」


「はいはい」


俺もその後を追った。



夜。


祝宴も終わり。


集落は静けさに包まれていた。


俺は一人。


完成した外壁を見上げていた。


等間隔に埋め込まれた結界核。


そこから淡い光が漏れている。


夜の闇の中。


その光が街を囲むように繋がっていた。


「……」


以前の俺なら。


この場所を守るには。


強い奴がいればいいと思っていたかもしれない。


敵が来れば倒す。


危険があれば排除する。


それでいいと。


でも。


今は少し違う。


戦う人がいる。


壁を作る人がいる。


結界を作る人がいる。


武器を作る人がいる。


食料を作る人がいる。


怪我を治す人がいる。


生活を支える人がいる。


一人だけじゃこの場所は守れない。


皆がいるから守れる。


「……帰る場所か」


小さく呟く。


ここには大切な人たちがいる。


帰ってくる人たちがいる。


そして。


「ただいま」と言える場所がある。


だから守りたい。


たるとと出会う前の俺ならこんなこと考えていないだろう。


完成した外壁の向こう。


静かな夜空が広がっている。


まだ街づくりは終わらない。


むしろここからだ。


俺たちの街はまた一歩、確かに未来へ進んでいた。

ここまでお読みいただきありがとうございます!


ついに外壁と防衛結界が完成しました!


今回はシズクが大活躍。

ガンテツの《落天撃》すら防ぐ結界が、この街を守る新たな力になりました。


少しずつですが、ただの集落だった場所が本当の「帰る場所」へと変わっていっています。


まだまだ街づくりは続きます!


次回もよろしくお願いします!

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