第9話 豪熊の見立て
手合わせ後、その道中のお話。
「はっはっはっ!!」
豪快な笑い声を残し、ガンテツ達は王虎の牙の集落を後にした。
夕日に照らされた森の道。
しばらく誰も口を開かなかった。
やがて、槍使いの男が恐る恐る尋ねる。
「リーダー……。」
「ん?」
「負けましたね。」
「負けたな!」
ガンテツはあっさり認めた。
その潔さに部下達も苦笑する。
「でも意外でした。」
弓使いの少女が口を開く。
「リーダーが負けるなんて。」
「俺も久しぶりだったわ。」
ガンテツは頭をかきながら笑う。
「ありゃ強ぇ。」
「ですが……。」
今度は斧使いが腕を組んだ。
「あと少しでした。」
「最後の技も避けられただけです。」
「あの《落天撃》が当たっていれば勝っていました。」
「違ぇな。」
ガンテツは首を横に振った。
「え?」
「勝ってねぇ。」
部下達が顔を見合わせる。
「どういうことです?」
ガンテツは思い出すように笑った。
「あの兄ちゃん。」
「最後まで二本目を抜かなかった。」
沈黙。
「……あ。」
槍使いが小さく声を漏らす。
「そういや。」
「最初から最後まで白い刀だけだった。」
ガンテツは頷く。
「もう一本。」
「あれを最後まで抜かなかった。」
部下達の表情が変わる。
「あんだけ強ぇのに特殊スキルを使ってねぇ。」
「純粋な技、技量のみで負けたんだ。」
ガンテツは即答した。
「ありゃまだ何かを隠してやがる。」
「そんな……。」
「嘘でしょう?」
ガンテツは笑う。
「あの兄ちゃん。」
「俺の動きを見ながら戦い方を変えてやがった。」
「慣れてから攻めに転じ、最後なんか完全に見切られてた。」
ガンテツは豪快に笑う。
「負けるべくして負けたんだ。」
部下達は言葉を失う。
しばらく沈黙が続いた。
やがて魔法職の青年が口を開く。
「でも……。」
「あのハヤテって人だけ特別だったんじゃ?」
ガンテツは首を横に振る。
「違う。」
「あの集落で一番怖かったのは、むしろ別の連中だ。」
「え?」
「狼獣人の嬢ちゃん。」
「ガウ。」
部下達はガウを思い出す。
「ありゃ強ぇ。」
「戦ってねぇのに分かるんですか?」
「分かる。」
ガンテツは即答した。
「あいつは獲物を見る目をしてた。」
「いつでも飛び込める位置。」
「いつでも殺れる距離。」
「ずっと俺を見てた。」
「……。」
部下達は息を呑んだ。
「それだけじゃねぇ。」
ガンテツは指を折る。
「ゴウマ。」
「ありゃ指揮官だろう。」
「戦場全体を見て動く男。」
「リンファ。」
「あのお姉さんも一番油断ならん。」
「常に周りを見てた。」
「次にシズクとセリア。」
「あの二人は護衛役だ。」
「ギルドマスターを中心に立ち位置が一切ぶれねぇ。」
「守ることに慣れてたな。」
「そして。」
ガンテツは笑う。
「ギルドマスター。」
部下達も自然と笑う。
「あの子ですか?」
「一番弱そうでしたけど。」
「馬鹿。」
ガンテツが軽く笑う。
「だから強ぇんだよ。」
「え?」
「あんな化け物共が。」
「命を懸けて守ろうとしてる。」
「それだけで十分だ。」
部下達は黙った。
言われてみれば、その通りだった。
戦士達が自然と中心に立つ少女。
誰一人として命令されて動いているようには見えなかった。
自分から守っていた。
「あんな連中はな。」
ガンテツが空を見上げる。
「最前線でもそうそう居ねぇ。」
豪快な笑みを浮かべる。
「面白ぇ。」
「しばらくあいつらを観察するぞ。」
「観察……ですか?」
「ああ。」
「きっとあいつらは、もっとでかくなる。」
ガンテツは確信していた。
まだ小さな集落。
まだ名も知られていないギルド。
だが。
あの場所には、人を惹きつける何かがあった。
「あいつらがどこまで大きくなるのか。」
「最後まで見届けてやる。」
豪快な笑い声が森に響く。
その頃。
王虎の牙の集落では、そんなことなど知る由もなく。
たるとが夕食の献立を見て、小さく悩んでいた。
「今日はシチューにしようかなぁ?」
平和なその光景に。
ガンテツはきっと、また笑うのだろう。
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