第8話 手合わせ
集落の裏手。
まだ開拓予定地として残されている広場。
周囲を木々に囲まれてはいるが十分な広さがある。
手合わせをするにはちょうどいい場所だった。
「結構広いな!」
ガンテツが周囲を見回す。
「だろ?」
ハヤテが笑う。
「ここなら思い切りやれる」
「おいおい」
背後から声がした。
振り返ると腕を組んだバレットが立っていた。
「せっかくだし見物させてもらう」
「バレット」
「こんな面白そうなもの見逃すわけないだろ」
ガンテツの仲間たちも少し離れた場所で様子を見守っている。
「ガンテツさん! 頑張ってください!」
「おう!」
ガンテツが拳を上に突き上げる。
「ハヤテ! 頑張ってください!」
たるとが両手を振る。
「ガンテツさんもですよ!」
「おう!」
ガンテツが笑った。
ガンテツがメニュー画面を開き、申請する。
その瞬間、二人の間に淡い光が現れる。
赤と青の魔法石。
プレイヤー同士が決闘を行う時にのみ出現する特殊なシステムだ。
この世界がデスゲームと化した後も決闘機能だけは残されていた。
決闘中に受けたダメージは魔法石へ肩代わりされる。
ただし、攻撃による痛みや衝撃までは消えない。
そして先に魔法石を砕かれた方が敗北となる。
命を奪うことなく全力で戦える数少ない手段だった。
攻略組の訓練。
技術交流。
そして強者同士の腕試し。
この世界では極めて貴重な機能だった。
「準備はいいな」
ゴウマが二人を見渡す。
「ああ!」
「いつでもいいぜ」
ハヤテは腰の刀に手を添える。
ガンテツは巨大なモーニングスターを肩に担いだ。
その武器の名は――
《震天》
見た目だけでも十分な威圧感を放っている。
「それでは……」
ゴウマが手を上げる。
「――始め!!」
次の瞬間、ハヤテの姿が消えた。
「なっ!?」
ガンテツの仲間たちが目を見開く。
速い。
抜刀。
《白夜》
ハヤテの愛刀が閃く。
ガキィィィン!!
金属音が響き、火花が散る。
だが――
ガンテツは《震天》を横に構え、真正面から受け止めていた。
「おぉっ!!」
ガンテツが笑う。
そのまま力任せに振り抜く。
巨大な鉄球が唸りを上げた。
「っと!」
ハヤテが後方へ跳ぶ。
直後。
ドゴォォォン!!
《震天》が地面へ叩きつけられる。
土が舞い上がり、大地が砕けた。
「うわ……」
たるとが目を丸くする。
「すごい威力……」
「まともに受けたら終わりですね」
シズクが真剣な面持ちで呟く。
「ぺちゃんこだね~」
セリアが眠たげに言う。
「表現が物騒だろ」
バレットが苦笑する。
土煙の向こうでハヤテが距離を取った。
「いやいや」
笑みを浮かべる。
「すげぇな!ガンテツ!」
「はっはっはっ!!」
ガンテツも笑う。
「兄ちゃんこそやるじゃねぇか!!」
互いに笑っている。
だが、二人の目は真剣だった。
ガンテツは《震天》を肩に担いだ。
「なら俺も本気を出すぞ!」
その瞬間。
ガチャリ。
金属音が響く。
《震天》の持ち手が開いた。
次の瞬間。
ジャラララララッ!!
内部に収納されていた鋼の鎖が勢いよく飛び出す。
「鎖……」
ハヤテが目を細める。
ガンテツは笑った。
「驚くのはまだ早ぇぞ!」
巨大な鉄球が唸りを上げる。
鎖に繋がれた鉄球がまるで生き物のように動き始めた。
地面を削り。
木々の間を抜け。
自在に軌道を変える。
ガンテツは《震天》を振り回す。
「近付けないな」
ハヤテが呟く。
《震天》は単なる武器ではない。
相手との距離そのものを支配する武器だ。
一歩でも間合いに踏み込めば巨大な鉄球が襲い掛かる。
「どうした兄ちゃん!!」
「さっきの勢いはどうした!!」
「言ってくれるな!」
ハヤテも笑いながら答える。
そして。
踏み込む。
白夜が閃く。
ガキィィィン!!
しかし、受け止めたのは鉄球ではない。
鋼の鎖だった。
「なっ!?」
白夜へ鎖が絡みつく。
「武器ってのはな」
ガンテツが笑う。
「振り回すだけが使い方じゃねぇ!!」
そのまま《震天》が振り下ろされる。
「くっ!」
ハヤテは強引に白夜を引き抜く。
直後。
轟音。
地面が砕けた。
たるとが息を呑む。
「すごいです……」
ゴウマは頷きながら話す。
「武器を深く理解しているからこそできる戦い方だ」
俺も同意見だった。
だが。
「ハヤテも慣れてきてるわね」
リンファが微笑む。
最初は押されていた。
だが、今は違う。
鉄球の軌道。
鎖の長さ。
戻ってくる速度。
ガンテツの癖。
すべてを見ている。
ハヤテはそういう男だ。
戦いながら相手を理解する。
そして、一瞬の隙を狙う。
「はっ!!」
白夜が閃く。
ガキン!!
肩。
ガキン!!
腕。
ガキン!!
脚。
浅い。
だが、確実な攻撃。
そのたびに、ガンテツの魔法石へ亀裂が増えていく。
「ガンテツさん!」
ガンテツの仲間たちが声を上げる。
「押されてます!」
「分かっとるわ!!」
そう叫びながらもガンテツは楽しそうだった。
「やっぱり強いな兄ちゃん!!」
「そっちこそ!」
二人とも笑っている。
勝ち負けより、戦えることそのものを楽しんでいる。
そして。
ガンテツが《震天》を肩へ担ぐ。
空気が変わる。
「……来るな」
バレットが呟く。
ガンテツの周囲に魔力が集まっていく。
「なんでしょう……?」
たるとが不安そうに見つめる。
次の瞬間、ガンテツの身体が淡い光に包まれた。
筋肉が膨れ上がる。
全身から力が溢れ出す。
「アークスキル!」
ガンテツが拳を握る。
「《剛力解放》!!」
瞬間、大地が震えた。
身体能力そのものを限界まで引き上げる。
ガンテツ本来の怪力が、さらに強化される。
ただでさえ巨大な武器。
それを扱うための圧倒的な力。
それが今、最大まで引き出された。
「すげぇ……」
ハヤテが笑う。
「まだこんなの隠してたのかよ」
「当然だ!!」
ガンテツが笑う。
「はっはっはっ!!」
《震天》が大きく振り上げられる。
鎖が唸る。
魔力が鉄球へ流れ込む。
「行くぞ兄ちゃん!!」
そして。
巨大な鉄球が空へ放たれた。
「ハヤテ!!」
たるとが叫ぶ。
しかし、ハヤテは動かなかった。
逃げることもなく。
構えることもなく。
ただ、静かに見据えていた。
落下する鉄球。
限界まで張り詰めた鎖。
ガンテツの立ち位置。
そして――。
「……なるほど」
小さく呟く。
ハヤテの眼差しがさらに鋭さを増した。
「そこか」
次の瞬間。
地面を蹴る。
「いくぞ!!」
ガンテツが叫んだ。
「《落天撃》!!」
巨大な鉄球が落下する。
轟音。
風圧。
衝撃。
すべてを押し潰すかのような一撃。
誰もが直撃したものと思った。
ドゴォォォォォン!!
大地が揺れる。
土煙が舞い上がる。
木々が大きく揺れた。
「直撃だ!」
ガンテツの仲間が声を上げる。
だが――。
「……っ!!」
ガンテツの表情が変わった。
何かに気付いたような顔だった。
「しまっ――」
巨大な鉄球は地面に深くめり込んでいる。
鎖は限界まで張り詰めていた。
そして。
ガンテツの身体はその場で止まっていた。
《剛力解放》によって強化された力。
《震天》を振り抜いた直後に生じる圧倒的な反動。
その一瞬。
次の動きへ移れない空白が生まれる。
そこが隙だった。
土煙の中から影が飛び出す。
「悪いな」
紙一重で避けていた。
ハヤテが笑う。
「大技の後ってのはどうしても隙ができるだろ!」
ガンテツが目を見開いた。
「……!」
ハヤテは腰を落とし《白夜》を構える。
一瞬、空気が変わった。
「一の太刀――」
静かな声。
「《閃牙》」
次の瞬間。
白夜が閃いた。
一瞬の斬撃。
ガンテツが反応するよりも早く。
刃はガンテツを捉える。
パリン――
乾いた音が響く。
赤い魔法石が砕け散った。
静寂。
誰も言葉を発しなかった。
そして。
「……参った」
ガンテツが笑う。
「俺の負けだ!!」
《震天》を肩に担ぐ。
ハヤテは《白夜》を鞘へ戻した。
「こっちも危なかったけどな」
ガンテツが大きく笑う。
そして右手を差し出した。
「楽しかったぜ!!」
ハヤテもその手を握る。
「ああ」
「俺もだ」
その光景を見て俺は少しだけ笑った。
勝っても笑う。
負けても笑う。
こういう戦いは嫌いじゃない。
「すごかったです!!」
たるとが駆け寄る。
「二人とも本当にすごかったです!!」
「はっはっはっ!!」
ガンテツが笑う。
「嬢ちゃんの仲間、化け物揃いじゃねぇか!!」
「そうですか?」
たるとは首を傾げる。
「そうだとも!!」
ガンテツは王虎の牙の面々を見る。
俺。
ハヤテ。
ゴウマ。
リンファ。
シズク。
セリア。
そして。
バレット。
「お前さん達」
ガンテツはニヤリと笑った。
「思っていた以上に面白い連中だな!」
そして豪快に笑う。
「近所付き合いこれからよろしく頼むぜ!!」
「はい!!」
たるとが満面の笑みで答える。
「こちらこそよろしくお願いします!!」
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