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第10話 少しずつ縮まる距離

ガンテツたちと出会ってから一週間が過ぎた。


今日も集落の近くに広がる森には、木を切る音が響いている。


「おらぁっ!」


ドォンッ!!


一本の大木がゆっくりと倒れ、大地を揺らした。


「よし!」


「運ぶぞ!」


「了解です!」


掛け声を上げながら木材を運ぶガンテツたち。


《王虎の牙》の集落から歩いて十分ほど。


彼らはその場所に新しい拠点を築いていた。


最初は簡単な野営地だった場所も、わずか一週間でずいぶん様子が変わっている。


木造の家。


資材置き場。


焚き火を囲む広場。


簡単な柵まで作られ始めていた。


まだ完成には程遠い。


それでも人が暮らすには十分な拠点になりつつあった。


「はっはっはっ!!」


ガンテツが豪快に笑う。


「やっぱり帰る場所があるってのはいいもんだ!!」


その笑顔につられるように仲間たちも笑みを浮かべる。


拠点が近くなったことで《王虎の牙》との交流も自然と増えていった。


畑で採れた野菜を分けたり。


狩った肉を交換したり。


暇があればお互いの拠点へ遊びに行く。


出会ってまだ一週間。


それでも不思議だった。


まるで昔から近所に住んでいたような距離感が、少しずつ生まれ始めていた。



午後。


集落から少し離れた草原。


ヒュンッ!!


一本の矢が風を切る。


ドスッ!!


矢は一直線に飛び、木製の的の中心へ深々と突き刺さった。


続けて二本。


三本。


四本。


放たれる矢は一切ぶれることなくすべて中心を射抜いていく。


そして最後の一本。


ヒュンッ!!


鋭い風切り音を響かせた矢は先に刺さっていた矢を真っ二つに割り、そのまま的のど真ん中へ突き刺さった。


「……よし」


バレットが静かに息を吐く。


「相変わらずすごいね」


俺は思わず声が漏れた。


「あんな距離から全部ど真ん中なんて」


「普通だ」


バレットは何でもないことのように答える。


「普通じゃないわよ」


リンファが苦笑した。


「あそこまで正確に当てられる人なんて滅多にいないもの」


「弓だけは昔から得意だからな」


バレットは肩をすくめる。


「狙った獲物は外さない」


自慢する様子はない。


ただ事実を口にしているだけだった。


二年間。


誰にも頼らず一人で生き抜いてきたソロプレイヤー。


その積み重ねがこの技術を作り上げたのだろう。


「もう終わり?」


俺が尋ねる。


「いや」


バレットの口元がわずかに緩んだ。


「ここからだ」


カチリ。


小さな駆動音が響く。


握っていた弓《流星》がゆっくりと形を変え始めた。


上下の弓身が折り畳まれ。


弦が内部へ収納されていく。


数秒後。


そこにあったのは一振りの黒い棒だった。


「何回見ても面白いね」


思わず笑う。


「便利そう」


リンファも興味深そうに眺める。


「変形武器なんて珍しいもの」


「まあな」


バレットは棒を軽く回した。


ブンッ。


空気を切る音が響く。


少し離れた場所には太い丸太が縄で吊るされていた。


「それも練習用?」


「ああ」


「昨日作った」


バレットは丸太を軽く押す。


ゆっくりと揺れ始める。


「止まってる相手を殴っても意味がない」


次の瞬間だった。


バシィッ!!


鋭い音とともに棒が丸太を打ち据える。


勢いよく揺れた丸太が戻ってくる。


そこへ――


バシッ!!


反対側から一撃。


さらに。


バシィッ!!


突き。


薙ぎ払い。


打ち下ろし。


回転しながら繰り出される連撃が揺れ続ける丸太を正確に捉えていく。


どんな軌道で動こうとも一撃たりとも外さない。


「……すご」


思わず見入ってしまう。


「弓だけじゃなかったんだね」


「近接も相当ね」


リンファも感心したように頷いた。


バレットは最後に大きく踏み込んだ。


ドォンッ!!


重い一撃が丸太を打ち抜く。


縄が大きく軋み、丸太が勢いよく揺れた。


「ふぅ」


棒を肩へ担ぎ小さく息を吐く。


「十分すごいよ」


俺が笑うとバレットは照れ隠しのように鼻を鳴らした。


「遠距離だけじゃ生き残れねぇからな」


棒をくるりと回す。


「弓使いは近付かれたら弱いと思われる」


ニヤリと笑う。


「だからその思い込みを利用する」


「近付いてきた奴をそのままぶん殴る」


「確かに」


思わず苦笑した。


弓使いは接近戦に弱い。


そんな常識を逆手に取った戦い方だ。


近付けば勝てる。


そう思った相手ほど不意を突かれる。


「ソロで生きるなら弱点は潰しておかないとな」


バレットは静かに言った。


その一言には二年間を一人で生き抜いてきた重みがあった。


「本当に努力家ね」


リンファが優しく微笑む。


「努力なんて大層なもんじゃねぇ」


バレットは肩をすくめる。


「生きるために必要だっただけだ」


そう言って笑う表情は一週間前よりもずっと柔らかくなっていた。


「そういえば」


俺は思い出したように口を開く。


「最初に会った時よりだいぶ笑うようになったよね」


「……そうか?」


「そうよ」


リンファがくすりと笑う。


「あの頃は『飯はいらねぇ』『部屋はいらねぇ』『世話にもならねぇ』って感じだったもの」


「そんなだったか?」


「そんなだった」


「そんな感じね」


俺とリンファの声が綺麗に重なる。


バレットは困ったように笑った。


「……まぁ」


少しだけ照れくさそうに頭をかく。


「飯は美味いし」


「部屋はよく眠れる」


少し間を置いて小さく続ける。


「居心地も悪くねぇ」


その言葉がなんだか嬉しく思う。


その時だった。


「おーーーーい!!」


森の向こうから聞き慣れた大声が響く。


「ガウーー!!」


「バレットーー!!」


「リンファーー!!」


振り向くと大きく手を振りながらガンテツが走ってきた。


「また来た」


思わず笑ってしまう。


「今日は何の用だろう?」


「どうせ遊びに来ただけだろ」


バレットが肩をすくめる。


ガンテツは俺たちの前まで来ると満面の笑みで胸を張った。


「嬢ちゃんがな!!」


「今日はカレーを作るらしいぞ!!」


「そんなもん聞いたら来るしかねぇだろ!!」


一瞬。


静寂が流れる。


「……」


「……」


「……」


三人で顔を見合わせた。


そして。


「結局、ご飯目当てじゃないか」


俺が呆れたように言う。


「ガンテツ」


バレットも苦笑した。


「それ遊びに来たんじゃなくて飯を食いに来ただけだろ」


「違いねぇ!!」


ガンテツは一切否定せず豪快に笑う。


「美味い飯があるなら行くだろ!!」


「普通!!」


「いや、普通じゃないと思うけど」


リンファがくすりと笑う。


「細かいことは気にすんな!!」


「ほら、早く行くぞ!!」


「冷めちまう!!」


そう言うとガンテツはさっさと集落へ向かって歩き出した。


「本当に自由だなぁ」


俺は苦笑しながら後を追う。


「でも」


バレットが静かに笑う。


「ああいうの嫌いじゃねぇよ」


その一言に俺もリンファも自然と笑顔になった。


気付けば。


他ギルドだったはずのガンテツたちはもう"近所の友達"と呼べる存在になっていた。


そんな関係も悪くない。


そう思いながら俺たちはカレーの匂いが漂う集落へと足を向けた。


夕暮れに染まる空の下。


《王虎の牙》には今日も笑い声が響いていた。

ここまで読んでいただきありがとうございました!


今回はバレットとガンテツたちとの交流と少しずつ距離が縮まっていく日常を書いてみました。


こうした穏やかな時間もこの作品らしさとして大切にしていきたいと思っています。


よろしければ感想や評価、ブックマークなどで応援していただけると嬉しいです!

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