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第11話 草原の遭遇

朝。


《王虎の牙》の集落は今日も穏やかな空気に包まれていた。


畑ではNPCたちが収穫の準備を進めている。


水路では洗濯をする人々の笑い声が響き、子供たちは広場を元気いっぱいに駆け回っていた。


そんな様子をたるとが穏やかな笑顔で見守っている。


集会所ではゴウマが食料庫を見つめながら腕を組んでいた。


「肉の在庫が減ってきたな」


棚を確認しながら小さく息を吐く。


「このままでは数日で底をつく」


「今日の狩りは少し遠出してもらいたい」


「山を越えた先の草原なら大型モンスターも多いはずだ」


「分かった」


俺は頷いた。


その横でバレットが静かに手を挙げる。


「俺も行こう」


「二人の方が効率がいい」


ゴウマもすぐに頷いた。


「大型相手なら二人の方が安心だ」


「気を付けて行ってこい」


「いってらっしゃい!」


たるとが元気よく手を振る。


「晩ご飯、楽しみにしてます!」


「はいはい」


俺が笑って答えるとたるとも嬉しそうに笑った。



集落を出て二時間ほど。


山道を歩きながら俺とバレットは他愛のない会話を交わしていた。


「集落には慣れた?」


俺が尋ねる。


「まあな」


バレットは肩をすくめる。


「最初は落ち着かなかったが」


「今はそれなりに居心地がいい」


少し照れくさそうに笑う。


その表情はこの集落に来た当初よりもずっと柔らかくなっていた。


「それは良かった」


「……ありがとな」


「ん?」


「拾ってくれて」


思わず笑みがこぼれる。


「別に拾った訳じゃないんだけどね」


「受け入れてくれたのはたるとだよ」


「ああ」


バレットも苦笑した。


「あの人は本当に変わっている」


「普通、見ず知らずの男を受け入れたりはしない」


「そうだね」


俺も小さく笑う。


やがて山道を抜ける。


視界が一気に開けた。


広大な草原。


風に揺れる草花。


遠くでは大型の鹿型モンスターや牛型モンスターの群れが見える。


「当たりだな」


バレットが小さく笑う。


「今日はかなりの収穫が期待できる」


「しばらく肉には困らなさそうだ」


俺も頷き、一歩、草原へと足を踏み入れた。


その瞬間だった。


風を切る音が頭上から聞こえた。


「――そこまでッス」


突然の声に、俺とバレットは同時に空を見上げる。


そこには、一人の青年が浮かんでいた。


銀色の髪。


軍服姿。


足場など何もない空中に立ちこちらを静かに見下ろしている。


「これ以上進まないでもらえると助かるッス」


青年は軽く笑みを浮かべながら言った。


「この先は我々の領域ッスから」


その瞬間。


隣に立つバレットの雰囲気が変わる。


「ガウ」


「ああ」


言われるまでもなかった。


……囲まれている。


左右の草むら。


背後の林。


そして正面。


複数の気配がこちらを見ていた。


いずれも気配を殺すことに長けている。


ただの冒険者ではない。


「出てこい!」


俺が静かに言う。


わずかな沈黙の後、草をかき分ける音が響き、五人のプレイヤーが姿を現した。


先頭に立つのは、一人の青年。


青い髪。


軍服姿。


落ち着いた雰囲気を纏い、小さな杖を手にしている。


その後ろには、大剣使い。


槍使い。


そして魔法職と思しき女性と弓使いの女性。


誰一人として無駄な動きを見せない。


自然と連携が取れている。


バレットは静かに弓へ手を伸ばす。


「ガウ」


「先に動くか?」


「待って」


俺はそう言いながら、《朧》の柄へ手を添えた。


いつでも抜ける距離。


だが、まだ抜かない。


その様子を見た空中の青年が小さく眉をひそめる。


「アイス」


「武器に手を掛けたッス」


その言葉に、青髪の青年――アイスも静かに杖を構えた。


後方の仲間たちも一斉に武器を構える。


張り詰めた空気が草原を包み込む。


風だけが静かに吹き抜けていく。


「やっぱり戦う気ッスか」


空中の青年――サイオンが肩をすくめる。


「違う」


俺は即座に否定した。


「私たちは警戒しただけ」


アイスは静かな口調で答える。


「こちらも同じだ」


「武装したプレイヤー二人が我々に近付いて来た」


「警戒するのは当然だろう」


互いに一歩も譲らない。


緊張が張り詰める。


だが。


その言葉を聞いた瞬間、俺は理解した。


……そういうことか。


「どうやら……」


「互いに誤解していたみたいだな」


アイスが静かに杖を下ろした。


それに合わせ、後ろの仲間たちも武器を下げる。


俺も《朧》から手を離した。


バレットは小さく息を吐き、弓から手を離す。


張り詰めていた空気が少しだけ和らいだ。


「だが」


アイスは俺たちを真っすぐ見つめる。


「まだ互いのことを何も知らない」


「このまま別れるには少し不安が残る」


その言葉に俺は頷いた。


「そこで提案だ」


アイスは穏やかな表情で言う。


「決闘をしないか」


「決闘?」


思わず聞き返す。


「攻略組でもよく行っている方法だ」


「互いの実力を知れば無用な争いは避けられる」


「それに……僕は君たちに興味がある」


俺は少しだけ考えた。


隣を見る。


「どうする?」


「俺は構わない」


迷いのない返事だった。


「人数は?」


俺が尋ねる。


「二対二」


アイスは迷わず答えた。


「こちらは僕とサイオン」


「よろしくッス」


サイオンが軽く手を振る。


俺は静かに頷いた。


「分かった」


「その決闘、受けよう」


アイスが決闘を申請する。


俺はメニューを操作して承認する。


その瞬間だった。


四人の中央へ淡い光が集まり始める。


見覚えのある光だった。


以前、ハヤテとガンテツが手合わせをした時と同じ――決闘システム。


光の中から二組分の魔法石がゆっくりと姿を現す。


誤解から始まった出会い。


その決着は命を懸けた戦いではない。


互いの実力をぶつけ合う、一度きりの決闘。


草原を吹き抜ける風が静かに四人の間を通り過ぎた。

次回、決闘!

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