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第17話 階層転移陣

――朝。


東の空がゆっくりと白み始める。


夜の帳が薄れ、草原の彼方から朝日が静かに姿を現していた。


昨夜、百体近いゴブリンの群れによる襲撃を受けた。


幸いにも被害は軽微であり、負傷者もたるとの治療により既に回復している。


そして現在、野営地には徐々に朝の気配が戻りつつあった。


それからしばらくして。


「おはようございます!」


たるとの明るい声が響く。


「朝ですよー!」


「もう朝か……」


「昨日ずっと歩いてたからさすがに眠いな」


次々とテントから人が出てくる。


《断罪の聖剣》の面々も起床し、静かだった野営地は一気に活気を帯びていった。


「昨日の夜は大変だったな」


《断罪の聖剣》の一人が俺たちに声をかける。


「まさか百体近いゴブリンに襲われるとは思わなかった」


「そうだね」


俺は頷く。


「でも全員無事で何よりだよ」


「それは間違いないな」


男が苦笑する。


その周囲では昨夜の戦闘について語り合う者たちの姿もあった。


どうやら夜襲の話題はしばらく続きそうである。


そうした会話を交わしながら、各自が朝食の準備を進めていく。


パン、干し肉、簡素なスープ。


豪華とは言えないが、長距離移動を控えた朝食としては十分だった。


「美味しいです!」


たるとがパンを頬張る。


「食べながら喋るな」


ゴウマが呆れたように言う。


「むぐっ」


「ほら」


「ちゃんと飲み込め」


「……ごくん!」


たるとが慌てて飲み込む。


「美味しいです!」


「そこは変わらないのか」


ハヤテが笑った。


朝からいつも通りの光景である。


俺はわずかに笑みを浮かべつつ、残っていたスープを飲み干した。


朝食を終えると、すぐに出発の準備へ移行する。


テントを畳み、焚き火の後始末を行い、各自が装備と荷物を確認する。


「忘れ物はありませんか?」


たるとが周囲を見回す。


「問題ありません」


シズクが答える。


「こちらも問題ありません」


モルフォも荷物を確認する。


バレットは《流星》。


ハヤテは《白夜》と《黒曜》。


俺は予備の忍者刀。


それぞれが武器の状態を確認していく。


やがて。


「準備はいいな?」


レオンが全員を見渡した。


「問題ない」


隣に立つクロードも頷く。


レオンは前方へ視線を向ける。


「それでは出発する!」


「おう!」


「了解!」


三十八名は再び歩き出した。


目的地は《階層転移陣》。


そしてその先にある中央都市アルカディアである。



森を抜け、草原を進む。


昨夜の襲撃が嘘であったかのように、道中は穏やかだった。


時折小型の魔物の姿は見られるものの、三十八名という大規模な集団に襲いかかるような個体は存在しなかった。


「平和ですね!」


たるとが嬉しそうに歩く。


「昨日の夜もそれくらい静かなら良かったんだがな」


ハヤテが苦笑する。


「本当です!」


たるとの虎耳がぴんと立つ。


「次からゴブリンさんには昼間に来てもらいましょう!」


「だから予約制じゃない」


アイスが呆れたように返す。


昨夜と同じようなやり取りが繰り返されている気がした。


そんな他愛のない会話を続けながら進んでいくと、やがて。


「……あれは?」


たるとが足を止めた。


前方を指差す。


草原の中央。


そこに巨大な建造物がそびえていた。


石造りの祠。


遠目にも明らかなほどの規模であり、周囲に遮蔽物がないため、その存在は一層異質に映る。


「祠……ですか?」


シズクが目を細める。


「ああ」


レオンが頷いた。


そしてその建造物を指し示す。


「目的地だ」


「ここに《階層転移陣》がある」


「おお!」


たるとの目が輝く。


「ついにですか!」


俺も祠を見上げる。


《階層転移陣》。


名称のみは既知である。


この世界に存在する複数の階層を移動するための施設。


プレイヤーであればその程度の知識は有している。


しかし、実物を見るのは初めてだった。


「思っていたより大きいな」


ハヤテも祠を見上げる。


「もっとこう」


両手で小さな円を作る。


「魔法陣だけが置かれているものかと」


「雨ざらしにする気か?」


ゴウマが呆れる。


「いや、ゲームならありそうだろ?」


「否定はできないな」


俺は小さく同意する。


レオンが苦笑した。


「中へ入れば分かる」


「詳しい説明もそこで行おう」


俺たちはレオンに続き、祠の内部へと足を踏み入れた。



「……おお」


思わず声が漏れる。


広い。


外観以上に内部は広大であった。


天井は高く、石造りの壁面には見慣れぬ文字や紋様が刻まれている。


薄暗い空間ではあるが、完全な闇ではない。


壁面の紋様の一部が淡く発光し、内部を照らしていた。


そして中央。


床一面に巨大な魔法陣が描かれている。


幾重にも重なる円。


複雑に交差する無数の線。


見慣れぬ文字列。


中心付近には階層を示すと思われる数字が刻まれていた。


「すごい……」


たるとが小さく呟く。


先ほどまでの明るさとは異なり、純粋な圧倒の色が滲んでいる。


「神秘的ですね……」


シズクも《白晶》を手に魔法陣を見つめている。


「いつ見ても魔法陣が綺麗です」


その隣でモルフォも眼鏡を押し上げ、観察を続けていた。


「初めてではないんですか?」


たるとが尋ねる。


「いいえ」


モルフォは首を横に振る。


「何度か見たことがあります」


「この転移陣については調査も行いましたが」


しゃがみ込み、床の紋様へ視線を落とす。


「残念ながら、その構造は未だ解明されていません」


「モルフォさんでも分からないんですか?」


「はい」


「この世界には未解明の事象が数多く存在します」


眼鏡が淡く光る。


「だからこそ研究の価値があるのです」


明らかに楽しんでいる様子であった。


レオンが中央へ進む。


「これが《階層転移陣》だ」


「知っていると思うがこの世界には複数の階層が存在する」


全員が視線を向ける。


「第一階層から始まり、現在は第七階層までが解放されている」


たるとが頷く。


「そこまでは知っています!」


「しかし」


魔法陣へ視線を落とす。


「実際にどうやって移動するのかまでは知りませんでした」


「それを担うのがこの転移陣だ」


レオンが説明する。


「各階層に設置された転移陣同士を接続することで、階層間移動が可能となる」


「なるほど……」


たるとの耳がわずかに動く。


「では」


「これを使えば第一階層から第五階層へ行けるのですね!」


「ああ」


レオンは頷く。


「ただし」


「自由に任意の地点へ転移できるわけではない」


「?」


たるとが首を傾げる。


「どういうことですか?」


「基本的に転移先は指定階層内のいずれかの地点になる」


「いずれか?」


「ランダムだ」


「えっ!?」


たるとの耳が跳ねる。


「ランダムなんですか!?」


「ああ」


レオンは苦笑する。


「第二階層を指定してもどこへ出るかは分からない」


「第三階層でも同様だ」


「そんな仕組みなんですね……」


シズクが魔法陣を見つめる。


「目的地によっては到着後に長距離移動が必要になりますね」


「その通りだ」


レオンが頷く。


「そのため攻略組にとっては各階層の地形把握が極めて重要となる」


「特に深層へ進むほど、安全な経路の有無が生死を分ける」


「……」


俺は魔法陣を見下ろした。


階層。


その概念自体は理解している。


しかし、こうして実物を前にするとこれまで認識していた世界がいかに限定的であったかを痛感する。


「世界というのは」


思わず言葉が漏れる。


「まだまだ未知に満ちているのだな」


レオンがこちらを見る。


「ああ」


小さく笑う。


「だからこそ攻略する価値がある」


「攻略する価値……」


その意味はまだ完全には理解できない。


しかし。


わずかにその感覚の一端は掴めた気がした。



レオンが魔法陣の中央へ進む。


指先を紋様へと触れさせた瞬間。


――フォン。


淡い光が灯る。


「おお!」


たるとが身を乗り出す。


床の紋様が順に発光し始める。


レオンの操作に応じて光の流れが変化していく。


「魔力の流れが変化しています」


シズクが呟く。


「転移先を設定しているのでしょうか」


「その通りだ」


レオンが答える。


「現在、第五階層を指定している」


やがて魔法陣中央に光の数字が浮かび上がる。


――Ⅴ。


第五階層。


「中央都市アルカディアは第五階層に存在する」


レオンが説明する。


「そのため今回はここを指定する」


「なるほど……」


たるとが頷く。


しかしすぐに首を傾げた。


「さっき転移先はランダムだと言っていましたよね?」


「ああ」


「では」


さらに首を傾げる。


「第五階層でもアルカディアの近くに出るとは限らないのですか?」


「通常であればその通りだ」


「通常?」


レオンがわずかに笑う。


「第五階層のみ例外だ」


「例外?」


ハヤテが反応する。


「ああ」


レオンは中央の数字を見つめる。


「第五階層に限り、転移先は固定されている」


「固定?」


「つまり」


シズクが言葉を継ぐ。


「どの階層から転移しても同一地点へ到着するということですか?」


「その通りだ」


「へぇ!」


ハヤテが感嘆の声を上げる。


たるとも目を輝かせる。


「それなら迷わずに済みますね!」


「ああ」


レオンが頷く。


「そして」


わずかに笑みを浮かべる。


「それこそがアルカディアが発展した最大の要因でもある」


「……?」


たるとが首を傾げる。


「考えてみるといい」


「第五階層へ到達する者は必ず同一地点へ転移する」


「つまり」


指を立てる。


「人が集まる」


もう一本。


「物資が集積する」


さらに一本。


「情報が集約される」


「……あ」


たるとの表情が変わる。


「もしかして!」


「ああ」


レオンが頷く。


「その転移地点を中心に発展した都市」


「それが」


一拍置く。


「中央都市アルカディアだ」


「なるほど……!」


たるとが大きく頷く。


「最初から大都市だったわけではないのですね!」


「当然だ」


「当初は小規模な拠点に過ぎなかったと聞いている」


人が集まり、物が集まり、情報が集まる。


そこに居住者が生まれ、商業が発生し、都市機能が形成される。


その循環の結果として、現在のアルカディアが成立している。


「人が集まる場所には」


シズクが静かに呟く。


「それだけで価値が生まれるのですね」


「その通りだ」


レオンが頷く。


俺はその話を聞きながら自らの拠点を思い浮かべていた。


最初は小さな集まりに過ぎなかった。


しかし今では人が増え、建物が増え、生活基盤が形成されつつある。


規模は比較にならない。


それでも本質は同じなのかもしれない。


人が集まり、居場所が生まれ、やがて帰る場所となる。


「……」


もしも。


俺たちの拠点もいつか――。


「ガウ?」


たるとの声。


「どうしました?」


「いや」


俺は小さく笑った。


「アルカディアという場所に少し興味が湧いただけ」


「私もです!」


たるとが笑う。


「たくさん勉強しましょう!」


「そうだね」


「美味しいものも食べましょう!」


「それが本命じゃないよね?」


「違います!」


本当だろうか。


「では」


レオンが全員を見渡す。


「そろそろ行こう」


クロードも《断罪の聖剣》へ視線を向ける。


「全員、魔法陣内へ」


「転移から外れるな」


「了解!」


三十八名が魔法陣内へと移動する。


俺も中央付近へ立つ。


「準備は?」


レオンが問う。


「問題ありません!」


たるとが答える。


「では」


レオンが手をかざす。


「第五階層へ」


――フォン。


足元が発光する。


光は次第に強さを増し、視界を白く染め上げていく。


「わっ!」


たるとの声。


浮遊感。


上下の感覚が失われる。


そして。


――トン。


足元に感覚が戻る。


「……」


ゆっくりと目を開く。


同じ祠。


しかし、先ほどとは明らかに異なる空気。


「到着したな」


レオンの声。


たるとが周囲を見渡す。


「ここが……」


一拍置く。


「第五階層!」


その声が祠内に響いた。


「声が大きい」


ゴウマが言う。


「すみません!」


反響してさらに響く。


外からは人の気配が伝わってくる。


「人が多いな」


ハヤテが呟く。


「ああ」


レオンが頷く。


「外へ出れば分かる」


祠の出口へ向かう。


外光が差し込む。


そして一歩踏み出した瞬間。


全員の足が止まった。


巨大な城壁が視界を覆っていた。


「……!」


たるとの声が漏れる。


圧倒的な規模。


左右に果てなく続く防壁。


中央には巨大な城門。


整然と並ぶ警備兵。


上部には監視の人影。


防衛のために構築された都市構造。


一目で理解できる完成度であった。


「すげぇな……」


ハヤテが呟く。


「これが全部街を囲っているのか?」


「その通りだ」


レオンが答える。


「アルカディアは世界中から人が集まる都市だからな」


「人が増えれば」


クロードが続ける。


「守るべきものも増える」


「それだけの防備が必要になるということだ」


「……」


ゴウマは城壁を見上げたまま沈黙している。


シズクも同様だった。


おそらく考えていることは俺と同じだ。


俺たちが現在建設している外壁はまだ完成には程遠い。


高さも。


厚さも。


規模も。


目の前にあるそれとは比較にならない。


それでも目的は同じだ。


内部で暮らす人々を守ること。


そのための防壁。


「……参考になるな」


ゴウマが小さく呟いた。


「やはりそう思うか?」


バレットが尋ねる。


「ああ」


ゴウマは城壁から視線を外さない。


「高さだけではない」


「見張りの配置」


「城門の位置」


「城壁上の通路」


「防衛設備」


次々と視線を巡らせていく。


完全に建築的な視点だ。


「帰還後に確認すべき事項が増えたな」


「私もです」


シズクが頷いた。


《白晶》を手に城壁を見上げる。


「あれほどの規模の城壁をどのようにして維持しているのかも気になります」


「そこか」


ハヤテが笑う。


「シズクらしいな」


「重要です」


即答だった。


「物理的な防壁が強固であっても、魔法攻撃への対策がなければ十分とは言えません」


「なるほど」


ハヤテが頷く。


「理解しているの?」


俺が尋ねる。


「なんとなく!」


やはり理解は浅い。


その横で。


「……」


たるとは何も言わず、ただ巨大な城壁を見上げていた。


「たると?」


「え?」


ようやくこちらを見る。


「どうした?」


「いえ」


再び城壁へ視線を戻す。


「すごいなと思って」


小さく笑った。


「私たちの街もいつかこれほど大きくなるのでしょうか?」


「さあ」


俺も城壁を見上げる。


現在の集落からは想像もつかない規模だ。


しかし。


「分からないけど」


たるとを見る。


「規模だけが街の価値ではないと思う」


「……」


「私たちは私たちの街を作ればいい」


たるとの虎耳がわずかに動く。


そして。


「はい!」


笑顔を見せた。


「そうですね!」


「アルカディアにはアルカディアの良さがあります!」


「私たちは!」


胸を張る。


「《王虎の牙》らしい街を作りましょう!」


「まだ国を作ると決まったわけではないよな」


アイスが苦笑する。


「街です!」


「それなら問題ないな」


そのやり取りを聞きながら。


レオンが小さく笑っていた。


「行こう」


城門を指す。


「中はさらに驚くはずだ」


「本当ですか!?」


たるとの目が輝く。


「楽しみです!」


先ほどまでの緊張感はどこへ行ったのか。


まあ。


それがたるとらしい。


俺たちは巨大な城門へと歩き出した。



城門前。


近づくほどにその規模が明確になる。


門だけでも俺たちの集落の建物数棟分に匹敵する高さがある。


左右には警備兵。


背後には詰所と思しき建物。


城壁上には弓兵の姿も見える。


「止まれ!」


警備兵の声が響く。


三十八名が足を止めた。


「所属と入場目的を」


レオンが前に出る。


「《断罪の聖剣》」


「遠征任務からの帰還だ」


警備兵の表情がわずかに変わる。


「レオン殿でしたか」


「ああ」


「ご苦労様です」


レオンは軽く手を上げると右手を前に出した。


淡い光が集まる。


「?」


たるとが首を傾げる。


光は一枚のカードへと変化した。


「それは?」


「プレイヤーカードだ」


レオンが答える。


「アルカディアへ入る際は基本的に身分確認が必要になる」


「そのためのものだ」


「身分証明ですか?」


「ああ」


レオンがカードに触れると半透明のウィンドウが展開された。


名前:レオン

種族:人間

所属:断罪の聖剣

職業:騎士


「おお……!」


たるとが身を乗り出す。


「こうやって表示されるんですね!」


「近い近い」


レオンが苦笑する。


「あっ!」


「すみません!」


慌てて一歩下がる。


「プレイヤーカードには」


レオンが説明する。


「名前」


「種族」


「所属ギルド」


「職業」


「基本情報が登録されている」


「自分で確認するだけでなく」


「他者へ提示することも可能だ」


「なるほど……」


たるとが真剣に聞いている。


「偽造はできないのですか?」


シズクが尋ねる。


「少なくとも」


クロードが答えた。


「俺は聞いたことがない」


「システムそのものが情報を直接表示しているからな」


「そうなのですね」


警備兵がレオンの情報を確認する。


「確認しました」


「通行を許可します」


「ありがとう」


レオンがカードを収める。


続いてクロード。


そして《断罪の聖剣》の面々が順に提示していく。


「俺たちも必要なのか?」


ハヤテが尋ねる。


「当然だ」


クロードが即答する。


「例外を認めれば身分確認の意味がなくなる」


「そりゃそうか」


「では!」


たるとが元気よく手を挙げる。


「私からいきます!」


「何を張り切っている」


ゴウマが呆れる。


「初めてなので!」


「理由になっていない」


たるとは気にせず右手を掲げた。


「出てください!」


淡い光。


カードが出現する。


「掛け声は不要だ」


アイスが小さく呟く。


そして情報が展開される。


名前:たると

種族:虎獣人

所属:王虎の牙

職業:祈祷師


「じゃーん!」


たるとが胸を張る。


「祈祷師です!」


「知っている」


ハヤテが即答する。


「もう少し反応してください!」


「では」


ハヤテが少し考える。


「すごいな」


「雑です!」


警備兵が少し困惑した表情を浮かべている。


「次はガウです!」


「私?」


「はい!」


なぜ仕切っているのかは不明だ。


俺もカードを表示する。


名前:ガウ

種族:狼獣人

所属:王虎の牙

職業:忍者


「忍者!」


たるとが嬉しそうに言う。


「知っているだろう?」


「知っています!」


「ではなぜ驚く?」


「雰囲気です!」


意味は分からない。


「次は俺だ!」


ハヤテが前に出る。


名前:ハヤテ

種族:人間

所属:王虎の牙

職業:剣士


「見ろ!」


「だから知っている」


「ガウまで!?」


その隣でゴウマが無言で提示する。


名前:ゴウマ

種族:人間

所属:王虎の牙

職業:格闘家


「そのままだな」


ハヤテが言う。


「お前にだけは言われたくない」


「なぜだ?」


「剣士以外に見えるか?」


「……侍とかあるだろ?」


「ゲームのシステムに侍などない」


続いてシズク。


名前:シズク

種族:人間

所属:王虎の牙

職業:結界術師


たるとが頷く。


「シズクらしいですね!」


「ありがとうございます」


「褒めているのか?」


ハヤテが尋ねる。


「褒めています!」


「ならいい」


次にバレット。


名前:バレット

種族:人間

所属:王虎の牙

職業:弓兵


「まあ」


バレットが《流星》に手を置く。


「そのままだな」


「弓を持っていますからね!」


「それだけで決まるわけではないが」


「でも弓兵ですよね?」


「そうだが」


バレットは少し困惑している。


アイスも提示する。


名前:アイス

種族:人間

所属:白銀戦線

職業:魔術師


「魔術師……」


俺はアイスを見る。


「何だ?」


「いや」


カードを見る。


「氷以外を使っているところを見ないから」


「アークスキル《氷界支配アブソリュート・ゼロ》の制約で氷魔法しか使えないんだ」


「制約あったんだ」


「アークスキル取得前は様々な魔法を使っていた」


「そうなんだ!」


「その反応は何だ?」


「アイスといえば氷魔法のイメージだからね」


最後にモルフォ。


「では私ですね」


眼鏡を押し上げる。


淡い光。


名前:モルフォ

種族:人間

所属:王虎の牙

職業:博士


沈黙。


ハヤテがカードとモルフォを交互に見る。


「博士?」


「はい」


「職業?」


「はい」


「……博士?」


「三度目です」


「いや」


ハヤテが困惑する。


「そんな職業があるのか!」


「あります」


モルフォは当然のように答える。


「非常に優れた職業です」


「戦闘職ではないだろう?」


「研究職です」


「戦闘職じゃないのにあの強さ?」


「私のアークスキルのおかげですね」


「よく分からなくなってきた」


「理解しようとする姿勢は評価します」


「上からだな!?」


思わず笑いが漏れる。


忍者、剣士、格闘家、結界術師、弓兵、魔術師、祈祷師、博士。


並べてみると統一性はない。


武器も戦闘様式も役割も異なる。


異なるからこそ補完し合う。


俺たちはそういう集団なのだろう。


「確認しました」


警備兵が告げる。


「全員通行を許可します」


「ありがとうございます!」


たるとが元気よく頭を下げる。


警備兵がわずかに笑った。


「賑やかなギルドですね」


「よく言われます!」


「言われたことあったか?」


ハヤテが小声で尋ねる。


「今が初めてです!」


「では事実ではないな!」


城門前に笑いが広がる。


そして巨大な門が開かれる。


俺たちはついに中央都市アルカディアへと足を踏み入れた。



言葉を失った。


まず。


人。


視界のすべてが人で埋まっている。


人間、獣人、エルフ、ドワーフ。


多種多様なプレイヤーが行き交う。


その両側には無数の建物。


宿屋、武器屋、防具屋、食堂、露店、素材店。


見たことのない商品が並ぶ店もある。


何階建てか分からない建物すら存在する。


「いらっしゃい!」


「新装備あります!」


「第五階層産素材!」


「パーティー募集!」


「第六階層前衛募集中!」


声が四方から飛び交う。


「うわぁ……!」


たるとの耳がぴんと立つ。


視線が忙しなく動く。


「すごいです!」


「人が多いです!」


「建物も多いです!」


「店も多いです!」


そして鼻をひくつかせる。


「美味しそうな匂いもします!」


「そこ言うと思った」


俺は苦笑する。


「あっ!」


たるとが屋台を指す。


「何か焼いています!」


「目的を忘れるな」


ゴウマが即座に制止する。


「忘れていません!」


視線は完全に屋台へ向いている。


説得力はない。


「帰りに寄ればいい」


アイスが笑う。


「本当ですか!?」


「僕に許可を求められても困るが」


「やったー!」


「話を聞いているのか?」


その横でシズクは街を観察していた。


「道路が広いですね」


「馬車がすれ違える設計です」


ゴウマが頷く。


「中央通りを広く取り、そこから枝分かれさせている」


「人の流れが滞りにくい構造だ」


完全に設計者の視点だ。


「見張り台もあります」


シズクが遠方を見やる。


「城壁だけではありません」


「都市内部にも配置されている」


「緊急時の情報伝達のためだろう」


ゴウマが続ける。


「参考になる」


「ああ」


二人とも真剣だ。


たるとと同じくらい目が輝いている。


「モルフォは?」


周囲を見渡す。


「……」


いない。


「モルフォ?」


少し後方。


立ち止まっていた。


露店を凝視している。


「何を見ている?」


「珍しい素材です」


「虫か?」


「虫です」


やはりか。


「第五階層産《晶甲虫》の甲殻です」


「非常に希少です」


「買うの?」


「価格次第です」


「目的を忘れないようにね」


「研究も重要です」


「今回は視察だよ」


「研究施設は国家に必要です」


論理で返された。


「……」


強い。


「諦めろ」


バレットが小さく笑う。


「そうするよ」


「どうだ?」


前方でレオンが振り返る。


隣にクロード。


「アルカディアは」


「……すごい」


率直に答える。


「これほどの都市は初めて見たよ」


「だろうな」


レオンが笑う。


「現存する都市の中でも最大規模だ」


ハヤテが周囲を見渡す。


「これを作った連中は相当だな」


「そうだな」


クロードが言う。


「一朝一夕でできるものではない」


「長い年月をかけて形成された都市だ」


「……」


大通りを見渡す。


人、店、建物、生活。


完成された都市。


しかしここも最初は小さな拠点だったと聞く。


「……」


俺たちの集落はまだ遠い。


城壁すら未完成。


道も、建物も、店も足りない。


それでも。


「たると」


「はい?」


「やはり」


アルカディアを見渡す。


「これからが楽しみだね」


「……」


たるとが一瞬目を見開き。


すぐに笑った。


「はい!」


「私もです!」


拳を握る。


「たくさん見て!」


「たくさん学んで!」


「全部持ち帰りましょう!」


「全部は無理だろう」


「気持ちです!」


「ならいい」


俺は今回の目的を思い出す。


国家とは何か。


国家として成立する条件とは何か。


そして。


《王虎の牙》は本当に国を目指すべきなのか。


その答えを得るために俺たちは再び歩き出した。


中央都市アルカディア。


完成された巨大都市の中を俺は見回したのだった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!


ついに中央都市アルカディアへ到着!


自分たちの街とは違う完成された巨大都市。


ここで何を見て何を学ぶのか。


次回もよろしくお願いします!

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