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第16話 ゴブリンの群れ

――ギャアアアアアアッ!!


夜の森を無数の咆哮が引き裂いた。


「敵襲!!」


《断罪の聖剣》の見張りが叫ぶ。


静まり返っていた野営地が一瞬で動き出した。


「何だ!?」


「敵か!?」


「全員起きろ!」


テントから次々と人影が飛び出してくる。


さすが攻略組だ。


眠っていた直後とは思えないほど反応が早い。


各自が即座に武器を手に取り、防具を整え、瞬く間に戦闘態勢へと移行していく。


その中心からレオンの声が飛んだ。


「状況報告!」


「ゴブリンです!」


見張りを担当していた《断罪の聖剣》の男が即答する。


「野営地を完全に包囲されています!」


「数は!?」


「確認できません!」


「かなりの数です!」


レオンの表情が引き締まる。


「クロード!」


「ああ!」


クロードが聖槍アルトリウスを手に前へ出る。


「全員、陣形を整えろ!」


「前衛は外周へ!」


「後衛は中央!」


「了解!」


《断罪の聖剣》が一斉に動き出す。


その動きに迷いはない。


誰がどこへ入るのか。


誰が前を守り、誰が後方を支援するのか。


指示を待つまでもなく、それぞれが自らの役割を理解していた。


その時。


「ガウ!」


聞き慣れた声が響く。


振り返る。


ハヤテ。


ゴウマ。


シズク。


モルフォ。


アイス。


たると。


全員がすでに起きていた。


「状況は?」


ゴウマが簡潔に問う。


「ゴブリン」


俺は森へ視線を戻す。


暗闇の中に無数の赤い眼光が揺れている。


「かなりいる」


「どの程度だ?」


耳を澄ます。


右。


左。


前方。


後方。


足音が重なっている。


一つや二つではない。


予備の忍者刀を構える。


「百はいると見ていい」


「百!?」


たるとの虎耳が跳ね上がった。


「多いですね!」


「そうだね」


ゴブリン。


第一階層でも特に多く生息する魔物だ。


一体一体の戦闘能力は低い。


初心者でも討伐可能とされている。


だがそれは単体での話だ。


ゴブリンは群れを作る。


十体。


二十体。


時には百体を超える。


数が揃えば、それだけで脅威になる。


まして今は夜。


視界は悪い。


さらに俺たちは完全に包囲されている。


油断できる状況ではない。


「どうする?」


ハヤテが《白夜》へ手を掛ける。


その表情はどこか楽しそうだ。


「前に出るか?」


「当然だ」


ゴウマが拳を握る。


「ここで迎え撃つ」


アイスも杖を構えた。


「前線が崩れれば野営地まで雪崩れ込まれる」


「僕も前へ出よう」


「助かる」


俺も忍者刀を構える。


「私たちで前線を抑える」


「おう!」


「了解だ」


バレットが《流星》に矢を番えた。


「俺も前に出る」


前へ出るのは五人。


俺。


ハヤテ。


ゴウマ。


バレット。


アイス。


「シズク」


俺は振り返る。


「たるとをお願い」


「はい」


シズクが小さな杖《白晶》を手に静かに頷いた。


「モルフォも後衛を」


「承知しました」


モルフォが眼鏡を押し上げる。


たるともぶんぶん両手を振り回す。


「回復は任せてください!」


前衛。


後衛。


誰かが細かく指示したわけではない。


それでも自然と役割が決まる。


いつものことだ。


互いに何ができるのか。


誰がどこにいれば戦いやすいのか。


俺たちは知っている。


「……」


レオンがこちらを見ていた。


「随分と早いな」


「何が?」


「役割分担だ」


レオンは答える。


「誰も指示を出していないだろう?」


ハヤテが笑った。


「いつもこんな感じだ」


「必要なところに必要な奴が行くだけだよ」


「……なるほど」


レオンが僅かに目を細める。


その瞬間。


――ガサガサガサッ!!


森が大きく揺れた。


来る。


「構えろ!!」


クロードの声が響く。


次の瞬間。


「ギャアアアアッ!!」


暗闇からゴブリンの群れが飛び出した。


十体。


二十体。


いや。


その奥にもいる。


粗末な剣。


棍棒。


槍。


斧。


様々な武器を手にしたゴブリンが一斉に押し寄せてくる。


「迎撃!!」


レオンの号令。


《断罪の聖剣》が動いた。


盾を持つ者たちが前へ出る。


「止めろ!」


「ここを抜かせるな!」


ゴブリンの突進を受け止める。


その直後、後方から魔法が飛ぶ。


炎。


風。


雷。


色とりどりの光が夜の森を照らした。


「ギャアッ!?」


「ギィィッ!!」


爆発。


悲鳴。


さらにクロードが《アルトリウス》を振るう。


「はっ!」


聖槍が弧を描き、迫るゴブリンたちをまとめて薙ぎ払った。


「左から来るぞ!」


「第二班、対応!」


「了解!」


統率された動き。


さすが攻略組。


だがこちらにも十数体のゴブリンが向かってきていた。


「来たぞ!」


ハヤテが笑う。


《白夜》を抜き放った。


もう一本。


《黒曜》には触れない。


この程度の相手に二刀は必要ない。


「先に行く!」


地面を蹴る。


「おい!」


ゴウマが叫んだ。


「勝手に突出するな!」


「問題ない!」


「それを決めるのはお前じゃない!」


いつもの応酬だ。


「ハヤテの右は僕が抑える」


アイスが冷静に杖を向ける。


「助かる!」


その間にもハヤテは敵陣へ飛び込んでいた。


「ギャッ!」


ゴブリンの剣が振り下ろされる。


半歩。


ハヤテが身体をずらす。


刃が空を切った。


直後。


《白夜》が閃く。


一閃。


「ギ……」


ゴブリンが崩れ落ちる。


続けて左右から二体。


ハヤテは足を止めない。


一体。


二体。


流れるような斬撃で次々と仕留めていく。


「次!」


「楽しそうだね」


俺も駆ける。


正面。


棍棒を振り上げたゴブリン。


振り下ろされる。


身体を僅かに傾ける。


棍棒が肩の横を通過。


そのまま懐へ。


一閃。


倒れるのを確認する必要はない。


次。


槍。


穂先を忍者刀で逸らす。


懐へ入る。


喉元を斬る。


さらに背後。


「ガウ!」


バレットの声。


身を沈める。


ヒュンッ!


頭上を矢が通過した。


ドスッ!


背後から迫っていたゴブリンの額へ突き刺さる。


「さすが!」


「前だけ見るな!」


「見えてたよ」


「なら避けろ!」


「撃つと分かっていたから」


「ったく!」


バレットが次の矢を番える。


引く。


放つ。


ヒュンッ!


一体。


すぐに次。


二体目。


さらに三体目。


矢は正確に急所を射抜いていく。


「ふんっ!!」


轟音。


ゴウマの拳がゴブリンの顔面を捉えた。


「ギャッ!?」


吹き飛ぶ。


後方の二体を巻き込み、そのまま地面を転がった。


「まだ来るぞ!」


三体。


正面。


右。


背後。


「分かっている!」


一体目の剣を腕で逸らす。


腹部へ拳。


二体目には蹴り。


そして背後。


振り向きざまの裏拳。


鈍い衝撃音。


三体がほぼ同時に崩れ落ちる。


その横。


「《氷柱槍》」


アイスの杖が淡く輝く。


空中に氷の槍が生まれた。


一本。


二本。


三本。


「行け」


鋭い音と共に射出。


「ギャッ!?」


「ギィッ!」


氷柱が次々とゴブリンを貫く。


さらに奥から五体。


まとまってこちらへ突っ込んでくる。


アイスは杖を地面へ向けた。


「《氷壁》」


ゴゴゴゴッ!!


地面から氷の壁がせり上がる。


「ギャ!?」


先頭のゴブリンが激突。


後続が次々と詰まる。


「ハヤテ」


「分かってる!」


氷壁の脇を抜ける。


一閃。


二閃。


動きを止められたゴブリンたちが次々と倒れていく。


「おお!」


ハヤテが笑った。


「やりやすい!」


「なら勝手に突出しないでもらえるともっとやりやすいんだが」


「それは無理だ!」


「即答か」


アイスが苦笑する。



「……」


レオンは戦場を見渡していた。


《断罪の聖剣》も問題なく戦えている。


ゴブリン程度。


数が多いとはいえ、この人数ならば対処は可能だ。


だがレオンの視線は自然と別の場所へ向いていた。


《王虎の牙》。


「……速い」


思わず言葉が漏れる。


ガウ。


派手な技は使っていない。


それでも攻撃を受けない。


最小限の動きで避け。


一歩踏み込み。


斬る。


ただそれだけ。


それだけなのに止まらない。


一体。


また一体。


ゴブリンが倒れていく。


その近くではハヤテ。


腰には二本の刀。


だが抜いているのは《白夜》のみ。


一刀だけで敵陣を駆け回っている。


さらにゴウマ。


アークスキルらしき力は使っていない。


己の拳と体術だけ。


それにもかかわらず、一撃でゴブリンを吹き飛ばしている。


バレット。


次々と放たれる矢。


ほぼ全てが急所。


そしてアイス。


氷魔法で敵を倒すだけではない。


敵の進行を止め。


味方が戦いやすい状況を作っている。


「……あれが」


《深淵の剣》を壊滅させた者たち。


実力があることは分かっていた。


だが想像以上だ。


「レオン!」


クロードの声。


「前を見ろ!」


「っ!」


槍を持ったゴブリンが迫る。


レオンは大盾で受け流す。


そのまま聖剣を振るった。


一閃。


ゴブリンが倒れる。


「悪い」


「戦場で余所見とは珍しいな」


クロードが《アルトリウス》で別のゴブリンを薙ぎ払う。


「少し驚いただけだ」


「何にだ?」


レオンは答えず視線を送る。


クロードもそちらを見る。


「……なるほどな」


ガウ。


ハヤテ。


ゴウマ。


「アークスキルを使っていない」


「ああ」


クロードが短く答える。


「ハヤテに至っては二本目の刀すら抜いていない」


「……まだ余力があるということか」


レオンの表情が僅かに険しくなる。


深淵の剣を倒した。


その事実だけなら知っていた。


だがその意味をようやく実感し始めていた。


「レオン!」


「ああ!」


今は戦闘中。


考えるのは後だ。


レオンは再び聖剣を構えた。



戦況はこちらへ傾いている。


だがゴブリンは多い。


全方位からの攻撃はまだ続いていた。


後衛。


たるとは杖を握りながら周囲を確認する。


「前衛の皆さんは大丈夫そうですね!」


「今のところ負傷者はいません」


シズクが答える。


その手には小さな杖。


《白晶》。


「このまま――」


その時。


シズクの視線が止まった。


茂み。


僅かに揺れた。


「……」


「シズク?」


「たるとさん」


一歩。


前へ出る。


「下がってください」


「え?」


直後。


「ギャアアアッ!!」


茂みからゴブリンが飛び出した。


前線を迂回してきた個体。


狙いは後衛のたると。


剣が振り上げられる。


その瞬間、シズクが《白晶》を前へ向けた。


魔力が収束する。


「アークスキル」


静かな声。


「《絶対結界アブソリュート・バリア》」


《白晶》の先端が淡く輝く。


「《障壁》」


透明な壁が瞬時に現れた。


ガキィィン!!


「ギャッ!?」


ゴブリンの剣が完全に止まる。


びくともしない。


「シズクさん!」


「問題ありません」


淡々とした声。


シズクは《白晶》を僅かに動かした。


ゴブリンが再び剣を振り上げる。


「近づかないでください」


もちろん通じない。


剣を構え。


再び突っ込んでくる。


「仕方ありませんね」


シズクの周囲に展開されていた魔力が変化する。


壁ではない。


薄く。


鋭く。


刃のような結界。


「《結界刃》」


ヒュンッ。


透明な刃が空間を走った。


一閃。


「ギ……」


ゴブリンの動きが止まる。


次の瞬間、ゴブリンは地に伏せた。


「……」


たるとが目を丸くする。


「シズクさん!」


「はい」


「結界って切れるんですか!?」


「切れます」


「すごいです!」


「ありがとうございます」


いつも通り淡々としている。


だがシズクが操る結界は守るだけの力ではない。


敵を防ぎ。


閉じ込め。


そして必要ならば切り裂く。


その直後。


「まだ来ます」


モルフォの声。


別の茂み。


三体。


ゴブリンが飛び出した。


「ギャアアアッ!」


モルフォが一歩前へ出る。


眼鏡を押し上げた。


「こちらは私が」


魔力が膨れ上がる。


「アークスキル」


「《百虫のインセクトロード》」


次の瞬間、モルフォの背から巨大な蝶の羽が広がった。


「《痺蝶鱗粉パラライズ・ダスト》」


羽が大きく震える。


淡い鱗粉が夜風に乗って広がった。


「ギィ!?」


突っ込んできたゴブリンたちがそれを吸い込む。


一歩。


二歩。


「ギ……」


身体が硬直する。


三体がほぼ同時に地面へ倒れた。


「麻痺性の鱗粉です」


モルフォが静かに説明する。


「倒してないんですか?」


たるとが尋ねる。


「はい」


モルフォは倒れたゴブリンを見る。


「必要ありませんので」


その直後。


ヒュンッ!


三本の矢。


倒れたゴブリンたちを正確に射抜いた。


「なら俺がやる」


バレットが《流星》を下ろす。


モルフォは倒れたゴブリンたちを確認し、眼鏡を押し上げた。


「ありがとうございます」


「どういたしまして」


「バレットさん!」


たるとの声が飛ぶ。


「前も見てください!」


「見てるって!」


バレットは振り向かずに次の矢を番える。


ヒュンッ!


放たれた矢が前方から迫っていたゴブリンの眉間へ突き刺さった。


「本当に見てました!」


「だから言っただろ!」


「すごいです!」


何に感心してるんだ。


「……」


俺は一瞬だけ後方を見る。


シズクとモルフォ。


あの二人なら問題ない。


たるとの心配が無いなら前に集中すればいいだけだ。


「ガウ!」


ハヤテの声。


視線を戻す。


まだ何体か残っている。


「最後まで油断するな!」


ゴウマが拳を構える。


「分かってる!」


俺も忍者刀を握り直した。



戦いはそれから長く続かなかった。


数で押していたゴブリンたちもすでに勢いを失っている。


《断罪の聖剣》の前衛が敵を受け止め。


後衛から魔法と矢が飛ぶ。


こちらも同じだ。


アイスの氷魔法がゴブリンの足を止める。


そこへハヤテが飛び込み、《白夜》で斬り伏せる。


ゴウマの拳が敵を吹き飛ばし。


バレットの矢が俺たちの死角を正確に射抜く。


俺も迫るゴブリンを一体ずつ仕留めていく。


そして。


「バレット!」


「ああ!」


残った数体が一直線に重なった。


バレットが《流星》へ矢を番える。


魔力が集まる。


「アークスキル――」


「《魔法付与エンチャント・マスター》」


弦を引き絞る。


「《貫通付与ペネトレイト・ショット》」


放つ。


ヒュンッ!!


一条の矢が夜の森を駆け抜けた。


一体。


二体。


三体。


一直線に並んでいたゴブリンたちをまとめて貫く。


「ギャッ!?」


次々と地面へ崩れ落ちた。


そして最後の一体。


「ギャアアアアッ!!」


剣を振り上げ、俺へ向かってくる。


一歩踏み込む。


振り下ろされるより先に。


すれ違う。


一閃。


「ギ……」


背後でゴブリンが地面へ崩れ落ちた。


「……」


耳を澄ませる。


右。


左。


森の奥。


もう足音はない。


「終わったね」


忍者刀を下ろした。



「……終わったか」


少し離れた場所。


レオンは静かに戦場を見渡していた。


百体近くいたゴブリンの群れ。


それが短い時間で完全に制圧されている。


《断罪の聖剣》も十分に役目を果たした。


だがレオンの視線は自然と《王虎の牙》へ向いていた。


ガウ。


ハヤテ。


ゴウマ。


バレット。


アイス。


シズク。


モルフォ。


たると。


「強いとは聞いていたが……」


レオンが小さく息を吐く。


「想像以上だな」


「同感だ」


隣でクロードが《アルトリウス》を下ろす。


レオンは先ほどの戦闘を思い返していた。


ガウ。


敵の攻撃を最小限の動きで避け。


必要な一撃だけで仕留める。


ハヤテ。


《白夜》一本だけで敵陣を駆け回り。


二本目の《黒曜》すら抜いていない。


ゴウマ。


アークスキルを使うことなく己の拳だけでゴブリンを押し返した。


そしてバレット。


通常の射撃だけでも外していない。


アイスは氷魔法で敵の動きを制御し。


シズクは結界でたるとを守りながら敵を切り伏せた。


モルフォも複数のゴブリンを一瞬で無力化している。


「……」


一部の強者だけではない。


それぞれが自分の役割を持っている。


そして何より。


「指示がほとんどなかったな」


レオンが呟く。


クロードが頷いた。


「ああ」


「それなのに崩れない」


《断罪の聖剣》とは違う。


自分たちは明確な指揮系統のもとで動く。


誰が前へ出る。


誰が下がる。


誰が援護する。


それを共有し。


組織として戦う。


だが《王虎の牙》は誰かが細かく命令するわけではない。


それでもガウが避ければバレットの矢が飛ぶ。


ゴウマが敵を止めればハヤテが斬る。


アイスが凍らせれば誰かがその隙を利用する。


後ろはシズクたちに任せ。


前衛は一度も振り返らず戦えている。


「互いが何をするのか」


レオンが静かに言う。


「分かっているんだろうな」


「長く一緒に戦った結果か」


「それだけじゃない気がする」


「……?」


レオンは少しだけ笑った。


昨日。


あの集落で見た光景を思い出す。


一緒に働き。


一緒に飯を食い。


くだらないことで笑い合う。


戦場だけで作られた関係ではない。


「普段から」


「互いを知っているんだろう」


クロードも《王虎の牙》を見る。


「……なるほどな」


そして小さく笑う。


「敵に回したくない連中だ」


「ああ」


レオンも笑った。


「まったくだ」



「レオン!」


声がした。


振り返る。


俺とバレットが歩いてくる。


「ゴブリンは全部倒したよ」


レオンは苦笑した。


「ああ」


「見ていた」


「そうなの?」


「途中からな」


レオンは俺たちを見る。


「君たちは本当に強いな」


「そう?」


俺は首を傾げる。


横でバレットが笑う。


「素直に褒められとけ」


「いや」


「ゴブリンだし」


「そこじゃない」


レオンが笑った。


「単純な戦闘力の話だけじゃないよ」


「?」


「連携だ」


俺とバレットは顔を見合わせる。


「連携?」


「ああ」


レオンは頷いた。


「ほとんど指示がないのにお互いの動きを理解している」


「誰かが空けた場所を別の誰かが埋める」


「危険があれば自然と援護が入る」


「それが当たり前のようにできている」


「……」


俺は少し考える。


「いつもこんな感じだけど」


「それが凄いんだよ」


「そうなの?」


「そうだ」


即答された。


バレットが肩を揺らす。


「ガウ」


「何?」


「たぶん相当褒められてるぞ」


「それくらい分かってるよ」


「本当?」


「……たぶん」


「たぶんなの!?」


レオンが吹き出した。


「ははは!」


その笑い声に少し離れた場所にいたクロードも口元を緩める。


だがレオンの目はすぐに真剣なものへ戻った。


「正直に言えば」


俺たちを見る。


「《深淵の剣》を壊滅させたと聞いた時も」


一度言葉を切る。


「実感がなかった」


「……」


「君たちの名前をそれまでほとんど聞いたことがなかったからな」


それはそうだと思う。


俺たちは第一階層の端にある小さな集落で仲間と暮らしていただけだ。


「だが」


レオンが続ける。


「今日見て分かった」


視線の先。


ハヤテとゴウマが何か言い合っている。


たるとは負傷者がいないか駆け回り。


シズクがその後を手伝う。


モルフォは先ほど使った鱗粉について何かを確認していた。


アイスも《断罪の聖剣》の負傷者へ声を掛けている。


「強いのは」


レオンが言う。


「一部の人間だけじゃない」


「《王虎の牙》そのものが強いんだな」


「……」


思ってもいなかった言葉だった。


俺は少しだけ集落のみんなを思い出す。


今回来ていない仲間たちもみんなそれぞれにできることがある。


「そうかもね」


俺が答える。


「私一人じゃ」


少し笑う。


「何もできないから」


レオンは一瞬、目を見開いた。


それから穏やかに笑う。


「そういうところも含めて強いのかもしれないな」



「怪我をした方はいませんか!?」


たるとの声が響く。


《断罪の聖剣》から返事が上がった。


「軽傷が数名!」


「こちらです!」


「今行きます!」


たるとが駆け出す。


シズクも続いた。


「私も手伝います」


「お願いします!」


先ほどまで。


結界でゴブリンを切り伏せていたシズク。


今は傷ついた者を助けるために動いている。


それを見て少しだけ笑う。


本当にシズクらしい。


「モルフォ」


俺は声を掛ける。


「大丈夫?」


「問題ありません」


モルフォは背に広げていた蝶の羽を消した。


「もう少し鱗粉の濃度を上げれば、大型の魔物にも――」


「研究は後にしてね」


「……」


少し黙る。


「分かりました」


本当に分かっているだろうか。



しばらくして負傷者の治療も終わった。


幸い重傷者はいない。


ゴブリンの数こそ多かったがこちらは三十八人。


しかも戦闘経験の豊富な者が多い。


大きな被害を出すことなく。


無事に戦闘を終えることができた。


再び野営地の整備が始まる。


倒れた荷物。


ずれたテント。


戦闘で散らかった道具。


それらを皆で元へ戻していく。


見張りの人数も先ほどより増やすことになった。


「これでいいだろう」


クロードが周囲を確認する。


「交代時間も少し短くする」


「了解!」


《断罪の聖剣》の面々が動き出す。


一方。


「シズク」


俺は声を掛けた。


「はい?」


《白晶》を手にしたシズクが振り返る。


「さっき」


「《結界刃》ですか?」


「それもだけど」


たるとを見る。


治療を終え。


今は座って一息ついている。


「たるとを守ってくれてありがとう」


「……」


シズクは僅かに目を瞬かせた。


「当然です」


静かな声。


「私の能力はそのためにあります」


俺は《白晶》を見る。


「結界って本当に色々できるんだね」


「はい」


シズクも小杖へ視線を落とす。


「近づけない」


「閉じ込める」


「隔てる」


「守る」


そして。


少しだけ間を置く。


「必要であれば敵を倒すこともできます」


「そっか」


「はい」


静かに頷く。


派手じゃない。


でもとても頼もしい。


「これからも頼りにしてるよ」


「……はい」


ほんの少しシズクが笑った。


その時。


「シズクさーん!」


たるとの声。


「……」


いつもの表情に戻る。


「何ですか?」


「もう一回見せてください!」


「嫌です」


「即答!?」


「危ないですから」


「じゃあ小さい《結界刃》!」


「大きさの問題ではありません」


「むぅ……!」


たるとの頬が膨らむ。


思わず笑った。



「ふぁぁ……」


たるとが大きな欠伸をする。


「眠いです……」


「そりゃ眠いだろ」


ハヤテが笑う。


「完全に寝てたところを叩き起こされたんだから」


「ゴブリンさんたち……」


たるとの耳がへにゃりと下がる。


「もう少し時間を考えて来てほしかったです……」


「無理を言うな」


ゴウマが呆れる。


「夜襲だからな」


「次は朝にしてください……」


「予約制じゃないぞ」


アイスが苦笑する。


「できればお昼がいいです」


「増えたな」


「ご飯の後なら元気です!」


「そういう問題じゃない」


笑いが起こる。


ゴブリンに襲われた直後。


それでもいつもの空気が戻ってきていた。


「さて」


俺は空を見上げる。


星。


夜。


まだ朝までは長い。


《王虎の牙》。


《白銀戦線》。


《断罪の聖剣》。


三十八人。


まだ出会って間もない者も多い。


それでも一緒に歩き。


一緒に飯を食い。


そして一緒に戦った。


ほんの少しずつ。


距離は縮まっている。


明日になれば。


また《階層転移陣》を目指して歩き出す。


その先には中央都市アルカディア。


そして俺たちがこれから作る場所の未来を決めるための答えが待っている。


三十八人の旅はまだ始まったばかりだった。

第16話「ゴブリンの群れ」を読んでいただきありがとうございます!


今回は《断罪の聖剣》と共に戦う初めての戦闘回でした。


そしてシズクの結界術も戦闘では初めて本格的に披露!


守るだけではない彼女の力にも今後注目していただければ嬉しいです。


レオンも少しずつ《王虎の牙》というギルドの本当の強さに気付き始めました。


三十八人の旅はまだ続きます。


次回もよろしくお願いします!

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