第14話 緊急会議
夜。
《王虎の牙》の集落。
昼間まで響いていた建築の音はすっかり消え、辺りは静かな夜に包まれていた。
家々から漏れる淡い明かり。
時折聞こえてくる住民たちの声。
そして集落の中央にある集会場だけはまだ明るい光が灯っていた。
◇
集会場。
普段よりも多くの仲間たちが集まっている。
たると。
俺。
ハヤテ。
ゴウマ。
リンファ。
シズク。
セリア。
バレット。
ガンテツ。
サイオン。
アイス。
モルフォ。
ノエル。
ヨミ。
今回集まったのは単純に戦闘力の高い者たちではない。
街の防衛。
生活。
研究。
住民との調整。
それぞれ異なる立場からこの場所を支えている仲間たちだ。
なぜなら今夜話し合うことは戦いの話ではない。
この場所で暮らすすべての人に関わる話だからだ。
全員が席についたところで。
「皆さん」
たるとが静かに口を開いた。
いつもの明るい声とは少し違う。
緊張しているのか。
虎耳も僅かに立っている。
「こんな時間にお集まりいただきありがとうございます」
「構わない」
ゴウマが腕を組む。
「緊急の話なのだろう?」
「はい」
たるとは頷く。
一度集まった全員を見渡した。
「実は先ほど」
「レオンさんから、一つの提案をいただきました」
「レオンから?」
アイスが反応する。
「はい」
たるとは一度息を吸う。
そして。
「《王虎の牙》で――」
僅かに間を置いた。
「国を築いてみないか、と」
「……」
静寂。
誰も言葉を発さない。
数秒。
そして。
「いいじゃん!」
ハヤテが真っ先に声を上げた。
「国だろ!?」
「なんか面白そうじゃん!」
「ハヤテ」
ゴウマの低い声。
「ん?」
「少し黙っていろ」
「なんでだよ!?」
「お前がいると五秒で建国が決まりそうだからだ」
「いいじゃん!」
「よくない」
即答だった。
「国だぞ!」
ハヤテは楽しそうに笑う。
「自分たちの国!」
「絶対面白いって!」
「面白いかどうかで決める話ではない」
「ゴウマは固いなぁ」
「お前が軽すぎるんだ」
俺は二人を見る。
まあ予想通りだ。
ハヤテなら絶対こうなると思っていた。
「でも」
リンファが口を開く。
「ゴウマの言う通りよ」
その表情は真剣だった。
「国を作るって、今の集落をそのまま大きくするだけじゃないでしょう?」
「そうだな」
ゴウマが頷く。
「国家を名乗るのであれば今までとは立場そのものが変わる可能性がある」
「守る対象も増える」
「人が増えれば問題も増える」
「当然」
一度言葉を切る。
「責任も今まで以上に重くなる」
たるとの虎耳が少し下がる。
「やっぱり……そうですよね」
アイスも静かに頷いた。
「僕も同意見だ」
全員の視線が向く。
「国家になることで得られるものはあると思う」
「だが」
アイスは腕を組む。
「当然、利点ばかりじゃない」
「他の国家やギルドとの関係」
「治安維持」
「住民の管理」
「物資」
「領土」
「場合によっては」
表情が僅かに険しくなる。
「外部から敵として認識される可能性だってある」
「敵……」
たるとが呟く。
「あくまで可能性だ」
アイスはすぐに付け加える。
「僕も国家運営に詳しいわけじゃない」
「だから断言はできない」
「……」
それこそが今の俺たちにとって最大の問題だった。
「私たち」
たるとが困ったように笑う。
「そもそも国についてほとんど知らないんですよね……」
「そうだね~」
セリアがいつもの眠たげな声を上げる。
「魔法の研究なら分かるけど~」
「国の作り方は研究したことないね~」
「普通はしないと思います」
シズクが静かに返す。
「そうかな~?」
「はい」
「残念~」
何が残念なのだろう。
「私も」
シズクが続ける。
「国家規模の防衛設備がどういった形になるのかは興味があります」
「ですが国として必要になる制度については詳しくありません」
バレットも顎に手を当てる。
「俺も同じだな」
「旅をしていた頃にいくつか街は見てきたが自分たちで国を作ろうなんて考えたこともない」
「普通そうよね」
リンファが苦笑する。
「俺もないぞ!」
ガンテツが胸を張る。
「自慢することじゃないわよ」
「ガハハハハ!」
笑い声。
少しだけ張り詰めていた空気が和らいだ。
◇
「各階層に」
今度はノエルが口を開いた。
「国家と呼ばれる場所が存在すること自体は把握しています」
全員の視線が集まる。
「ただ」
ノエルは申し訳なさそうに続ける。
「私もダンジョン攻略を中心に活動していましたので各国の制度や運営方法までは分かりません」
「そうなんですね」
たるとが頷く。
「はい」
「立ち寄ったことのある街や国はいくつかありますが冒険者として利用した程度です」
「国を作る側の知識となると……」
ノエルは首を横に振った。
「お役に立てそうにありません」
「そんなことないですよ!」
たるとが慌てる。
「知っていることがあったら教えてもらえるだけで助かります!」
「ありがとうございます」
ノエルが僅かに笑った。
続いて。
「私も似たようなものですね」
モルフォが静かに眼鏡へ触れる。
「国家運営に関しては専門外です」
「研究じゃないもんな」
ハヤテが言う。
「ええ」
モルフォは穏やかに頷く。
「ただし」
少しだけ表情が変わった。
「研究者という立場から考えるのであれば」
「国家という枠組みには興味があります」
「研究者としてですか?」
たるとが首を傾げる。
「はい」
「私が中央都市アルカディアを離れた理由の一つは」
モルフォが静かに続ける。
「《百虫の王》を得たことで、研究内容を他者に警戒されるようになったからです」
「……」
俺はモルフォを見る。
確かに虫を大量に操る研究者。
文字にするとかなり危うい。
「研究には環境が必要です」
モルフォは続ける。
「安全に実験できる場所」
「素材を保管する場所」
「研究成果を管理する仕組み」
「そして」
「研究者自身が安心して暮らせる環境」
「国家という規模になれば」
眼鏡の奥の瞳が僅かに細くなる。
「そうした環境をより大きな規模で整備できる可能性があります」
「なるほど……」
たるとが真剣に聞いている。
「研究所だけじゃなく研究する人たちが暮らせる環境そのものを作れるってことですね」
「その通りです」
モルフォが頷く。
「もちろん」
「国を作る理由が研究だけでは困りますが」
「そこは安心していいよ」
俺は思わず口を挟んだ。
「モルフォの虫国家にはしないから」
「残念です」
「残念なの?」
「冗談ですよ」
本当に?
「ガハハハハ!」
ガンテツが笑う。
サイオンも肩を揺らした。
「おいらはアルカディア以外の国はほとんど知らないッスね~」
「攻略ばっかりしてたッスから」
「興味もあんまりなかったッス」
「サイオンらしいな」
アイスが苦笑する。
「アイスさんは?」
たるとが尋ねる。
「僕も多少耳にした程度だ」
アイスは答える。
「だからこそ曖昧な知識で判断するべきじゃないと思う」
その言葉に何人かが頷いた。
「……」
そんな中、ずっと黙っていた者がいる。
ヨミ。
集会場の隅。
静かに座ったまま狐の尻尾だけがゆっくりと揺れている。
「ヨミちゃん?」
たるとが気付いた。
「どうしました?」
「……」
ヨミは少し迷う。
そして。
「国なら」
小さく口を開いた。
「一つ……知っています」
「本当?」
「はい」
ヨミの尻尾が止まった。
「第二階層に」
静かな声。
「《モートス》という国がありました」
「モートス……」
ゴウマがその名を繰り返す。
「聞いたことがないな」
「今は」
ヨミが答える。
「ありません」
「……」
空気が変わった。
俺はヨミを見る。
その横顔はいつもより僅かに硬い。
「私とツキは」
ヨミが続ける。
「そこに住んでいました」
「……!」
たるとの目が見開かれる。
「ヨミちゃんとツキちゃんが?」
「はい」
「大きな国ではありませんでした」
「でも」
ヨミは膝の上でそっと手を握った。
「私とツキにとっては」
一度。
目を伏せる。
「帰る場所でした」
「……」
誰も口を挟まない。
「街があって」
「お店があって」
「知っている人たちがいて」
「ツキと一緒に暮らしていました」
穏やかな声。
それだけに次に続く言葉が重かった。
「でも」
ヨミの耳が僅かに伏せられる。
「《深淵の剣》に滅ぼされました」
「……」
静寂。
先ほどまでの笑いが完全に消えた。
「ヨミちゃん……」
たるとが椅子から立ち上がる。
「ご、ごめんなさい!」
「嫌なことを思い出させちゃって……!」
「大丈夫です」
ヨミは小さく首を横に振った。
「私が話そうと思ったから」
「でも……」
「大丈夫」
もう一度ヨミは答えた。
「今は」
顔を上げる。
そして。
俺たちを見る。
「ここがありますから」
「……」
その一言に胸の奥が僅かに熱くなった。
ヨミとツキは帰る場所を一度失った。
それでもここを新しい帰る場所として選んでくれている。
「ヨミちゃん!」
たるとがヨミの手を握る。
「ここは絶対になくしません!」
「たるとさん……」
「もっともっと!」
「安心して暮らせる場所にします!」
「……はい」
ヨミがほんの少しだけ笑った。
「……国を作れば」
ゴウマが静かに口を開いた。
「安全になるわけではない」
全員がゴウマを見る。
「ヨミの話がそれを証明している」
「……」
「国を名乗る」
「人が集まる」
「規模が大きくなる」
「それだけ守るべきものも増える」
ゴウマの表情は険しい。
「作って終わりではない」
「守り続けなければならない」
たるとは静かに頷いた。
「はい」
レオンに言われた。
国。
最初に聞いた時はあまりにも大きすぎて何も想像できなかった。
だが今。
少しだけその意味が見え始めている。
人を集めることではない。
土地を広げることでもない。
そこに暮らす人たちの生活を背負うこと。
「難しいですね……」
たるとが呟く。
「難しいな」
アイスも答える。
「だからこそ」
「軽々しく決めるべきじゃない」
「……はい」
再び。
静かな空気。
皆が考えている。
そんな中。
「だったらよ!」
バンッ!!
突然。
巨大な手が机を叩いた。
「わっ!?」
たるとの虎耳が跳ねる。
「ガンテツさん!?」
「ガハハハハ!」
ガンテツが豪快に笑う。
「さっきから聞いてりゃ!」
「分からねぇ!」
「知らねぇ!」
「難しい!」
「そればっかりじゃねぇか!」
「……まあ」
ハヤテが頷く。
「確かに」
「だったらよ!」
ガンテツが立ち上がる。
「知ってる奴に聞けばいいだろ!」
「……え?」
たるとが瞬きをする。
「俺たちは国について詳しくねぇ!」
「だったら詳しい場所に行く!」
「聞く!」
「調べる!」
「それから決める!」
「簡単だろ!」
「……」
全員がガンテツを見る。
「なんだ?」
ガンテツが首を傾げる。
「俺、何か変なこと言ったか?」
「いや」
俺は答える。
「珍しくすごくまともなこと言ってる」
「珍しくとはなんだ!」
「ガウに同意だな」
ハヤテが笑う。
「ハヤテまで!?」
「ガハハハハ!」
結局笑うんだ。
「でも」
たるとが考える。
「確かにその通りですね」
ゴウマも腕を組んだまま頷いた。
「悪くない」
「情報もないままここで議論を続けても結論は出ない」
「まず制度を知るべきだ」
「なら」
アイスが口を開く。
「アルカディアだな」
「アルカディア?」
「ああ」
アイスは頷く。
「一つ聞いたことがある」
「国家として正式に認めてもらうには中央都市アルカディアにある冒険者ギルドが関係しているらしい」
「冒険者ギルド……」
「ただ」
アイスは続ける。
「僕も詳細までは知らない」
「登録だけでいいのか」
「何か条件があるのか」
「審査が必要なのか」
「そこまでは分からない」
「なら」
ゴウマが言う。
「直接聞くのが一番早いな」
「そうね」
リンファも頷く。
「アルカディアなら他国の情報も集められるでしょうし」
「国家になるかどうかはそれを知ってから決めても遅くないわ」
「私も賛成です」
シズクが静かに言う。
「防衛設備や国家規模の結界についても情報が得られるかもしれません」
「研究施設についても調べたいですね」
モルフォも続く。
「おいらも行くッスか?」
サイオンが自分を指差す。
「まだ決まってないだろ」
アイスが苦笑する。
「あっ」
「そうだったッス」
再び小さな笑いが起こる。
「……」
たるとは集まった仲間たちを見渡した。
誰一人。
勢いだけで国を作ろうとは言わなかった。
反対だけをする者もいない。
分からないから。
知ろうとしている。
そしてみんなで決めようとしている。
「……分かりました」
たるとが笑う。
「まずは知ることから始めましょう!」
「中央都市アルカディアへ行って国について詳しく調べます!」
「その上で」
一度皆を見る。
「私たちが国を作るのかもう一度みんなで考えましょう!」
「おう!」
ハヤテが笑う。
「異議なしだ」
ゴウマも頷く。
「私も賛成よ」
「はい」
「了解ッス!」
「異論はありません」
声が重なる。
こうしてその夜《王虎の牙》は建国を決めた――わけではない。
国という選択肢を本気で考えることを決めた。
その答えを探すため。
中央都市アルカディアへ向かうことになった。
◇
翌朝。
《王虎の牙》の集落。
まだ朝日が昇り始めたばかりの時間帯にもかかわらず、集落内はすでに慌ただしく動き始めていた。
「食料はこちらです」
「水も追加でお願いします」
「野営道具の準備は?」
「問題なく整っています」
普段の街づくりとは異なる、出発前特有の緊張感と活気が漂っている。
本日、俺たちはこの集落を離れる。
目的地は第五階層に位置する中央都市アルカディア。
「よし!」
集落の中央でたるとが荷物を前にして大きく頷いた。
「これで全てですね」
「本当に?」
俺が確認すると、
「はい!」
と即答が返ってくる。
「食料!」
指を一本立てる。
「あります!」
二本目。
「水!」
三本目。
「野営道具!」
さらに続けて、
「着替え!」
「予備の回復アイテム!」
「地図!」
次々と確認を終え、最後に胸を張った。
「完璧です!」
「……」
その横に積まれた荷物へ視線を向ける。
かなりの量だ。
「たると」
「はい?」
「それ全部持つつもり?」
「……」
たるとも荷物を見つめる。
「持てませんね!」
「だろうね」
即答だった。
「ガウ~!」
「嫌だよ」
「まだ何も言ってません!」
「顔に出てる」
「むぅ……」
たるとの頬がわずかに膨らむ。
そのとき、
「俺が持つ」
ゴウマが大きな荷物を一つ持ち上げた。
「必要な物なのだろう?」
「ゴウマさん!」
たるとの表情が明るくなる。
「ありがとうございます!」
「ただしだ」
「はい?」
ゴウマは残りの荷物へ視線を向ける。
「明らかに不要な物は置いていけ」
「不要な物?」
「その袋は何だ」
「お菓子です!」
「置いていけ」
「必要です!」
「不要だ」
「必要です!」
朝から始まる不毛な応酬。
「旅にお菓子は必要です!」
「食料がある」
「食料とお菓子は別です!」
「何が違う」
「心の潤いです!」
「……」
ゴウマが沈黙する。
俺も言葉を失う。
その横でハヤテが吹き出した。
「ははは!完全に遠足気分じゃん!」
「いいじゃん、それくらい持っていけば」
「お前が持て」
「え?」
「……やはり置いていくか?」
「裏切り者ー!」
朝から実に平和な光景だった。
◇
今回、アルカディアへ向かう《王虎の牙》のメンバーは八名。
たると、俺、ハヤテ、ゴウマ、シズク、バレット、アイス、そしてモルフォ。
全員での移動は不可能だ。
俺たちが不在の間もこの集落の運営と発展は継続される必要がある。
そして何より拠点を守る者が必要だ。
「改めて確認する」
ゴウマが全員を見渡す。
「今回の目的は戦闘ではない」
「アルカディアにおける情報収集だ」
「国家として認められるための条件」
「制度」
「必要な設備」
「他国との関係」
「可能な限り把握する」
「はい!」
たるとが力強く頷く。
シズクも静かに続ける。
「私は防衛制度を確認します」
「国家規模の結界に関する規定がある場合、外壁完成前に把握しておくべきです」
「その通りだな」
ゴウマが頷く。
「後からの修正は避けたい」
「同感です」
モルフォが眼鏡を押し上げる。
「研究機関の運用基準も確認したいところです」
「危険物や生体素材の管理基準なども含めて――」
「虫だけじゃないよね?」
俺が尋ねる。
「もちろんです」
「……」
「何か問題でも?」
「いや、ないですよ」
一瞬の間が妙に不穏だった。
アイスは装備を確認しながら言う。
「僕はアルカディアの冒険者ギルドへ案内する」
「以前利用したことがあるからね」
「助かります!」
たるとが笑顔を見せる。
バレットは弓の弦を確かめながら短く言った。
「護衛だな」
「まあ、そうなるな」
ハヤテが《白夜》に手を添える。
「俺たちはそっち側だろう」
「私も同じだね」
俺も予備の忍者刀を確認する。
《朧》は《深淵の剣》との戦闘で折れてしまい、現在はドランに預けてある。
情報収集の旅であっても道中に危険がないとは限らない。
備えは必要だ。
◇
「こっちのことは心配しなくていいわ」
リンファが言った。
周囲には今回集落に残る仲間たちが揃っている。
リンファ、セリア、ガンテツ、ノエル、サイオン、ヨミ、そしてドランたち。
「街づくりは私たちで進めておくから」
「頼むよ」
俺が答える。
「ガウがいなくても問題ないわよ」
「それは分かってるよ」
「なら安心して行きなさい」
リンファは微笑む。
「お土産は忘れないでね」
「リンファも?」
「当然でしょ」
「……分かった」
また荷物が増えそうだ。
「外壁の件は任せてください」
ノエルが続ける。
「シズクさん不在の間は結界核の設置は停止しますが建設自体は進行可能です」
「お願いします」
シズクが頭を下げる。
「設計通りにお願いします」
「承知しました」
その横でセリアが眠たげに手を上げる。
「研究関係は任せてね~」
「モルフォさん不在中に虫が逃げないようにもしておくよ~」
「それはぜひお願いします」
モルフォが即答した。
「逃げる可能性があるのか?」
俺が問うと、
「可能性は常に存在します」
「初耳なんだが」
「対策済みですので問題ありません」
本当だろうか。
「ガハハハハ!」
ガンテツが豪快に笑う。
「心配すんな!」
「何かあれば俺が何とかする!」
「ガンテツさんは」
ノエルが静かに言う。
「建物を壊さないようにお願いします」
「壊さねぇよ!」
「本当に~?」
セリアが首を傾げる。
「信用ねぇな!?」
「日頃の行いじゃな」
ドランの一言。
「ドランまで!?」
朝から騒がしい。
「おいらも残るッスよ~」
サイオンが笑う。
「上空警戒は任せてほしいッス」
アイスが頷く。
「頼む」
「任されたッス!」
拳を胸に当てる。
軽い口調だが信頼できる男だ。
「ヨミ」
少し離れた場所にいるヨミへ声をかける。
「留守の間、集落を頼むよ」
「……はい」
小さく頷く。
その背後から、
「ガウ姉ちゃん!」
ツキが顔を出した。
「ん?」
「お土産!」
「……やはりか」
「甘いもの!」
「分かった」
「いっぱい!」
「いっぱい?」
「いっぱい!」
強い要望らしい。
ヨミがそっとツキの頭に手を置く。
「……わがままはだめ」
「えー」
「一つ」
「三つ!」
「一つ」
「二つ!」
交渉が始まる。
「二つでいい?」
俺が言うと、
「やった!」
「ガウさん……」
ヨミが少し困ったように呟く。
「まあ、それくらいなら問題ないよ」
ツキは嬉しそうに尻尾を振った。
その様子を見て、少しだけ安心する。
昨日、ヨミから聞いた《モートス》の話。
二人が失った過去の居場所。
だからこそこの場所は失いたくない。
俺たちが不在でも皆が守ってくれる。
それが分かっているからこそ前へ進める。
「皆さん!」
たるとが声を上げる。
「そろそろ出発します!」
「おう!」
ハヤテが応じる。
俺たちは正門へ向かった。
未完成の外壁、その一角に開かれた門。
そこにはすでに多くの人影があった。
「おはよう」
片手を上げるレオン。
その隣にクロード、さらに《断罪の聖剣》の精鋭三十名。
「おはようございます!」
たるとが元気に返す。
「準備は整ったようだな」
レオンが言う。
「問題ない」
ゴウマが答える。
「では予定通りアルカディアへ戻る」
その言葉にたるとが一歩前へ出る。
「あの、レオンさん」
「なんだ?」
「昨日の件ですが」
レオンの表情がわずかに変わる。
「国の話か」
「はい」
たるとは一度仲間たちを振り返り、そして言った。
「まだ国を作るとは決めていません」
「私たちは知らないことが多すぎます」
「だからまず知ることから始めます」
「アルカディアで国家について学び」
「必要なことを調べた上でもう一度、皆で考えます」
「……」
レオンはしばらく黙っていた。
やがて小さく笑う。
「それがいいな」
「……!」
「焦って決める話ではない」
「はい!」
たるとの表情が明るくなる。
「むしろ安心した」
レオンは続ける。
「昨日の今日で決断されていたら止めていたかもしれん」
「ええ!?」
「ははは」
レオンが笑う。
「冗談だ」
「もう!」
たるとが頬を膨らませる。
クロードが呆れたように息を吐く。
「半分は本気だろ」
「さあな」
「冗談になってませんよ」
「悪い悪い」
笑いが広がる。
昨日出会ったばかりとは思えない空気だ。
「それで」
クロードが言う。
「目的地は同じだな」
「はい!」
たるとが頷く。
「私たちも転移陣へ向かいます!」
「なら」
レオンが言った。
「同行するか?」
「え?」
たるとの耳が跳ねる。
「いいんですか?」
「構わない」
「目的地は同じだ」
クロードも続ける。
「第一階層とはいえ油断はできない」
「人数は多い方がいい」
そして少し笑う。
「それに国の話を持ち出した張本人もいる」
レオンを指す。
「アルカディアまで連れて行った方が早い」
「おい」
「事実だろう」
「提案しただけだ」
「その結果、急遽アルカディアへ行くことになったんだろ?」
「……」
レオンがたるとを見る。
たるとは笑顔で頷いた。
「はい!」
「ほらな」
「……すまん」
「謝らなくていいです!」
「余計に刺さる……」
たるとが満面の笑みなのが余計に辛そうだ。
クロードが小さく笑う。
俺もつられて笑った。
「では」
たるとが頭を下げる。
「アルカディアまでよろしくお願いします!」
レオンが頷く。
「こちらこそだ」
◇
出発の時。
正門前には多くの仲間が集まっていた。
「忘れ物はないわね?」
リンファが声を張る。
「たぶん!」
ハヤテが答える。
「たぶんは駄目でしょう!」
「大丈夫だって!」
「ガウ」
「なに?」
「ハヤテの面倒よろしく」
「私が?」
「ハヤテはまだ子供だから心配で……」
「俺、二十歳!」
「日頃の行いだよ」
「ガウまで!?」
笑いが起きる。
「シズクさん!」
ノエルが声をかける。
「外壁は任せてください!」
「お願いします!」
「ガウちゃん~」
「虫は逃がさないようにするね~」
「絶対にお願い!」
モルフォも俺の後に続いた。
「私の大事な子をよろしくお願いします」
「OK~!」
セリアが大きく頷いた。
「ガンテツさん!」
「任せろ!」
「建物壊さないでください」
「壊さねぇ!」
「本当に?」
「信用ねぇな!」
「日頃の行いじゃな」
「ドラン!?」
賑やかだ。
「ツキ」
「ガウ姉ちゃん!」
「お土産忘れないからね」
「うん!約束だよ!」
「わかった!」
満足そうに笑う。
ヨミは静かに言う。
「……気をつけて」
「分かってる」
俺は頷いた。
「行ってくるね」
「……はい」
そしてたるとが前に出る。
「それでは!」
深く息を吸い、
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい!」
声が返る。
「気をつけろ!」
「早く帰ってこい!」
「任せたぞ!」
「お土産ー!」
笑い声の中、たるとも笑った。
「はい!」
「行ってきます!」
◇
《王虎の牙》八名。
《断罪の聖剣》三十名。
総勢三十八名。
俺たちは正門を出た。
朝の光が大地を照らす。
森、草原、その先へと続く道。
目指すは第一階層の《階層転移陣》。
その先にある第五階層、中央都市アルカディア。
「結構な人数だな」
ハヤテが後方を見る。
「三十八人だ」
《断罪の聖剣》は整然と隊列を組んでいる。
さすが攻略組だ。
「ガウ!」
「なんだ」
「歩きながら食べる?」
たるとが袋を差し出す。
「それは?」
「お菓子です!」
「結局持ってきたのか」
「非常食です!」
「さっきお菓子と言っていたが」
「非常時のお菓子です!」
「意味が分からん」
ハヤテが笑う。
「いいじゃん、それくらい」
「お前が持て」
「え?」
「……やはり置くか?」
「裏切り者ー!」
笑い声が広がる。
俺は前を向いた。
新たな旅路。
答えを探すための旅。
国という言葉が未来になるかはまだ分からない。
だが、分からないなら進めばいい。
知り、考え、また話し合えばいい。
俺たちはそうやってここまで来た。
「ガウー!」
「置いていくぞー!」
「今行く」
歩き出す。
レオン、クロード、そして《断罪の聖剣》。
その隣にたるとたち。
二つの集団が同じ道を進む。
目指すは《階層転移陣》。
その先、中央都市アルカディア。
仲間たちに見送られながら俺たちは第一階層の大地へと踏み出した。
第14話「緊急会議」を読んでいただきありがとうございます!
《王虎の牙》、建国について知るためアルカディアへ出発です!
《断罪の聖剣》も加わり、総勢三十八名の賑やかな旅になりそうです。
果たして道中では何が待っているのか。
次回もよろしくお願いします!




