↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
78/203

第13話 建国への誘い

《王虎の牙》の集落。


集会場にはいつも以上に多くの人々が集まっていた。


大きな机の上には次々と料理が並べられていく。


焼き上げられた肉。


採れたばかりの野菜を使った料理。


湯気を立てる温かなスープ。


焼きたてのパン。


決して豪華な料理ではない。


珍しい食材を用いているわけでもない。


それでも。


「いい匂いだな……」


《断罪の聖剣》の一人が思わず呟いた。


「だろ?」


ハヤテが笑う。


「ここじゃ食事だけは困らないからな」


「“だけ”って何ですか!」


たるとがすかさず反応する。


「他にもたくさん良いところがあります!」


「分かってるって」


「本当ですか?」


「本当だって」


たるとは少し疑わしげにハヤテを見る。


そのやり取りに周囲から笑い声が起こった。


もちろん、全員が集会場に入れるわけではない。


《王虎の牙》。


《白銀戦線》。


そして《断罪の聖剣》。


それ以外にもこの地で生活する多くの仲間たちがいる。


入りきらない者たちは集会場の外へ。


簡易的な机や椅子を並べ、食事を取ることになっている。


「こっち詰めればまだ座れるぞ!」


「椅子が足りない!」


「木箱でいいだろ!」


「それ資材ですよ!」


「今日くらい問題ないだろ!」


「ダメです!」


朝とは違う賑やかさが、集落全体に広がっていた。


「それでは!」


たるとが両手を合わせる。


「皆さん!」


大きな声が響く。


「いただきます!」


「いただきます!」


一斉に声が重なった。


昼食が始まる。



「……」


レオンは目の前の光景を見つめていた。


同じ机。


その周囲にいるのはプレイヤーだけではない。


NPCもいる。


子供の獣人。


大人の獣人。


NPCなんて関係ない。


誰もそれを気にすることなく。


同じ料理に手を伸ばし。


笑い。


語り合っている。


「レオン」


隣からクロードが声を掛ける。


「食べないのか?」


「ああ」


レオンは我に返る。


「いや」


「少し見ていただけだ」


「何を?」


「……この光景をな」


クロードも周囲へ視線を向ける。


「珍しいか?」


「珍しいだろ」


レオンは苦笑する。


「俺たちだって仲間と食事くらいする」


「攻略後に宴会を開くこともある」


「だが」


少し離れた場所を見る。


NPCの子供が料理に手を伸ばしている。


届かない。


すると近くのプレイヤーが皿を取り、そっと渡した。


「ありがとう!」


「野菜もちゃんと食えよ」


「えー!」


「肉だけは駄目だ」


「はーい……」


その隣では。


「それ取ってくれ」


「これですか?」


「ああ、ありがとう」


プレイヤーとNPCが当然のように料理を分け合っている。


「ここまで区別のない場所は」


レオンが呟く。


「初めて見た」


「……そうだな」


クロードも静かに認めた。


この世界において。


NPCはNPC。


プレイヤーはプレイヤー。


そう考える者は少なくない。


だがこの場所では違う。


同じ場所で暮らしている。


ただ、それだけだ。


「これ美味いな」


クロードが肉を口に運ぶ。


「……」


レオンが見つめる。


「なんだ?」


「いや」


「お前、普通に馴染んでるなと思って」


「食事中に警戒してどうする」


「それもそうか」


「それに」


クロードがもう一切れ取る。


「美味いものは美味い!」


「気に入ってるじゃないか」


「否定はしない」


レオンは小さく笑った。


その時。


「レオンさん!」


たるとがこちらを見た。


「お料理どうですか?」


レオンは頷く。


「美味いよ」


「本当ですか!?」


ぱっと、たるとの表情が明るくなる。


「よかったです!」


「皆で作ったんですよ!」


「そうなのか?」


「はい!」


たるとは嬉しそうに周囲を見渡す。


料理を作った者。


食材を集めた者。


畑で野菜を育てた者。


狩りに出た者。


食器を用意した者。


それぞれがいる。


誰か一人の成果ではない。


この場所で暮らす人々がそれぞれにできることを持ち寄った結果だ。


今。


多くの人が同じ食卓を囲んでいる。


「……なるほどな」


レオンは小さく笑う。


「こうして皆で食うのも悪くない」


「でしょう?」


たるとは嬉しそうに笑った。


俺はその様子を少し離れた場所から見ていた。


先ほどまでレオンたちはこの場所を知らなかった。


《王虎の牙》という名すらほとんど認識していなかったはずだ。


それが今は同じ机で食事をしている。



昼食後。


「ごちそうさまでした!」


あちこちから声が上がる。


食器が片付けられていく。


《断罪の聖剣》の面々も、当然のように手伝っていた。


「これはどこだ?」


「そちらです!」


「鍋は?」


「厨房へお願いします!」


「了解!」


「……」


俺はその様子を見渡す。


「馴染むのが早いね」


「そうか?」


レオンが振り返る。


手には食器。


すでに完全に手伝う側だ。


「うん」


「確かにな」


レオンは笑う。


「俺もそう思う」


「認めるんだね」


「事実だからな」


その隣ではクロードも食器を運んでいる。


「レオン」


「なんだ?」


「これを運んだら終わりらしい」


「そうか」


「その後は?」


「……」


二人が周囲を見る。


街づくりは午後も続く。


木材。


石材。


荷車。


そして。


「そこの人!」


一人のNPCがクロードを指差した。


「俺か?」


「はい!」


「力がありそうですね!」


「……まあな」


クロードは自分の装備を見る。


鎧。


聖槍。


どう見ても戦闘職だ。


「こちらの石材運びを手伝っていただけませんか?」


「……」


クロードがレオンを見る。


レオンは笑っている。


「頑張れ」


「お前も来い」


「俺も?」


「当然だ」


「ギルドマスターだぞ?」


「だからどうした」


「扱いが雑じゃないか?」


「気のせいだ」


結局、二人とも連れていかれた。



午後。


街づくり再開。


「そっち持ってくれ!」


「了解!」


「木材はこっちだ!」


「石材は?」


「向こう!」


「おい!」


「そこの《断罪の聖剣》!」


「はい!?」


「力があるならこっちも頼む!」


「俺たち客じゃなかったのか!?」


「昼飯食っただろ!」


「策略が過ぎる!?」


笑い声が響く。


気付けば《断罪の聖剣》の面々も自然と街づくりに加わっていた。


先ほどまで知らなかった者たち。


今日初めて出会った者たち。


共に何かを作るうちに自然と会話が生まれていく。


「そっち支えてくれ!」


「ああ!」


「いくぞ!」


「せーの!」


柱が立つ。


「よし!」


歓声が上がる。


別の場所ではクロードが巨大な石材を抱えていた。


「クロード!」


レオンが声を掛ける。


「なんだ?」


「お前」


笑いを堪えながら言う。


「聖槍より石材の方が似合ってきたぞ」


「レオン」


「なんだ?」


「後で覚えておけ」


「怖いな」


「笑うな」


「ははは!」


さらに。


「おお!」


ガンテツが現れる。


「いいじゃねぇか!」


「攻略組もなかなか使えるな!」


「その言い方はやめろ!」


レオンが返す。


「ガハハハハ!」


「街づくりは楽しいだろ!」


「まあな」


「だろう!」


「だが」


クロードがガンテツを見る。


「お前よりは丁寧に作っていると思う」


「なんだと!?」


「事実だ」


「誰が言った!」


「ドラン」


「ドランー!!」


遠くから。


「うるさいわ!」


声が返る。


再び笑いが起こった。


「……」


俺は少し離れた場所からその光景を見ていた。


森で出会った時、《断罪の聖剣》は武装した三十人の集団だった。


今は木材を運び。


石材を積み。


住民と笑い合っている。


不思議な光景だ。



夕方。


太陽が西へ傾く。


「今日はここまで!」


ゴウマの声が響いた。


「道具を片付けろ!」


「資材は所定の場所へ!」


「明日使うものは分けておけ!」


「了解!」


一日の作業が終わる。


それぞれが道具を片付けていく。


《断罪の聖剣》の面々もすでに自然と動いていた。


「こっちは倉庫か?」


「ああ!」


「この木材は?」


「明日使うから残して!」


「分かった!」


「……」


レオンは仲間たちを見渡す。


調査のために訪れた場所。


《王虎の牙》。


《深淵の剣》を壊滅させた謎のギルド。


危険な集団なのか。


新たな脅威なのか。


あるいは攻略に組み込むべき戦力なのか。


それを確かめるためだった。


だが一日を過ごして分かった。


ここにあるものはそういった単純な枠では語れない。


「レオンさん!」


たるとが近づいてくる。


「今日はありがとうございました!」


「昼食の礼だ。気にしないでくれ」


「それでも助かりました!」


たるとは笑う。


「三十人も増えると全然違います!」


「そう言ってもらえるならよかった」


レオンも笑った。


そして周囲を見る。


建設途中の住宅。


未完成の外壁。


整備途中の道路。


畑。


人々。


「……」


未完成。


足りないものだらけだ。


それでも。


朝より少しだけ形になっている。


「たると」


「はい?」


「この場所」


一度言葉を切る。


「きっと大きくなる」


「……」


たるとは少し驚き、そして嬉しそうに笑った。


「はい!」


「そうなるように頑張ります!」


その答えを聞き、レオンも小さく笑った。


日が暮れ始めていた。


空は茜色から深い青へと移り変わっていく。


「さて」


レオンが仲間たちを見る。


「そろそろ野営の準備をするか」


「野営?」


たるとが首を傾げる。


「ああ」


レオンは頷く。


「もう暗くなる」


「今から森を抜ける必要もないだろう」


「今日はここで休んで、明日の朝に出る」


「でしたら!」


たるとがすぐに反応した。


「ここで泊まっていってください!」


「いいのか?」


「もちろんです!」


そして少し申し訳なさそうに耳を伏せる。


「ただ……」


「まだ宿がなくて……」


「皆さんが泊まれる空き家もなくて……」


「いや」


レオンは笑う。


「場所を貸してもらえるだけで十分だ」


クロードも頷く。


「俺たちは攻略で野営には慣れている」


「テントも持ってきている」


「本当ですか?」


「ああ」


「よかったです!」


たるとはほっと息をついた。


「それでは空いている場所をご案内します!」



夜。


《王虎の牙》の集落。


昼間の喧騒が嘘のように静まり返っている。


とはいえ、完全な静寂ではない。


パチパチと焚き火がはぜる音。


「そっち引っ張れ!」


「これでいいか?」


「もう少し!」


「杭が曲がってるぞ!」


「誰だ打ったの!」


「俺じゃない!」


《断罪の聖剣》の野営地では、テントが次々と組み上がっていく。


「……」


俺は少し離れた場所から眺めていた。


「結構本格的だな」


隣のハヤテが言う。


「攻略組だからね」


「慣れてるんだろう」


「なるほどな」


やがて全てのテントが完成する。


焚き火を囲み、《断罪の聖剣》の面々が休息に入っていく。


「たるとさん」


「はい?」


レオンが声を掛けた。


「少し時間いいか?」


「もちろんです!」


「少し歩こう」


「?」


たるとは首を傾げながらレオンについていった。



夜の集落。


昼とは異なる静けさ。


家々の窓から淡い光が漏れている。


焚き火。


魔法灯。


まだ数は少ない。


それでも、確かに人の暮らしの気配があった。


たるととレオンはゆっくりと歩く。


「今日はどうでしたか?」


たるとが尋ねる。


「楽しかったよ」


「本当ですか?」


「ああ」


レオンは笑う。


「調査のはずだったんだがな」


「気付けば飯を食い、木材を運び、石まで積んでいた」


「えへへ」


たるとが笑う。


「すみません」


「謝ることじゃない」


レオンも笑った。


「悪くなかった」


少し歩く。


建設途中の住宅街。


畑。


そして外壁。


「……」


レオンが足を止めた。


「一つ聞いていいか?」


「もちろんです」


「《王虎の牙》は」


レオンは集落を見渡す。


「この場所をどこまで大きくするつもりなんだ?」


「……え?」


たるとは瞬きをした。


「どこまで、ですか?」


「ああ」


「街を作っているんだろう?」


「はい」


「なら」


レオンは振り返る。


「どれくらいの規模にしたい?」


「……」


たるとは考え込む。


今までそんなことは考えたことがなかった。


大きな街にしたい。


名を残したい。


支配したい。


そういう理由ではない。


「……分かりません」


正直に答えた。


レオンは何も言わない。


「最初は」


たるとは集落を見る。


「ここにいる人たちが安心して暮らせればいいと思っていました」


小さな家。


畑。


わずかな住民。


「でも仲間が増えて」


「ここで暮らしたいと言ってくれる人が増えて」


「帰ってきてくれる人も増えて」


小さく笑う。


「だからその人たちが安心して暮らせるくらいにはもっと大きくしたいです」


「……そうか」


レオンは静かに頷いた。


「なら」


一度言葉を切る。


「街で終わらせる必要はないんじゃないか?」


「……?」


たるとが首を傾げる。


「どういう意味ですか?」


「今日」


レオンは歩きながら続ける。


「この場所を見た」


「二百人を超えるプレイヤー」


「NPCの住民」


「住宅」


「畑」


「外壁」


「これから増える施設」


そして。


「《王虎の牙》だけじゃない」


「《白銀戦線》」


「《鉄球戦団》」


「《不動の盾》」


「《深淵の剣》の者たちまでいる」


「……」


「それだけの人間が」


レオンはたるとを見る。


「同じ場所で暮らそうとしている」


「……」


たるとは何も言わず耳を傾ける。


「しかも」


レオンは続ける。


「誰かに命令されて集まったわけじゃない」


「ここにいたいから」


「この場所で暮らしたいから」


「皆、自分の意思で残っている」


「……はい」


たるとは小さく頷いた。


「俺は今日一日」


レオンは集落を見渡す。


「それを見ていた」


昼。


同じ食卓を囲んだ人々。


午後。


一緒に木材を運び。


石材を積み。


笑い合った住民たち。


プレイヤー。


NPC。


元攻略組。


元犯罪ギルドの構成員。


立場も。


過去も違う。


それでも今は同じ場所を築いている。


「ここはもう」


レオンが静かに言う。


「単なるギルド拠点ではない」


「……」


「一つの街へと発展しつつある」


たるとは周囲を見る。


まだ完成していない住宅。


建設途中の外壁。


整備の始まった道。


小さな灯り。


確かに以前とは違う。


最初はただの小さな集落だった。


「だから思ったんだ」


レオンが続ける。


「この先を目指してもいいんじゃないかってな」


「この先……?」


「ああ」


夜風が吹く。


たるとの髪と虎耳が僅かに揺れた。


レオンは静かに告げる。


「国を築くという選択肢もあるんじゃないか?」


「……」


たるとの動きが止まった。


数秒。


「……国?」


聞き返す。


「ああ」


「国……」


もう一度。


確かめるように呟く。


そして。


「……えええええっ!?」


たるとの声が夜の集落に響いた。


遠く。


野営地。


「なんだ!?」


《断罪の聖剣》の数名が振り返る。


「たるとの声だな」


俺も思わずそちらを見る。


隣でハヤテが首を傾げた。


「何を話してるんだ?」


「さあ……」


かなり驚いているようだ。



「く、国って!」


たるとは慌てて両手を振る。


「そんな!」


「私たちがですか!?」


「ああ」


レオンは平然と頷く。


「無理ですよ!」


即答だった。


「なぜだ?」


「なぜって!」


たるとは自分を指差す。


「私ですよ!?」


「知っている」


「まだ十八歳ですよ!?」


「ああ」


「ギルドマスターだってちゃんと務まっているか分からないのに!」


「それは個人の問題ではなく」


レオンはわずかに笑う。


「周囲が判断することだろう」


「うぅ……」


虎耳がへにゃっと倒れる。


尻尾も力なく下がった。


その様子を見てレオンは小さく笑う。


「別に今すぐ国を作れと言っているわけではない」


「……本当ですか?」


たるとが恐る恐る顔を上げる。


「ああ」


「一つの可能性として考えてみればいいという話だ」


「可能性……」


「そうだ」


レオンは再び集落を見る。


「人が増えれば」


「今よりも多くの判断が必要になる」


「食料」


「住居」


「防衛」


「治安」


「物資」


「人間関係の調整もな」


「……」


たるとの表情が少しずつ真剣になる。


すでにその兆しはある。


以前なら仲間内の話し合いで済んでいた。


しかし今は違う。


二百人を超えるプレイヤー。


NPCの住民。


それぞれに生活があり、価値観も異なる。


今後さらに人が増えれば問題は確実に増大する。


「街を発展させるのであれば」


レオンが続ける。


「人々が安心して暮らせる仕組みが必要になる」


「仕組み……」


「ああ」


「誰が守るのか」


「誰が物資を管理するのか」


「問題が発生した際、誰が判断を下すのか」


「そういった枠組みを整えていく必要がある」


たるとは静かに聞いている。


「それが積み重なっていけば」


レオンは小さく笑った。


「単なる街ではなく、国と呼ばれる形になるかもしれない」


「……」


たるとは夜の集落へ視線を向けた。


国。


あまりにも大きな言葉だった。


王。


政治。


軍事。


そういったものが真っ先に浮かぶ。


自分たちとは無縁の世界だと思っていた。


「でも」


たるとは小さく呟く。


「私は誰かを支配したいわけではありません」


「分かっている」


レオンは即答した。


たるとが顔を上げる。


「むしろ」


レオンは続ける。


「今日一日見ていて確信した」


「支配のためにギルドマスターをやっているわけではない」


「……」


「ここにいる者たちも同じだ」


「従いたいからいるのではない」


「共にいたいからここにいる」


「それでいいのではないか?」


「……それで、いいんですか?」


「ああ」


レオンは穏やかに笑う。


「国だからといって必ずしも支配構造である必要はない」


「《王虎の牙》なりの形を作ればいい」


「私たちらしい……国」


たるとはその言葉を繰り返した。


誰かを従わせるためではない。


戦うためだけの場所でもない。


ただ帰ってこられる場所。


「ただいま」と言え。


「おかえり」と迎えられる場所。


もしそれが。


さらに大きくなった先に。


国という形があるのだとしたら。


「……」


たるとは少しだけ想像する。


家が増え。


店が並び。


道が整い。


子どもたちが走り回る。


新しい人々が訪れ。


ここで暮らしたいと願う。


今よりもずっと大きな。


この場所。


「……」


しかしすぐに首を振った。


まだ一人で結論を出せる話ではない。


「レオンさん」


「ん?」


「少し」


一度、集落を見渡す。


「考えさせてください」


レオンは迷わず頷いた。


「ああ」


「それでいい」


「……」


「むしろ」


少し笑う。


「一人で決めない方がいい」


「え?」


「《王虎の牙》は」


レオンが言う。


「そういうギルドだろう」


「……!」


たるとの目がわずかに見開かれる。


そして柔らかく笑った。


「はい!」


「みんなと相談します!」


「それがいい」


レオンも笑う。


「それと」


「はい?」


「もし本当に国を作ると決めたなら」


表情がわずかに引き締まる。


「《断罪の聖剣》は支持する」


「……!」


「必要なら力を貸そう」


たるとは驚いたまま、しばらくレオンを見つめていた。


やがて深く頭を下げる。


「……ありがとうございます」


「ああ」


レオンは踵を返した。


「では俺は戻る」


「はい!」


「おやすみ」


「おやすみなさい!」


レオンが野営地へ歩いていく。



「レオン」


途中。


一人の男が待っていた。


クロード。


腕を組み、木に背を預けている。


「待っていたのか?」


「ああ」


クロードは身体を起こす。


「話したのか?」


「何をだ?」


「とぼけるな」


「国の話だ」


「ああ」


レオンは笑う。


「話した」


「……どうだった?」


「驚いていた」


「だろうな」


クロードがため息をつく。


「初対面の十八歳に国の話とはな」


「ここにいるだろう」


「開き直るな」


「ははは」


レオンは一度振り返る。


遠く。


たるとがまだ一人で集落を見つめている。


「だが」


レオンが呟く。


「ここには可能性はあると思わないか?」


「……」


クロードも視線を向ける。


家。


外壁。


畑。


灯り。


人々。


未完成でありながらも。


確かにそこには人が集う理由があった。


「……少なくとも」


クロードが言う。


「人が集まる土台はある」


「ああ」


レオンが頷く。


「それで十分だ」


二人は野営地へ戻っていった。



「……」


たるとはその場から動けずにいた。


夜の集落。


静かな灯り。


巡回する人影。


遠くの笑い声。


建設途中の外壁。


未完成の道。


「……国」


小さく呟く。


あまりにも大きな言葉。


今の自分には、簡単に受け止められるものではない。


最初はただ皆で安心して過ごせる場所が欲しかった。


食事を共にし。


眠りにつき。


帰ってきた人に「おかえり」と言える場所。


それだけでよかった。


しかし今は違う。


人が増えた。


仲間が増えた。


守るべきものが増えた。


そして今。


この場所を「帰る場所」だと言ってくれる人たちがいる。


「……」


たるとは未完成の街を見渡した。


まだ分からない。


本当に国を目指すのか。


それが正しいのか。


自分たちに可能なのか。


何一つ答えは出ていない。


それでも。


この夜。


《王虎の牙》の未来に確かに新たな選択肢が生まれた。


街の先へ。


そのさらに先へ。


――国。


その言葉だけが静かにたるとの胸の中に残り続けていた。

第13話「建国への誘い」を読んでいただきありがとうございます!


今回は《断罪の聖剣》の皆と食卓を囲み、一緒に街づくりをする穏やかな一日となりました。


そしてレオンから告げられた、新たな選択肢。


――国を築く。


帰る場所を作ることから始まった《王虎の牙》の街づくりが、少しずつその先へ進み始めます。


たるとはどんな答えを出すのか。


次回もお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。