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第11話 王虎の牙の集落

森を抜ける。


木々の隙間から、徐々に視界が開けていく。


そして。


「見えてきた」


俺は前方を指差した。


その先。


森を抜けた場所に大規模な外壁が姿を現す。


「……」


レオンが足を止めた。


クロードも同様に目を細める。


後方を歩いていた《断罪の聖剣》の面々からも、わずかなざわめきが起こった。


「これは……」


誰かが思わず声を漏らす。


まだ完成していない。


場所によっては足場が組まれ、資材が積まれたままだ。


それでもそこにあるのは明らかに小規模な集落を囲う柵などではなかった。


外敵の侵入を想定した十分な高さ。


人が巡回できるよう設計された上部構造。


周囲を見渡すための見張り台。


そして正面には巨大な門。


「……随分と本格的だな」


レオンが呟く。


クロードも外壁を見上げたまま言う。


「完全に防衛拠点として設計されている」


「第一階層にこの規模の施設があるとは聞いたことがない」


「そりゃそうだ」


ガンテツが豪快に笑う。


「まだ建設途中だからな!」


「まだ完成してないッスよ~」


サイオンも続ける。


「これからさらに拡張予定ッス」


「これ以上か?」


レオンがわずかに驚いたように問う。


「もちろんだ!」


なぜかガンテツが胸を張る。


ハヤテが横から笑った。


「だからお前の街じゃねぇだろ」


「俺も関わってるんだから似たようなもんだ!」


「そういう問題か?」


「細かいことは気にすんな!」


「ガハハハハ!」


いつもの笑い声が響く。


《断罪の聖剣》の面々はやや困惑した様子だ。


まあ、無理もない。


「行こう」


俺は歩き出す。


「中でたるとが待ってると思うから」


「たると?」


レオンが聞き返す。


「私たちのギルドマスター」


「……なるほど」


レオンは小さく頷いた。


その隣でクロードが静かに外壁を見上げている。


まだ見ぬ《王虎の牙》。


そのギルドマスター。


一体どのような人物なのか。


おそらく想像とは大きく異なるだろう。



正門。


近づくと上部の見張りがこちらに気付いた。


「ガウさんたちが戻りました!」


声が響く。


すぐに門前で待機していた仲間たちもこちらへ視線を向ける。


ゴウマ。


リンファ。


バレット。


そして数名の戦闘班。


武器は構えていないが即応できる態勢だ。


「戻ったか」


ゴウマがこちらを見る。


「ああ!」


ハヤテが片手を上げる。


「問題なし!」


「《断罪の聖剣》だ!」


ゴウマの視線が後方へ移る。


レオン。


クロード。


そして整然と並ぶ精鋭たち。


「《深淵の剣》の件で話を聞きに来たみたい」


俺が説明するとゴウマは一度頷いた。


そしてレオンたちへ向き直る。


「《王虎の牙》のゴウマだ」


「ギルドマスターまで案内しよう」


レオンは軽く手を上げた。


「助かる」


クロードも一礼する。


「突然の訪問で悪いな」


「気にするな」


ゴウマは淡々と返す。


「敵でないなら歓迎する」


「話が早くて助かる」


「ただし」


ゴウマの目がわずかに鋭くなる。


「この中には非戦闘員もいる」


「武器には手を掛けるな」


「もちろんだ」


レオンは即答した。


そして後方へ指示を出す。


「全員、聞いたな」


「集落内では武器に触れるな」


「無用な警戒も招くな」


「了解!」


返答が揃う。


それを確認し集落内部に案内を開始した。


その先に《王虎の牙》の集落が姿を現す。



建設途中の門をくぐる。


その瞬間。


「……」


レオンたちの足がわずかに遅くなった。


視線があちこちへと動く。


建設途中の住宅。


資材を運ぶプレイヤー。


石材を積み上げる者。


NPCと協働する者。


道路を整備する者。


少し離れた場所では畑作業を行う人々。


カンッ、カンッ、と鍛冶場の金属音。


「おーい!」


「そっち持ってくれ!」


「今行く!」


声。


声。


声。


あらゆる方向から生活の音が響く。


さらに。


「待てー!」


「こっちだよー!」


子供たちが走り回っている。


NPCの子供たちに混じり、プレイヤーの姿もある。


「……」


レオンは何も言わない。


クロードも同様に周囲を見渡す。


想像していたのだろう。


《深淵の剣》を壊滅させたギルド。


世界指名手配三位のPKギルドを討伐した存在。


その中心にいる者たち。


もっと戦闘に特化した、殺伐とした拠点を。


しかし現実は違った。


「お昼までにここ終わらせるぞ!」


「無理だって!」


「そこ曲がってますよ!」


「え!?」


「ガンテツさんの施工箇所です!」


「やっぱりか!」


「なんでだ!」


笑い声と生活の気配。


「……街を作っているのか?」


レオンが呟く。


「うん」


俺は頷いた。


「まだ途中だけどね」


周囲を見渡す。


「外壁も」


「家も」


「道路も」


「全部建設中」


「これで“まだ途中”か」


クロードが苦笑する。


「集落と聞いていたが随分と印象が違うな」


「最初は本当に小さかったぜ」


ハヤテが答える。


「人が増えて住む場所が足りなくなってじゃあ作るかってなった」


「それで街に?」


レオンが問う。


「うちはそういうギルドだ」


ハヤテは笑った。


「……」


レオンは再び周囲を見渡す。


プレイヤーだけではない。


NPCも共に働き、共に生活している。


「平和な場所だな」


ぽつりと呟く。


「……」


俺はわずかに笑った。


「たるとが聞いたら喜ぶよ」


「そうなのか?」


「ああ」


ハヤテも笑う。


「たぶん跳ねる」


「そこまでか?」


「間違いなく跳ねる」


「うん」


俺も頷く。


「確実に跳ねるね」


「……どんなギルドマスターなんだ?」


レオンが少し不安げに呟く。


それには答えない。


見れば分かる。



集落内を進む。


「すみません!」


前方から声。


「少し通ります!」


NPC住民たちが道を開ける。


その先頭に大盾を背負った女性が歩いてくる。


手には書類。


ノエルだ。


「この区画の住宅、少し拡張できそうです」


「本当ですか?」


「はい。ただ隣家との間隔は確保したいのでゴウマさんにも確認します」


「ありがとうございます!」


どうやら住宅計画の調整中らしい。


ノエルはこちらに気付いた。


「あ」


足を止める。


「ガウさん」


「おかえりなさい」


「ただいま」


視線が後方へ移る。


三十人規模の武装集団。


さすがに驚いた様子だ。


「……お客様ですか?」


「うん」


俺は後方を示す。


「《断罪の聖剣》の人たち」


「《深淵の剣》の件で話を聞きに来たらしい」


「なるほど」


ノエルは納得し、軽く頭を下げた。


「初めまして」


「《王虎の牙》のノエルです」


「……!」


その瞬間、レオンの表情が変わる。


クロードも同様にノエルを見る。


正確にはその装備と名前。


ノエル。


聞き覚えがある。


攻略組ではない。


しかし、ダンジョン攻略者の間では知られている存在。


どんな攻撃も受け止める重装盾役。


仲間を守り抜く前線維持能力。


その異名。


《不動の盾》。


――まさか本当にいるのか。


レオンは思わず見つめた。


ガンテツ。


サイオン。


そしてガウ。


さらにノエル。


情報としては存在しなかったギルド。


だが、知っている名前が次々と揃っていく。


「レオン」


クロードが小声で呼ぶ。


「ああ」


「俺の記憶違いじゃないな」


「たぶんな」


ノエルが首を傾げる。


「……?」


「どうかしましたか?」


レオンは小さく笑った。


「いや」


そして視線を向ける。


「まさか《不動の盾》に会えるとは思わなかった」


「……え?」


ノエルが固まる。


「ご存じなんですか?」


「ああ」


レオンは頷く。


「ダンジョンに潜るなら名前くらいは聞く」


「どんな攻撃でも崩れない盾役がいるとな」


クロードも続く。


「俺も何度か聞いた」


「ダンジョンから仲間を連れて帰還し続ける重装騎士」


「《不動の盾》ノエル」


「……」


ノエルの頬がわずかに赤くなる。


「そ、そんなに有名ではありません!」


「いや」


レオンは笑う。


「少なくとも俺たちは知っている」


「……」


ノエルは明らかに動揺している。


ハヤテがニヤニヤする。


「へぇ、有名人だったのか」


「やめてください!」


「俺知らなかったぞ」


「私も知りませんでした!」


「本人が知らないのかよ!」


「興味ありませんから!」


「そういえばシズクは《不動の盾》を知ってたね」


俺はノエルと出会った時のことを思い出す。


「ガウさんまで!」


そのやり取りにレオンが笑う。


クロードも小さく笑った。


「……」


俺も少しだけ笑う。


「では!」


ノエルは強引に話を切り上げる。


「私は仕事がありますので!」


「ああ」


「また後で」


「はい!」


住民たちと共に去っていく。


その背中をレオンはしばらく見つめていた。


「どうした?」


ガンテツが笑う。


「驚いたか?」


「まあな」


レオンは苦笑する。


「お前がいる時点で驚いていたがさらに増えた」


「ガハハハハ!」


ガンテツが胸を張る。


「まだまだいるぞ!」


「自慢するな」


ハヤテが突っ込む。


レオンは小さく笑った。


「面白いギルドだな」


クロードも頷く。


「聞いていた印象と実際はまるで違う」


「まだ入口だよ?」


俺が言う。


「……これでか」


クロードは苦笑した。



やがて集落中央へ。


少し大きめの建物。


集会場。


食事、会議、雑談、あらゆる用途に使われる場所だ。


「ここだ」


ゴウマが扉を開ける。


中へ入る。


中央に大きな机。


その奥に一人の少女が座っている。


虎獣人。


小柄な体格。


その隣にはシズクとセリア。


「……」


レオンが足を止める。


クロードも同様に止まる。


《断罪の聖剣》の数名も同じ反応。


たるとは立ち上がった。


そして笑顔で言う。


「ようこそ!」


「《王虎の牙》へ!」


「まだ建設中ですけどゆっくりしていってください!」


「……」


レオンが俺を見る。


ハヤテを見る。


そしてたるとを見る。


「……ギルドマスター?」


小さな声。


ハヤテは笑いを堪えている。


クロードも驚きを隠せない。


無理もない。


想像していたであろう“壊滅級ギルドの首領”とはあまりに違う。


目の前にいるのは。


十八歳の小柄な少女。


「どうかしました?」


たるとが首を傾げる。


「いや」


レオンは我に返り、笑った。


「想像と違っただけだ」


「?」


たるとはさらに首を傾げる。


「俺は《断罪の聖剣》のレオンだ」


一歩前へ出る。


「ギルドマスターをしている」


続いてクロードも前へ。


「副ギルドマスターのクロードだ」


「突然の訪問を許してくれ」


「いえ!」


たるとは笑う。


「大丈夫です!」


「私は《王虎の牙》ギルドマスター、たるとです!」


「よろしくお願いします!」


「……」


レオンは小さく笑った。


「よろしく頼む」


クロードも頷く。


「こちらこそ」


「どうぞ!」


たるとが席を示す。


一同が着席する。


外では他のメンバーが待機し、集落を見学している。


俺とハヤテ、シズク、セリアもその場に残る。


ゴウマも席に着いた。


二つのギルド。


本来交わるはずのなかった集団。


しかし今。


空気は不思議なほど穏やかだった。


「では」


レオンが口を開く。


表情がわずかに引き締まる。


「本題に入る」


「はい!」


たるとも頷く。


「《深淵の剣》についてだ」


空気が変わる。


「《白銀戦線》と協力し、壊滅させたと聞いた」


「その経緯を知りたい」


「なるほど」


たるとの表情も引き締まる。


「そのために来たんですね」


「ああ」


レオンは頷く。


「俺たちも長く手を焼いていた」


クロードが続ける。


「何度も追い詰めたが逃げられた」


「ゼノスも四天王も簡単な相手ではなかった」


レオンはたるとを見る。


「それを壊滅させたギルド」


「どんな連中なのか知りたかった」


たるとは静かに頷いた。


「でも」


視線を上げる。


「私たちだけではありません」


レオンが聞く。


「《白銀戦線》の皆さんがいました」


「そしてここにいる仲間全員です」


たるとは手を握る。


「誰か一人の力ではありません」


「みんなで戦ったから勝てました」


「……」


レオンは黙って聞いていた。


やがて。


「なるほどな」


小さく笑う。


「来てよかった」


周囲を見渡す。


「噂だけでは分からないものが多すぎる」


「もっと聞かせてくれ」


「《深淵の剣》との戦いを」


「そして」


俺を見る。


「ゼノスをどう倒したのか」


「……」


また俺か。


たるとは元気に答える。


「はい!」


「少し長くなりますが!」


「最初から説明します!」


「構わない」


レオンは笑う。


「ここまで来たんだ」


「最後まで聞く」


クロードも頷く。


「俺も興味がある」


「特に」


こちらを見る。


「噂と実物が違いすぎる」


「……それ褒めてる?」


「褒めてる」


「ならいいけど」


ハヤテが笑う。


「では!」


たるとが姿勢を正す。


「まずは――」


《王虎の牙》。


《断罪の聖剣》。


異なる道を歩んできた二つのギルド。


その会談は今、ようやく本当の意味で始まろうとしていた。

第11話「王虎の牙の集落」を読んでいただきありがとうございます!


今回はレオンとクロードたちがついに《王虎の牙》の集落へやって来ました。


噂から想像していた姿とは少し違う《王虎の牙》。


そしていよいよ始まる二つのギルドの会談。


次回もお楽しみに!

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