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第8話 断罪の聖剣

中央都市アルカディア。


ギルド《断罪の聖剣》の拠点。


朝。


集められた精鋭たちは静かに出発の準備を進めていた。


人数は三十名。


いずれも《断罪の聖剣》の中でも選抜された者たちだ。


装備の点検。


武器の調整。


必要物資の確認。


今回の任務は単なる遠征ではない。


目的は――。


《王虎の牙》。


「準備は完了しました」


部下の報告を受け。


一人の男が立ち上がる。


レオン。


《断罪の聖剣》ギルドマスター。


腰には聖剣。


背には大盾。


その隣には一本の聖槍を携えた男が立っていた。


《断罪の聖剣》副ギルドマスター。


クロード。


聖槍アルトリウスを手に出発準備を進める仲間たちを静かに見渡している。


「三十名全員」


クロードが確認する。


「装備、回復アイテム、野営道具」


「問題なしだ」


「分かった」


レオンが頷く。


「では予定通り出発する」


その言葉に集まった精鋭たちが一斉に頷いた。


「了解!」


クロードも《アルトリウス》を肩へ担ぐ。


「今回の目的は調査だ」


「余計な戦闘は避ける」


「忘れるなよ」


「はい!」


レオンが僅かに笑った。


「俺が言おうと思っていたんだがな」


「先に言っただけだ」


「相変わらずだな」


「お前が何でも一人で背負おうとするからだ」


「……否定はしない」


二人は短く言葉を交わし。


先頭に立った。



向かった先は巨大な建造物の地下。


長い階段を降りるとその先には広大な空間が広がっていた。


中央。


複雑な紋様が刻まれた巨大な魔法陣。


『階層転移陣』


階層間を移動するための設備だ。


レオンたちはその前で足を止める。


「確認しておく」


レオンが振り返った。


「この世界には全部で十の階層が存在する」


部下たちは静かに耳を傾ける。


「現在」


「攻略組の尽力によって」


「第七階層まで解放されている」


クロードも転移陣へ視線を向ける。


「そして俺たちが拠点を構えるアルカディアは第五階層に築かれた都市だ」


巨大な階層。


その中心に築かれた。


世界最大級の都市。


中央都市アルカディア。


多くのプレイヤーが集まり。


情報。


物資。


人材。


あらゆるものが行き交う。


この世界の中枢とも呼べる場所。


「だが」


レオンの表情が僅かに険しくなる。


「ここまで来るために多くの命が失われた」


静寂。


階層を解放するためにはその階層を支配する存在。


『階層守護者』


それを倒す必要がある。


圧倒的な力を持つボス。


攻略に挑んだ者の中には。


二度と戻らなかった者もいる。


この世界では死ねば終わり。


失った命は決して戻らない。


クロードが静かに続ける。


「だからこそどんな場所でも油断するな」


「第一階層だから安全」


「低レベルの魔物だから大丈夫」


「そういう考えが一番危険だ」


何人かが表情を引き締める。


「今回の目的は戦闘ではない」


レオンが告げる。


「情報収集だ」


「《王虎の牙》」


その名を口にする。


「奴らが何者なのか自分たちの目で確かめる」


クロードが頷いた。


「敵と決めつけるな」


「だが警戒も解くな」


「まず見て」


「話して」


「判断する」


「了解!」


全員が階層転移陣へ移動する。


レオン。


クロード。


そして三十名の精鋭。


「第一階層へ向かう!」


「全員、気を引き締めろ!」


青白い光。


転移陣が輝き始める。


魔力が空間を満たし。


全員を包み込んでいく。


「転送開始」


光が弾けた。


次の瞬間、《断罪の聖剣》の姿は地下空間から消えていた。



光が消える。


「……」


風。


草の匂い。


そして。


広い空。


次の瞬間、レオンたちの視界に広がっていたのは。


果てしなく続く草原だった。


「到着しました」


一人の部下が周囲を確認する。


第一階層。


デスゲームが始まった場所。


多くのプレイヤーが最初に足を踏み入れる世界。


クロードが周囲へ鋭い視線を巡らせる。


「索敵」


「周辺確認」


「すぐに始めろ」


「はい!」


斥候役の者たちが素早く散開する。


数分。


「周囲に大きな魔力反応はありません」


「現在は安全です」


「現在は、か」


クロードが呟く。


「なら十分だ」


レオンも周囲を見る。


青い空。


どこまでも続く草原。


一見。


危険など何もないように見える。


だがこの場所でも何人ものプレイヤーが命を落としてきた。


「マップを確認します」


別の部下が端末を操作する。


表示。


現在地。


周辺情報。


だがその情報は決して多くない。


「やはり」


部下が眉を寄せる。


「転移地点は予測できません」


「各階層へ移動した場合、到着地点はランダムです」


「分かっている」


レオンが頷く。


階層転移は便利だ。


ただし自由に場所を指定できるわけではない。


だからこそ攻略組は何度も探索を繰り返してきた。


未知の場所へ向かい。


地図を埋め。


危険を確認し。


少しずつ世界を切り開いてきた。


「現在地を確認しました!」


部下が声を上げる。


「ここから北へ進めば」


「かつて《白銀戦線》が拠点としていた場所へ向かえます」


「距離は?」


レオンが尋ねる。


「徒歩で二日ほどです」


「二日か」


クロードがマップを見る。


「悪くない」


「途中で野営を一度挟めば問題ないだろう」


レオンは少し考える。


本来であればすぐに《王虎の牙》を探したい。


しかし。


その前に。


確認しておきたい場所がある。


《白銀戦線》。


《深淵の剣》に拠点を奪われ。


そして。


《鉄球戦団》《王虎の牙》と共に戦ったギルド。


「まず」


レオンが告げる。


「《白銀戦線》の拠点へ向かう」


クロードも頷く。


「戦闘の痕跡が残っていれば証言と照合できる」


「そういうことだ」


「そこで情報を集める」


部下たちが頷いた。


「了解しました!」


《断罪の聖剣》。


三十名。


第一階層での調査が始まった。



草原を進む。


やがて景色が変わる。


木々。


岩。


鬱蒼とした森。


《断罪の聖剣》は北を目指して進んでいた。


前衛。


中衛。


後衛。


隊列は崩れない。


先頭付近には。


レオン。


そしてクロード。


「今のところ」


クロードが周囲を見る。


「拍子抜けするほど静かだな」


「静かな時ほど気を付けろ」


レオンが返す。


「分かっている」


クロードが笑う。


「お前に言われなくてもな」


「なら言わせるな」


「心配性だな」


「副ギルドマスターがそれを言うか?」


「お互い様だ」


二人の会話に。


近くのメンバーが僅かに笑う。


だが隊列は崩れない。


「周囲に異常なし!」


斥候役が報告する。


「了解」


クロードが答える。


その時だった。


「……止まれ」


レオンが。


低く声を発した。


瞬間、全員の足が止まる。


「どうした?」


クロードも。


すぐに聖槍アルトリウスへ手を添える。


「……気配がある」


レオンが森の奥を見る。


クロードも目を細めた。


数秒。


木々の間。


何かが動く。


「全員」


レオンが小さく手を上げる。


「姿勢を低くしろ」


三十名。


同時に身を沈める。


「前衛は前へ」


クロードがすぐに指示を引き継ぐ。


「後衛は距離を取れ」


「支援役」


「いつでも動けるように準備」


声は小さい。


だが全員へ届く。


《断罪の聖剣》。


それぞれが迷いなく配置につく。


そして。


森の奥。


一つ。


また一つ。


小さな影が現れた。


緑色の肌。


粗末な武器。


小柄な身体。


「ゴブリン……」


一人が呟く。


一体。


二体。


五体。


さらに。


奥。


「数が多いな」


クロードが数える。


「少なくとも二十」


「まだ奥にもいる」


レオンが答える。


低級魔物。


ゴブリン。


レベルだけなら《断罪の聖剣》の精鋭にとって一体一体は脅威ではない。


だがレオンは決して警戒を解かない。


「単体なら問題ない」


「だが数を甘く見るな」


クロードも《アルトリウス》を構える。


「囲まれればどれだけ強くても動きは制限される」


「前衛」


「横へ広がれ!」


「囲ませるな!」


「はい!」


部下たちが。


静かに動く。


退路。


左右。


後衛までの距離。


すべてを確保する。


「……」


レオンは森を見る。


第一階層。


低級魔物。


そんな言葉に意味はない。


この世界では油断した者から死ぬ。


敵が弱いから自分は強いから。


そんな慢心で失われた命を。


レオンは何度も見てきた。


「クロード」


「ああ」


言葉はそれだけ。


クロードが一歩。


前へ出る。


聖槍アルトリウス


静かに構える。


レオンも背中の大盾へ手を伸ばす。


その瞬間、一匹のゴブリンが。


顔を上げた。


鼻を鳴らす。


「……!」


こちらを見る。


そして。


「ギシャァァァ!!」


森へ。


叫び声が響いた。


直後。


二十を超えるゴブリンたちが。


一斉に武器を構える。


「気付かれた!」


部下の声。


レオンは大盾を構える。


「慌てるな!」


クロードも聖槍を前へ。


「隊列を維持!」


「前衛は俺たちに合わせろ!」


ゴブリンたちが一斉に走り出す。


「来るぞ!」


《断罪の聖剣》。


ギルドマスター。


レオン。


副ギルドマスター。


クロード。


二人を先頭に第一階層での戦闘が始まろうとしていた。

第8話「断罪の聖剣」を読んでいただきありがとうございます!


今回は《王虎の牙》を調査するため、レオンとクロード率いる《断罪の聖剣》が第一階層へと動き出しました。


目的はあくまで戦いではなく王虎の牙が何者なのかを自分たちの目で確かめること。


まずは《白銀戦線》の拠点を目指す彼らですがその道中でゴブリンの群れと遭遇します。


次回、お楽しみに!

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