第5話 それぞれの力
中央広場。
ゴウマが手元の資料へ目を落とす。
「次は《白銀戦線》だ!」
その声に広場の一角に集まっていた者たちが反応した。
アイス。
サイオン。
そしてその後ろにいる白銀戦線の仲間たち。
攻略組として戦っているギルド。
《深淵の剣》との戦いで拠点を失い、今はこの場所で俺たちと共に暮らしている。
「僕とサイオンについては必要ないかな」
アイスが苦笑する。
「そうッスね~」
サイオンも肩を竦める。
「今さら実力確認されても困るッス」
「なら」
ゴウマが頷く。
「今回は他の者たちを見せてもらおう」
アイスが後ろを振り返った。
「みんな」
「普段通りでいい」
「今の自分たちにできることを見せよう」
「はい!」
何人もの声が返ってくる。
その中から一人の少女が前へ出た。
長弓を背負った少女。
エルナだ。
「私から行きます!」
元気よく手を上げる。
「おっ」
サイオンが笑った。
「随分やる気ッスね~」
「もちろんです!」
エルナは胸を張る。
「こういう時こそちゃんと自分のできることを見せないと!」
「なるほどッス」
サイオンが頷く。
そして。
ちらり。
俺を見る。
「ガウさんも見てるッスからね~」
「えっ!?」
エルナの肩が跳ねた。
「な、なんでそこでガウさんが出てくるんですか!」
「いや~」
サイオンがニヤニヤする。
「別に深い意味はないッスよ~?」
「絶対ありますよね!?」
顔が少し赤い。
「……」
俺は首を傾げた。
何の話だ?
「ガウ」
隣にいたハヤテが肩へ手を置く。
「お前はそのままでいてくれ」
「?」
意味が分からない。
「エルナ」
アイスが苦笑する。
「始めていいよ」
「は、はい!」
エルナは慌てて広場の中央へ移動した。
◇
少し離れた場所に複数の的が並べられる。
一つ。
二つ。
三つ。
距離もそれぞれ違う。
近距離。
中距離。
そして遠距離。
「準備できたか?」
ゴウマが尋ねる。
「はい!」
エルナは長弓を構える。
さっきまでの慌てた様子が消えた。
目。
呼吸。
姿勢。
一瞬で戦う者のそれへ変わる。
「……」
俺は少しだけ目を細めた。
やっぱりこういうところは白銀戦線の一員だ。
エルナが矢を番える。
ギリッ。
弦が引かれる。
風。
距離。
的。
一瞬。
ヒュッ!
一本目。
ドスッ!
一番近い的の中心。
そのまま。
二本目。
ヒュッ!
ドスッ!
中距離。
中心。
そして。
三本目。
「……!」
エルナが僅かに弓を上へ向ける。
放つ。
矢は弧を描き。
遠く。
一番離れた的へ。
ドスッ!
「おお!」
周囲から歓声が上がる。
三本。
すべて命中。
「やるな」
バレットが腕を組みながら呟いた。
その隣でカイルも目を輝かせている。
「すごい……」
「距離が変わってもほとんど狙いがずれてない」
「経験の差だ」
バレットが答える。
「ただ当てるだけなら練習すればできる」
「だが」
エルナを見る。
「距離が変われば矢の軌道も変わる」
「風も読む必要がある」
「それを迷わず撃てるのは実戦を経験している証拠だ」
カイルは真剣に頷いた。
「なるほど……」
エルナがこちらへ戻ってくる。
「どうでした?」
なぜか俺と目が合った。
「え?」
「……」
エルナも止まる。
一瞬。
沈黙。
「あ」
エルナが慌てる。
「ち、違います!」
「皆さんに聞いたんです!」
「そっか」
「はい!」
なんでそんなに慌ててるんだろう。
でも。
「すごかったよ」
俺は素直に答える。
「三本ともほとんど迷わず撃ってたし」
「……!」
エルナの耳がぴくりと動いたように見えた。
「ありがとうございます!」
嬉しそうに笑う。
「もっと頑張ります!」
「うん」
その後ろでサイオンが何か言いたそうな顔をしている。
アイスが肩を掴んで止めた。
「言わない方がいい」
「まだ何も言ってないッスよ?」
「顔に出てる」
「そんな~」
よく分からない。
◇
「次!」
ゴウマが呼ぶ。
今度は。
一人の男が前へ出た。
グレイ。
腰には剣。
だが普通の剣士とは少し違う。
「……俺は前に出るより」
グレイが剣を抜く。
「周囲を見ながら戦う方が得意だ」
「ほう」
ゴウマが腕を組む。
「見せてくれ」
「……はい」
相手として二人の剣士が前へ出た。
一対二。
「始め!」
二人が同時に動く。
正面。
右。
グレイは正面から来た剣を受ける。
ガキンッ!
だが押し返さない。
刃を滑らせ。
軌道を逸らす。
同時に右から来た二人目。
身体を半歩ずらす。
ヒュッ!
剣が空を切る。
そのままグレイは二人の間へ入った。
「……そこ!」
剣の腹で一人の肩を軽く叩く。
「……!」
すぐに離れる。
「なるほど」
俺は呟いた。
強引に押し切るタイプじゃない。
相手を見る。
位置を見る。
攻撃が重なる場所を避ける。
「集団戦向きだな」
ゴウマも同じことを感じたらしい。
グレイが剣を下ろす。
「……白銀戦線では前衛同士の間を埋めることが多かった」
アイスが頷く。
「グレイは周囲を見るのが上手い」
「誰かが前へ出すぎれば補う」
「後衛へ敵が向かえば戻る」
「派手ではないけれど」
「いると戦線が崩れにくい」
「それは重要だ」
ゴウマが資料へ書き込む。
「こういう人間がいるだけで集団戦は大きく変わる」
グレイは少し照れくさそうに頭を掻いた。
「……ありがとうございます」
◇
続いて。
「次は私ね」
一人の女性が前へ出る。
ミーナ。
手には杖。
「魔法職か?」
ゴウマが尋ねる。
「ええ」
ミーナが笑う。
「ただし」
杖を構える。
「攻撃専門じゃないわ」
魔力が集まる。
「《マジック・シールド》!」
キィン――。
透明な膜のようなものが。
前方へ広がった。
「これは……」
シズクが反応する。
「防御魔法ですね」
「正解」
ミーナが笑う。
「身体で受けるのは無理だけど後衛を守るくらいならできるわ」
ゴウマが一人の魔法使いを見る。
「試していいか?」
「もちろん」
攻撃側が杖を構える。
小さな火球。
「《ファイアボール》!」
放たれる。
火球が防御魔法へ。
バァン!
「……!」
火が弾ける。
だが防御魔法は残っている。
ミーナが少しだけ顔をしかめた。
「さすがに何発も受けるのは厳しいけど」
「一撃か二撃なら」
「後衛が逃げる時間くらいは作れる」
「十分です」
ノエルが頷く。
「防御役が必ずすべての場所にいられるとは限りません」
「後衛自身を守れる人がいるのは大きいです」
シズクも障壁を観察している。
「結界とは少し違いますが」
「使い方によっては連携できそうですね」
「今度試してみる?」
ミーナが尋ねる。
「ぜひ」
二人。
もう何か考え始めている。
「……」
こういうところでも新しい組み合わせが生まれていく。
◇
「最後は俺か」
前へ出たのは。
ロイド。
武器は槍。
長い。
通常の槍よりもかなり長い。
「俺は中距離が得意だ」
ロイドが槍を構える。
「前衛の少し後ろ」
「そこから敵を止める」
相手として一人の剣士が前へ出る。
「始め!」
剣士が走る。
ロイドは動かない。
槍を構えたまま。
待つ。
三歩。
二歩。
一歩。
「今だ」
突き。
ヒュンッ!
剣士が止まる。
槍の穂先。
喉元。
届く寸前。
「……!」
速い。
剣士が横へ回る。
ロイドも槍を引く。
再び。
突き。
今度は足元。
剣士が下がる。
さらに横薙ぎ。
ブンッ!
近づけない。
「間合いの管理が上手いな」
ハヤテが感心したように言う。
「うん」
俺も頷く。
倒すというより。
近づかせない。
「前衛が敵を止め」
ロイドが説明する。
「その後ろから俺が援護する」
「突破された場合も」
槍を構え直す。
「後衛へ届く前に止める」
「なるほど」
ゴウマが頷く。
「壁の後ろにもう一枚壁を作るようなものか」
「そんな感じだ」
ロイドが笑った。
◇
白銀戦線の確認はその後も続いた。
剣士。
魔法使い。
弓兵。
支援職。
索敵を得意とする者。
アイスとサイオンだけじゃない。
六十人。
それぞれの役割を持っている。
「……」
俺は少しだけ。
白銀戦線を見る目が変わった。
もちろん。
弱いと思っていたわけじゃない。
攻略組として戦っていたギルドだ。
強いことは知っている。
でも一人一人を見る機会は今までほとんどなかった。
「どうッスか?」
サイオンが俺の隣へ来る。
「ウチの連中もなかなかやるッスよね?」
「うん」
俺は素直に頷く。
「強いね」
「でしょ~?」
なぜかサイオンが得意げだ。
「特にエルナとか――」
「サイオンさん!」
遠くから声。
「……」
サイオンが口を閉じる。
「何でもないッス」
「?」
やっぱりよく分からない。
◇
その後も確認は続く。
「次!」
剣士。
「お願いします!」
槍使い。
「行きます!」
魔法使い。
「任せてください!」
一人。
また一人。
今まで名前すら知らなかった仲間の力を知っていく。
前へ出る者。
後ろから支える者。
敵を止める者。
遠くから狙う者。
危険を察知する者。
同じ戦闘職でも。
誰一人。
まったく同じではない。
「……すごいですね」
隣でたるとが呟いた。
「何が?」
「みんなです」
広場を見る。
「こんなにいろんなことができる人がいるんですね」
「そうだね」
「今まで」
たるとは少しだけ笑う。
「知らなかったのがもったいなかったです」
「これから知ればいいんじゃない?」
「はい!」
元気よく頷く。
「これからたくさん知っていきます!」
その言葉に俺も少しだけ笑った。
◇
「よし!」
ゴウマが資料へ大きく印をつける。
「戦闘を中心に見てきた者たちは大体分かってきた」
「おお……」
ハヤテが空を見る。
「結構時間かかったな」
太陽はもうかなり高い。
それも当然だ。
これだけの人数がいる。
全員を一度に確認できるはずがない。
「でも」
アイスが資料を見る。
「かなり見えてきたね」
「前衛」
「後衛」
「防御」
「支援」
「索敵」
「誰がどこを得意としているのか」
「ある程度は把握できた」
「うむ」
ゴウマが頷く。
「だが」
資料を捲る。
まだ何枚も残っている。
「終わりじゃないぞ」
「……」
何人かの顔が固まる。
「まだあるのか?」
ハヤテが聞く。
ゴウマが睨む。
「当たり前だ」
「この街を作るのは戦える奴だけか?」
「……いや」
「なら」
ゴウマが広場の反対側を見る。
そこには戦闘確認には参加していなかった者たちがいる。
道具を持つ者。
素材を持つ者。
本を抱えている者。
魔石を並べている者。
薬草を扱う者。
そしてその中には。
ドラン。
リンファ。
シズク。
セリア。
モルフォ。
俺たちの仲間の姿もある。
「次は」
ゴウマが言う。
「この場所で暮らしていくための力だ」
「……」
たるとが目を輝かせる。
「生産ですね!」
「ああ」
「それだけじゃない」
ゴウマは指を折っていく。
「生産」
「研究」
「建築」
「商業」
「採取」
「農業」
「他にもまだある」
「……」
改めて聞くと。
本当に多い。
ハヤテが頭を掻く。
「戦闘組より大変じゃない?」
「かもしれんな」
ゴウマが真顔で答えた。
「マジか……」
その時。
「ようやく私の出番ですね」
モルフォが。
すっと前へ出た。
「……」
嫌な予感がする。
「これまで戦闘能力ばかりを確認していましたが」
眼鏡を押し上げる。
「街の発展において研究がどれほど重要なのか」
一歩。
前へ。
「私が説明しましょう」
「モルフォ」
ハヤテが止める。
「何でしょう?」
「長くなる?」
「もちろんです」
即答。
「……」
全員が黙る。
セリアが眠たそうに欠伸をした。
「今日は終わらないかもね~」
「いや」
ゴウマが頭を押さえる。
「一度休憩にする」
「なぜです?」
モルフォが本気で首を傾げた。
「お前が話し始める前に休んでおいた方がよさそうだからだ」
「なるほど」
「納得するんだ……」
ハヤテが呟く。
広場に笑いが起こる。
「……」
俺も。
まだ残っている資料を見る。
戦える人。
作れる人。
研究する人。
育てる人。
集める人。
売る人。
直す人。
この場所にはまだ俺たちが知らない力がたくさんある。
そしてその一つ一つがこれから作る街には必要になる。
能力確認はまだ終わらない。
むしろ。
ここからが街づくりにとって本当に大切な力を知る時間なのかもしれなかった。
第5話「それぞれの力」を読んでいただきありがとうございます!
今回は《白銀戦線》の仲間たちを中心にそれぞれの戦い方を見ていく回でした。
同じ戦闘職でも得意なことは人それぞれ。
そして街を作るために必要なのは戦う力だけではありません。
次回は生産や研究などこの場所で暮らしていくための力を見ていきます!
次回もよろしくお願いします!




