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第33話 帰る場所

白銀戦線の拠点入口。


長かった戦いを終え、戦場にはようやく静寂が戻っていた。


聞こえるのは崩れた建物から小さな瓦礫が落ちる音。


傷付いた者たちの呼吸。


そして戦いが終わったことを確かめるような。


仲間たちの声だけだった。


「……」


ゴウマは拠点の入口を見上げる。


そこには崩れた岩が大量にあった。


戦闘中。


敵を外部班に向かわせるのを防ぐため。


戦いが終わればもう必要ない。


「これで最後だな」


ゴウマが拳を握る。


腰を落とす。


そして。


「《岩砕拳》!」


ドォン!!


重い一撃。


巨大な岩へ巨大な亀裂が走った。


さらに。


「ふっ!」


二発目。


ドゴン!!


三発目。


ドォォン!!


巨大な岩が砕ける。


大きな塊が次々と崩れ落ち。


塞がれていた入口が少しずつ開いていった。


そして最後の岩が崩れる。


パラパラ――。


外から光が差し込んだ。


「……」


ゴウマが眩しそうに目を細める。


その向こうに二人の人影が見えた。


「皆~!」


いつもの。


どこか眠たげな声。


セリア。


その隣にはモルフォ。


二人がこちらへ走ってくる。


「ようやく合流できました」


モルフォが周囲を見る。


ガンテツ。


バレット。


アイス。


リンファ。


ハヤテ。


そして。


少し離れた場所には。


俺。


全員。


無事ではある。


だが傷だらけだった。


「うわ~……」


セリアが目を丸くする。


「みんな本当に無茶してる~」


「……」


俺は目を逸らした。


なぜか。


真っ先にこちらを見られた気がする。


「ガウ~?」


「……」


「なんで目を逸らすの~?」


「気のせい」


「怪しい~」


セリアがじっと見る。


だが今はそれよりもやることがある。


セリアは周囲を見渡した。


「呪印が残ってる人はいないかな~?」


杖を持ち上げる。


淡い魔力。


「《解析鑑定》」


戦場にいる者たちへ。


一人ずつ魔力の流れを確認していく。


「……」


モルフォも近くにいる解放されたプレイヤーの状態を見ていた。


首筋。


腕。


身体に刻まれていた。


ゼノスの呪印。


今はほとんど消えている。


「解除自体は問題ありませんね」


モルフォが呟く。


「後遺症らしい魔力異常も見当たりません」


「うん~」


セリアも頷いた。


「ちゃんと外れてる~」


その言葉を聞いた瞬間、近くにいた解放プレイヤーたちの肩から目に見えて力が抜けた。


「……よかった」


「本当に……」


「もう操られないんだ……」


誰かが小さく呟く。


セリアは笑った。


「大丈夫だよ~」


「もう身体は自分のものだからね~」


その一言が静かだった戦場に安堵の空気が広がっていく。



少し離れた場所。


壁際。


ヨミが座っていた。


まだ身体には力が戻りきっていない。


その隣には。


ツキ。


ぴったりと寄り添い。


ヨミの手を両手で握っている。


「……」


ヨミがゆっくりと目を開いた。


「ツキ……」


「お姉ちゃん!」


ツキがすぐに顔を覗き込む。


「大丈夫?」


「……うん」


ヨミが小さく笑う。


「少し疲れただけ」


「ほんと?」


「ほんと」


ツキはしばらくじっと姉を見る。


そして少しだけ頬を膨らませた。


「もう勝手にいなくならないでね」


「……」


ヨミの表情が止まる。


「すごく心配したんだから」


「……ごめん」


「絶対だからね」


「うん」


ヨミはツキの頭へ手を伸ばす。


優しく撫でた。


「もう離れないよ」


「……うん!」


ツキが笑う。


その様子をハヤテが少し離れた場所から見ていた。


「……」


口元が僅かに緩む。


助けられてよかった。


それだけで十分だった。



その後。


戦場の後処理が始まった。


ゴウマは巨大な岩牢の前に立つ。


中にいるのは戦いの途中で武器を捨てた《深淵の剣》の構成員たち。


戦いは終わった。


ゼノスも。


四天王も。


もういない。


それでも中にいる彼らの表情は暗かった。


この先自分たちがどうなるのか分からない。


当然だった。


ゴウマが腕を組む。


「戦いは終わった」


「……!」


何人かが顔を上げる。


「約束通り」


ゴウマが岩牢へ手を向ける。


ゴゴゴゴゴ――。


岩が動く。


入口が開いた。


「ここから去りたい奴は去っていい」


「……」


「追わない」


誰も動かない。


しばらく。


静寂。


やがて。


一人。


男が前へ出る。


おそるおそる。


岩牢から外へ。


ゴウマの横を通る。


「……」


ゴウマは何もしない。


本当に止めなかった。


その男が離れていく。


それを見て。


二人目。


三人目。


また一人。


岩牢から出ていく。


それぞれが別の方向へ歩いていった。


誰も追わない。


誰も攻撃しない。


約束は守られた。


そしてしばらく経った頃。


「……」


ゴウマが岩牢を見る。


残っている者たちがいた。


二十三人。


誰一人。


出ていこうとしない。


「残るのか?」


低い声。


その中から。


一人の男が前へ出た。


「……はい」


頭を下げる。


「俺達は」


声が震えていた。


「逆らえなかったとはいえ」


拳を握る。


「多くの人を傷付けました」


別の者が続く。


「逃げてもやったことは消えません」


「……」


また一人。


「だから」


頭を下げる。


「償わせてください」


そして。


二十三人。


全員が。


深く頭を下げた。


「お願いします!」


「……」


ゴウマは何も言わない。


しばらく彼らを見る。


そして静かに頷いた。


「分かった」


二十三人が顔を上げる。


「なら」


ゴウマは腕を組む。


「俺達の集落へ来てもらう」


「……?」


何人かが戸惑う。


ゴウマが続けた。


「街を作っている」


「人手はいくらあっても足りん」


一歩。


前へ。


「壊してきたならこれからは作れ」


「……!」


「自分たちの手で」


拳を握る。


「誰かが暮らせる場所を作れ」


静寂。


やがて男の一人が強く頷いた。


「……はい!」


別の男も。


「やります!」


「俺も!」


一人。


また一人。


声が上がる。


「働かせてください!」


「何でもやります!」


ゴウマは小さく笑った。


「よし」


そして。


「今日から敵じゃない」


二十三人を見る。


「まずは自分たちがやったことと向き合え」


「その上で一緒に働いてもらう」


「はい!」


二十三人の声が重なった。


戦いは終わった。


破壊するために集まっていた者たち。


その一部はこれから何かを作るために力を使うことになる。



王虎の牙の集落。


日が傾き始めていた。


いつもの静かな集落。


だが今日は違う。


遠く。


道の先。


大勢の人影が見える。


最初に気付いたのは。


「……?」


たるとだった。


手を止める。


目を細める。


そして。


「……!」


一気に顔が明るくなった。


「みんなだ!」


走る。


集落の入口へ。


「みんな帰ってきたー!」


その声で。


シズク。


そして集落に残っていた者たちも次々と外へ出てくる。


道の向こう。


戻ってくる白銀戦線の仲間たち。


解放された百五十人の奴隷プレイヤーたち。


そして《深淵の剣》に所属していた二十三人。


大勢の人々。


その先頭には見慣れた仲間たち。


「……」


俺はその光景を見た。


帰ってきた。


ようやく。


本当に。


帰ってきた。


そして。


「おかえりなさーい!!」


たるとの声が響いた。


大きく。


両手を振っている。


その一言。


「……」


胸の奥。


張り詰めていた何かが少しだけ緩んだ気がした。


「ただいま」


俺は小さく呟いた。



「怪我してる人はこっち!」


シズクがすぐに動き始める。


「歩けない人を優先してください!」


「空いている家も使います!」


「毛布も持ってきて!」


周囲の人たちが一斉に動く。


「はい!」


「こっち運びます!」


「水も持ってきます!」


シズクは治療場所。


休ませる場所。


人の流れ。


次々と指示を飛ばしていく。


そして。


その隣。


「怪我人いっぱい!」


たるとも走る。


「重い怪我の人から来てください!」


一人のプレイヤーの前へ。


膝をつく。


傷へ。


両手をかざす。


「《ハイヒール》!」


パァァァ――。


柔らかな光。


深い傷が少しずつ塞がっていく。


「……!」


治療を受けていた男が目を見開く。


「痛みが……」


「なくなった……」


「まだ動いちゃ駄目です!」


たるとが言う。


「今日はちゃんと休むこと!」


「……はい」


その隣。


また一人。


さらにもう一人。


たるとは休まない。


負傷者を次々と治療していく。


「たると!」


シズクが声を飛ばす。


「こっちに重傷者!」


「今行きます!」


たるとが駆け出した。


俺はその様子を見ながら


静かに。


少しずつ。


その場を離れる。


今なら誰も見ていない。


一歩。


二歩。


三歩。


よしそのまま。


家の方へ――。


「ガウ!」


「……」


止まった。


尻尾までぴたりと。


「……」


嫌な予感。


ゆっくり振り返る。


「はい」


たるとが笑っている。


とてもいい笑顔で。


「どこ行くんですか?」


「……ちょっと休みに」


「怪我は?」


「もう大丈夫」


「本当に?」


「……多分」


「来なさい」


「……」


「ガウ?」


にっこり。


逃げられない。


「……はい」


俺は大人しく戻った。


近くにいたガンテツが吹き出す。


「ぶはっ!」


「お前でもたるとには勝てねぇな!」


「うるさい」


バレットも口元を押さえている。


「……笑ってないぞ」


「笑ってるでしょ」


「気のせいだ」


絶対に笑っている。


俺はたるとの前へ座る。


尻尾も自然と丸くなっていた。


「……」


「……」


たるとが。


じーっと俺を見る。


顔。


腕。


身体。


そして。


腰。


そこに差している。


《朧》。


「……?」


一瞬。


たるとの視線が止まった気がした。


だが何も言わない。


「無茶しましたね?」


「……少し」


「少し?」


「……結構」


「ですよね!」


「はい」


素直に頭を下げる。


たるとは大きく息を吐いた。


「もう~!」


そして両手を俺へ向ける。


「《ハイヒール》!」


暖かな光。


身体を包む。


残っていた傷。


痛み。


疲労。


少しずつ抜けていく。


「……」


思わず肩の力が抜けた。


「はい!」


たるとが笑う。


「これで大丈夫!」


「ありがとう」


「でも!」


「……」


嫌な予感。


たるとがにっこり笑った。


「後でお話があります」


「……」


「返事は?」


「……はい」


俺はそれ以上何も言えなかった。


「ははははっ!」


ガンテツの笑い声。


バレットも今度は隠していない。


リンファまで。


小さく笑っている。


「……」


俺は目を逸らした。


さっきまで命懸けで戦っていたはずなのに。


今はいつもの空気。


いつもの仲間たち。


そして帰ってくる場所。


「……」


悪くない。


いや。


きっと。


これがいい。


戦いは終わった。


傷付いた者たちは帰ってきた。


救われた者たちも。


償おうとする者たちも。


それぞれの想いを抱えながら。


この場所へ帰ってきた。


そしてここからまた新しい日々が始まる。


誰かが帰ってきた時。


「おかえり」と言える場所。


そして胸を張って「ただいま」と言える場所。


そんな場所を俺達はこれからも作っていく。

第33話「帰る場所」を読んでいただきありがとうございます!


長かった戦いも終わりようやくみんなが帰ってきました。


「おかえり」と「ただいま」。


この二つの言葉が似合う場所をこれからみんなで作っていきます。


次回もよろしくお願いします!

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