第23話 氷と影
白銀戦線の拠点内部。
崩壊した通路の中でアイスは膝をついていた。
「やられた……。」
脇腹から血のエフェクトが流れ落ちる。
《影槍》。
ミレイアの一撃だった。
致命傷は避けた。
しかし傷は深い。
アイスはゆっくりと小さな杖を持ち上げる。
「くっ……。」
そして傷口へ氷を集めた。
冷気が広がり出血が止まる。
応急処置にすぎない。
痛みは消えない。
それでも戦闘を継続するには十分だった。
「冷静になれ……。」
アイスは小さく呟く。
怒り。
焦り。
仲間を傷つけられた感情。
それらを一度押し込める。
軍師として戦場を見極める。
◇
「立てるのか。」
ミレイアが言う。
影を纏ったままその表情に驚きはない。
「普通ならここで終わっている。」
アイスは杖を構える。
「君は相手を追い詰めることしか考えていない。」
ミレイアは笑う。
「当然だ。戦いとはそういうものだろう。」
そしてミレイアの姿が影へ沈む。
「……。」
消えた。
気配も姿も。
アイスは周囲を見渡す。
壁。
床。
瓦礫。
そこに広がる影。
「……。」
どこから来る。
「白銀戦線。」
突然ミレイアの声が響く。
「いいギルドだな。」
アイスの目が動く。
「……。」
影の中から声だけが聞こえる。
「仲間を守る。」
「共に生き残る。」
「実に美しい考えだ。」
「だが。」
一瞬、影が揺れる。
「結果はどうだ?」
アイスの拳が強く握られる。
「拠点は奪われた。」
「仲間は傷ついた。」
「サイオンも倒れた。」
「それでも。」
「まだ守れると言うのか?」
アイスは黙る。
言葉が胸に刺さる。
しかし今度は違う。
感情に流されない。
「……。」
ミレイアは続ける。
「弱者を守ろうとするから隙が生まれる。」
「君たちはその甘さで負ける。」
その瞬間、影が動いた。
「《影槍》」
床から。
壁から。
複数の影の槍が飛び出す。
「……!」
アイスは横へ跳んだ。
紙一重。
影槍が背後の壁を貫く。
「……。」
アイスは着地する。
先ほどとは違う。
ミレイアを見据える。
「なるほど。」
「攻撃の起点を読ませない。」
「だからこそ影の位置が重要になる。」
ミレイアの表情がわずかに変わる。
「……。」
アイスは杖を握り直す。
「君の力を理解した。」
ミレイアは笑う。
「理解したところで止められるかな?」
再び影が広がる。
アイスが攻撃を放つ。
「《氷礫》」
周囲に浮かんだ氷の破片が一斉にミレイアへ向かって飛翔する。
しかし。
「……。」
ミレイアは影へと沈み込む。
氷礫は空を切った。
次の瞬間。
背後。
「《黒刃》」
影を纏った刃が迫る。
アイスは杖を振るった。
「《氷壁》」
氷の壁が展開される。
黒い刃が氷を削り取っていく。
しかし完全には防ぎ切れない。
アイスは距離を取る。
「……。」
強い。
速い。
そして厄介なのは。
攻撃そのものではない。
「影……。」
アイスは周囲を見渡す。
ミレイアは影へ潜みそこから姿を現し影そのものを攻撃へと転じている。
「奴のアークスキル。」
「影そのものを利用しているのか。」
ミレイアは影の中から笑みを浮かべた。
「分かったところでどうする?」
アイスは周囲を見渡す。
崩壊した通路。
砕けた壁。
倒れた柱。
光の届かない場所。
至るところに影が広がっている。
「……。」
確かにこの状況では不利だ。
ミレイアは姿を見せず攻撃だけを繰り返す。
時間が経つほどこちらが消耗していく。
「このままでは……。」
アイスは小さく呟いた。
「じり貧だ。」
ミレイアが影から姿を現す。
「理解したか。」
「君では私に勝てない。」
「仲間を守るために戦う。」
「その優しさが。」
「君を弱くする。」
アイスは答えない。
ただ冷静に思考を巡らせる。
敵の能力。
攻撃方法。
発動条件。
「……。」
アイスは思考を巡らせる。
『影を利用する能力。』
『ならば。』
アイスの視線が上を向く。
崩壊した天井。
そこから差し込む光。
そして床一面に広がる無数の影。
「……。」
『影そのものを消せば奴はどうなる?』
ミレイアが再び影へ沈む。
しかしアイスの表情は変わらなかった。
もはや怒りに任せて戦ってはいない。
勝つために。
守るために。
ただ冷静に考えていた。
アイスは杖を掲げる。
「……。」
魔力が収束する。
「作る。」
空中に巨大な氷の結晶が形成されていく。
「《氷鏡》」
氷で構成された巨大な鏡が無数に浮かび上がる。
その瞬間。
差し込んだ光が反射した。
崩壊した通路。
床。
壁。
瓦礫。
そこに広がっていた影が少しずつ消えていく。
「……くそっ!」
ミレイアの姿が現れた。
隠れる場所を失ったのだ。
「なるほど。」
アイスは杖を構える。
「やはり影がなければ君は自由に動けない。」
ミレイアは黙っていた。
そして小さく笑う。
「……。」
「小賢しい。」
次の瞬間ミレイアが動いた。
影はない。
それでもアイスへ向かって駆け出す。
アイスは迎撃態勢に入る。
しかしミレイアは攻撃を仕掛けずその場で立ち止まった。
「勘違いするな。」
「俺は影の中からしか攻撃できないわけではない。」
空気が変わる。
ミレイアの周囲で消えたはずの影が少しずつ広がっていく。
「影がないなら。」
「作ればいい。」
アイスの表情が変わる。
「……!」
ミレイアの魔力が膨れ上がる。
そして影が世界を覆っていく。
「奥義。」
周囲の光が消えた。
黒い闇。
深い影。
「《深淵影界》」
瞬間、世界が反転する。
アイスの視界が黒に染まった。
床。
壁。
空間。
すべてが影へと変わっていく。
「これは……!?」
アイスが周囲を見渡す。
どこまでも続く暗闇。
「影の世界……。」
ミレイアの声だけが響く。
「ようこそ。」
「俺の領域へ。」
アイスは杖を握り直す。
しかし周囲には逃げ場がない。
影。
影。
影。
すべてがミレイアの支配する世界。
「ここでは。」
「俺が絶対だ。」
アイスは静かに構えた。
そして理解する。
自分はミレイアの奥義によって影の世界へ閉じ込められたのだと。
第23話「氷と影」を読んでいただき、ありがとうございます!
今回はアイスVSミレイア。
氷と影。
二つの力が激しくぶつかり合う戦いとなりました。
前回、サイオンを傷つけられた怒りで冷静さを失っていたアイス。
しかし深手を負ったことで改めてギルドマスターとして戦場を見つめ直します。
ミレイアの能力《深影支配》。
影を利用した奇襲。
どこからでも現れる攻撃。
圧倒的に有利な能力を前に。
アイスは力で押し返すのではなく。
相手の能力を分析し、攻略する道を選びました。
そして生み出した新たな技《氷鏡》。
ミレイアの弱点を突いたかに見えました。
四天王はそこで終わる存在ではありません。
影を奪われたミレイアが見せた奥義《深淵影界》。
戦場そのものを影へ変える力。
アイスは今ミレイアが作り出した未知の領域へ閉じ込められてしまいました。
果たして氷は深淵の影を打ち破ることができるのか。
そして仲間を守るという想いは本当に弱点なのか。
アイスとミレイアの戦いはまだ終わりません。
次回、影の世界で。
アイスの反撃が始まります。




