第19話 疾風迅雷
バルドは静かに槍を構え直す。
空気が変わった。
「俺も全力で相手をする」
ハヤテの笑みが深くなる。
「そうこなくちゃな!」
二人の視線が交わる。
「……!」
ハヤテの表情から笑みが消える。
何か来る。
直感で理解した。
バルドの身体から魔力が溢れ出す。
足元。
壁。
天井。
周囲の空間そのものへ。
魔力が広がっていく。
ゴォォォォ――!!
「こいつは……」
ハヤテが二本の刀を構える。
バルドは槍の石突を床へ叩きつけた。
ドンッ!!
空気が震えた。
「アークスキル」
低い声。
その瞬間、バルドを中心に魔力が一気に広がった。
通路。
床。
壁。
天井。
全てを飲み込んでいく。
「――《槍域支配》」
瞬間、ハヤテの表情が変わった。
「……!」
何かが違う。
目に見える大きな変化はない。
それなのに一歩踏み込めば槍が来る。
右へ動けばそこにも槍が来る。
左。
背後。
頭上。
どこへ逃げても槍先が待っている。
そんな感覚。
バルドがゆっくりと槍を持ち上げる。
「《槍域支配》」
「この領域内に存在する全ての場所が」
槍先がハヤテへ向く。
「俺の間合いだ」
「……」
ハヤテは周囲を見渡す。
「なるほどな」
ハヤテが小さく笑った。
「俺が速すぎて捕まえられないから」
《白夜》を構える。
「逃げ場そのものをなくしたってわけか」
《黒曜》も構える。
バルドは静かに答えた。
「違う」
槍を握る。
「最初から」
殺気が膨れ上がった。
「俺の戦場に逃げ場などない!」
次の瞬間、バルドの姿が動いた。
「《穿突》」
ゾクッ。
ハヤテの背筋に寒気が走る。
槍はまだ遠い。
本来なら届かない距離。
なのに。
「っ!?」
ハヤテは咄嗟に《白夜》と《黒曜》を交差させた。
直後。
ガァァァン!!
「ぐっ!!」
凄まじい衝撃。
二本の刀が大きく弾かれる。
ハヤテの身体が後方へ吹き飛んだ。
「なっ……!」
空中で身体を捻る。
着地。
靴底が床を滑る。
数メートル。
ようやく止まった。
ハヤテは顔を上げる。
バルドはその場からほとんど動いていない。
「……マジかよ」
槍先を見つめる。
届くはずのない距離。
それでも攻撃は確かに届いた。
バルドが槍を構える。
「言ったはずだ」
「この領域では」
再び。
槍先がハヤテへ向けられる。
「全てが俺の槍の間合いだ」
ハヤテは二本の刀を握り直す。
そして笑った。
「いいねぇ!」
《疾風迅雷》の風が再び強くなる。
「そういう無茶苦茶なの」
腰を落とす。
「嫌いじゃねぇよ!」
バルドも槍を構えた。
「来い」
「ハヤテ」
「ああ」
ハヤテの笑みが深くなる。
「行くぜバルド!」
風が弾ける。
同時に槍が走った。
《疾風迅雷》。
《槍域支配》。
二つのアークスキルが真正面から激突した。
キィィィン!!
刀と槍が激突する。
弾けた衝撃が通路を駆け抜けた。
「っ!」
ハヤテが《白夜》で槍を弾く。
そのまま《黒曜》を振るう。
だが。
バルドは槍を引き戻し、黒い刀身を受け止めた。
ガキィン!!
「まだだ!」
ハヤテが地面を蹴る。
風が弾ける。
一瞬で右へ。
そこからさらに背後へ。
先ほどまでなら。
これだけでバルドの間合いを崩せた。
だが。
「無駄だ」
バルドが槍を突き出す。
「《穿突》」
「っ!」
ハヤテが咄嗟に身体を捻る。
次の瞬間。
ズガァン!!
何もないはずの空間を越え。
槍撃が背後の壁を穿った。
「マジでどこにいても届くのかよ!」
ハヤテは笑いながら駆ける。
右。
左。
壁を蹴り。
さらに加速。
《疾風迅雷》によって強化された速度。
常人なら目で追うことすら難しい。
だが。
「そこだ」
バルドの槍先が動く。
「《穿突》」
「!」
真正面。
ハヤテは《白夜》で弾く。
キィン!!
直後。
「《穿突》」
右。
《黒曜》で受け流す。
さらに。
「《穿突》」
左。
「くっ!」
身体を沈めてかわす。
ズガン!!
壁が砕けた。
「おいおい!」
ハヤテが走る。
「反則だろそれ!」
「戦場に反則などない」
バルドが淡々と答える。
「あるのは」
槍を引く。
「生きるか死ぬかだけだ」
「そりゃそうだな!」
ハヤテが一気に踏み込む。
《白夜》を振るう。
バルドが槍で受け止める。
なら。
《黒曜》。
反対側から首を狙う。
だが。
「甘い」
バルドが槍を大きく振るった。
「《裂空》」
ブォォォン!!
「っ!?」
ハヤテは咄嗟に後方へ跳ぶ。
その直後、空間を薙ぎ払うような一撃が通路を駆け抜けた。
ズガァァン!!
壁。
床。
天井。
広範囲に亀裂が走る。
「うおっ!」
着地したハヤテの頬を風圧が掠める。
僅かに遅れて頬に細い傷が走った。
「……」
指で触れる。
血。
正確にいえば血のエフェクト。
ハヤテはそれを見て笑う。
「すげぇな」
「近付いても駄目」
「離れても駄目」
「どこに逃げても槍が来る」
バルドが槍を構える。
「それが《槍域支配》だ」
「俺の領域へ入った時点でお前に安全な場所はない」
「なるほどな」
ハヤテは二本の刀を軽く振る。
「だったら」
風が強くなる。
「全部かわして近付けばいい!」
ドンッ!!
床が弾ける。
ハヤテの姿が消えた。
「……!」
速い。
先ほどよりも。
さらに。
バルドの右。
「こっちだ!」
《白夜》。
キィン!!
防がれる。
即座に左。
《黒曜》。
ガキィン!!
これも防がれる。
ハヤテは止まらない。
背後。
正面。
右。
左。
風だけを残しながら、次々と位置を変える。
キンッ!
キィン!!
ガキィン!!
白と黒の斬撃がバルドへ襲い掛かる。
「はあああっ!」
一撃。
二撃。
三撃。
四撃。
五撃。
それでもバルドは崩れない。
槍を短く持ち。
時には柄で。
時には穂先で。
二本の刀を防ぎ続ける。
「くっ……!」
だが完全には防げない。
ザシュッ!
肩。
ザッ!
腕。
ハヤテの斬撃が少しずつバルドを捉える。
「どうした!」
ハヤテが叫ぶ。
「領域の中なら全部お前の間合いなんだろ!」
「……」
バルドは答えない。
ただハヤテの動きを見ている。
速い。
だが無秩序ではない。
どれだけ速くても攻撃する瞬間だけは必ず自分へ近付く。
なら狙うべきはそこだ。
「……捕らえた」
「あ?」
ハヤテが踏み込んだ瞬間。
バルドの槍が僅かに沈んだ。
「《封陣》」
直後、槍が大きくしなった。
「なっ!?」
まるで鞭。
長い柄が異常な軌道を描き。
ハヤテの左腕へ巻き付いた。
「っ!」
《黒曜》を持つ腕が止められる。
「うおっ!」
「速さだけでは」
バルドが槍を強く引く。
「俺の領域からは逃げられない!」
「ぐっ!」
ハヤテの身体が浮いた。
そのままバルドが槍を振り抜く。
「おおおおっ!!」
ハヤテの身体が宙を舞う。
一直線に。
壁へ。
ドガァァン!!
「ぐっ……!」
背中から激突する。
石壁に亀裂が走った。
瓦礫が落ちる。
「……っ」
ハヤテが床へ落ちる。
片膝をついた。
「痛って……」
口元を拭う。
僅かに血が付いている。
それでも笑っていた。
「槍が鞭みたいになるとか」
ゆっくり立ち上がる。
「初見殺しにもほどがあるだろ」
バルドは槍を元の状態へ戻す。
「《槍域支配》の中では槍という形に拘る必要はない」
「突く」
槍先がハヤテへ向く。
「薙ぐ」
僅かに横へ動く。
「縛る」
柄が軋む。
「全てが俺の攻撃になる」
ハヤテは《白夜》と《黒曜》を握り直す。
「何でもありだな」
「それが俺の力だ」
バルドが踏み込む。
「《穿突》」
「っ!」
ハヤテが横へ跳ぶ。
そこへ。
「《裂空》」
「うおっ!」
広範囲の薙ぎ払い。
跳んだ先まで攻撃が追ってくる。
《白夜》と《黒曜》を交差。
ガァァン!!
衝撃。
身体が押し戻される。
着地した瞬間。
「《封陣》」
槍がしなる。
「二度も食らうかよ!」
ハヤテが地面を蹴る。
風が弾ける。
巻き付こうとした槍を紙一重でかわした。
そのまま加速。
バルドへ向かう。
だが。
「《穿突》」
正面から槍撃。
「ちっ!」
右へ。
「《裂空》」
「!」
今度は左。
「《穿突》」
後方。
「《封陣》」
「くそっ!」
ハヤテは走る。
避ける。
弾く。
受け流す。
《疾風迅雷》による圧倒的な速度。
それでも攻撃が途切れない。
どこへ行ってもバルドの槍が待っている。
一歩間違えれば終わる。
そんな攻防が続いていく。
「……」
ハヤテの表情から少しずつ笑みが消えていった。
楽しい。
強い相手と戦うのは好きだ。
だがこれは遊びじゃない。
外では仲間たちが戦っている。
それぞれが命を懸けている。
ここでいつまでも足止めされているわけにはいかない。
「……そろそろだな」
ハヤテが呟く。
「何?」
バルドが目を細める。
ハヤテは二本の刀を下げた。
「十分分かった」
「お前の槍」
「お前の間合い」
「それと」
バルドを真っ直ぐ見る。
「この領域の癖もな」
「……」
バルドの表情が僅かに変わった。
「強がりか?」
「いや」
ハヤテは静かに息を吐く。
風が少しずつハヤテの周囲へ集まり始める。
「お前は強い」
「今まで戦った槍使いの中じゃ」
腰を落とす。
右手。
《白夜》。
左手。
《黒曜》。
二本の刀を低く構える。
「間違いなく一番だ」
バルドも槍を構え直す。
「ならどうする?」
「簡単だろ」
ハヤテが笑った。
「お前の間合いから逃げられないなら」
風が止まった。
「逃げなきゃいい」
「……何?」
一瞬。
完全な静寂。
先ほどまで吹き荒れていた風が全て消えた。
いや。
違う。
消えたんじゃない。
ハヤテの身体へ。
一点へ。
全て集まっている。
バルドの表情が変わる。
「……!」
初めて明確な危機感が浮かんだ。
ハヤテは二本の刀を構える。
そして静かに告げた。
「次で終わらせる」
鋭い眼差しがバルドを射抜く。
「……」
バルドは何も答えなかった。
槍を握る手に力を込める。
目の前にいる男が何かを仕掛けようとしている。
それだけは分かる。
だがハヤテは動かない。
《白夜》。
《黒曜》。
二本の刀を低く構えたまま。
静かに立っている。
風もない。
音もない。
先ほどまで通路を吹き荒れていた風が完全に消えている。
不気味なほどの静寂。
「……」
バルドの額を汗が伝う。
《槍域支配》は今も発動している。
この領域全てが自分の間合い。
右。
左。
正面。
背後。
どこへ動こうと関係ない。
踏み込んだ瞬間、槍で貫く。
それなのに何だ。
この感覚は。
「……ふざけるな!」
バルドが呟く。
槍を構える。
「俺の領域の中で」
殺気が膨れ上がる。
「逃げ場などない!」
ハヤテは小さく笑った。
「分かってるよ」
腰をさらに落とす。
「だから」
右手の《白夜》。
左手の《黒曜》。
二本の刀へ力を込める。
「全部まとめて」
目が鋭くなる。
「切り捨てる!」
「……!」
バルドが動いた。
待たない。
先に潰す。
「《穿突》!!」
槍を突き出す。
領域を通して一瞬で攻撃がハヤテへ届く。
だがハヤテは動かない。
「……!」
槍撃が迫る。
あと僅か。
その瞬間。
ハヤテが呟いた。
「――《極・瞬影》」
風が一瞬だけ鳴いた。
ドンッ!!
床が爆ぜた。
「なっ!?」
消えた。
バルドの目の前からハヤテの姿が完全に消えた。
《穿突》が空を貫く。
「どこだ!?」
右。
いない。
左。
いない。
背後。
いない。
気配すら。
捉えられない。
「……!」
バルドは槍を握り直す。
違う。
消えたわけじゃない。
速い。
ただあまりにも速すぎる。
なら。
「《裂空》!!」
槍を振り抜く。
広範囲。
逃げ場そのものを潰す一撃。
ブォォォン!!
空間を薙ぎ払う槍撃が通路を駆け抜ける。
壁が裂ける。
床が砕ける。
天井から瓦礫が落ちる。
だが。
「いない……!?」
当たらない。
それどころかどこにいるのかすら分からない。
「なら!」
槍を大きくしならせる。
「《封陣》!!」
槍が蛇のように暴れ回る。
右。
左。
正面。
背後。
領域全体を覆うように。
何度も。
何度も。
空間を切り裂く。
それでも捕らえられない。
「馬鹿な……!」
バルドの顔から初めて余裕が消えた。
《槍域支配》。
全てが自分の間合いとなる領域。
相手がどこへ逃げても。
どこへ踏み込んでも。
必ず槍が届く。
そのはずだった。
だが届かない。
いや。
違う。
「まさか……」
バルドの目が見開かれる。
槍が届いていないんじゃない。
槍が届くよりも先にハヤテがその場所を通り過ぎている。
バルドが攻撃を認識した時にはもうそこにはいない。
「くそ……」
バルドが歯を食いしばる。
ヒュン――。
僅かな風が頬を撫でた。
「っ!」
バルドが振り返る。
誰もいない。
だが。
その瞬間。
キンッ。
小さな音がした。
「……?」
槍を見る。
一本の細い亀裂。
「なっ……」
キンッ。
さらに。
もう一本。
亀裂が走る。
キィン。
キン。
キィン。
次々と。
槍へ細かな亀裂が刻まれていく。
「な、に……?」
バルドが槍を握る。
その手に感触が伝わってくる。
斬られている。
今この瞬間も。
何度も。
何度も。
だが見えない。
「やめろ!!」
バルドが叫ぶ。
槍を振るう。
「《裂空》!!」
空を薙ぐ。
何もない。
「《穿突》!!」
突く。
何もない。
「《封陣》!!」
槍をしならせる。
それでも何も捉えられない。
キンッ。
また一つ。
亀裂。
「くそっ!」
キィン!
「どこだ!」
キンッ!
「出てこい!!」
そして。
最後に甲高い音が響いた。
パキン――。
「……」
バルドの動きが止まる。
手にしていた槍。
その穂先がゆっくりとずれた。
次の瞬間。
ガシャァァン!!
槍が崩れ落ちた。
穂先。
柄。
石突。
細かく斬り裂かれた槍の破片が。
次々と床へ落ちていく。
「……な」
バルドが呆然とする。
「俺の……」
手には短くなった柄だけが残っている。
「俺の槍が……」
その時、風が吹いた。
バルドの背後。
「……!」
振り返る。
そこにハヤテが立っていた。
二本の刀を下げ、静かにバルドを見ている。
「……いつ」
バルドの声が震える。
ハヤテは答えない。
ゆっくりと《白夜》を振る。
刀身に付いた血のエフェクトが宙へ散った。
続いて《黒曜》。
そして。
二本の刀を構え直す。
「これが」
ハヤテが静かに言う。
「俺の本当の速度だ」
「……」
バルドは動けなかった。
見えなかった。
一度も。
《槍域支配》の中にいたはずなのに一度も捉えることができなかった。
それどころか。
自分の槍だけを正確に狙い。
破壊された。
「……俺の」
バルドが拳を握る。
「《槍域支配》が……」
ハヤテは首を横に振った。
「お前の領域は強かった」
「実際、かなり苦戦したよ」
「……」
「どこにいても槍が届く」
「逃げ場がない」
ハヤテはバルドを真っ直ぐ見る。
「だから」
《白夜》を肩へ乗せる。
「お前が攻撃するより速く動いた」
「……」
バルドの目が僅かに揺れる。
「それだけだ」
「……それだけ」
バルドが俯く。
「それだけだと……?」
ハヤテは笑った。
「ああ」
「速さには自信あるからな」
「……」
沈黙。
床にはバルドの槍だった破片が散らばっている。
武器はない。
アークスキルも突破された。
勝負はもう決まっていた。
ハヤテは《黒曜》を鞘へ戻す。
シャリン――。
《疾風迅雷》の風が消えていく。
残った《白夜》を手にバルドへ近付く。
一歩。
また一歩。
バルドは動かない。
ハヤテは数歩手前で止まった。
「バルド」
「……」
「もう勝負はついた」
《白夜》を下げる。
「投降しろ」
バルドがゆっくり顔を上げた。
「……何?」
「武器もない」
「お前のアークスキルも破った」
ハヤテの声から先ほどまでの楽しそうな響きが消えていた。
「これ以上やる意味はない」
「……」
「投降するなら」
真っ直ぐにバルドを見る。
「命までは取らない」
静寂。
バルドは何も言わない。
ただハヤテを見ていた。
そして。
「……ふ」
僅かに笑った。
「ふざけるな……」
「……」
「俺に」
拳を握る。
「投降しろだと?」
ハヤテの目が細くなる。
「バルド!」
「黙れ!」
バルドが叫ぶ。
「俺は《深淵の剣》!」
腰へ手を伸ばす。
「四天王!」
そこから小さなナイフを引き抜いた。
「バルドだ!!」
「……」
ハヤテの表情が変わる。
バルドがナイフを握り、走り出す。
一歩。
「槍がなくても!」
二歩。
「まだ戦える!」
三歩。
「俺は――!!」
ハヤテへ。
ナイフを振り上げる。
「……残念だ」
ハヤテが呟いた。
《白夜》を構える。
「お前」
目を伏せる。
「強かったのにな」
バルドが踏み込んだ。
「死ねぇぇぇ!!」
次の瞬間、ハヤテの姿が僅かにぶれた。
一閃。
ザンッ――。
二人がすれ違う。
「……」
ハヤテは動かない。
バルドも動かない。
数秒。
静かな時間が流れた。
そして。
バルドの手からナイフが落ちる。
カラン――。
「……」
身体がゆっくりと傾く。
そのまま床へ倒れた。
ドサッ。
静寂。
《深淵の剣》四天王。
バルド。
そのHPがゼロになる。
ハヤテはしばらく。
何も言わずに立っていた。
やがて《白夜》を振る。
刀身を払う。
そして静かに鞘へ収めた。
カチン。
「……」
倒れたバルドを見る。
「強かったぜ」
短く。
それだけを告げる。
そして背を向けた。
「さて」
ハヤテは前を見る。
「急がねぇとな」
一歩。
歩き出す。
その背後では砕け散った槍と共に、四天王の一人が静かに消滅していった。
◇
白銀戦線の拠点入口。
ドォォォン!!
凄まじい衝撃音が響き渡った。
大地が揺れる。
瓦礫が跳ねる。
その中心では巨大な大剣とメリケンサック《岩砕》が真正面からぶつかり合っていた。
「おおおおおっ!!」
ヴァルガが吠える。
大剣を力任せに振り下ろす。
「ふんっ!」
ゴウマは身体を横へずらした。
ズガァァン!!
大剣が地面へ叩き込まれる。
石畳が砕け、大きな亀裂が走った。
「はぁっ!」
ゴウマが踏み込む。
「《岩砕拳》!」
ドゴォッ!!
《岩砕》がヴァルガの腹部へ突き刺さった。
「ぐっ!」
巨体が僅かに後ろへ下がる。
「……へぇ」
ヴァルガがゆっくり顔を上げる。
口元には笑み。
「いい拳じゃねぇか!」
「ならもう一発食らっとけ!」
ゴウマが拳を振り抜く。
しかし。
ガシッ!!
「!」
ヴァルガの左手がその拳を真正面から掴んでいた。
「捕まえたぜ」
「ちっ!」
大剣が横から迫る。
ゴウマはすぐに腕を引き。
大きく後方へ跳んだ。
ブォン!!
凄まじい風圧。
数本の髪が舞う。
着地したゴウマは拳を構え直す。
対するヴァルガも巨大な大剣を肩へ担いだ。
二人の身体にはすでに小さな傷が刻まれている。
だがどちらにも余裕があった。
「面白ぇなお前!」
ヴァルガが笑う。
「見た目よりずっと強ぇ」
ゴウマも小さく笑った。
「お前も馬鹿力だけじゃないみたいだな」
「ハッ!」
ヴァルガは大剣を地面へ突き立てる。
「当たり前だろ」
「力ってのはな」
柄を握る。
「全部をぶっ壊すためにあるんだよ!」
ゴウマの笑みが消えた。
「……違う」
「あ?」
「さっきも言っただろ」
拳を握る。
「力がある奴が」
一歩。
前へ出る。
「弱い奴を守るんだ」
ヴァルガは一瞬だけ黙った。
そして腹を抱えるように笑った。
「ハハッ!」
「ハハハハハッ!!」
笑い声が拠点へ響く。
「まだそんなこと言ってんのかよ!」
大剣を引き抜く。
「弱ぇ奴を守って何になる!」
「足手まといを抱えて!」
「そいつらのために傷付いて!」
「最後に死ぬのはお前だぞ!」
ゴウマは黙って聞いていた。
「だったら」
ヴァルガが大剣を向ける。
「弱ぇ奴なんざ捨てりゃいい!」
「強い奴だけ残ればいい!」
「それが一番簡単だろうが!」
「……」
ゴウマは静かに息を吐く。
「簡単かどうかなんて」
ゴウマが構える。
「どうでもいい」
「……あ?」
「俺たちは」
拳を強く握る。
「仲間を捨てるくらいなら」
真っ直ぐにヴァルガを見る。
「面倒な方を選ぶ」
一瞬。
沈黙。
ヴァルガの口元がゆっくり吊り上がった。
「……気に入らねぇな!」
大剣を両手で握る。
魔力が溢れ始める。
ゴォォォォ――!!
「そういう甘ったれた考え」
地面が震える。
ヴァルガの身体から凄まじい圧力が広がっていく。
ゴウマの表情が険しくなった。
「……来るか」
ヴァルガが大剣を持ち上げる。
「全部まとめて」
獰猛な笑み。
「俺の力で潰してやるよ!」
ゴウマも拳を構えた。
「やってみろ!」
二人の殺気が真正面からぶつかる。
次の瞬間、二人は同時に地面を蹴った。
第19話を読んでいただきありがとうございます!
次なる戦いは、ゴウマVSヴァルガ。
次回もお楽しみに!




