第18話 四天王戦、開幕
《白銀戦線》の拠点内部。
長い石造りの通路。
そこではすでに激しい戦闘が始まっていた。
キィン!!
甲高い金属音が響き渡る。
「っ!」
俺は《朧》を振るい、正面から飛んできたナイフを弾き落とす。
一本。
二本。
三本。
だが、終わらない。
次々と刃が飛来する。
右から。
左から。
頭上から。
狙いは正確。
一つでも反応が遅れれば身体を貫かれる。
「ふふっ」
通路の奥。
リリアが楽しそうに笑っていた。
両手には双剣。
《深淵の剣》四天王。
リリア。
「楽しいわ!」
リリアがナイフを投擲する。
「まだいきますわよ!」
次の瞬間、次々とナイフが飛来する。
「ガウ!」
リンファの声。
「大丈夫!」
俺は《朧》を構える。
迫る刃を見極める。
全てを弾く必要はない。
身体へ届くものだけを。
最小限の動きで。
キンッ!
一本。
キィン!
二本。
さらに三本。
《朧》を返す。
四本目。
身体を沈めて五本目をかわす。
直後、頬の横を一本のナイフが通り抜けた。
「……!」
だが、リリアの狙いは最初から俺ではなかった。
「ガウ!」
リンファが叫ぶ。
リリアの姿が消えている。
「っ!」
視線を動かす。
俺がナイフを防いでいる間に一気に距離を詰めていた。
狙いは――。
リンファ。
「もらいましたわ!」
双剣が閃く。
右。
左。
二方向から同時に迫る斬撃。
だがリンファは退かなかった。
両腕を上げる。
その腕にはめられているのは戦闘用の手甲《華鋼》。
ガキィン!!
双剣と《華鋼》が激突する。
火花が弾けた。
「へぇ」
リリアが目を細める。
「手甲ですのね」
「珍しい戦い方ですわ」
リンファは双剣を受け止めたまま笑う。
「そう?」
次の瞬間、一気に懐へ踏み込んだ。
「私、拳法使いなのよ」
拳が放たれる。
リリアは首を傾けるだけでかわす。
だがリンファも止まらない。
拳。
肘。
蹴り。
さらに拳。
息つく暇もない連撃。
「ふふっ!」
リリアは笑いながら双剣で受け流していく。
キンッ!
ガキィン!
拳と刃が何度もぶつかる。
「いいですわ!」
リリアが双剣を振るう。
リンファは身体を反らしてかわす。
刃が鼻先を通過した。
さらに二撃目。
身体を捻る。
三撃目。
一歩下がる。
四撃目。
それだけを《華鋼》で受け流した。
一見すれば押されているように見える。
だが違う。
リンファは全て見えている。
必要以上に受けない。
必要以上に下がらない。
相手の動きを見ながら最小限の動きで攻撃をかわしている。
まるで舞っているようだった。
「やりますわね」
リリアが楽しそうに笑う。
「あなた、名前は?」
「リンファよ」
リンファが拳を構える。
「覚えておきなさい」
リリアが目を丸くした。
そして。
「ふふっ」
「アハハハッ!」
心底楽しそうに笑った。
「いいですわ!」
「そういう方、大好き!」
直後、リリアが後方へ跳ぶ。
同時に腕を振るった。
今度はリンファへ向かって大量のナイフが放たれる。
俺は地面を蹴った。
リンファとの間へ割って入る。
《朧》を振るう。
キィン!
キンッ!
キィィン!!
次々と弾き落とす。
リンファが接近戦を受け持つ。
俺が遠距離からの刃を処理する。
自然と役割が決まっていた。
「いい連携ですわね」
リリアは双剣を軽く回す。
「ずっと一緒に戦ってきたのかしら?」
「そうよ」
リンファが答える。
「大切な仲間よ」
その言葉に俺は少しだけ笑った。
「私にとっても大切な仲間だよ」
「……そう」
リリアの笑みが僅かに変わる。
「仲間」
「仲間」
「どいつもこいつもそればかり」
その声にはどこか冷たいものが混じっていた。
だがすぐにいつもの笑顔へ戻る。
「まあいいですわ」
両手を広げる。
カラン。
リリアの腰から数本のナイフが抜け落ちた。
いや。
落ちたのではない。
宙に浮いている。
一本。
二本。
五本。
十本。
さらに増える。
無数の刃がリリアの周囲を取り囲んでいく。
「アークスキル――」
「《千刃演舞》」
俺は《朧》を握り直した。
さっきまでとは違う。
リリアの周囲を漂う刃。
その全てがこちらへ刃先を向けている。
リリアは優雅に笑った。
指先が動く。
「さあ」
「踊りましょう?」
瞬間、無数の刃が一斉に襲い掛かってきた。
二人同時に動く。
俺は《朧》を振るう。
リンファは刃の隙間を縫うように駆ける。
キィン!
キンッ!
ガキィン!!
止まらない。
前から弾けば後ろから。
右をかわした直後に左から。
まるで刃そのものに意思があるように何度も軌道を変えて襲ってくる。
「くっ……!」
一本を弾く。
その直後、別のナイフが死角へ回り込む。
身体を捻る。
刃が服を浅く切り裂いた。
「ガウ!」
「大丈夫!」
浅い。
問題ない。
だが。
これが四天王。
さっきまでの攻撃とは明らかに違う。
リリアはまだ余裕の笑みを浮かべている。
その時だった。
ゾクッ。
突然、背後から強烈な殺気を感じた。
リリアとは違う。
別の気配。
「……!」
考えるより先に身体が動く。
振り返る。
巨大な刃が目の前へ迫っていた。
大鎌。
「っ!」
《朧》を構える。
ガァァン!!
凄まじい衝撃。
「ぐっ……!」
重い。
両腕が痺れる。
足元の床が僅かに砕けた。
俺は歯を食いしばりながら大鎌を受け止める。
目の前には狐の耳。
長い尻尾。
そして。
感情の消えた瞳。
「……ヨミ」
あの戦場で戦った少女。
ヨミだった。
「……」
返事はない。
ただ虚ろな瞳で俺を見ている。
次の瞬間、さらに大鎌を押し込んできた。
「くっ!」
力が強い。
俺は《朧》を滑らせ、大鎌の軌道を逸らす。
そのまま横へ抜けようとする。
だが。
ヨミの身体が回転した。
「!」
鋭い回し蹴り。
咄嗟に左腕を差し込む。
ドンッ!!
「ぐっ!」
衝撃が腕を突き抜ける。
身体が浮いた。
そのまま壁へ向かって吹き飛ばされる。
俺は空中で身体を捻る。
足から壁へ着地。
衝撃を殺し、そのまま床へ降りる。
「ガウ!」
リンファがこちらを見る。
「よそ見はいけませんわね」
リリアの声。
「っ!」
双剣がリンファへ迫る。
ガキィン!!
《華鋼》で受け止める。
「私の相手はあなたでしょう?」
リリアが笑う。
リンファは奥歯を噛み締める。
「……そうみたいね」
二人が再び向かい合う。
俺の前にはヨミ。
リンファの前にはリリア。
完全に分断された。
俺はゆっくりと立ち上がる。
《朧》を構え直した。
ヨミも大鎌を構える。
その瞳にやはり感情はない。
敵意すらない。
「……」
俺は決めた。
この子を助けると。
「ヨミ」
名前を呼ぶ。
反応はない。
それでも俺は続けた。
「聞こえているか分からないけど」
《朧》を握る。
「私はあなたを倒しに来たんじゃない」
一歩。
前へ出る。
「助けに来たんだ」
ヨミの耳がほんの僅かに動いた。
「……」
気のせいかもしれない。
それでも俺は確かに見た。
だから諦めない。
「必ず助ける」
大鎌が持ち上がる。
俺も《朧》を構える。
「だから」
真っ直ぐにヨミを見る。
「少しだけ我慢して」
次の瞬間、ヨミが地面を蹴った。
同時に俺も前へ出る。
《朧》と大鎌。
二つの刃が真正面から激突した。
◇
別の通路。
そこでもすでに戦いは始まっていた。
キィィン!!
甲高い金属音。
刀と槍が激しくぶつかり合う。
ハヤテ。
そして。
《深淵の剣》四天王。
バルド。
二人は互いに武器を押し付けたまま睨み合っていた。
「……」
バルドが僅かに槍を引く。
その瞬間、鋭い突きが放たれた。
「っ!」
ハヤテは《白夜》で槍先を弾く。
キンッ!
だが終わらない。
二撃。
三撃。
四撃。
一切の間を与えない連続突き。
顔。
胸。
腹。
喉。
正確に急所だけを狙ってくる。
「危な!」
ハヤテは身体を捻りながら槍をかわす。
一撃を《白夜》で受け流し。
次を紙一重で避ける。
そして一歩前へ。
槍の最大の強みは間合い。
なら、その間合いの内側へ入ればいい。
「甘い」
バルドが呟く。
槍が止まった。
「!」
直後、槍の石突が跳ね上がる。
ガキィン!!
ハヤテは《白夜》で受け止めた。
「ちっ!」
その隙にバルドが一歩下がる。
再び距離が開いた。
「そう簡単に近付かせると思ったか?」
槍を構え直す。
その姿に隙はない。
ハヤテは《白夜》を肩へ乗せ、小さく笑った。
「やっぱ上手いな」
「前にやった時よりよく分かるぜ」
バルドの眉が僅かに動く。
「何がだ?」
ハヤテは刀を構え直した。
「俺が入ってくる場所を読んでやがる」
「……」
「間合いを守ってるんじゃない」
「俺が踏み込む場所そのものを潰してる」
長槍という武器の長さ。
攻撃範囲。
それだけじゃない。
バルド自身が相手の動きを読み、最も嫌な場所へ槍を置き続けている。
だから近付けない。
「面白い」
ハヤテの口元が吊り上がる。
「だったら」
《白夜》を鞘へ収める。
カチン。
バルドの視線が僅かに動いた。
「何のつもりだ?」
ハヤテは答えない。
腰を落とす。
左手で鞘を押さえ、右手を柄へ添える。
静寂。
先ほどまで響いていた金属音が消える。
「……」
バルドも槍を構えた。
互いに動かない。
一秒。
二秒。
そして。
ハヤテの足が僅かに沈む。
「一の太刀」
次の瞬間、姿が消えた。
「――《閃牙》!」
一閃。
一瞬で間合いを食い潰す抜刀。
白い斬撃がバルドへ迫る。
だが。
ガキィン!!
「!」
止められた。
バルドは槍の柄を立て《白夜》を受け止めている。
「速い」
静かな声。
「だが、想定内だ」
ハヤテの目が見開かれる。
直後、槍が横薙ぎに振るわれた。
「おっと!」
ハヤテは身体を反らす。
ブォン!!
鼻先を槍が通過する。
そのまま後方へ跳ぶ。
着地。
しかし。
バルドは追う。
「《穿突》」
鋭い踏み込み。
槍が一直線に伸びる。
速い。
ハヤテは首を傾ける。
頬を槍先が掠めた。
背後。
ズガン!!
石壁へ深い穴が穿たれる。
「……」
ハヤテは頬へ手を当てる。
僅かな傷。
「お前、いいな!」
バルドは槍を引き抜く。
「そんなに余裕あるのか?」
「ねぇよ」
ハヤテが笑う。
「だから楽しいんだろ」
再び地面を蹴る。
「二の太刀」
《白夜》が揺れる。
一つだった刀身が。
二つ。
三つ。
幾重にも重なって見えた。
「――《残光》!」
無数の残像を伴った連撃。
右。
左。
上段。
下段。
次々と斬撃がバルドへ襲い掛かる。
キンッ!
キィン!
ガキィン!!
バルドは槍を回転させる。
長い柄を盾のように使い。
一撃。
二撃。
三撃。
全てを受け流す。
だが。
「……!」
一本。
《白夜》の刃がバルドの肩を掠めた。
服が裂け、薄く血が滲む。
バルドは自分の肩を見る。
「……」
ハヤテは《白夜》を構えたまま笑った。
「全部は防げなかったみたいだな」
「その程度で勝ったつもりか?」
「まさか」
ハヤテの笑みが深くなる。
「ここからだ」
地面を蹴る。
「三の太刀」
一瞬で加速。
「――《疾風》!」
風を切り裂き。
一直線にバルドへ迫る。
「同じことだ」
バルドが槍を突き出す。
ハヤテの進路を塞ぐ一撃。
だがハヤテは止まらない。
身体を僅かに傾ける。
槍先が脇腹すれすれを通り抜けた。
さらに踏み込む。
「なに?」
初めてバルドの表情が変わった。
ハヤテが懐へ入る。
《白夜》を振り上げる。
「もらった!」
斬撃。
しかし。
ガンッ!!
「っ!?」
槍の柄。
バルドは咄嗟に槍を短く持ち替え、《白夜》を受け止めていた。
二人の顔が近付く。
ハヤテが笑う。
「そこまで対応するかよ」
「当然だ」
バルドが槍を押し返す。
「槍使いが接近された程度で戦えなくなると思うな」
力任せに弾く。
ハヤテが後方へ飛ぶ。
着地と同時に再び槍が迫った。
「《連穿》!」
一撃。
二撃。
三撃。
さらに四撃。
先ほどまでとは比べものにならない速度。
「っ!」
キンッ!
キィン!!
ハヤテは《白夜》で受け流す。
だが。
五撃目。
「ぐっ!」
槍の柄が脇腹へ叩き込まれた。
ハヤテの身体が吹き飛ぶ。
床を転がり。
すぐに《白夜》を突き立てて止まった。
「……痛ぇ」
ゆっくりと立ち上がる。
バルドは追わない。
槍を構えたままハヤテを見ていた。
「お前の剣は速い」
「技も悪くない」
「だが」
槍先を向ける。
「俺の間合いを崩すには足りないな」
「……」
ハヤテは《白夜》を握り直す。
確かに強い。
速さだけじゃない。
技術。
経験。
判断。
全てが高い。
こちらが一つ仕掛ければ次には対応してくる。
だからこそ面白い。
ハヤテは小さく息を吐く。
「だったら」
再び構える。
「崩れるまでやるだけだ」
バルドの目が細くなる。
「来い」
二人が同時に踏み込んだ。
キィィン!!
再び刀と槍がぶつかる。
激しい攻防。
その中でハヤテの視線が鋭くなる。
バルドの槍が突き出される。
その瞬間、《白夜》を僅かに傾けた。
「七の太刀」
槍先へ刃を添える。
「――《流水》」
力で止めない。
受けない。
流す。
バルドの槍が《白夜》の刃に沿って横へ逸れた。
「!」
体勢が僅かに崩れる。
ハヤテは見逃さない。
一歩踏み込む。
《白夜》を返す。
バルドの首へ。
だが。
「甘い!」
バルドは即座に槍を引き戻す。
ガキィン!!
間一髪で刃を受け止める。
再び二人が離れた。
「……」
「……」
荒い呼吸。
互いの身体には小さな傷が増えている。
それでもどちらも倒れない。
ハヤテは笑った。
「やっぱ強ぇな!」
バルドも静かに答える。
「お前もな」
ハヤテは《白夜》を構え直す。
「そりゃどうも」
だが、その目から笑みが消える。
「そろそろ俺も」
左手が動く。
腰へ。
そこにはもう一本の刀がある。
黒い鞘。
《黒曜》。
ハヤテの左手がその柄へ触れた。
バルドの視線が動く。
「……二本目?」
ハヤテは答えない。
ただゆっくりと《黒曜》の柄を握る。
その瞬間、戦場の空気が変わった。
ゆっくりと鞘から黒い刀身が姿を現す。
シャリン――。
《白夜》。
そして。
《黒曜》。
白と黒。
二本の刀がハヤテの手に握られる。
「……」
バルドの目が細くなる。
先ほどまでとは違う。
構えが変わった。
空気が変わった。
何より目の前にいる男から感じる圧が変わった。
「二刀流か」
「ああ」
ハヤテは《白夜》を右手。
《黒曜》を左手に構える。
「こっちが俺の本来の戦い方だ」
バルドは槍を握り直した。
「今まで手を抜いていたと?」
「そういうわけじゃねぇよ」
ハヤテは笑う。
「一本には一本の戦い方がある」
右手の《白夜》を軽く振る。
「二本には二本の戦い方がある」
左手の《黒曜》を構える。
「ただ――」
ハヤテの笑みが消えた。
「ここから先はちょっと違うぜ」
「……」
バルドが腰を落とす。
警戒。
先ほどまでのハヤテとは違う。
「……面白い」
バルドが槍を構える。
「なら見せてみろ」
「お前の本当の戦い方を!」
「ああ」
ハヤテは静かに息を吐いた。
右手。
《白夜》。
左手。
《黒曜》。
二本の刀を握ったことで条件は満たされた。
「アークスキル」
バルドの表情が変わる。
ハヤテの足元から風が巻き起こった。
ゴォォォ――!!
風が弾ける。
「――《疾風迅雷》」
ドンッ!!
爆発するような風圧。
ハヤテを中心に暴風が吹き荒れた。
「っ!」
バルドが咄嗟に槍を構える。
風だけじゃない。
空気そのものが震えている。
ハヤテの身体を白い風が包み込んでいた。
「……アークスキル」
バルドが呟く。
ハヤテは二本の刀を構える。
「そういうことだ」
《疾風迅雷》。
ハヤテが持つアークスキル。
ただしこの力には一つの条件がある。
《白夜》。
《黒曜》。
二本の刀を抜いた状態でなければ発動できない。
二刀流になった今。
初めてハヤテはこの力を使うことができる。
バルドは槍先を向ける。
「速度強化か?」
「さあな」
ハヤテが笑った。
「試してみろよ」
「……」
次の瞬間、バルドが動いた。
「《穿突》!」
鋭い踏み込み。
槍が一直線に放たれる。
速い。
逃げ場を潰す突き。
だが。
「遅い!」
ハヤテが消えた。
「なっ!?」
槍が空を貫く。
いない。
正面。
右。
左。
バルドの視線が動く。
どこだ。
「こっちだ」
声。
背後。
「っ!」
バルドが振り返る。
同時に槍を薙ぎ払った。
しかしそこにもいない。
「……!」
風だけが残っている。
次の瞬間。
キンッ!
バルドの肩を守っていた防具が斬り裂かれた。
「っ!」
一歩下がる。
目の前にはいつの間にかハヤテが立っていた。
「……」
バルドは自分の肩を見る。
先ほどとは違う。
見えなかった。
攻撃された瞬間すらほとんど分からなかった。
「これが……」
バルドがハヤテを見る。
「お前のアークスキルか」
「まだ始まったばかりだぜ」
ハヤテが笑う。
直後、姿が消える。
「っ!」
右。
キィン!!
バルドが槍で《白夜》を受け止める。
だが。
左。
《黒曜》。
「くっ!」
槍を返す。
ガキィン!!
防ぐ。
その瞬間にはもうハヤテはいない。
背後。
「!」
バルドが振り返る。
《白夜》が迫る。
受け止める。
しかし。
今度は足元。
低い姿勢から《黒曜》が斬り上げられる。
「ぐっ!」
バルドは大きく後方へ跳ぶ。
着地。
だが。
「逃がさねぇよ!」
ハヤテが追う。
速い。
あまりにも速い。
一歩踏み込むたび。
風が弾ける。
右。
左。
正面。
背後。
二本の刀による連撃があらゆる方向から襲い掛かる。
キンッ!
ガキィン!!
キィィン!!
バルドは槍を振るう。
受ける。
流す。
かわす。
だが先ほどまでとは完全に立場が逆転していた。
間合いを支配していたのはバルドだった。
ハヤテが踏み込む場所を読み。
槍によって進路を潰していた。
だが今は。
「くっ……!」
読めない。
速すぎる。
右へ動いたと思えば左。
前へ踏み込んだと思えば背後。
ハヤテ自身が槍の間合いを速度だけで破壊していく。
「どうした!」
《白夜》が振るわれる。
バルドが受ける。
「さっきまでみたいに!」
《黒曜》が迫る。
槍の柄で防ぐ。
「俺の動きを読んでみろよ!」
「調子に……乗るな!」
バルドが槍を振り回す。
強引な横薙ぎ。
ハヤテは跳ぶ。
槍の上。
そのまま身体を回転させる。
二本の刀が交差する。
「っ!」
バルドが槍を頭上へ。
ガァァン!!
凄まじい衝撃。
床に亀裂が走る。
「ぐっ……!」
バルドの腕が沈む。
ハヤテは空中で笑った。
「やっぱ防ぐか!」
「当然だ!」
槍を押し返す。
ハヤテは後方へ回転。
床へ着地する。
二人の距離が開いた。
「……」
バルドの呼吸が僅かに乱れていた。
ハヤテは二本の刀を構えたまま静かに立っている。
「……なるほど」
バルドが呟く。
「その二本目」
槍を握り直す。
「攻撃手段を増やすための刀ではないようだ」
ハヤテが笑う。
「気付いたか」
「二本揃って初めて」
バルドの目が鋭くなる。
「お前は本来の力を使えるのか」
「おう!」
ハヤテは《白夜》と《黒曜》を交差させる。
「だから言っただろ」
風が再び強くなる。
髪が揺れる。
服がはためく。
二本の刀身が風を纏う。
「ここから先は」
ハヤテが腰を落とす。
「ちょっと違うってな」
「……」
バルドも構えを変えた。
槍を身体の横へ。
重心を低く。
先ほどまでとは違う構え。
「いいだろう」
その声から僅かな余裕すら消えていた。
「俺も全力で相手をする」
ハヤテの笑みが深くなる。
「そうこなくちゃな!」
二人の視線が交わる。
そして同時に地面を蹴る。
白と黒の斬撃。
鋭い槍撃。
三つの刃が再び真正面から激突した。
第18話を読んでいただきありがとうございます!
《黒曜》を抜き本来の力を解放したハヤテ。
それぞれの戦いはまだ始まったばかり。
次回もお楽しみに!




