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第16話 潜入

ドォォォンッ!!


凄まじい爆発音が岩山へ響き渡る。


大地が揺れ、天井から小さな砂埃がぱらぱらと落ちた。


――作戦開始。


正面部隊からの合図だった。


薄暗い岩山の裏道。


狭い通路の中でその爆発音だけが何度も反響する。


アイスが静かに目を閉じる。


「始まったか」


ゴウマが拳を握る。


「正面部隊が動いた」


「今なら敵の注意は入口へ向いている」


ハヤテが《白夜》の柄へ手を添え、不敵に笑う。


「ようやく俺たちの番だな」


リンファも深く息を吐いた。


「ここからが本番ね」


俺は静かに《朧》へ手を添える。


外では仲間たちが命懸けで敵を引きつけている。


だからこそ俺たちは失敗できない。


アイスが全員を見渡した。


「行くぞ」


俺たちは一斉に駆け出した。



裏道は細く、岩肌をくり抜いて造られた通路だった。


足元は不安定でわずかな足音でも反響する。


誰も言葉を発しない。


息遣いだけが静かに響く。


前を走るアイスが手を上げた。


全員が足を止める。


「……」


耳を澄ませる。


遠くから怒号が聞こえてきた。


「敵襲だ!」


「入口へ急げ!」


「瓦礫をどかせ!」


《深淵の剣》の構成員たちの叫び声。


予想通りだ。


敵の意識は正面へ集中している。


アイスが小さく頷く。


「予定通りだ」


「今なら気付かれない」


再び走り出す。


やがて通路の先に小さな光が見えてきた。


裏道の出口だ。


アイスは壁際へ身を寄せ、慎重に外を窺う。


数秒。


静寂が流れる。


「見張りはいない」


小さく呟いた。


「行くぞ」


俺たちは一人ずつ裏道から拠点内部へ入り込む。



《白銀戦線》の拠点内部。


つい数日前まで仲間たちが生活していた場所。


だが、今はまるで別の景色だった。


黒い旗。


見慣れない装備。


《深淵の剣》の紋章。


至る所に敵の姿がある。


「急げ!」


「入口が崩れた!」


「外の連中を迎え撃て!」


構成員たちは慌ただしく走り回っていた。


正面部隊の攻撃によって完全に混乱している。


俺は周囲を見回す。


敵の数。


巡回ルート。


逃げ道。


一瞬で頭へ叩き込む。


「今なら中央まで行ける」


俺が呟くと、アイスも頷いた。


「ああ」


「この混乱なら突破できる」


その時だった。


ドゴォン!!


正門方向から激しい衝撃音が響いた。


俺たちは同時に視線を向ける。


巨大な瓦礫が内側から激しく揺れていた。


もう一度。


ドンッ!!


岩の一部が砕け、破片が飛び散る。


その前には何人もの《深淵の剣》の構成員たちが集まっていた。


「早くどかせ!」


「正門を開けろ!」


必死に瓦礫を撤去しようとしている。


だが、その中央。


巨大な大剣を肩へ担いだ男が立っていた。


「邪魔だ!」


怒号と共に大剣が振り抜かれる。


ドゴォォン!!


巨大な岩が砕け散った。


「ヴァルガ……!」


アイスが小さく呟く。


四天王第一席。


ヴァルガ。


正門を塞いでいた瓦礫を力任せに破壊している。


ゴウマの表情が険しくなった。


「まずいな」


アイスもすぐに状況を理解する。


「入口を突破されれば正面部隊が危ない」


ゴウマは静かに拳を握った。


「ここは俺が止める」


俺は振り返る。


「ゴウマ?」


ゴウマはいつもの豪快な笑みを浮かべた。


「心配すんな」


「あいつを正面部隊に行かせるわけにはいかん」


「ゼノスはお前たちが倒せ」


ハヤテが眉をひそめる。


「一人で行く気か?」


「ああ」


ゴウマは迷わず頷いた。


「ここは俺一人で十分だ」


リンファも静かに口を開く。


「無茶しないでよ」


「死ぬ気はない」


そう言い残すと近くの窓へ向かって走り出す。


「ゴウマ!」


俺が呼ぶより早く。


ゴウマは迷いなく窓から飛び降りた。


その巨体が地上へ落ちていく。


次の瞬間――。


ドォンッ!!


凄まじい着地音が拠点中へ響き渡った。



地上。


突然の轟音に《深淵の剣》の構成員たちが一斉に振り返る。


「なっ!?」


「どこから現れた!」


舞い上がる土煙。


その中から一人の男がゆっくりと立ち上がる。


大きく握り締めた拳。


堂々とした体躯。


ゴウマだった。


「……あ?」


ヴァルガが眉を吊り上げる。


大剣を肩に担いだまま、ゴウマを睨み付けた。


「なんだてめぇ」


ゴウマは構わず拳を構える。


「悪いな」


「お前を正面へ行かせるわけにはいかん」


一瞬の沈黙。


ヴァルガの口元が大きく吊り上がった。


「ハッ!」


「面白ぇ!」


そして周囲の構成員たちへ顎をしゃくる。


「おい!」


「そいつを殺せ!」


「はい!」


十数人の構成員たちが一斉に武器を構え、ゴウマへ襲い掛かった。


剣。


槍。


斧。


四方から一斉に迫る。


しかし。


ゴウマは一歩も退かない。


「来い」


短く呟く。


最初に飛び込んできた剣士が大きく剣を振り下ろした。


ゴウマは紙一重で身をかわす。


そして。


「遅い」


拳を振り抜く。


「《岩砕拳》」


ドゴォッ!!


拳は剣士の腹部へめり込み、そのまま身体ごと吹き飛ばした。


「がはっ!」


剣士は地面を何度も転がり、そのまま動かなくなる。


戦闘不能。


続けて槍使いが突きを放つ。


左右からは斧を持った二人が迫る。


「囲め!」


「一人だ!」


ゴウマは不敵に笑った。


「その程度で止められると思うな!」


地面を強く踏み込む。


「《震脚》」


ドォンッ!!


衝撃が地面を駆け抜ける。


足元が大きく揺れ、突撃してきた構成員たちは一斉に体勢を崩した。


「うわっ!」


「ぐっ!」


ゴウマは一気に間合いを詰める。


「《連砕打》」


左右の拳が連続で炸裂する。


ドガッ!


バキッ!


ドゴッ!!


二人。


三人。


次々と構成員たちが吹き飛ばされていく。


「くそっ!」


「強い!」


背後から一人の剣士が斬り掛かる。


だが。


ゴウマは振り返ることすらしない。


身体をわずかにずらし、斬撃をかわす。


そのまま肘を叩き込んだ。


「ぐはっ!」


さらに一人。


横から迫った槍を掴み、そのまま力任せに引き寄せる。


「なっ!?」


懐へ飛び込んできた槍使いの腹部へ拳を叩き込んだ。


ドゴォッ!!


身体が宙を舞う。


ゴウマの周囲には《深淵の剣》の構成員たちが次々と倒れていた。


「な……」


残った構成員たちが息を呑む。


ゴウマは拳を軽く振り、静かに息を吐いた。


「悪いが」


「雑魚に構ってる暇はない」


その視線がヴァルガへ向く。


ヴァルガは倒された部下たちを見下ろす。


そして。


「……ククッ」


肩を震わせた。


「ハハハハハッ!!」


突然、大声で笑い始める。


「いいじゃねぇか!」


「そういう奴を待ってたんだよ!」


大剣を肩から下ろす。


巨大な刃が地面へ触れた瞬間。


ズンッ!!


石畳に亀裂が走った。


ヴァルガは獰猛な笑みを浮かべる。


「名前は?」


ゴウマも拳を構え直す。


「ゴウマだ」


ヴァルガは笑みをさらに深くした。


「ヴァルガ」


「《深淵の剣》四天王だ」


大剣を持ち上げる。


「てめぇをぶっ潰してから外へ出る!」


ゴウマは一歩前へ出た。


「やれるもんならやってみろ」


二人の間に凄まじい殺気がぶつかる。


次の瞬間。


ヴァルガが地面を蹴った。


「オラァァァァ!!」


巨大な大剣が振り下ろされる。


ゴウマも真正面から踏み込んだ。


「来い!」


拳と大剣。


二つの力が激突した。


ドゴォォォンッ!!


凄まじい衝撃が正門前へ響き渡った。



その頃。


俺たちは物陰に身を潜めながらさらに拠点の奥へと進んでいた。


背後からはゴウマの戦う音が微かに聞こえてくる。


「始まったな」


ハヤテが小さく呟く。


アイスは振り返らない。


「僕たちの役目を果たす」


「うん」


俺も静かに頷いた。


ここで立ち止まるわけにはいかない。


仲間が命懸けで作ってくれた時間だ。


無駄にはできない。


俺たちは足音を殺しながら拠点の中央区画を目指して進み始めた。


長い石造りの通路を進む。


壁には松明が並び、薄暗い光が床を照らしていた。


外からは爆発音や怒号が絶え間なく響いてくる。


正面部隊。


ゴウマ。


仲間たちが時間を稼いでくれている。


俺たちはその間に目的を果たさなければならない。


アイスが歩きながら口を開く。


「この先を抜ければ中央区画だ」


「ゼノスがいるならおそらくそこだろう」


「急ごう」


俺たちは速度を上げる。


だが、その時だった。


「待て!」


鋭い声が通路に響いた。


曲がり角の向こうから《深淵の剣》の構成員たちが姿を現す。


剣士。


槍使い。


魔法使い。


十数人ほどの部隊だった。


「侵入者だ!」


叫び声と同時に武器が抜かれる。


一斉にこちらへ駆け出してきた。


アイスが身構える。


だが、その前へ一人の男が歩み出る。


ハヤテだった。


「ここは俺がやる」


《白夜》へ静かに手を添える。


「先へ行け!」


アイスは一瞬だけ迷う。


しかし、すぐに頷いた。


「任せた」


「おう!」


ハヤテは不敵に笑う。


「すぐ追いつく!」


俺も《朧》を握りながら頷いた。


「無茶しないでね」


「誰に言ってんだ」


ハヤテは肩を竦める。


「心配する暇があったら先へ行け!」


俺たちは走り出した。


ハヤテが静かに刀を抜く。


シャリン――。


白銀の刀身が姿を現した。


その音だけで通路の空気が張り詰める。


「来い」


短い一言。


「やれ!」


構成員たちが一斉に襲い掛かる。


最初に飛び込んできた剣士。


大きく振り下ろされた剣。


ハヤテは身体をずらす。


斬撃は空を切った。


「遅い」


《白夜》が閃く。


キィン!!


剣だけを正確に弾き飛ばした。


「なっ!?」


武器を失った剣士の足を払う。


そのまま峰で首筋を軽く打つ。


「ぐっ……!」


剣士は気を失い、その場へ倒れ込んだ。


次の瞬間には槍使いが突きを放つ。


鋭い連続突き。


だが、ハヤテは流れるように全てを見切る。


槍を受け流し、懐へ潜り込む。


柄で鳩尾を突いた。


「がはっ!」


槍使いも膝をつく。


「囲め!」


「一人だ!」


残る構成員たちが一斉に飛び込む。


しかしハヤテの動きは止まらない。


《白夜》が何度も閃く。


武器だけを弾く。


足を払う。


峰打ちで気絶させる。


次々と構成員たちは戦闘不能になっていった。


「くそっ!」


「何なんだこいつは!」


ハヤテは静かに刀を構え直す。


「まだ来るか」


その瞳には一切の迷いはなかった。


倒れた構成員たちは苦しそうに身体を起こす。


武器は失い、立ち上がることさえままならない。


ハヤテは《白夜》を下ろし、静かに口を開いた。


「もう勝負はついた」


その声に構成員たちの動きが止まる。


「これ以上戦う必要はない」


「武器を捨てろ!」


「投降するなら命までは奪わない」


通路に静寂が流れた。


構成員たちは顔を見合わせる。


目の前の男は自分たちを倒せる力を持っている。


「……」


一人の剣士が震える手で剣を下ろした。


「もう……戦えない」


その言葉をきっかけに周囲の構成員たちも次々と武器を手放していく。


「降参だ……」


「勝てる相手じゃねぇ……」


ハヤテは静かに頷いた。


「その判断でいい」


《白夜》をゆっくりと下ろす。


その瞬間だった。


――ザシュッ!!


鋭い風切り音。


「っ!」


ハヤテは反射的に後方へ飛び退く。


次の瞬間、先ほどまで立っていた場所を一本の槍が貫いた。


石畳が砕け、破片が飛び散る。


さらに――。


キンッ!


キンッ!


キンッ!


三本、四本と連続して突きが放たれる。


一撃ごとに床へ深い穴が刻まれていく。


「ちっ!」


ハヤテは全てを紙一重でかわし、大きく距離を取った。


構成員たちは驚いた表情で後ろを振り返る。


「バ……バルド様!」


通路の奥。


ゆっくりと一人の男が歩いてくる。


長槍を肩に担ぎ、冷たい視線をこちらへ向けていた。


四天王――槍使いのバルド。


倒れている構成員たちを一瞥すると感情のない声で言い放つ。


「何故、武器を捨てる」


誰も答えられない。


バルドは槍を軽く回す。


「最後まで戦え」


「それがお前たちの役目だ」


冷たい声だった。


感情は何一つ感じられない。


構成員たちは息を呑む。


「で……ですが」


「勝てません……」


震える声。


しかし、バルドはその言葉すら聞き入れなかった。


「勝てない?」


「その言葉は敗者が吐くものだ」


槍をゆっくりと構える。


「《深淵の剣》に敗北は許されない」


その視線がハヤテへ向く。


二人の視線がぶつかる。


ハヤテは静かに《白夜》を握り直す。


「久しぶりだな」


バルドも槍を水平に構える。


「逃げ帰った剣士」


「今度は逃げるなよ」


その挑発にハヤテは口元をわずかに吊り上げた。


「安心しろ」


「今回は逃げねぇ」


「お前を倒して進む」


静かな通路。


二人の間に空気が張り詰める。


一歩でも踏み込めば命を落とす。


そんな緊張感が辺りを支配していた。


槍と刀。


近づくことを許さない槍。


一瞬で間合いを詰める刀。


次の瞬間、二人は同時に地面を蹴った。


キィィン!!


刀と槍が真正面から激突する。


火花が散る。


衝撃が通路中へ響き渡った。


「はぁっ!」


ハヤテは一気に踏み込む。


《白夜》を連続で振るう。


鋭い斬撃。


だが。


バルドの槍はその全てを正確に受け流していく。


カンッ!


キィン!


金属音が何度も重なる。


「前より鋭い」


バルドが静かに言う。


「だが」


槍が唸る。


一直線の突き。


ハヤテは身体をひねってかわす。


槍先が頬をかすめた。


「まだ甘い」


そのまま槍が横薙ぎに振るわれる。


ハヤテは《白夜》で受け止める。


ドォンッ!!


凄まじい衝撃。


床を滑りながら距離を取る。


「相変わらず重いな」


ハヤテは小さく笑った。


バルドも槍を構え直す。


「口だけは達者だ」


再び激突する。


刀と槍。


一歩も譲らない。


その戦いを後ろで見ていた構成員たちは息を呑んでいた。


目で追うことすらできない。


二人の姿は何度も交錯し、その度に火花が散る。



その頃。


俺たちはさらに拠点の奥へ進んでいた。


背後から響く激しい金属音。


ハヤテが戦っている証だ。


俺は思わず振り返る。


「ハヤテ……」


アイスは足を止めない。


「信じろ」


「必ず追いついてくる」


「うん」


俺も頷く。


ハヤテなら負けない。


今は前だけを見ればいい。


俺たちは再び走り出した。


目指す先は拠点中央。


ゼノスが待つ場所だった。

第16話を読んでいただきありがとうございます!


今回は、ついに潜入部隊が《深淵の剣》の拠点内部へ突入しました!


仲間が時間を稼ぐ中、それぞれが自分の役目を果たすために動き出します。


そして、ハヤテとバルドの再戦も開幕。


次回もお楽しみに!

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