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第13話 作戦会議

翌朝。


王虎の牙の集落。


昨日の激戦が嘘のように、朝日が静かに集落を照らしていた。


だが、その空気は重い。


集会場には《王虎の牙》と《白銀戦線》のメンバーが集まっていた。


負傷者の多くは治療所で休んでいる。


ここにいるのはこれから先を決める者たちだけだ。


誰一人として笑顔はない。


昨日、守り続けてきた拠点を失った。


その事実は全員の胸に重くのしかかっていた。


広場の中央へゴウマが歩み出る。


大きな地図を地面へ広げた。


そこには白銀戦線の拠点周辺が細かく描かれている。


その横へアイスも立った。


「まずは状況を整理しよう」


ゴウマの声に全員が頷く。


アイスは地図へ手を伸ばした。


「昨日奪われた《白銀戦線》の拠点だ」


指先が岩山をなぞる。


「この拠点は三方向を岩山に囲まれた天然の要塞だ」


「正面以外から侵入することは難しい」


ガンテツが腕を組む。


「天然の要塞だったからな」


「ああ」


アイスは静かに頷いた。


「だが、一つだけ例外がある」


その言葉に全員の視線が集まる。


「裏道だ」


「裏道?」


ハヤテが聞き返す。


アイスは地図の裏側を指差した。


「万が一、拠点を突破された時のために造った脱出路だ」


「岩山の内部を通り、外へ繋がっている」


「《白銀戦線》でもごく一部しか知らない」


ゴウマが顎へ手を当てる。


「その道を使えば内部へ入れる可能性があるってことだな」


「ああ」


アイスは頷く。


「ただし」


その表情が険しくなる。


「《深淵の剣》が存在に気付いている可能性もある」


「もし知られていれば待ち伏せされる危険もある」


広場に緊張が走る。


ゴウマが腕を組んだ。


「今の情報だけじゃ作戦は立てられないな」


「その通りだ」


アイスは続ける。


「敵の配置」


「構成員の数」


「奴隷プレイヤーたちの位置」


「裏道が使えるかどうか」


「まずは情報が必要だ」


その時だった。


「私たちが行くよ」


静かな声が響く。


皆が振り返る。


そこには俺とバレットが立っていた。


バレットは弓《流星》を肩に担ぎ、笑みを浮かべる。


「偵察なら任せろ」


「気付かれずに動くのは得意だ」


俺も頷く。


「敵の配置を確認して戻るよ」


アイスは二人を見つめる。


少し考えた後、静かに頷いた。


「頼む」


「だが、戦うな」


「目的は情報を持ち帰ることだ」


「ああ」


俺は《朧》へ手を添えた。


「必ず戻る」


バレットも笑う。


「安心しろ」


「そんな簡単に死ぬ気はない」


短く答えた俺たちは集落を後にした。


向かう先は――。


深淵の剣に奪われた白銀戦線の拠点。



森の中を進む。


俺とバレットは木々に身を隠しながら、白銀戦線の拠点へ近づいていく。


「前回とは空気が違うな」


バレットが小さく呟く。


「ああ」


俺も頷く。


戦いの音はない。


だが、その静けさが逆に不気味だった。


やがて岩山が見えてくる。


その頂には、黒い旗。


《深淵の剣》の紋章が風にはためいていた。


「完全に居座るつもりだな」


バレットが眉をひそめる。


俺は木陰へ身を隠しながら拠点を見つめた。


正門には十数人の構成員。


交代で見張りを続けている。


そのさらに外側。


「あれは……」


俺は目を細めた。


外壁の外を巡回している集団。


その姿を見て、胸が締め付けられる。


「奴隷プレイヤーか」


バレットも低く呟く。


皆、武器は持っている。


だが、その表情に生気はない。


命令された通りに歩き、周囲を警戒しているだけだった。


「ゼノス……」


俺は静かに呟く。


「正面から攻めてきた相手に、奴隷プレイヤーをぶつけるつもりなんだ」


バレットも険しい表情になる。


「戦いたくない相手と戦わせる……か」


「本当に嫌なやり方だ」


さらに視線を奥へ向ける。


拠点内部では、《深淵の剣》の構成員たちが巡回している。


四天王も確認できなかった。


「裏道を見に行こう」


俺たちは岩山を大きく迂回する。


誰にも見つからないよう慎重に進み、岩陰へ身を寄せた。


そこには、小さな裂け目のような入口が残っていた。


「塞がれてない」


俺は小声で言う。


バレットも周囲を見渡す。


「見張りもいないな」


入口の周辺に足跡はある。


だが、頻繁に使われている様子はない。


「気付かれてない可能性が高い」


俺は頷いた。


「使える可能性が高い」


「これだけ分かれば十分だ」


バレットが立ち上がる。


「戻ろう」


「ああ」


それ以上長居は危険だ。


俺たちは来た道を引き返し、王虎の牙の集落へ向かった。



数時間後。


王虎の牙の集落。


集会場の扉が開く。


「戻った」


俺がそう告げると、待っていた仲間たちが一斉に立ち上がった。


「おかえりなさい!」


たるとが安堵したように笑う。


アイスはすぐに本題へ入った。


「どうだった?」


バレットが地図の前へ歩く。


「拠点内部は完全に《深淵の剣》が占拠している」


「正門にも見張りが配置されていた」


俺は続ける。


「それと」


「奴隷プレイヤーたちは全員、外壁の外に配置されていた」


「数は百人は越えていた」


その言葉に集会場の空気が変わった。


アイスは静かに目を閉じる。


「やはりそうか」


「ゼノスは奴隷プレイヤーたちを駒としかみていない」


「奴らにとって人の命は戦うための道具なんだ」


重苦しい沈黙が流れる。


たるとは拳を胸の前で強く握った。


「そんなこと……」


「絶対に間違っています」


誰も否定しなかった。


その場にいる全員が同じ気持ちだった。


ゴウマが地図へ目を落とす。


「裏道はどうだった?」


俺は頷く。


「入口はそのまま残っていた」


「見張りも配置されていない」


バレットも続ける。


「《深淵の剣》はまだ存在に気付いていない可能性が高い」


アイスは静かに息を吐く。


「なら使えるな」


ゴウマが腕を組む。


「正面から突っ込めば奴らは必ず迎え撃ってくる」


「その隙に裏道から侵入する」


「これが一番現実的だ」


ハヤテが不敵に笑った。


「ようやく反撃できるってわけか」


「待ちくたびれたぜ」


だが、アイスは首を横に振る。


「焦るな」


「今回の目的は拠点を取り戻すことだけじゃない」


その一言で空気が引き締まる。


「奴隷プレイヤーたちの救出」


「そしてヨミを助けること」


「その二つも絶対に成功させる」


俺は静かに頷いた。


「ああ」


「あの子は必ず助ける」


たるとも力強く頷く。


「私もです」


「苦しんでいる人を放ってはおけません」


その言葉に白銀戦線の仲間たちも静かに頷いた。


ゴウマは地図を指差す。


「具体的な部隊編成を決めよう」


作戦会議は、いよいよ本題へと入っていく。


ゴウマは地図の正面を指差した。


「まずは正面部隊だ」


「役目は敵を引き付けること」


「そして、奴隷プレイヤーたちを救出することだ」


集まった全員が真剣な表情で耳を傾ける。


「奴隷プレイヤーには絶対に致命傷を与えるな」


「気絶させるか、拘束して動きを止める」


「それが最優先だ」


ガンテツが大きく頷いた。


「任せろ」


「手加減なら得意じゃねぇが、何とかしてみせる」


その言葉に小さな笑みが漏れる。


張り詰めた空気が少しだけ和らいだ。


ノエルが一歩前へ出る。


「私は前衛に立ちます」


「盾で敵を引き受けます」


バレットも続いた。


「俺は後方から援護する」


「奴隷プレイヤーには矢を向けない」


「狙うのは《深淵の剣》だけだ」


モルフォが静かに眼鏡を押し上げる。


「救出した方々の容体は私が確認します」


「何か異常があれば、すぐ治療へ回します」


セリアも元気よく手を挙げた。


「みんなが縛られてる原因を調べるね~」


アイスは安心したように頷いた。


「頼む」


「正面は君たちに任せる」


ゴウマは改めて地図へ視線を落とす。


「正面部隊は」


「ガンテツと元《鉄球戦団》のみんな」


「ノエル」


「バレット」


「モルフォ」


「セリア」


「そして戦える白銀戦線のメンバーだ」


「敵の注意を正面へ集中させろ」


全員が力強く頷いた。


続いて、ゴウマは地図の裏側を指差す。


「そして潜入部隊だ」


「裏道から拠点内部へ侵入する」


「目的は三つ」


「ゼノス及び、四天王の撃破」


「ヨミの救出」


「拠点の奪還」


広場の空気が一段と張り詰める。


「潜入部隊は」


「俺」


「アイス」


「ガウ」


「ハヤテ」


「リンファ」


五人の名前が呼ばれた。


ハヤテが《黒曜》へ手を添える。


「少人数で行くのか?」


ゴウマは頷いた。


「ああ」


「人数が多ければ見つかる危険も増える」


「最小戦力で一気に本丸を叩く」


リンファも静かに息を吐いた。


「分かったわ」


「ヨミちゃんも必ず助ける」


俺は静かに《朧》へ手を添える。


必ず助ける。


その時だった。


扉が静かに開き、サイオンが姿を見せた。


腹部にはまだ包帯が巻かれ、その表情には疲労が色濃く残っている。


「サイオン!」


ハヤテが思わず声を上げた。


サイオンは苦笑しながら手を振る。


「心配かけたッス」


「命に別状はないみたいッスけど……」


「まだ戦える状態じゃないッス」


たるとがすぐに前へ出る。


「まだ安静にしてください!」


「傷は塞がりきっていません!」


サイオンは申し訳なさそうに頭を掻いた。


「分かってるッス」


「本当は一緒に行きたいッスけど……」


「今回は留守番ッスね」


アイスは静かに頷く。


「ああ」


「今は身体を治すことだけ考えろ」


サイオンはゆっくりと息を吐き、小さく笑った。


「了解ッス」


その言葉にハヤテは笑みを浮かべる。


「後のことは俺たちに任せろ」


サイオンは力強く頷いた。


「よろしく頼んだッス」


悔しさは誰よりも強い。


それでも今は戦えない。


だからこそ仲間を信じて待つしかなかった。


アイスはサイオンへ視線を向ける。


「安心して休んでいろ」


「必ず拠点は取り戻す」


サイオンは小さく笑った。


「……はいッス」


その笑顔には悔しさも滲んでいた。


アイスは再び全員を見渡す。


「これで全員の役割は決まった」


「質問はあるか?」


誰一人として口を開く者はいない。


全員の視線は、ただ一つの目的へ向いている。


奪われた拠点。


囚われたヨミ。


そして、ゼノス率いる《深淵の剣》。


ゴウマは地図を静かに畳む。


「作戦開始は明日の早朝だ」


「今日は各自、装備と体調を整えろ」


「万全の状態で戦いに臨む」


「ああ」


「了解!」


力強い返事が集会場へ響いた。


俺は静かに《朧》の柄を握る。


今度は負けない。


必ず帰る場所を取り戻す。


その決意を胸に、俺たちは静かに立ち上がった。



会議が終わる。


仲間たちはそれぞれの持ち場へ散っていった。


武器の手入れを始める者。


回復薬の残りを確認する者。


静かに瞳を閉じ、精神を落ち着かせる者。


誰も無駄話はしなかった。


明日から始まる戦いの重さを全員が理解してるからだ。


俺は集会場を出る。


朝日が集落を優しく照らしていた。


子どもたちの笑い声が遠くから聞こえる。


畑ではNPCたちが普段と変わらず作業を続けていた。


この日常を守りたい。


その想いが胸の奥から込み上げてくる。


「ガウ」


後ろから声が掛かった。


振り返ると、アイスが立っていた。


「昨日は助かった」


「二人が残ってくれたおかげで皆を逃がせた」


俺は首を横に振る。


「当然のことをしただけだよ」


アイスは小さく笑う。


「あぁ」


アイスは空を見上げる。


「今度こそ終わらせよう」


「うん」


俺も頷く。


「必ず勝つ」


その視線の先には白銀戦線の拠点がある。


今は《深淵の剣》に奪われた帰る場所。


だが、それも明日までだ。


俺たちは必ず取り戻す。


仲間と共に。


そして、ヨミを救い出すために。

第13話「作戦会議」を読んでいただき、ありがとうございます!


次回はいよいよ奪還作戦開始!

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