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第12話 奪われた拠点

白銀戦線の拠点。


昨日まで白銀戦線の旗が掲げられていた場所には《深淵の剣》の黒い旗が風になびいていた。


地面には引きずり下ろされた白銀戦線の旗が無造作に転がっている。


拠点の広場には《深淵の剣》の構成員たちが集まっていた。


奪い取った武器や物資が次々と運び込まれ、拠点は勝利の熱気に包まれている。


「乾杯だ!」


「白銀戦線を追い払った祝いだ!」


「ははは!」


構成員たちの笑い声が広場に響く。


酒を酌み交わす者。


肉を焼く者。


奪った装備を品定めする者。


白銀戦線の拠点はすでに彼らの根城へと変わっていた。


「思ったより呆気なかったな」


「攻略組でも名の知れたギルドって聞いてたんだけどな」


「結局、逃げるしかなかったじゃねぇか!」


勝者だからこその余裕。


敗者を嘲る笑い声が止まらない。


その様子を少し離れた場所から四天王が眺めていた。


「騒がしいですね」


リリアがくすりと笑う。


ヴァルガは豪快に笑いながら肉にかぶりつく。


「勝ったんだ!」


「これくらい騒がなきゃ損だろ!」


「しかも要塞まで手に入ったんだからな!」


バルドは壁へ背を預けたまま静かに口を開く。


「油断するな」


「奴らは必ず戻ってくる」


ヴァルガは不敵に笑った。


「望むところだ!」


「何度来ようが叩き潰す!」


その隣で、ミレイアだけは無言だった。


静かに拠点の入口を見つめている。


「……」


何も言わず、視線だけを前へ向ける。


その時、ゆっくりとした足音が広場へ響く。


構成員たちの笑い声が止んだ。


ゼノスだった。


ゼノスはゆっくりと構成員たちを見渡す。


誰もが歓喜に沸いている。


その様子を見て、ゼノスは満足そうに頷いた。


「よくやった」


「今回の勝利はお前たち全員の力だ」


構成員たちから歓声が上がる。


「ゼノス様!」


「俺たちの勝ちだ!」


「これで第一階層は俺たちのものだ!」


ゼノスは静かに右手を上げた。


歓声が止む。


「だが、浮かれるな」


低く響く声。


「《白銀戦線》はまだ終わっていない」


「奴らは必ずこの拠点を奪い返しに来る」


その言葉に構成員たちの表情が引き締まる。


ヴァルガは豪快に笑った。


「次は全員ぶっ潰してやる!」


バルドは静かに頷く。


「迎え撃つ準備は整えておこう」


リリアは口元に笑みを浮かべる。


「次はもっと楽しめそうですわ」


ミレイアだけは何も言わない。


ただ静かにその場に立っていた。


ゼノスは四天王へ視線を向ける。


「ヴァルガ」


「防衛の指揮を任せる」


「任せろ!」


「バルド」


「周囲の索敵と警戒を強化しろ」


「了解した」


「リリア」


「拠点内部の確認だ」


「使えるものは全て利用する」


「承知しましたわ」


最後に。


ゼノスはミレイアを見る。


「ミレイア」


「奴隷の監視を任せる」


「……了解」


短く答えた。


ゼノスは満足そうに頷く。


「ここを今日から《深淵の剣》の新たな拠点とする」


「必ず守り抜け!」


「「「おおっ!!」」」


歓声が岩山へ響き渡る。


勝利に酔いしれる《深淵の剣》。


その裏で新たな戦いへの準備はすでに始まっていた。



拠点の奥。


薄暗い通路を歩くゼノス。


その後ろをヨミが無言でついていく。


やがて一つの部屋の前で足を止めた。


重い鉄格子。


小さな牢だった。


中では、一人の幼い狐獣人の少女が膝を抱えて座っている。


「……」


少女は足音に気付き、ゆっくりと顔を上げた。


その瞳がヨミを捉える。


「……お姉ちゃん」


震える声。


その一言だけで少女の目には涙が溢れた。


「お姉ちゃん!」


鉄格子へ駆け寄る。


両手で必死に掴み、ヨミへ手を伸ばした。


しかし、ヨミは何も反応しない。


虚ろな瞳のまま、その場に立ち尽くしていた。


「……」


少女は唇を噛む。


「どうして……」


「何で何も言ってくれないの……」


返事はない。


ゼノスはその様子を見て、小さく笑った。


「安心しろ」


「お前の姉は元気だ」


少女は睨みつける。


「お姉ちゃんを返して!」


ゼノスは肩をすくめた。


「それは無理な相談だ」


「こいつは俺にとって優秀な駒だからな」


少女は悔しそうに拳を握る。


「……っ」


ゼノスはヨミへ視線を向ける。


「行くぞ」


「……」


ヨミは無言で踵を返した。


牢の前を通り過ぎる、その一瞬。


少女はもう一度だけ叫ぶ。


「お姉ちゃん!!」


その声だけが静かな牢獄に響いた。



王虎の牙の集落。


治療所では負傷した白銀戦線のメンバーたちが治療を受けていた。


「《ヒール》!」


たるとの回復魔法が優しく傷を包み込む。


隣ではセリアも魔法を展開していた。


「もう少しだから頑張ってね~」


シズクは包帯や薬を手際よく配り、ノエルは負傷者を運び続ける。


誰もが慌ただしく動いていた。


アイスはその様子を少し離れた場所から静かに見つめていた。


「……」


悔しさは消えない。


拠点を守れなかった。


仲間を傷つけてしまった。


その責任はすべて自分にある。


「アイス」


後ろからゴウマが声を掛ける。


「自分を責めすぎるな」


アイスは苦く笑った。


「みんなを守れなかった」


「僕はギルドマスター失格だ」


ゴウマが首を横に振る。


「違う」


「お前は仲間を選んだ」


「だから全員、生きて帰ってこられた」


その言葉にアイスはゆっくりと目を閉じた。


「……ありがとう」


しかし、その表情から迷いが消えたわけではない。


失った拠点。


奪われた仲間たちの日常。


その全てを取り戻すためにアイスは静かに拳を握り締めた。


その姿を見ながら俺は静かに口を開く。


「一つ、気になることがある」


近くにいた仲間たちの視線が俺へ向く。


「戦っていた狐獣人の少女だ」


「あの子か……」


アイスも静かに頷く。


「あの子はヨミって呼ばれていたな」


俺は首を横に振った。


「自分の意思で戦っていたようには見えなかった」


ハヤテも腕を組む。


「確かにそうだったな」


「まるで操り人形みたいだった」


アイスは小さく息を吐く。


「ああ」


「ヨミだけじゃない」


「ゼノスは多くのプレイヤーをああやって従わせている」


その言葉にたるとの表情が曇る。


「そんなこと……」


「許されません!」


俺はヨミの最後の姿を思い出す。


去り際。


ほんの一瞬だけ、俺を見たあの瞳。


「あの子はまだ助けられる」


静かにそう言った。


「私はそう思う」


あの一瞬の視線を見たのは俺だけだった。


それでも不思議と確信があった。


しばらく沈黙が続く。


その静寂を破ったのはたるとだった。


「助けましょう」


真っ直ぐな声。


皆がたるとを見る。


「拠点も」


「ヨミさんも」


「苦しんでいる人たちも」


たるとは力強く頷いた。


「私たちは見捨てたくありません」


ゴウマが腕を組み、静かに頷く。


「そうだな」


ハヤテも《黒曜》の柄に手を添える。


「次は負けない」


「ああ」


「次は俺たちが攻める番だ」


アイスは仲間たちを見渡した。


先ほどまで沈んでいた空気はもうない。


「ありがとう」


アイスは静かに頭を下げる。


「もう一度、力を貸してほしい」


その言葉にたるとは笑顔で答えた。


「もちろんです!」


「《王虎の牙》のみんなも一緒に戦います!」


「おう!」


「任せろ!」


ガンテツたちの声が重なる。


俺はその光景を見ながら静かに拳を握った。


失ったものは大きい。


それでも、取り戻せるものはまだ残っている。


アイスはゆっくりと振り返る。


そこには治療を終えた白銀戦線の仲間たちが立っていた。


皆、傷だらけだった。


それでもその目に光は消えていない。


アイスは一人一人の顔を見渡した。


「今日は休もう」


静かな声だった。


「悔しい気持ちは僕も同じだ」


「拠点は奪われた」


「仲間も傷ついた」


拳を強く握る。


「でも、僕たちはまだ終わっていない」


その一言に白銀戦線のメンバーたちは静かに頷く。


「必ず取り戻そう」


「僕たちの帰る場所を」


その言葉を聞き、サイオンが小さく笑った。


「もちろんッス」


王虎の牙の仲間たちもその言葉に力強く頷いた。


集落の空には静かな夜が訪れようとしていた。


敗北の痛みはまだ消えていない。


それでも誰一人、立ち止まるつもりはなかった。

第12話「奪われた拠点」を読んでいただきありがとうございます!


拠点は奪われましたが心までは折れていません。


次回から反撃へ向けて少しずつ動き始めます。


引き続き『ファンタズマ・ゲイト』をよろしくお願いします!

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